“いつもの駅”に生まれた新たな接客のかたち
通行量の多い駅の中央改札口近くに置かれたコンパクトな個室ブースの扉を開けて入室すると、目の前の画面上に担当者が現れ、その場で旅行の相談が始まる――。対面と同等の安心感とオンラインの利便性を両立する「汎用デジタル窓口」は、こうした新たな顧客接点を駅という日常空間の中に生み出した。
西鉄久留米駅でスタートした実証は、西鉄旅行株式会社(以下、西鉄旅行)が提供する旅行相談・予約サービスをリモートで受けられる試みだ。利用者は事前予約のうえ来訪し、現地スタッフの案内でブースに入室する。内部にはディスプレイやカメラなどが備えられ、遠隔地にいる西鉄旅行の担当者と対面。画面越しに資料や行程表を共有しながら相談を進め、そのまま旅行商品の予約まで完結できる。ボタン一つで通話が始まるシンプルな操作で、初めての利用でも戸惑いにくい導線が確保されていた。
「実証期間が限られるなかで重要だったのは、いかに早く認知していただくかという点です。電車内や駅での告知に加え、ニュースリリースの発信やメディア掲載なども活用し、認知拡大に取り組みました」と本実証のプロジェクトマネージャーである西日本鉄道株式会社(以下、西鉄)の清海 圭一朗氏は実証開始時の注力ポイントを振り返る。また西鉄旅行でも、SNS発信や西鉄久留米駅周辺の西鉄旅行のお客さまへのDM送付など、複数の手段を組み合わせて周知を図っていった。
一方で、この仕組みを実際の利用につなげるまでには一定のハードルもあった。幅広いPR施策にもかかわらず、ブースの用途や利用イメージを想起しにくい面もあり、通りがかりの人から「これは何ですか」と尋ねられる場面もあったという。サービスの存在を知ってもらうだけでなく、どう使うのかをより具体的に伝える必要もリアルな実証を通じて見えてきた。

月を追って増加した利用者とコンスタントな成約
実証を開始した2025年11月から翌12月、そして最終月の2026年1月と、利用者数は倍増ペースで拡大。さらにその間、相談から旅行商品の成約にまで至ったケースも毎月生まれている。また、リモートによる接客に特段の問題はなく、西鉄旅行のオペレーター側でも円滑に相談対応できた。
この結果を踏まえ、「春先や秋口は旅行需要の高まるシーズンですが、今回の実証期間は閑散期にあたりました。そんな難しい時期でも複数件の成約につながったことは一つの収穫です。また、実際の操作についても違和感なく進めることができ、お客さまからもリアル店舗に近い感覚で相談できたという声をいただいています」と語るのは、西鉄旅行の窓口統括を務めた安部 稔氏だ。実証ブースの横に設置した西鉄旅行のチラシを手に取る来訪者も多く、旅行商品や同社への関心を喚起するきっかけにもなったという。
なお、本実証のターゲット層は40代以上だったが、実際に40代から50代の利用者が最も多かった。また、要員確保の観点から予約制での運用とした今回の実証では、利用者の多くが事前に予約を済ませたうえで来訪しており、サービス提供に大きな支障は生じていない。
一方で、今回の実証で採用した利用予約にあたっての事前手続きや、その後相談時に電子機器を操作するといった利用ステップが、特に対面サービスを求める本来のターゲット層にとって心理的ハードルとなり得るという認識も共有された。さらに、実証期間のなかで徐々に利用者が増加していったことを踏まえると、一定の時間をかけて認知を広げ、サービスの意義を浸透させていく重要性も再確認された。

人とつながる「サービスの場」を、さまざまなリアル空間へ
サービスの利用に関する多くの気づきや学びをもたらした今回の実証は、駅という空間の新たな可能性も示した。「今回は旅行相談に限定しましたが、例えば市役所や出張所から離れた駅に行政手続きのリモート窓口を置くなど幅広いサービスを提供できれば、日常的に利用する駅がより便利になります。民間・行政を問わずさまざまな機能との接点となれば、駅という場の価値はさらに高まるはずです」と西鉄の清海氏は今後を見据える。
こうした認識は、従来の交通拠点としての役割に加え、駅を生活に密着したサービス提供の場として捉え直すものだ。日常の動線上に機能を重ねるという発想は、駅を総合的な生活サービス拠点として再定義するものでもある。
さらに、このリモート窓口は駅にとどまらず、多様なリアル空間への展開も期待される。消費者との対面による説明や相談を伴う業務であれば、不動産や金融、医療・福祉などの分野にも応用の余地があり、商業施設や空港といったリアルな顧客接点を持つ拠点との親和性も高い。今後、相談や手続きなどのリモート対応が社会に浸透していけば、オンライン窓口サービスの導入もより一層進んでいくと予想される。
駅というリアルな場の価値向上を追求する西鉄と、生活圏におけるサービスアクセスという社会課題の解決に取り組む日立。汎用デジタル窓口を起点とする両者の協創が、人々の集う場所とサービスの新たな関係を形づくっていく。

清海 圭一朗
西日本鉄道株式会社
鉄道事業本部 営業部 営業課 課長

安部 稔
西鉄旅行株式会社 取締役
九州営業本部 副本部長 兼 ソリューション営業部 部長
西日本鉄道株式会社
[所在地] 福岡県福岡市中央区天神1-11-1
[設立] 1908年12月17日
[従業員数] 約4,586名(2025年5月30日現在)
[事業内容] 中核事業である鉄道・バスなどの運輸業のほか、不動産、流通、物流、レジャー・サービスなど多角的に事業を展開
西鉄旅行株式会社
[所在地] 福岡県福岡市中央区薬院3-16-26 西鉄薬院ビル
[創立] 1954年11月17日
[従業員数] 291名(2026年4月1日現在)
[事業内容] 国内・海外旅行の企画・販売、法人向け出張手配、運送・貨物代理業、スポーツ・イベント関連ツアーの企画運営など




