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「DXとアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり」 第2回は、2001年に生まれたアジャイルの20数年の流れと現在について、先頭に立って日本にアジャイルを広める活動をされてきた平鍋氏に解説していただきます。

「第1回:DXがアジャイルを必要とする理由」はこちら>

ウォーターフォールとは異なる世界との出合い

2001年はアメリカで「アジャイルソフトウェア開発宣言」(※1)が17人の有志によって発信された、アジャイル元年ともいうべき年です。その少し前に、僕はアジャイル提唱者の一人であるケント・ベックという人の『エクストリーム・プログラミング(XP)』(※2)という本と出合いました。

※1 https://agilemanifesto.org/iso/ja/manifesto.html
※2 1999年ケント・ベックらによって定式化され、提唱された、柔軟性の高いソフトウェア開発手法。1999年に書籍『XPエクストリーム・プログラミング入門―ソフトウェア開発の究極の手法』によって発表された。その後、XPはスクラムなどとともに、アジャイルという総称の中の一具体手法として認識される。

そこには、建築家アレグザンダーが提唱するパターン言語(※3)をソフトウェアに適用するという画期的な背景があり、良いデザインのソフトウェアを作るにはコミュニケーションデザイン、組織デザインが重要で、「ソフトウェア開発で一番大切なことは、システムをリリースした時にはお客さまと美味しい食事をすること」といったことが書かれていました。「ソフトウェアの品質は、お客さまとの対話や作り手の思いこそが核心だ」という言葉に触れ、ウォーターフォールの世界で設計やプログラミングのことだけを考えていた僕は衝撃を受けました。

※3 クリストファー・アレグザンダーが提唱した、建築・都市計画に関わる理論。単語が集まって文章となり、詩が生まれるように、パターンが集まって言語となり、このパターン言語を用いて生き生きとした建物やコミュニティを形成することができるとされる。

アジャイル開発の手法のひとつであるXPを通じてウォーターフォールとは異なる世界を知り、僕はこれが日本中に広がれば、自分が苦しんでいたソフトウェアの開発環境がもっといきいきとした世界に変わるかもしれない。もっと品質の高いソフトウェアが、もっと幸福な働き方で開発でき、ユーザにインパクトを与えるようになるかもしれないと考えました。

そこからは海外に出かけ、参考になる本を翻訳し、Webサイトを作り、XP行脚と称して全国を回り、Agile Japanというカンファレンスを立ち上げて、毎年海外スピーカーの基調講演と日本での事例の報告を共有する活動も行ってきました。しかし、2010年頃までは、日本の実ビジネスの世界ではあまり注目されることはありませんでした。

アジャイルの追い風

しかし2010年を過ぎた頃から、爆発的にアジャイル開発は広がりはじめます。それは、日本でWebサービスを構築・提供する企業が急速に増えてきたからです。彼らはウォーターフォールでは自分たちのサービスを実現することが無理なことに気づき、エンジニアを積極的に採用してアジャイルでサービスを内製するようになり、それがWebサービス業界のスタンダードとなって一気にアジャイルは広がっていきました。

そして2020年以降はDXという潮流が日本にも海外にも到来し、アジャイルがまた大きな広がりを見せています。これまではソフトウェアの開発手法としてとらえられてきたアジャイルが、今では組織づくりやチームづくり、そして新しい働き方にも生かされるようになってきました。

DXやイノベーションを追求するチームづくり

こういった流れの中で、僕がDXをいきいきと進めるためのチームづくりについて考えていることをひとつご紹介したいと思います。今の日本の企業では、現在稼働しているビジネスを進める「ラン・ザ・ビジネス」と「イノベーション」が分断してしまっているケースが多いです。それは企業にいる多くの方が今までの自分のやり方や成功体験をそれぞれお持ちだから、なかなか変化することに積極的なアクションを起こせない。レベルの差はあれ、それはどの企業にも共通していることでしょう。

画像: DXやイノベーションを追求するチームづくり

これは、イノベーションを生み出すためにどんなチームづくりが有効なのかを絵にしたものです。スクラムというのは次回詳しくご説明しますが、アジャイル開発の中でも特に人気の高い手法です。左の円は既存の組織で、この中だけではおそらく新しいイノベーションは生まれにくい。それならできるだけ外部の専門家にも入ってもらえるようなチームが組めたら、専門知識だけでなくダイバーシティやインクルージョンという意味でも有効なはずです。

僕は“チーミング”と呼んでいますが、既存の組織の中から自主的に参加する人に手を上げてもらい、その中からプロダクトオーナーを選抜します。プロダクトオーナーは、経営のコミットメントと権限委譲が必要条件です。外部からはスクラムやアジャイルに精通した人間をスクラムマスターとして起用し、ここを中心にさまざまな専門家が参加します。

内部と外部の人間が共に協力し合い、全員でオープンにイノベーションを追求する。既存の組織と孤立した形、いわゆる「出島」としてアジャイルチームを構成する場合もあります。しかし、その形態が長続きするのは難しいかもしれません。既存ビジネスの強みや顧客を活かすサービスや、既存の部門や経営とのうまい社内コミュニケーションと調整―あえて社内政治と言います―ができる繋ぎ役がいることも必要になります。このように、既存の組織と陸続きな形でチームを組むことができれば、外部のメンバーと内部のメンバーの知恵と活力が合わさり、DXすなわちデジタルを核にした新しいビジネス、よいサービスを自社の強みを生かして作る基礎になります。

それがDXやイノベーション、ひいてはビジネスの成功といきいきと働ける環境の両立を生み出し、日本全体の元気につながると思っています。

「第3回:スクラムの原点は、日本発のひとつの論文」はこちら>

画像1: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第2回】 アジャイルとの出合いから現在まで

平鍋 健児(ひらなべ けんじ)

株式会社 永和システムマネジメント 代表取締役社長、株式会社チェンジビジョン 代表取締役CTO、Scrum Inc.Japan 取締役。1989年東京大学工学部卒業後、UMLエディタastah*の開発などを経て、現在は、アジャイル開発の場、Agile Studio にて顧客と共創の環境づくりを実践する経営者。 初代アジャイルジャパン実行委員長、著書『アジャイル開発とスクラム 第2版』(野中郁次郎、及部敬雄と共著) 他に翻訳書多数。

画像2: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第2回】 アジャイルとの出合いから現在まで

『アジャイル開発とスクラム 第2版』

著:平鍋健児 野中郁次郎 及部敬雄
発行:翔泳社(2021年)

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