*1 Magnetic-electronic Automatic Reservation System(電磁式自動予約システム)
情報処理技術の礎を築いた先人たち
IEEE※2 Milestoneの贈呈式に続く記念講演会ではまず、電気・電子、情報・通信分野における世界的な技術者組織IEEEの東京支部を代表して鈴木 浩氏が登壇した。同氏はIEEE Milestoneについて、人類社会や産業の発展に大きな影響を与えた歴史的技術業績を顕彰する国際的制度と説明。また、認定要件や国内外の認定事例を紹介しながら、日本の技術が数多く認定され、国際的に高く評価されている現状について語った。
続いて登壇した株式会社ジェイアール総研情報システムの後藤 浩一氏は、MARS-1開発を主導した国鉄・鉄道技術研究所の穂坂 衛氏らの足跡を紹介した。穂坂氏は米国留学を通じてコンピューター技術を学び、帰国後、その知見を生かして鉄道座席予約システムの研究を推進。当時まだ黎明期にあったコンピューター技術を鉄道分野へ応用した先進性について解説した。
こうした取り組みを礎に誕生したMARS-1は、主要駅の端末と中央コンピューターを結ぶオンラインリアルタイムシステムとして実用化される。さらに後藤氏は、穂坂氏とともにその開発に携わった大野 豊氏、尾関 雅則氏らの功績を振り返りながら、MARSがその後の日本の情報処理技術の発展に与えた大きな影響についても語った。

開設当時の座席予約窓口の状況 (左 : MARS-1(東京駅・1960年、出典:RRR, 2018.2, 39)、右 : MARS 101(東京駅・1965年、出典:日本国有鉄道百年写真史)
時代とともに進化してきた巨大社会インフラ
続いて登壇した鉄道情報システム株式会社(以下、JRシステム)の金子 正美氏は「MARSの発展と将来展望」をテーマに講演した。同氏は、1960年に運用を開始したMARS-1以降、コンピューター技術や通信技術の進歩に合わせてシステムの刷新を繰り返しながら発展してきた歩みを紹介。1987年の国鉄分割民営化以降はJRシステムが開発・運営を引き継ぎ、時代ごとの社会環境や利用者ニーズに対応しながら機能の拡充を図ってきた歴史を説明した。

MARSの変遷
また、MARSは当初の指定席予約システムから、乗車券や各種チケットなども扱う旅客販売総合システムへと発展。東北・上越新幹線の開業、JR各社の多様な販売施策への対応、インターネット予約やインバウンド対応の強化などを通じて、その役割と機能を大きく広げてきた。
現在のMARS 505は、全国約1万台の端末やインターネット予約サービスなどと接続し、1日平均約1,060万コールに対応している。さらに、2008年以降は99.999%以上の高い稼働率を維持しており、いまやMARSは日本の鉄道輸送を支える重要な社会インフラとなった。加えて近年は、チケットレス化や決済機能の強化のほか、多言語対応や端末機能の高度化なども推進。金子氏は今後についても、高度安定稼働を堅持しながらAI活用やシステムのサーバー化など次世代MARSに向けた取り組みを進めていく考えを示した。
品質最優先で“止めてはならない”を次世代へ
「万一このシステムが止まると、日本中の切符販売が止まってしまいます。だからこそ、現場には品質を最優先する“決して止めない”という考え方が受け継がれてきました」と語るのは、1990年からMARSの開発・運用に携わってきた日立の田上 欣史だ。単なる鉄道予約システムではなく、いまやMARSは日本の社会インフラそのものであるからこそ、そこにはミッションクリティカルな信頼性と安定稼働が欠かせない。

さらに田上は、MARS-1の先進性は世界初のオンラインリアルタイム処理だけではなかったと言う。「例えば航空予約システムは比較的シンプルな区間予約が中心ですが、鉄道は乗り継ぎや経路選択まで含めて考える必要があり、2人や3人で利用する場合には並び席になるよう配慮するなど、お客さまの立場に立ったきめ細かな仕組みが必要になります」と説明。開発当初から考えられていた利用者本位の設計思想の重要性を強調する。
今回のIEEE Milestone認定について、「この栄誉は現役世代だけでなく、1960年代からシステムを築いてきた国鉄関係者の方々や日立の諸先輩方の努力の賜物にほかなりません」と田上。そんな田上自身、1985年の入社以前からMARSに強い関心を抱いていた一人だった。「学生時代にコンピューターを学ぶ中でオンラインシステムに興味を持ち、身近に利用していた駅での切符の販売システムがMARSと知りました。日立を志望したのもそのMARSに携わりたいと思ったからです」と明かす。現在はそのシステムの部門長となった田上にとって、次代を担う若手技術者たちにこの仕事をしっかり引き継いでいくことも重要な使命の一つだ。
“止めない思想”を受け継ぎながら、時代とともに変化する多様なニーズに応え続けてきたMARS。日立はこれからもJRグループとの協創を通じてその進化を後押しし、日本の鉄道輸送を支える社会インフラの発展に貢献していく。

公益財団法人鉄道総合技術研究所 理事長 渡辺 郁夫氏

鉄道情報システム株式会社 代表取締役社長 池田 孝行氏

株式会社日立製作所 執行役専務 永野 勝也

IEEE東京支部 2019-2022歴史委員長 鈴木 浩氏

株式会社ジェイアール総研情報システム 代表取締役社長 後藤 浩一氏

鉄道情報システム株式会社 上席執行役員 旅客システム部長 金子 正美氏

株式会社日立製作所 社会システム事業部 モビリティソリューション&イノベーション本部 マルスシステム部 部長 田上 欣史
※式典開催時の所属・役職を記載しています。
公益財団法人鉄道総合技術研究所
[所在地] (国立研究所)東京都国分寺市光町二丁目8番地38
[設立] 1986年12月10日
[有資格者数] 博士:210名/技術士:101名(2026年3月31日現在)
[事業内容] 鉄道に関する技術的、人間科学的な試験、研究開発、コンサルティングなど
鉄道情報システム株式会社
[所在地] 東京都渋谷区代々木2丁目2番2号
[設 立]1986年12月9日
[従業員数] 751名(2026年7月現在)
[事業内容] みどりの窓口をはじめJRグループ関連情報システムおよびその他システムの開発・運営・管理、ITソリューション、情報システムに関するコンサルタント、その他機器の開発・製作・販売など




