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いよいよ平鍋健児氏の新連載企画「DXとアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり」がスタートします。第1回は、なぜDX(デジタルトランスフォーメーション)はアジャイルという手法を必要とするのかを解説していただきます。

答えはユーザーの中にしかない

DXというのは、人によってさまざまなとらえ方があると思います。僕が考えるDXというのは、「人の生活にインパクトのあるものをデジタルで作り出すこと」。そして、「それがビジネスとして有効であること」。さらに、「人がより幸せになること」。これを実現するものが本当のDXだと思います。重要なのは、インパクトです。

ではインパクトというのは、どうやって作るのでしょう。それは狙って作れるものなのでしょうか。ある企業の中のチームが、こういうモノが作りたいというビジョンを持っていたとして、こういうコンセプトでこういうターゲットにこういう機能を持たせてということを全部紙に書いて、ベンダーにこれを作ってくださいと発注すればできるのでしょうか。いいえ、これでは絶対にインパクトを作り出すことはできません。

なぜかと言うと、新しい製品なりサービスの「答え」は、ユーザーしか持っていないからです。会社の偉い人も専門家も、「答え」は持っていません。市場調査やユーザー調査といった事前のリサーチで「答え」がわかるのかといえば、わかりません。結局使ってみないと、それが本当に便利であるとか新しい価値があるとかといったことまではわからない。机上で議論している時には「これ、本当にいい」「絶対に使いたい」となったとしても、それだけでは「答え」にたどりつけないのです。

画像: 答えはユーザーの中にしかない

使ってみることから「答え」を見つける

例えば新しいWebサービスを作ろうという時に、仕様書をまとめた上でソフトウェア会社に発注し、一気に開発するという従来のウォーターフォールといわれるやり方では、実際にユーザーが試せるのは開発の最終段階です。変化の激しい市場で戦うには、一生懸命に考えて議論して作った詳細な仕様書はほとんど役に立ちません。なぜなら、最終段階まで誰も使うことができないからです。

本当に使いやすい、ユーザーにインパクトをもたらすようなWebサービスを作るなら、できるだけ早く一部の機能だけでも形にして、最終的なユーザーにフィードバックをもらうべきです。使ってもらうべきなんです。使ってもらうと、「あ、これ便利」とか、「これができるならこれもあった方がいい」とか、「この機能って必要?」といったような発見が次々に生まれます。使ってもらうことで、それまでぼんやりとしていたゴールが徐々にはっきりしてくる。それを繰り返すうちに、「答え」が見えてくるのです。

今いちばん欲しい機能、まずはそれだけでいいから作ってみて、ユーザーに使ってもらって、感想を聞く。このループを回して製品やサービスを作り上げていくのが、「アジャイル開発」です。仮説検証型で試行と改良、追加と削除を繰り返して「答え」を見つけ出すことで、俊敏にニーズをとらえるソフトウェア開発技法、それがアジャイルなのです。

作る側にも使う側にも、DXは未知の領域

DXを実現するためには、やってみないとわからない2つの面があります。ひとつは市場の使う側から見た面です。それが本当に使いやすいのか。本当に欲しかったものなのか。本当に必要なものなのかは、使ってみないとわかりません。一方で作る側の面から見ても、本当にうまくできるのかどうかは作ってみないとわかりません。なぜなら、やったことがないからです。やったことがあることなら、ウォーターフォールでもいけるのです。しかし、DXというのは、やったことがないものを作るわけです。決められたハードウェアを工場で作るのとは違い、ソフトウェアは毎回新しいものを作ることになるので、アジャイルが必要なのです。

VUCAの時代(※)、未来を予測できる人はいませんし、設計や仕様書を作っているうちに市場やニーズは変わってしまうかもしれません。アジャイルでまず動くものを作り、使ってもらった感想を受けて改善しながら次に進めていくうちに、市場やニーズがわかってくるし、作り方も向上してきます。この両輪がうまく回ることがアジャイル開発の本領であり、DXを実現するカギなのです。

※ Volatility(不安定)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧模糊)の頭文字を取ったVUCAは、先行きの見えない社会情勢を示すビジネス用語。未来の予測が困難な状況が続く時代。

繰り返しますが、いまやっている作業をデジタルに置き換えるのであれば、従来のウォーターフォールでも問題はありません。しかし、人間の生活にインパクトを与えるDXというのは、イノベーションを生み出そうということなんです。「これはすごい」と言われるようなイノベーションを、外部に発注して作れるはずはありません。一体化されたチームが、作って使って改善してというループをできるだけ早く回していく。DXで「答え」を出すにはこの方法が有効であり、それがアジャイルだということです。

「第2回:アジャイルとの出合いから現在まで」はこちら>

画像1: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第1回】 DXがアジャイルを必要とする理由

平鍋 健児(ひらなべ けんじ)

株式会社 永和システムマネジメント 代表取締役社長、株式会社チェンジビジョン 代表取締役CTO、Scrum Inc.Japan 取締役。1989年東京大学工学部卒業後、UMLエディタastah*の開発などを経て、現在は、アジャイル開発の場、Agile Studio にて顧客と共創の環境づくりを実践する経営者。 初代アジャイルジャパン実行委員長、著書『アジャイル開発とスクラム 第2版』(野中郁次郎、及部敬雄と共著) 他に翻訳書多数。

画像2: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第1回】 DXがアジャイルを必要とする理由

『アジャイル開発とスクラム 第2版』

著:平鍋健児 野中郁次郎 及部敬雄
発行:翔泳社(2021年)

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