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「DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~」 第25回は、引き続き2023年7月6日に行われたオンラインイベント第2部のパネルディスカッションをお届けします。平鍋氏の提案による大喜利形式のディスカッション。トピックはアジャイル開発との出合いについて、そしてアジャイル開発の課題や壁についてです。

「第22回:なぜアジャイルがDXで注目されるのか」はこちら>
「第23回:アジャイルとは、みんなで作ること」はこちら>
「第24回:実践者が語る!アジャイルの課題と壁の乗り越え方 その1」はこちら>

アジャイルとの出合い

平鍋
今日はパネルディスカッションというと少し堅苦しくなりそうなので、私が皆さんに質問をして、それに答えたい人が手を挙げて発言する“大喜利”形式でやりたいと思います。あまり構え過ぎず、気軽に答えてくださいね。では早速ですが最初のお題として、皆さんはアジャイルとどうやって出合ったのか。まずはここから行きたいと思います。いかがでしょう?

画像: アジャイルとの出合い

向坂(さきさか)
まだ入社したてで何も分からない時に、社内のソフトウェア共通部品を作るプロジェクトにアサインされました。そこでは開発をXP(※)で行っていて、それが私とアジャイルとの最初の出合いです。

※XP(エクストリーム・プログラミング):ソフトウェア品質 を向上させ、変化する顧客の要求への対応力を高めることを目的としたソフトウェア開発プロセス

平鍋
今お話に出てきたXPというのは、アジャイルというカテゴリーの中のひとつの手法です。エンジニアには書籍出版当初の2000年から高い人気があって、僕もアジャイルとの最初の出合いはXPでした。その時は、どんな印象を持ちましたか?

向坂
自分たちのイメージを固めた上で最適なやり方をとって進めていくXPは、すごく合理的だという印象を持ちました。ただ仕様書通り作るのではなく、開発の必要性から実装に至る過程をすべて自分たちで説明できる。そこに感銘を受けました。

平鍋
私も同じ経験をしたので、すごく良く分かります。次に、杉原さんの出合いはどんな感じでしたか。

杉原
私は向坂と同じ時期に同じ部署にいましたので、出合いも一緒です。アジャイル開発でものを作るとなった時に、書籍を当たってみたり、「スクラムガイド」を読み込んだりしたのですが、実践的なところが分からず、困りました。同じ部署にもう一人、自分でアジャイルを学習されて詳しい方がいらっしゃって、その方に教えていただいてようやく私も理解できるようになった。そんな出合いでした。

平鍋
そうなんですよね。確かにアジャイルには、本だけだとルールは分かっても実践が分からないという問題があります。それでは大畑さんの出合いは、どうでしたか。

大畑
自己紹介でも話しましたが、お客さまがアジャイルをやりたいということになって、その環境を用意していただけた。それが私の出合いです。

平鍋
でもそれは、ありがたいことですよね。

大畑
社内の基準まで変えて、真正面からアジャイルと取り組もうというところからスタートできたことは、本当に良かったと思います。

アジャイルの課題と壁

平鍋
では次の質問に行きたいと思います。今回のディスカッションのテーマにもなっていますが、これまで皆さんが経験されたアジャイルの課題や壁についてお聞きします。話せる範囲でお話しいただければと思いますが、どなたか?

向坂
はい!私たちがコンサルタントとしてサポートに入ってよくぶつかる壁は、お客さま側のアジャイルの知識や理解が不十分なままアジャイル開発をはじめてしまっているというケースです。極端な場合、プロジェクトを仕切り直さないと解決しないほどこじれてしまっていることがあります。そうなると、乗り越えるのが本当に大変です。

この壁を作らないためには、事前にアジャイルをもう少し理解していただくということが大切だと思います。例えば経営者の方の関心は、アジャイルの手法ではなくアジャイルでどうやってビジネスを成功させて自分たちの業績を上げていくかですから、そこを掘り下げて理解していただく。マネージャー層の方はプロジェクトをどうコントロールするかが仕事ですから、アジャイルや「スクラム」による仕事の見える化のやり方や、チームのモチベーションをあげる方法などを具体的にお伝えする。品質保証部門の方には、仕事の進め方で品質もコントロールしていけるので安心してくださいといった説明をきちんと行う。各担当者にご協力いただくためには、面倒でも事前にアジャイルを理解していただくことが必要です。

平鍋
分かります。周りの人の協力はすごく重要で、それなしでスタートすると「あそこ、なんかはじめたらしいよ」という感じで社内で孤立してしまうこともあります。そうなると、協力者が集まらなくなって非常にやりにくい状況が生まれたりしますので、最初にアジャイル開発の目的や、やり方を知ってもらうことは本当に大事だと思います。

向坂
私たち外部の人間は、お客さまの社内調整はできませんから、窓口になっていただく方の協力が必要なので、その信頼関係作りがまずは大切なポイントだと思います。

平鍋
おっしゃる通りです。では次に壁にぶち当たった方、大畑さん、お願いします。

画像1: アジャイルの課題と壁

大畑
私が直面したどの教科書にも書かれていない壁は、「プロダクトオーナーの離脱」です。

平鍋
離脱……

大畑
プロダクトバックログ(これから行う作業)の優先順位を決めていたプロダクトオーナーが、1年で急遽離脱されることになりました。そうなると後任の方も急遽の参加ですから、「このプロダクトバックログはなぜこうなっているのですか」「この機能がこうなっている背景を説明してください」というところから再スタートすることになります。今まで前提となっていたことが全部リセットになり、言葉ではうまく説明できないところもあって非常に苦労しました。

平鍋
ウォーターフォールの考え方でいくと、このケースは「なんでドキュメントを残さないの」となりがちですが、それはアジャイルでは間違いなんです。ドキュメントはQ&Aをしてくれないし、本当の背景、何でこのときにこういう決断をしているのかといった意思を含む「すべて」は残せません。「すべて」を書くことには大変な労力がかかるし、書いた気になっても書かれていないことが必ず残る。仕事というのは、人と人との間に培われた信頼など目に見えない濃い沈殿物があって成り立っていますが、それを可視化して提示することはできないのです。それよりも会話と信頼を重視しよう、というのがアジャイルの価値観になっています。

大畑
おっしゃる通りです。その時もプロダクトバックログに記載されていない当時のプロダクトオーナーのメモを掘り出したりして、とにかく一歩ずつ理解していただくしかありませんでした。

平鍋
僕も同じ経験をしたことがありますが、その時に反省として思ったことは、人事的に急に人が移動することは組織ではありえるので、できるだけ早めに経営者をはじめさまざまなレイヤーの人たちとつながっておかないといけない。それがないとプロジェクトは安全ではないということを学びました。

画像2: アジャイルの課題と壁

杉原
大畑の話を聞いて、本当に集中して責任を担われていたプロダクトオーナーが離脱されることのリスクを実感しましたが、私は少し違う角度からプロダクトオーナーが壁になったことがあります。例えばはじめてプロダクトオーナーに任命された方と、プロジェクトをスタートすることってありますよね。事前に教育があったとしても、未経験のまま大きな負荷がかかった状況でプロダクトオーナーになり、アジャイルという文化や、やり方も浸透してない状況で周りに聞ける人もいない。そんなプロダクトオーナーがボトルネックになってしまって、仕事が進まなくなるという経験がありました。製品やサービスへの強い思いを持ってビジネスと開発をつなげ、プロジェクトをリードしなければならないプロダクトオーナーが、意思決定できない。そういう壁でした。

平鍋
それはどうやって乗り越えましたか?僕の会社では、プロダクトオーナーの補佐役の人をサポートにつけたりしますが。

杉原
私たちも、まさに補佐を置くという方法をとっています。

向坂
私が見ているところも、だいたい補佐を置いていますね。

平鍋
やはりそうなのですね。日本の開発の中では、ビジネスと開発をつなぐ人であるプロダクトオーナーは、ビジネス側で多忙なことが多く、補佐を置くというのは現実的な解決策なのだろうと思います。

「第26回: 実践者が語る!アジャイルの課題と壁の乗り越え方 その3」はこちら>

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平鍋 健児(ひらなべ けんじ)

株式会社 永和システムマネジメント 代表取締役社長、株式会社チェンジビジョン 代表取締役CTO、Scrum Inc.Japan 取締役。1989年東京大学工学部卒業後、UMLエディタastah*の開発などを経て、現在は、アジャイル開発の場、Agile Studio にて顧客と共創の環境づくりを実践する経営者。 初代アジャイルジャパン実行委員長、著書『アジャイル開発とスクラム 第2版』(野中郁次郎、及部敬雄と共著) 他に翻訳書多数。

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向坂 太郎(さきさか たろう)

株式会社 日立製作所 アプリケーションサービス事業部 主任技師(アジャイルコーチ)
1999年、株式会社 日立製作所入社。金融系システム開発のプロジェクトに従事。その後、社内の開発フレームワークや開発標準の整備など、ソフトウェア生産技術の開発・展開に従事。その知見と経験を生かし、2019年からアジャイル開発コンサルティングサービスを立ち上げ、コンサルタントとしてユーザー企業さまのアジャイル開発プロジェクト、人財育成、社内標準化など、さまざまな課題解決を支援。

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杉原 優子(すぎはら ゆうこ)

株式会社 日立製作所 アプリケーションサービス事業部 主任技師(アジャイルコーチ)
2008年 株式会社 日立製作所入社。生産技術本部にて社内の開発フレームワークや開発標準の整備など、ソフトウェア生産技術の開発・展開に従事。2019年から2021年にかけてアジャイル教育講師・コーチとして活動。2022年よりGlobalLogic Japanビジネス推進本部に席を置き、GlobalLogicとともに顧客協創活動に従事、現在に至る。

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【第25回】 実践者が語る!アジャイルの課題と壁の乗り越え方(その2)

大畑 聡(おおはた さとし)

株式会社 日立製作所 金融第二システム事業部 技師(スクラムマスター)
2007年 株式会社 日立製作所入社。政府系金融機関のシステム開発に従事。2021年から証券会社のシステム開発に従事。

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【第25回】 実践者が語る!アジャイルの課題と壁の乗り越え方(その2)

『アジャイル開発とスクラム 第2版』

著:平鍋健児 野中郁次郎 及部敬雄
発行:翔泳社(2021年)

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