世界標準のベストプラクティスにもとづく提案活動支援
大山
日立には、事業部の提案活動の支援を専門的に行うCPCという部隊があります。まず、CPCの業務内容を教えてください。
榛葉
お客さまの企業価値を高める優れた提案を行うためには、組織全体の提案力を強化する必要があります。私たちは、お客さまに最適な提案を継続的に行うためのフレームワークや、提案書作成を効率化する各種ツールの標準化と社内整備を進めながら、各事業部のさまざまなプロジェクトに対して提案活動のプランニングと支援を行っています。
CPCは、日立グループ横断の新事業や社内改革に関するアイデアコンテストで最優秀賞を受賞したことを契機に、2018年から活動を開始しました。それだけ、全社的に求められていた活動だったのだと思います。

大山
そして昨年CPCは、提案書作成を支援するAIエージェントの開発と業務適用について私たちの部署に協力を依頼しましたね。提案書作成にAIを使おうと考えた背景はどのようなものだったのでしょうか。
榛葉
先程触れた「フレームワークの整備」について詳しくご説明します。
CPCでは、提案活動に関わる専門職のための国際的な非営利団体APMP*1が提案活動のベストプラクティスを体系化した「プロポーザルマネジメント(R)」の手法に、日立の成功ナレッジを掛け合わせた独自のフレームワークを開発しました。
*1 APMP:Association of Proposal Management Professional

CPCでは、このAPMPの手法に日立の成功ナレッジを掛け合わせ、約50のアクションから成るフレームワークを開発。
出典:APMP日本支部 ホームページ
このフレームワークは、6つのフェーズ、約50のアクションで構成されています。
最初のフェーズ1、「マーケットの特定/アカウントプラン」では、幅広く情報収集を行いお客さまの課題を抽出します。次のフェーズ2「オポチュニティアセスメント」では、お客さまとの関係性、競合優位性、日立の中長期戦略との整合性、類似案件での実績などを総合的に考慮し、お客さま課題の中で日立に解決可能なものは何か、という見極めを行います。さらにフェーズ3「オポチュニティプランニング」では、お客さまに最大の価値をお届けするため、必要な社内外のリソースを体系的に整理する——というように、ニーズの理解、提案書の作成からお客さまとの合意形成までをエンド・トゥ・エンドで構造化しています。
このフレームワークは現状でも大きな効果を上げていますが、誰もがもっと迅速・手軽に使えて効率的に成果を上げられる方法はないかと探っていると、欧米では生成AIの活用が本格化しているという情報が得られました。生成AIの活用が仕事の成果を大きく左右する時代になっていますので、すぐに着手しなければとAIアンバサダーの大山さんに声をかけました。
大山
フレームワークの説明を受けた印象は、6つのフェーズ、約50のアクションごとに、どんな情報が必要で、それらをどのような目的で解析するのか、が明確にメソッド化されており、誰もが使いやすく完成度の高いフレームワークだな、というものでした。それと同時に、これは生成AIの得意分野だと思いました。メソッドに沿って情報を整理・提示することは、生成AIがまさに強みとするところです。

プロポーザルマネジメント(R)のアクション単位でAIエージェントを開発
大山
本プロジェクトは、フレームワークを構成する約50のアクションの中から、生成AIの適用が効果的と考えられるものを抽出することからスタートしました。
相馬
私たちの全体構想は、ピックアップしたアクションを順次AIエージェント化し、最終的にそれらを1つのUIに統合する、というものでした。

アクションを順次エージェント化し一つのUIに統合。
大まかに表現しますと、当社のフロントとお客さまがやり取りする中で生まれたさまざまな情報を生成AIにインプットすると、生成AIがCPCのメソドロジーにもとづいて情報を処理し、提案活動に有用なさまざまな洞察をアウトプットしてくれるというものです。得られた洞察をさらに次のアクション、次のフェーズに活用していくというサイクルを回すことで、洞察を高度なものにしていきます。こうすることで、お客さまの課題・期待に即した高品質かつパーソナライズされた提案を迅速に創出できます。その構想実現に向け、大山さんに助言をもらいながらAIエージェント化の対象を見極めていきました。

CPCのメソドロジーを落とし込んだ生成AIに、お客さまとフロントとのやり取りで得た情報をインプットし、洞察を得る。

人とAIとの接点の重要性
大山
各AIエージェントの仕組みはおおよそ共通的ですが、アクションごとに目的に応じて適切なアウトプットの形式を定め、それを実現するのには何度も試行を重ねました。
相馬
営業、SEなど利用者が業務の中で自然に理解できるアウトプットでなければ、効率は損なわれます。文章、表、箇条書きといった形式に加えて、出力の分量、用語レベルなど、目的に応じてどのように適切にアウトプットの仕様を設計するのか、その設計が使いやすいAIエージェントの実現にとってとても重要だということを、今回の実証において強く認識しました。
大山
AIエージェントの開発では、業務要件の落とし込みに尽力しがちですが、人とAIとの接点の設計もとても重要です。AIエージェントの頭脳がどれだけ優れていても、ユーザーが成果を理解し、活用できる形で受け取れなければその価値は発揮されません。
それはアウトプットの形式もそうですし、レコメンド——すなわち、次に何をすればよいか、というAIからユーザーへの指示の出し方もそうです。AIがわかりやすくガイドすることでユーザーは円滑に業務を続けられますし、利用ハードルも下がります。また必要な情報をAIが明確に要求することで手戻りや情報の抜け漏れが減り、品質の高い成果物が期待できます。
相馬
そういう意味では、人が介入するタイミングも非常に大切だと思いました。AIエージェントは、自律的に情報を収集・解析してゴールへ進みますが、いきなり最終的な回答を見せられても、背景が見えないとユーザーはそれが正しいのか、判断に困ってしまいます。適切なタイミングでAIが、「現状はこういうふうに情報を整理しています。合っていますか?」と問いかけるなど、人との接点を作ることが実は合理的だし、効率的なのだと実証を通して理解しました。

大山
そうした試行錯誤を重ねて、開発されたCPCのAIエージェントは現在、すでに業務に適用され、効果を上げていますね。
相馬
提案プロセスを構成する6つのフェーズすべてをカバーするAIエージェントが一通り揃いました。私は、業務の開始=AIエージェントの立ち上げ、というルーティンになっています。
大山
次回は、CPCはAIエージェントを業務でどのように活用しているのか、具体的に聞いていきたいと思います。
業務別!生成AI使いこなし術 【第5回】提案活動支援部門編(後編)はこちら >

榛葉 晃子(しんば あきこ)
株式会社 日立製作所 デジタルシステム&サービス営業統括本部
Executive Strategy Unit クリエイティブプロポーザルセンタ 部長代理
日立製作所に人社後、 IT関連の営業部門にて、公共分野向けAPP拡販および提案書作成業務に従事。 現在の部署に異動後は、特定案件の提案戦略を考えるプレ活動支援、価値を最大限伝えるための提案書作成支援などを提供。加えて、APMPのグローバル標準に基づいた提案活動のプロセス改革にむけ、提案プロセスやツール整備、社内向けセミナーなどの企画・運営を行う。

相馬 周一朗(そうま しゅういちろう)
株式会社 日立製作所 デジタルシステム&サービス営業統括本部
Executive Strategy Unit クリエイティブプロポーザルセンタ 主任
日立製作所に人社後、IT関連の営業部門にて、産業分野の顧客を担当。OTからITまで幅広いソリューションの提案活動に従事。 現在の部署に異動後は、アカウントプラン作成時の新規オファリング検討支援から、特定案件の提案戦略を考えるプレ活動支援、価値を最大限伝えるための提案書作成支援などを提供。加えて、APMPのグローバル標準に基づいた提案活動のプロセス改革にむけ、社内向けセミナーなどの企画・運営を行う。

大山 友和(おおやま ともかず)
株式会社 日立製作所 デジタルシステム&サービス営業統括本部
Executive Strategy Unit フロントサポートセンター チーフプランニングエキスパート
AIアンバサダー
コンサルティング部門にて、営業業務改革、新規事業の立上げなどに従事した後、日立コンサルティングにて、基幹業務システム構築などを担当。プロジェクトリーダーとして、システム企画・構築・運用全般を統括その後、営業バックオフィスを支える業務システム全般を統括。現在、営業部門の生成AI徹底活用プロジェクトの取りまとめとして、講演活動、ナレッジ蓄積、社内コミュニティ運営、人材育成などの取組みを推進中。
商標注記
プロポーザルマネジメント(R)は、一般社団法人日本プロポーザルマネジメント協会の登録商標です。