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「DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~」 第8回は、「スクラム」の中の3つの役割について解説していただきます。また、日本ではユーザーとベンダーに別れて、受発注の関係の中で「スクラム」を回すことも多いと思います。契約にまつわる注意点も伺いました。

「第1回:DXがアジャイルを必要とする理由」はこちら>
「第2回:アジャイルとの出合いから現在まで」はこちら>
「第3回:スクラムの原点は、日本発のひとつの論文」はこちら>
「第4回:アジャイル開発の実際」はこちら>
「第5回:スクラムによる組織改革事例」はこちら>
「第6回:心理的安全性と幸福度」はこちら>
「第7回:1週間のスプリントを繰り返す「スクラム」」はこちら>

「スクラム」を動かす3つの役割

画像: 「スクラム」を動かす3つの役割

「スクラム」には、図のように3つの役割が定義されています。まず何を作るのかを決める権限を持ち、最終責任を取ることができる人が「プロダクトオーナー」です。前回の例で言えば、365個ある機能に優先順位を付け、並び替え、1週間で開発する7個を決めるのは「プロダクトオーナー」が主な責任者です。365個のバックログの責任者であり、実際には開発する製品やサービスの成否の鍵を握っていると言ってもいい人です。何を作ったらもっとも市場にインパクトがあり、使いやすい製品ができるか。DXであれば、どうやって効果的なビジネスプロセスや新しい顧客体験が作れるかは、プロダクトオーナーが並び替える365個に懸かっているということです。

そして、1週間で7個の機能を実際に動かせるように作り、フィードバックを受けてまた次の優先順位の7個の機能を作る、という実際の開発スプリントを繰り返していくのが「開発チーム」です。プログラミングを行う人だけでなく、そこにはデザイナーが入っている場合もあれば、品質保証の人が入っている場合も多くあります。

「プロダクトオーナー」がゴールを示し、「開発チーム」が機能する成果物を作ってスプリントを回していくわけですが、この二者を含めたチームでうまくスクラムが回るように支援するのが「スクラムマスター」です。「スクラムマスター」は「スクラム」に精通していて、その特性やルールはもちろん、一人ひとりの個性を考えながら「プロダクトオーナー」と「開発チーム」が行うスプリントが円滑に流れるように障害を取り除くという役割を担っています。「スクラム」ではこの3つの役割がチームになって、ゴールをめざします。

受発注の中での役割分担

事業を行うユーザーと、開発を請け負うベンダーという構図が日本では多く見られます。その中での役割分担はどのように行うと良いでしょうか。これまでの「要求仕様を投げて、完成を待つ」というウォーターフォールのやり方は通用しません。

画像: 出展:アジャイルと契約 https://www.agile-studio.jp/post/agile-contracts
出展:アジャイルと契約
https://www.agile-studio.jp/post/agile-contracts

まずは、アジャイルが持っている前提を確認しましょう。特に要求が変化することを前提としていることから、従来のような請負契約ではうまくいかず、現在では準委任での契約が普通になっています。また、偽装請負との関連で、指示命令系統の注意も必要です。

この件については、契約の詳説IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)からの契約の雛形が示されていますし、法律家の立場からの『アジャイル開発の法務』という本も出ていますので、ぜひ参考にしてください。

プロダクトオーナーは必ずユーザーから

画像: プロダクトオーナーは必ずユーザーから

この図のように、チーム編成を受発注関係で行う場合、どこで外部と契約するか、という問題があります。A、 B、 C、 D のどこで切った方がよいでしょう?もしユーザー側に開発者やスクラムマスターがいれば、選択肢は広がります(B、C、D)。

しかしもっともうまくいかないのは、Aで切ってしまうことです。「プロダクトオーナー」というビジネスのもっとも大切な優先度づけは、ユーザー側で行わないといけません。さらに、その意思決定がプロダクトオーナーに委譲されていないといけないのです。

この役割をベンダーに渡してしまうことは、そもそも、ビジネスについての意思決定を放棄してしまっていることになります。確かにアジャイル開発では週1回の細かい意思決定が必要となります。かなりの労力を使うことになりますが、細かい仕様ややり方については、ベンダーに協力してもらいながらビジネスの意思決定をしていかないと、アジャイル開発の本当の意味と価値を享受することはできないでしょう。

Hiranabe’s Point

スクラムの3つの役割のうち、もっとも大切なビジネスの意思決定は、プロダクトオーナーが行う。
ユーザー企業とベンダーに別れて開発する場合には、プロダクトオーナーは必ずユーザー企業から。
その他、法務上も多くの注意点がある。

「第9回:「朝会」と「ふりかえり」を大切に」はこちら>

画像1: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第8回】 「スクラム」の3つの役割

平鍋 健児(ひらなべ けんじ)

株式会社 永和システムマネジメント 代表取締役社長、株式会社チェンジビジョン 代表取締役CTO、Scrum Inc.Japan 取締役。1989年東京大学工学部卒業後、UMLエディタastah*の開発などを経て、現在は、アジャイル開発の場、Agile Studio にて顧客と共創の環境づくりを実践する経営者。 初代アジャイルジャパン実行委員長、著書『アジャイル開発とスクラム 第2版』(野中郁次郎、及部敬雄と共著) 他に翻訳書多数。

画像2: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第8回】 「スクラム」の3つの役割

『アジャイル開発とスクラム 第2版』

著:平鍋健児 野中郁次郎 及部敬雄
発行:翔泳社(2021年)

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