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仕組みを整えるだけでは、変革は成し遂げられない。日立情報通信エンジニアリングとGlobalLogicは、言語や文化の壁をどのように越え、信頼を築いたのか。成果を生んだ「融和」の実像と、両社に広がるマインドチェンジに迫る。

(前編) 協創事例に学ぶ、開発におけるグローバルリソース活用の勝算 なぜ先端技術開発で変革をなし得たのかはこちら>

石橋をたたいて渡る日本の「品質管理」と、まずは橋を渡ってみるグローバルの「スピード」。モノ売りからの脱却と人財不足という課題を解決するため、グローバルリソースの活用に踏み出した日立情報通信エンジニアリングは、この決定的な文化の溝をどう埋めたのか。

前編では、日立情報通信エンジニアリングがGlobalLogicとの協創に踏み切った背景と、ウォーターフォールとアジャイルを組み合わせた「ハイブリッド開発」の仕組みを紹介した。しかし、仕組みを整えただけでプロジェクトが成功するわけではない。本稿では協創の成果と、両社に起こった変化に迫る。

早期フィードバックがもたらした「見える成果」

ハイブリッド開発の成果は数字に表れた。2025年9月、日立情報通信エンジニアリングは「SaaS型統合運用管理プラットフォーム」(詳細は前編を参照)の販売を開始した。開発期間はわずか1年余り。従来の開発手法では考えられないスピードだった。

PoC(概念実証)では約87%が高評価を示した。監視機能やログ収集、レポート機能といった通常運用業務の効率化につながる機能への評価が高く、AI活用やUI向上への期待も寄せられた。「早い段階で動くソフトウェアをお客さまに見せることで、意味のあるフィードバックを得ることができました」と、今回の協創に臨んだGlobalLogicルーマニアチームを率いるMarius Vanca(マリウス・ヴァンカ)氏は振り返る。

画像: Marius Vanca氏(GlobalLogic Engineering部門 Vice President)

Marius Vanca氏(GlobalLogic Engineering部門 Vice President)

もっとも、道のりは平たんではなかった。開発当初、内部テスト環境で算出された不良件数は1.6件とGlobalLogicの基準値0.37件を上回った。実はこれは、標準的なテスト期間をあえてスキップし、日立情報通信エンジニアリングが直接コードを確認、テストできるようにする体制を双方合意の上で構築した結果だった。アジャイル開発のスピードと、日本独自の品質管理、このギャップを埋めたのが「Horizontal Approach」――つまり、横展開(Yokotenkai)だ。

「欠陥を一つ直して終わらず、水平思考で他も検証する。この“Yokotenkai”を日立情報通信エンジニアリングから学び、品質が確実に向上しました」(ヴァンカ氏)

横展開の徹底と顧客からのフィードバックの組み合わせにより、開発後半の不良件数は0.3件に改善したという。

変化したのはGlobalLogicだけではない。日立情報通信エンジニアリングの中野俊夫社長は「私たち自身がトランスフォームしなければならないというモチベーションがありました。GlobalLogicの手法を徹底的に学び、同じ土俵に立つ道を選びました」と話す。

画像: 中野俊夫氏(日立情報通信エンジニアリング 代表取締役 取締役社長)

中野俊夫氏(日立情報通信エンジニアリング 代表取締役 取締役社長)

キーワードは「融合」ではなく「融和」

日立製作所(以下、日立)でLumada戦略を推進する福島真一郎氏は、両社が歩んだプロセスを聞いて「GlobalLogicの我慢強さ」を称賛する。

「日立には独自の厳格な品質管理プロセスがあります。アジャイル開発を得意とする企業にとって、その緻密な作法に合わせることは容易ではありません。『効率を優先して、ソフトウェアだけの開発に専念したい』と考えても不思議ではないはずです。その『我慢強さ』はどこからきたのか。ずっと気になっていました」

画像: 福島真一郎氏(日立製作所 デジタルシステム&サービス統括本部 経営戦略統括本部 Lumada & AI戦略本部 Lumada Collaboration LIHT Director 日立認定デザインシンキング・イニシアティブ(プラチナ))

福島真一郎氏(日立製作所 デジタルシステム&サービス統括本部 経営戦略統括本部 Lumada & AI戦略本部 Lumada Collaboration LIHT Director 日立認定デザインシンキング・イニシアティブ(プラチナ))

福島氏の問いにヴァンカ氏は「ハーモニー」というキーワードを挙げる。

「それは我慢強さというよりも、自然と生まれたチーム間のハーモニーでした。実際に会い、膝を突き合わせて問題解決に取り組む。そうした泥臭い時間を共有する中で、手法やプロセスを超えた信頼関係が醸成されたのです」

中野氏は今回の協創を「融合」ではなく「融和」と定義する。「互いの良さを生かし合い、尊重し合う。発注者と受注者の上下関係ではなく、ゴールを共有するパートナーとしての姿です」

両者が口をそろえるのは、対面でのコミュニケーションの重要性だ。ワークショップや共同デザインセッション、そして定期的な対面ミーティングが信頼構築の決定的な役割を果たした。その密な連携を支えたのが、GlobalLogic Japanのメンバーだ。

中野氏は「両社の文化や価値観を理解できる彼らの貢献は大きかった」と語る。彼らの役割は、単なる通訳ではない。日立情報通信エンジニアリングとGlobalLogicの間で交わされる要件について「なぜそれが必要なのか」という背景と共に共有するなど、両社の相互理解を深める役割を担った。双方の文化や文脈を深く理解するGlobalLogic Japanが「橋渡し役」となることで、認識のズレは最小限に抑えられた。

結果として「時間がたつにつれ、チームは互いの技術的な強みだけでなく、根底にある価値観をも認め合うようになりました」と、ヴァンカ氏は笑顔を見せる。

信頼関係を支えたのは、両社に共通する「土台」だ。中野氏は言う。「両社には、品質やモノづくりに対する真面目さが土台にありました。全く異なる考え方や文化を持つ人同士が話していても『かみ合わない』ということがなかったのです」

福島氏は、この関係性の本質を「共創(コ・クリエーション)」と呼ぶ。

「委託開発にありがちな上下関係ではなく、プロとして尊重し補完し合う。理想として語られても、これを実践できる企業は決して多くありません。大事なのはメソッドではなく、融和できるベースがあるかどうかです。GlobalLogicにはそれがある。だからこそ、日立情報通信エンジニアリングの挑戦は真の協創になり得たのでしょう」

開発部門を超えて広がった意識改革

協創がもたらした日立情報通信エンジニアリングの変化は、開発現場にとどまらなかった。QA(品質保証)や製品の管理者、営業といったフロント側にも波及して部門の縦割りが解消に向かった。

早い段階で「動くもの」に触れられるアジャイル開発の特性が、部門の壁を低くした。従来のウォーターフォール開発は製品が完成するまで営業部門が関与する機会は限られるが、今回は違った。ワークショップに営業メンバーも参加し、ルーマニアチームと直接、製品価値について議論を重ねた。

相互の歩み寄りは、マインドセットの変革も引き起こした。GlobalLogicがミッションクリティカルな品質や長期的責任への理解を深める一方で、日立情報通信エンジニアリングは反復的な開発やデザイン主導の思考を吸収した。

若手エンジニアへの影響も大きい。GlobalLogicとの議論を通じて海外のフラットな企業文化に触れ、「自分から考えて作るという意識が芽生えたようです」と中野氏は語る。

「社員は、海外の企業とボーダーレスに仕事ができる意義を感じてくれています。何より、『自分たちでもレガシーな世界を変えられる』と自信を持ってくれた。それが私にとっては大きな喜びです」

PBXプロジェクトの先にある、協創の地平

PBXプロジェクトの成功は、社内外で反響を呼んだ。中野氏は「この成功モデルを紹介すると反響が非常に大きい。私たちが手掛ける受託開発の事業にも適用したいと考えています」と語る。

連携先も広がりつつある。「新たにGlobalLogicに加わった『Mobiveil』(モビベイル)との連携も始まっています。彼らはインドを拠点とし、半導体や組み込みハードウェア技術に特化したプロフェッショナル集団です」。中野氏はそう紹介し、ヘルスケアや自動車、IoTエッジといった領域でMobiveilの技術と日立情報通信エンジニアリングのノウハウを掛け合わせた取り組みをスタートしていると話す。

ヴァンカ氏もこれに呼応する。「AI対応のプラットフォームなど、PoCがいくつか上がっています。市場投入に向けた共通戦略を策定し、融和を次のレベルに上げていきます」

画像: PBXプロジェクトの先にある、協創の地平

中野氏が見据えるのは、日立グループ全体のデジタル変革への貢献だ。日立は「Lumada」(ルマーダ)※を軸に、IT、OT、プロダクトを組み合わせた社会イノベーション事業を推進している。

※)Lumada(ルマーダ):日立

「PBXで実証した、スタンドアロンシステムをソフトウェアディファインド化してクラウドでつなぐ手法は、医療機器など他の領域にも応用できます。こうしたモダナイゼーションの実践を通じて、日立情報通信エンジニアリングはLumadaに貢献できると考えています」(中野氏)

さらにその先にはエッジAIの世界がある。中野氏は「将来的にはエッジ側にもAIが搭載され、システムが自律的に判断して動くようになります。GlobalLogicのチームと一緒なら、そうした新しい世界を実現できると確信しています」と語る。

ヴァンカ氏はその言葉にうなずき、GlobalLogicがめざすパートナーシップの最終形についてこう話す。

「私たちの究極のゴールは、単なる開発代行ではありません。パートナーが自ら開発できる能力を身に付ける『インソース化』の支援です。先進的なエンジニアリングの知見や文化を吸収してもらうことで、グローバルのエコシステムとつながりながらパートナー企業の“エンジニアリングDNA”そのものを強くする。それこそが、私たちが提供したい価値です」

変革を志す全ての経営者へ

取材の終盤、福島氏は多くの日本企業が抱える「共通の悩み」について切り出した。

「トップが強い意志でビジョンを示しても、現場が動かない――DXに挑む経営者から、こうした相談が後を絶ちません。中野さんは今回、トップとして現場とどのように関わり、この壁を乗り越えたのでしょうか」

中野氏が返した答えはリーダーとしての「忍耐」だ。「協創において私たちが学んだのは、すぐに結果を求めない『忍耐』、そして先行投資の重要性です。成果が出るまで、口を出さずにじっと待つのは勇気が要ります。でも、まず投資をしてみる。そうすれば原資が生まれ、人が変わり、モノが変わる。DXは、その先に初めて実るものです」

投資の先に必要なのは「姿勢」だ。ヴァンカ氏は「変革は企業規模の問題ではなく、意思とリーダーシップの問題」だと説き、二項対立を超える視点を示す。

「品質かスピードかという二者択一ではなく、補強し合うモデルをデザインすることが重要です。強い意思とオープンな姿勢を持ち、適切なパートナーと組めば、どのような企業でも変革は達成できます」

一方で、福島氏はその道のりの険しさも熟知している。安易な楽観を戒めるように「コ・クリエーションによるDXは簡単ではありません。最も難しいのはマインドチェンジであり、自己流は失敗の元です」と語り、だからこそ先行者の知見を生かしてほしいと強調する。

「われわれ日立グループには今回の成功事例も含め、多くの知見があります。遠回りをする前に、ぜひ相談してほしい。われわれの経験を活用すれば、日本企業はもっと強くなれるはずです」

日立情報通信エンジニアリングが実践した「融和」というプロセスにこそ、日本企業がめざすべき変革のヒントがあるはずだ。

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