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「DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~」 第23回は、引き続き2023年7月6日に行われたオンラインイベントの平鍋健児氏講演ダイジェストをお届けします。実践での手法を通して、「みんなで作る」というアジャイル開発の本質を解説していただきます。

「第20回:アジャイル開発の実践例:アジャイルのはじめ方 その1」はこちら>
「第21回:アジャイル開発の実践例:アジャイルのはじめ方 その2」はこちら>
「第22回:なぜアジャイルがDXで注目されるのか」はこちら>

基本は全員参加という場づくり

画像: 基本は全員参加という場づくり

アジャイル開発や「スクラム」では、ユーザーに喜んでいただける製品やサービスを作るために、全員が同じ意識で取り組む必要があります。そのための場づくりというものがとても重要で、全員がひとつになるためにさまざまな手法が用意されています。特に今の状況を把握できるような透明性の高い環境づくりが大切で、僕が象徴的にイメージするのは野球のスコアボードです。あのスコアボードがあるから、選手や監督・コーチなどのスタッフはもちろん、何万人の観客全員も今の状況を正確に把握することができ、球場全体を一体化することができるのです。

画像: タスクかんばん

タスクかんばん

アジャイル開発では、スコアボードの代わりにこのような「タスクかんばん」を使います。これでプロジェクトの透明性を確保し、見える化を図るのです。「タスクかんばん」の役割は、進捗報告だけではありません。これらのタスクは、アサインではなくサインアップで担当を決めていきます。「あなたはこれをやってください」ではなく、「これは私がやります」といって手を上げるのです。その時、いつまでもToDoに残っているタスクがあれば「これは来週私がやります」とか、「やったことがないのですが、Aさんにサポートしていただければ私がやります」といった助け合いが自然と生まれてきます。あるいはDoingに留まっているタスクがあれば、誰かが声をかけて何か問題があるかどうかを聞き、どうすれば良いかをみんなで考える。「タスクかんばん」は、透明性や見える化を通して全員の意識合わせの役割も担うのです。

画像: バーンダウンチャート(永和システムマネジメント:チーム角谷)の例

バーンダウンチャート(永和システムマネジメント:チーム角谷)の例

タスクの数を数えて、今作業は目標のどのくらいまで来ているのかを表す「バーンダウンチャート」を作っているチームもあります。この青い線が予定線、赤い線が実績線で、毎朝みんなで赤い線を描き込むのですが、これはアナログでやるとすごくいいのです。メールやチャットで作業の遅れを流してもなかなか行動は起きませんが、朝会でみんながこれを見ながらプロットすると、チームで集中していくべきことに対して議論ができるのです。

「タスクかんばん」も「バーンダウンチャート」も、全員がプロジェクトに参加しているという実感を持ってもらう場を作る手法であり、この役割を理解した上でチームを活性化する環境を作るのがマネジメントの仕事です。実際にこういった一つひとつがうまく回り出すと、発注者や受注者といった関係を超えて全員が一体化したチームが生まれます。これがアジャイル開発の醍醐味であり、ポテンシャルなのです。

なお、現在ではこれらの見える化手法も多くがデジタルへと移行しています。デジタルツールでも、「臨場感」を維持していくことが重要です。第11回でもデジタル環境の見える化について詳しく紹介していますので、ぜひご覧ください。

画像: オンラインホワイトボードの全体像

オンラインホワイトボードの全体像

企業側の意識の変化

次に、かつては保守的で堅いと言われていた産業でも、アジャイル開発への理解は進んでいて積極的に取り入れられるケースも増えてきています。そんな企業側の意識の変化がわかる事例を2つほどご紹介します。

画像: 「AgileStudio セミナー:金融DXへの北國銀行の取り組みレポート」より https://www.agile-studio.jp/post/thankyou-hokkokubank-cross-agile

「AgileStudio セミナー:金融DXへの北國銀行の取り組みレポート」より

https://www.agile-studio.jp/post/thankyou-hokkokubank-cross-agile

まずは、北國銀行です。北國銀行は、トップの方が「地域の活性化をデジタルの力を使って行うDXは、地域の銀行がやるべきだ」という強い意志をお持ちで、5年後、10年後の地域基盤づくりをめざしてDXと取り組まれていました。しかし当初は従来のやり方で進めるしかなくて、さまざまな問題が生じたそうです。例えば声の大きい人の仕様が通るとか、わからないことは既存のままでいいという結論になるとか、社内部署やベンダーとの折り合いが悪いといったことが起きて、これは一体誰のためにやっている仕事なのかわからなくなっていたそうです。

その時に頭取自らがみんなに声をかけて、もうインターネットバンキングの時代だから、計画が変わらないことを重視するのではなく、スピーディーに効率よく重要なものを前に進められるよう、自分たちもシステム開発できるようアジャイルと取り組むことを決められた。そして株式会社デジタルバリューという北國銀行のDXを進めるシステム子会社を設立し、今では10チームがアジャイル開発を行っています。法人インターネットバンキングも、本格的なテストに入っていて、めざす地域基盤がいよいよスタートという段階まで来ています。

画像: 「出典:KDDI Summit 2023」トヨタ自動車株式会社 デジタル変革推進室 泉 賢人室長

「出典:KDDI Summit 2023」トヨタ自動車株式会社 デジタル変革推進室 泉 賢人室長

もうひとつご紹介したいのは、トヨタ自動車の事例です。デジタル革新推進室ではさまざまな部署からデジタルイノベーションガレージというところに人を集めて、1年~2年のデジタルやアジャイルの教育、アドスキル(トヨタ自動車ではリスキルでなく、アドスキルと言うよい言葉が使われている)を行い、その能力を元の部署に持ち帰って広めるというCoE(※)的な方法で、全社のデジタル化を推進するという取り組みが行われています。アジャイルや内製に必要なモダンな開発技術をもつエンジニアを集中的に教育・共有して全社に貢献する枠組みです。日本の多くの大企業で、CoEを作る動きが進んでいます。

※センターオブエクセレンス:組織内に点在する人や技術、ノウハウなどを一カ所に集約する組織

「スクラム」の本質

僕は2013年に『アジャイル開発とスクラム』を一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生との共著で出版しました。「スクラム」というアジャイル開発手法のお手本になったのは、野中先生と竹内宏高先生が1986年にハーバードビジネスレビューに掲載した「The New New Product Development Game」という論文だという話は第3回の連載でしました。

僕は以前、野中先生に「平鍋くん、会社ってどこに存在すると思いますか」という、すごく哲学的な質問をされたことがあります。「それは取締役会ですか、本社ですか、組織図ですか」と聞かれて、僕は答えられませんでした。先生は、「会社は、そこここに起こる会話にある」と言われて、その時僕は言葉を失いました。そう、すべての基本は会話なのです。何かをはじめる時に、立派な計画書を書き組織を作るよりも、まず仲間になる人に会いに行って話をする方がはるかに重要だし、わかり合うことにつながります。まだ形になってないものをみんなで作るために、会話することからはじめるのが「スクラム」だということを野中先生は教えてくださいました。

ご聴講されている皆さんは、アジャイル開発や「スクラム」がまだピンときていない方、少しやってみて難しいと感じた方、これから取り組まれる方、いろんな段階の方がおられると思いますが、ポイントはやっぱり「みんなで作ること」なんです。そのために、人と会話して、人を巻き込んで、そこで成果を上げて、認められたら次のステップへ進む。どこまで行っても「みんなで作ること」、そしてその仲間づくり、場づくりがアジャイル開発や「スクラム」の本質です。

今日の話が、少しでも皆さまのお仕事のヒントにつながればうれしいです。ご清聴ありがとうございました。

「第24回:実践者が語る!アジャイルの課題と壁の乗り越え方 その1」はこちら>

画像1: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第23回】アジャイルとは、みんなで作ること

平鍋 健児(ひらなべ けんじ)

株式会社 永和システムマネジメント 代表取締役社長、株式会社チェンジビジョン 代表取締役CTO、Scrum Inc.Japan 取締役。1989年東京大学工学部卒業後、UMLエディタastah*の開発などを経て、現在は、アジャイル開発の場、Agile Studio にて顧客と共創の環境づくりを実践する経営者。 初代アジャイルジャパン実行委員長、著書『アジャイル開発とスクラム 第2版』(野中郁次郎、及部敬雄と共著) 他に翻訳書多数。

画像2: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第23回】アジャイルとは、みんなで作ること

『アジャイル開発とスクラム 第2版』

著:平鍋健児 野中郁次郎 及部敬雄
発行:翔泳社(2021年)

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