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「DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~」 第10回は、自分事としてモチベーションをもって「スクラム」と取り組むために大切な、場づくりについてです。これまで平鍋氏が実践で試し磨いてきた5つの原則を解説していただきます。そこには、チームづくりのエッセンスが凝縮しています。

「第1回:DXがアジャイルを必要とする理由」はこちら>
「第2回:アジャイルとの出合いから現在まで」はこちら>
「第3回:スクラムの原点は、日本発のひとつの論文」はこちら>
「第4回:アジャイル開発の実際」はこちら>
「第5回:スクラムによる組織改革事例」はこちら>
「第6回:心理的安全性と幸福度」はこちら>
「第7回:1週間のスプリントを繰り返す「スクラム」」はこちら>
「第8回:「スクラム」の3つの役割」はこちら>
「第9回:「朝会」と「ふりかえり」を大切に」はこちら>

アジャイル開発現場の「場づくりの原則」

前回、チームの透明性を高めるさまざまな見える化の手法、朝会やふりかえりなどなどを紹介しましたが、今回は「スクラム」に限らず、チームのアジャイル活動を円滑にするための場づくりの原則についてお話します。「スクラム」の教科書には書かれていませんが、活動が形骸化しないために、そしてチームがいきいきと仕事をするために、僕が大切だと思うことをお話しします。

これらの原則は、僕が日本でアジャイルの普及に苦戦していたとき、「スクラム」の言葉を使わずに、ウォーターフォールの中でも実践できるアジャイルプラクティス集「プロジェクトファシリテーション」として自分の経験を書いたものを元にしています。ですから「スクラム」に限らず、チーム開発の現場でも十分成り立つ内容です。

画像: 「タスクかんばん」の例

「タスクかんばん」の例

まず第1の原則は「見える化」です。野球のスコアボードのように、チームのメンバーやステークホルダーが作業は今どういう状況なのかを一目でわかるようにしておくことが重要です。

その手法はさまざまですが、ひとつはできればみんなが見ることのできる壁やホワイトボードを使って、作業内容を書いた付箋とTo Do(未実施)/Doing(実施中)/Done(完了)に分けられた「タスクかんばん」を作り、朝会など全員が顔を合わせる時に付箋を動かして確認することで作業を見えるようにすること。とてもアナログな情報共有のやり方ですが、これがチームでの開発には最適です。パソコンのツールを使っても同じことは可能ですが、デジタルだとタスクを動かさなくなったり見に行かなくなったりして、形骸化してしまうことが多いです。デジタルで行う場合でも、アナログと同じように臨場感を出す工夫が必要です。

次の原則は「リズム」です。毎朝の朝会(デイリースクラム)や1週間のふりかえり(スプリントレトロスペクティブ)、毎日のテストや1週間の成果物のテストなど、チーム全員が1週間の時間表を共有して「リズム」を持って行動する。これを繰り返していくことで、日々のルーティンがチームの鼓動となって同期しながら進みます。音楽のように「リズム」をつくることで、チームから行動が生まれてきます。

次は「名前付け」です。チーム内でふりかえり(レトロスペクティブ)を行うことで、自分たちが良いと思う行動パターンがわかってきます。その時の小さな改善や工夫に、自分たちで名前を付けてチーム内で盛り上がるのが「名前付け」です。そんなノリがチームの一体感をより高めますし、他のチームにもそれを伝えることができます。人間は名前がないものは認識できませんから、暗黙知を形式知にする第一歩ですね。

「問題」と向き合うための工夫

画像: 「あなた対私or私たち」から、「問題対私たち」へ

「あなた対私or私たち」から、「問題対私たち」へ

次の原則は、「問題対私たち」です。図の左側は人間と人間が相対するという構図で、打ち合わせや会議の時にはよくこうなりますね。なるべく人間同士の対立である「あなた対私」という構図ではなく、右側の「問題対私たち」という関係を作り出す工夫をします。先ほどの「タスクかんばん」のように、壁やホワイトボードがうまく「問題」を指差す対象になるのです。構図の切り替えです。

人間同士が向き合って議論をすると、それは誰かの問題を取り上げることになり、発言者はみんなから注視されるし、時には個人を攻めることにもつながります。すごく危険なのです。

そうならないためにも、右側のように物理的に問題を人間から分離することで、みんなが同じ側から問題と向き合うという構図を作り、壁を指さすことで人を指さすことをなくすのです。プログラミングでモニターに向かって複数の人間で作業するモブプログラミングというのも、同じく「問題対私たち」で取り組むための工夫です。

そして最後の原則は「改善」です。これは自分たちでできる小さな改善を積み重ねること。来週からできるような小さな「改善」でも、それをチーム全員が共有し実行することで、自分たちの手でプロジェクトを動かしている実感につながります。うまくいったら、みんなでほめたたえることが大事です。

アジャイル開発では、スプリントを繰り返す中でこういった小さな習慣や工夫を積み重ねることがとても重要です。この5つの原則は、ソフトウェア開発に限らずチームづくりやチーム運営に効果を発揮するものですから、活かせること、使えることはぜひ自身の仕事場でも試してみてください。

詳しくは、「プロジェクトファシリテーション」を参照してください。特に、「朝会ガイド」「ふりかえりガイド」はウォーターフォールプロジェクトでも使えるように本質的かつ実践的な事項が書いてあり、とても多く参照されている資料です。ぜひ、アジャイルに限らず、みなさんの現場チームをいきいきさせる場づくりに活かしてください。

Hiranabe’s Point

デジタルではなくアナログで作業を「見える化」する。
一週間のチーム活動を定型化し、「リズム」をつくることで行動を起こしやすくする。
うまくいった自分たちのやり方に「名前付け」することで、改善が定着する。
壁やホワイトボードを見て議論することで、「あなた対私」ではなく「問題対私たち」の構図を作る。
自分たちのやり方を、自分たちで「改善」する。

「第11回:オンラインで行う 「スクラム」」はこちら>

画像1: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第10回】「場づくり」の5つの原則

平鍋 健児(ひらなべ けんじ)

株式会社 永和システムマネジメント 代表取締役社長、株式会社チェンジビジョン 代表取締役CTO、Scrum Inc.Japan 取締役。1989年東京大学工学部卒業後、UMLエディタastah*の開発などを経て、現在は、アジャイル開発の場、Agile Studio にて顧客と共創の環境づくりを実践する経営者。 初代アジャイルジャパン実行委員長、著書『アジャイル開発とスクラム 第2版』(野中郁次郎、及部敬雄と共著) 他に翻訳書多数。

画像2: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第10回】「場づくり」の5つの原則

『アジャイル開発とスクラム 第2版』

著:平鍋健児 野中郁次郎 及部敬雄
発行:翔泳社(2021年)

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