700件を超えるパイプライン情報を人手で集約
大山
現在DC営業本部では、日立グループの国内データセンター事業における営業パイプライン情報を集約し、マンスリーレポートとして公開しているそうですね。まず、このレポートの概要について、DC営業本部の相田さん、教えてください。

相田
日立グループ16部門・組織から寄せられるデータセンター事業の営業パイプライン情報について、案件数や金額、案件種別、進捗状況などを月次で分析し、マーケティングポータルサイトなどを通じて全体で共有しています。
データセンター事業は、日立グループ内でも幅広い組織が関わる事業です。デジタル部門、産業部門、エネルギー部門などがそれぞれ案件を手掛けています。マンスリーレポートでは、日立グループ各組織の営業パイプラインの全体像を可視化し、提案商材の傾向などを共有することによって、組織を超えた新たな連携やクロスセルの機会創出につなげることをめざしています。そして、One Hitachiとして、お客さまへより価値の高いソリューションを提供できるよう努めています。

日立グループ各組織から寄せられるパイプライン情報を分析し、マンスリーレポートとして公開
大山
一方で、案件数の増加に伴ってパイプライン情報の集約の負荷が高まってきたと伺っています。DC営業本部の梅﨑さん、具体的に教えてください。

梅﨑
情報を提供してくださる各組織が共通の営業支援システムを利用していれば、データ集約は比較的容易です。しかし実際には、各組織がそれぞれの事業特性や業務プロセスに合わせた案件管理を行っています。そこで私たちは、早期に運用を開始でき、管理形式の違いを吸収しながら情報をグループ横断で可視化できる手段として、各組織で利用環境が整っているExcelに必要な情報を入力・提出いただく方式を採用しました。
同時に私たちは、各組織の営業担当者の負担を最低限に抑えることを大前提としています。そのため、毎月配布するExcelの記入表には細かな入力欄や記載ルールは設けていません。顧客名や担当者名、進捗フェーズといった最低限の共通項目のみを設け、それ以外は知りたい情報の観点だけをお伝えし、自由記述欄に記載いただく、できるだけ自由度の高い形式としています。そして私たちはExcelの記入表を受け取ると、共通項目と自由記述欄の内容を読み込みながら分析に必要な情報を抽出し、約60項目に及ぶ分析用項目に手作業で転記していきます。
一方で、案件数は毎月20~30件ずつ増加し、現在700件を超えています。さらに分析項目も拡大し続けており、集約の負荷は月ごとに高まり、このままだと作業を期限内に完了させるのは困難になることが見えてきました。
それに伴い、転記ミスのリスクも増えています。集計結果はBIツールなどで可視化を行いますが、転記ミスが見つかると再集計からの大きな手戻りとなります。常に正確性へのプレッシャーを抱えながら業務にあたっている状況でした。
相田
また本来であれば、収集したデータをもとにインサイトセールスにつながる新たな分析観点を検討し、営業機会の発見に貢献したいのですが、実際には集約作業に多くの時間を取られ、そのための余力を確保できないことも大きな課題でした。
そこで私たちは、AIによる業務効率化が必要だと考えました。すなわち記入表から分析に必要な情報を効率的に抽出してくれるAIの開発です。当初は自分たちで生成AIを試行し、一定の手ごたえは得たのですが、期待した精度は出せずにいました。そこでOEA推と接点を持ち、本格的なAIエージェント開発をスタートさせました。
AIか、AI以外の方法か
大山
OEA推は、日立のデジタルシステム&サービスセクターに設置された、直轄部門の業務品質や生産性の向上をAIで支援する組織です。今回のプロジェクトに参画したOEA推の田中さんに伺います。まず、どこから着手したのでしょうか。

田中
最初に、約60ある分析項目一つひとつに対してヒアリングを行い、それぞれの登録方法についてAIを活用することが適しているのか、それとも別の方法が適しているのかを皆さんと議論しました。
AIが力を発揮するのは、複数の情報を組み合わせて推論を行う業務です。一方、金額のように誤りが許されない項目や、特定のセルの情報から機械的に情報を取得できる項目については、AI以外の方法を用いた方が確実です。
協議の結果、人による判断が難しく、時間もかかる分析項目の中から、AIとの相性が良く、かつ工数面で大きなボトルネックとなっていた3つの分析項目に対応したAIエージェントを開発することを決定しました。一方で、金額などはこれまで通り人手による転記で正確性を担保し、また機械的に処理できる分析項目についてはExcel関数による自動化を採用するなど、適材適所でやり方を組み合わせていきました。
梅﨑
田中さんとの議論を通じて学んだのは、AIは万能ではなく、解決策の一つに過ぎないということです。AIに頼らないと解決できないと思いこんでいた部分が、基礎的なExcel関数の利用で十分生産性が上がるのだと改めて気付かされた場面も多くありました。業務効率化を検討するうえでは、AIの得意・不得意を理解するとともに、いま注目されているAIに偏らず、幅広いITリテラシーを身に付けておくことが重要だと再認識しました。
レポート作成期間が約2週間から1週間強へ
大山
今回、開発した3つのAIエージェントは、具体的にどのような役割を担っているのでしょうか。
田中
開発したのは、「地域判定AIエージェント」「業種判定AIエージェント」「外資系判定AIエージェント」の3つです。
まず地域判定AIエージェントは、データセンターの立地エリアを判定するものです。記入表にはデータセンターのエリア情報のほか、顧客所在地や企業名に含まれる地名など複数の情報が散在するため、地域の特定には手間がかかります。そこで、AIがこれらの情報を横断的に読み取り、地域を推定し、その判定根拠も併せて出力する仕組みを構築しました。記入表内にある数多くの案件情報をインプットとして処理する必要があったため、大量のトークン(AIが処理する情報量の単位)を扱えるGemini Enterpriseを活用しています。
次に、顧客名から業種を判定する業種判定AIエージェントです。DC営業本部では、企業ごとに公開情報から業種を調査しており、初めて扱う企業の場合にはどうしても時間がかかり、複数事業を展開する企業では判断に迷うことも少なくない、とのことでした。また、経済産業省の業種区分を参照しながら、同時にデータセンター業界独自の業界区分も考慮する必要もあります。こうした煩雑な作業を支援するために、AIが顧客名から適切な業種候補を、判定根拠と併せて出力する仕組みを構築しました。公開情報の調査やMicrosoft 365環境との親和性に優れたM365 Copilotを使用しています。
そして、3つめが外資系判定AIエージェントです。顧客が外資系企業かどうかを判断するには、公開情報から親会社や出資比率、資本関係などを調査する必要があります。こうした情報の収集・確認作業は担当者にとって大きな負担となっており、その部分をAIで支援しています。
相田
3つのAIエージェントとExcel関数による自動化を業務に取り入れたことで、これまで私と梅﨑さんの2人で約2週間を要していたマンスリーレポート作成業務が、1週間強で完了できるようになりました。
単純に集約作業が効率化されたこともありますが、特に大きかったのは転記品質の向上です。これまでBIツールによる可視化とそれをもとにしたレポート作成作業は、転記ミスによる手戻りが多く約4.5日かかっていましたが、転記の精度が向上したことで約1.5日に短縮することができました。
AIを目的化しない業務起点の取り組み

大山
近年、AIエージェントの普及に伴い、現場の業務を深く理解したうえで課題を分析し、最適な解決策を設計・実装するFDE(Forward Deployed Engineer)の重要性が高まっています。OEA推の田中さんたちの進め方は、そのFDEの好例だと言えるでしょう。
特に私が評価しているのは、業務主体でM365 CopilotとGemini Enterprise、さらにExcelなどの既存ツールが適した領域を見極めた点です。レポート作成期間を約半分に短縮できたという成果は、「AIを使うこと」自体を目的化せず、業務改善を軸に据えたアプローチがあったからこそだと思います。
そして、今回の取り組みのもう一つの狙いは、DC営業本部によるAI活用の自走化です。次回は、その実現に向けて何を行ったのか、などについて聞いていきます。
「【第2回】マーケティング部門のパイプライン管理編(後編)」はこちら >

相田 真季子(あいだ まきこ)
株式会社 日立製作所 デジタルシステム&サービス統括本部
DC営業本部 DC営業第一部 企画G 部長代理
入社後は情報通信部門にて金融機関のアカウント営業を担当したのち、営業企画としてパートナー販売の戦略立案やマーケティングなどに従事。2年間総合商社に出向し、社内イノベーションの仕組みづくりや新規ビジネスインキュベーションを担当。その後、製造業のアカウント営業を経て、コーポレート営業企画部門にて各種施策を推進。現在、パイプラインマネジメント、日立グループ横断での拡販戦略会議運営を通じて、日立のDCビジネス拡大を推進中。

梅﨑 紫乃(うめざき しの)
株式会社 日立製作所 デジタルシステム&サービス統括本部
DC営業本部 DC営業第一部 企画G
通信会社のデータ利活用部門にて、法人顧客のデータ可視化や基盤構築案件を担当。その後海外現地法人に出向し、グローバルeSIM事業の不正利用分析を経験する。帰国後はデータセンター事業でCRM導入や営業データ分析を担当。日立に入社後はデータセンターの営業パイプラインの集約・可視化・分析を行うとともに、マーケティング情報を集約したポータルの運営や拡販戦略会議の事務局を担当。グループ横断でのデータドリブンな営業推進に取り組んでいる。

田中 猛(たなか たけし)
株式会社 日立製作所 デジタルシステム&サービス統括本部
オペレーショナルエクセレンスAI推進室 社内AI企画部 部長
新規ネットビジネスの企画・推進や製薬卸企業とのジョイントベンチャー設立支援を担当後、大手自動車メーカーにおけるITサービスマネジメントや出向先でのグループ会社向けプライベートクラウドサービスの設計・展開など多岐にわたるプロジェクトをリーダーとして牽引。現在はこれまでの経験を活かし、生成AIなどを活用した社内業務改善を推進している。

大山 友和(おおやま ともかず)
株式会社日立製作所
デジタルシステム&サービス営業統括本部
Executive Strategy Unit フロントサポートセンター チーフプランニングエキスパート
AIアンバサダー
コンサルティング部門にて、営業業務改革、新規事業の立ち上げなどに従事した後、日立コンサルティングにて、基幹業務システム構築などを担当。プロジェクトリーダーとして、システム企画・構築・運用全般を統括。その後、営業バックオフィスを支える業務システム全般を統括。現在、営業部門の生成AI徹底活用プロジェクトの取りまとめとして、講演活動、ナレッジ蓄積、社内コミュニティ運営、人材育成などの取り組みを推進中。
※本記事に記載の会社名、製品名は、それぞれの会社の商標または登録商標です。




