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日立製作所(以下、日立)が、ITとOT、プロダクトの強みをデータで連携させる「Lumada」(ルマーダ)事業を急拡大させている。Lumadaはどのように生まれ、企業にどのような価値をもたらすのか。
今、多くの企業がDXをはじめとする変革に挑戦している。しかし、思うような成果を出せていないプロジェクトが多いことも事実だ。なぜ、企業の変革は足踏みしてしまうのか。どうすれば変革を企業成長につなげられるのか。そのヒントになるのが、日立の総力を結集する「One Hitachi」という思想と、「Lumada」だ。
日立は、自らの強みの再認識や顧客との「協創」を通じ、深刻な経営危機を乗り越えてきた。そして現在、協創の実践者としてLumada、One Hitachiによって多くの企業変革を多角的に支援している。
2026年に10周年を迎えるLumada。その本質に迫る連載記事の第一弾となる本稿では、日立の変革に長く携わってきた「Lumada Innovation Hub Tokyo」(以下、LIHT)の責任者(Director)を務める福島真一郎氏にインタビューを実施。複雑化する経営課題に対する日立ならではの解決思想と、その実践であるLumadaの真価を解き明かす。

なぜ、企業の変革は足踏みしてしまうのか

「日本企業は現場の能力が高い一方、これまでの成功体験から抜け出せにくい傾向もあります。トップが改革を宣言しても、力を持つ現場が納得していないがために、大きな変革を成し遂げることが難しい企業が散見されます」

福島氏は、多くの日本企業が持つ課題についてこう指摘する。

福島真一郎氏(日立製作所 デジタルシステム&サービス統括本部 経営戦略統括本部 Lumada & AI戦略本部 LumadaCollaboration LIHT Director 日立認定デザインシンキング・イニシアティブ(プラチナ))

企業が新しい方向性を打ち出すためには、中長期的な視点から社会そのものの課題を考えることが不可欠だ。しかしつい数年前まで、企業が事業を通じて社会課題に対応するというイメージを具体的に描くことは難しかったと福島氏は話す。

「経営者はさまざまな経営課題に対応してきていました。現場は業務課題が山積しており、それを必死にこなすことで日々のビジネスを回していました。ところが昨今、遠い存在に思えた社会課題――例えば多くの熟練技術者が高齢化により退職し、業務が回らなくなり至急の対応が必要といった課題が身近なところで顕在化しています。多くの企業で、社会課題と経営課題及び現場課題が共通認識となり対応を先送りできない状況になっています」

企業が向き合うべき社会課題は、高齢化対応だけではない。自然災害、資源価格の高騰、地政学的リスクの増大、関税など世界経済の不透明さ――過去の成功体験が生かせないこうした不確実な事業環境に企業はどう対応すべきなのか。抜本的な事業戦略の見直しが求められている。

日立自身もまた、高い技術力を持ちながら変革の波に乗り遅れた経験を持つ。同社は、その苦しい経験を糧に変革の思想を確立し、「新たな成長フェーズへとかじを切ろうとしています」と福島氏は話す。

日立の答え――自らの「危機」から生まれた変革の思想

福島氏の経歴は、くしくもそんな日立の変革の歴史と重なる。

同氏は1995年、日立のデジタル家電の研究所に研究者として入社した。当時の日立はCDやDVDプレーヤーといったデジタル家電や携帯電話、モバイル端末など多様な領域で製品を研究・開発しており、世界市場で大きなシェアを持っていた。福島氏はそれらの製品の研究開発に従事していたという。

他社と協業することも多かったが、「顧客やパートナーと新たな価値を生み出す『協創』ではなかった」と福島氏。当時のデジタル家電製品の多くは基本的に共通の規格に従いスタンドアロンで動作するものとして設計されていた。そのため、異なるメーカーの機器でも同じメディアが再生できるといった互換性の担保が重要になる。こうした背景から、協業のテーマは国内外の同業他社との標準化協議が中心だった。技術を先行開発してそれを標準化し、ライセンスビジネスを展開して、製品を大量に販売することで大きな利益を得る。これが、当時のデジタル家電製品における勝利の方程式だった。

しかし、2000年代に入ってインターネットが急速に発展すると、この状況は一変した。ハードウェアやメディア中心のビジネスから、ネットワークを介してサービスやソフトウェアで価値を提供するビジネスへと市場の重心がシフトし始めたためだ。日立はその他の業種でもさまざまな市場変化による業績の低迷に苦しみ、2008年のリーマンショックが決定的な打撃を与えた。2009年3月期決算の連結最終利益はマイナス7873億円となり、バブル崩壊時を上回る巨額赤字を計上。経営危機に陥った。

「日立は世界をリードしている技術を数多く有しているのに、なぜ赤字になるのか?」。研究者として長年キャリアを積んできた福島氏にとって、赤字の要因となったビジネス構造は未知の領域だった。「いくら良いものを作っても、ビジネスが分からないと市場で勝てない」。福島氏は、自ら志願して新事業を推進する事業部門に異動した。

「協創」が示した、変革への道筋

日立が、そして福島氏自身が変革の道を事業部門で模索する中、大きな転機が訪れる。顧客との対話を通じて業務改善する「デザインシンキングを活用した協創活動」との出会いだ。

「日立がデザインシンキングを活用した協創活動に目を付けた理由は、ある業種部門の大きな赤字が関係していました。その部門では顧客の業務改善要望に合わせたシステムを提供していましたが、最終的に稼働する段階でお客さまから『要望と違う』というクレームが多く発生してしまっていたのです。その対応のための作業が、大きな損失を生んでいました。これを改めるためには、プロジェクトの上流工程からお客さまと徹底的に議論する協創活動が必要で、その協創での大事なキーワードがデザインシンキングでした」

デザインシンキングを活用した協創活動により、業務改善に対して一定の成果を出せるようになってきたと、福島氏は当時を振り返る。次の一歩として、2014年からデザインシンキングを用いた協創によって新しい価値とサービスを提供する推進チームが発足。その推進チームのリーダーとして、福島氏は奔走した。

しかし、広く知られていない概念や実績のない取り組みを顧客に理解してもらうのは難しく、プロジェクト化できずにいた。「1年で芽が出なかったらチームは解散」――そんな覚悟をチームメンバーに話していたとき、「柏の葉スマートシティプロジェクト」を推進する三井不動産と縁を持った。

三井不動産グループが手掛ける「柏の葉スマートシティ」は、ハードとソフトの両面から最先端クラスの知と技術を結集した街づくりを推進しており、未来に向けた新たな価値とライフスタイルを生み出していく壮大なプロジェクトだ。2017年にはエリア内で最高層となる分譲マンション、2018年には賃貸住宅の竣工を予定していた。三井不動産として良質の賃貸住宅を提供することで、これからの街づくりや世界に向けた社会的な課題解決につなげていきたいと考えていたという。

三井不動産の推進リーダーは、当初は自社メンバーだけでサービスを検討していた。しかし、なかなか良いアイデアが浮かばない。行き詰まりを感じていた中、協創活動を推進する日立のチームをパートナーに迎える決断をしたのが事の始まりだった。

この取り組みに、福島氏のチームは全力投球する。分譲住宅や商業施設、オフィス、ホテルなどが集まる中核街区「ゲートスクエア」内のオフィスで、3カ月間で10回以上のワークショップ(全員参加型の討論)を実施。「将来、賃貸住宅に入るお客さまに提供したい」「これからの柏の葉の街づくりにぜひ必要」と思われる数多くのサービスのアイデアを抽出した。

三井不動産の推進リーダーからも「全員が意見を出し切ったという満足感、達成感がありました。各自が思い、感じていたことがしっかり一つにまとまった――これが何よりも大きな成果です」と高い評価を得た。協創によって、新しい価値とサービスを提供できることを証明した福島氏のチームは存続が決定。評判を聞き付けた多数の企業からの依頼が急増した。

福島氏らが成功させた、デザインシンキングを用いた協創のアプローチは、経営危機からの再建を試みる日立全体が模索していた「顧客と共に日立が総合力で価値を創造する」という新しい事業の在り方と合致するものだった。しかし、これを全社で実践するには従来の事業部間の壁を取り払う必要がある。そのためのキーワードとして掲げられたのが日立の総合力を結集する思想「One Hitachi」であり、その思想を全社で実行に移すためITとOT(制御、運用技術)、プロダクトの知見をデータで融合し、価値提供手段として2016年に社内外へ打ち出されたのが「Lumada」だった。Lumadaは、部門を横断して顧客の課題発見から開発、運用まで一貫して責任を持つ、日立の総力を結実させた事業モデルでもある。

Lumadaを成長の舞台に、真のOneHitachiへ

社会課題が経営課題と現場課題に直結する時代、新事業の開発において日立が企業に提供できる価値は、前述の通りIT、OT、プロダクトまで含めた全領域でサービス提供ができる総合力にある。福島氏は、顧客との対話の段階からこの総合力を生かし切ることが必要不可欠だと語る。

「いわゆる上流コンサルティングだけの組織とは異なり、当社の協創のプロセスでは協創を推進するさまざまなプロフェッショナル人財の他に、複数の業種の営業や現場のエンジニア等もお客さまとの打ち合わせに同席し、課題や思いを共有します。対話する前にソリューションのカタログを一方的に提示するようなことはしません。あくまで、まずはお客さまの声を予断なく聴くことを重視しています。当社の総合力を結集した専門的な視点から議論することで、より課題と解決策を明確にする。この過程が変革には最も大事だと考えています」

2016年のLumada登場当時は、DXに取り組む企業は現在ほど多くなかった。しかし、時代の要請とともにその価値が広く認知され始めたことで、Lumada事業は急拡大。2027年3月期をめどとする中期経営計画「Inspire 2027」では、Lumada事業の売上高比率は日立全体の50%、収益性を示す調整済EBITDA率18%を目標に掲げている。さらにその先の長期目標は、同売上高比率80%、調整済EBITDA率20%をめざすという。

これを成し遂げるためには、社内の構造変革と意識改革をさらに進めなければならない。福島氏は、「当社がOne Hitachiを掲げていること自体、まだまだ真の意味でグループ一体になり切れておらず、ポテンシャルがあることの表れ」だと語る。

長年個別の技術、製品やソリューションを磨き込むことに集中してきた社員の意識を変え、連携と協創重視という文化を醸成するのは容易ではない。だが、日立はそれを成し遂げようとしている。長期目標のLumada売上高比率80%は、その覚悟といっていい。

「個々の社員が蓄積してきたスキルやノウハウを共有し、連携のアイデアをデータ化し、Lumadaに蓄積していくことが、新たな価値を生み出す源泉になります。Lumadaから生まれた成果を計測し、その源流に当たる人財へのインセンティブ制度がより強化されれば、さらなるOne Hitachiへのモチベーションにつながるかもしれません」

Lumada事業への期待の高まりを受け、部門の壁を越えて顧客と深く対話するための物理的な「場」となるLIHTは、2021年4月に開設した。東京・丸の内という好立地にあるLIHTには社内外から多くの人が来場しており、日立のデザインシンキングの専門家やデータサイエンティスト、ビジネスコンサルタント、デジタルエンジニアも常駐。顧客と協創による対話を重ねながら、日々多くの課題解決や価値創出を推進しているという。

個々の製品の強さや技術の先進性を持ちながら、市場の変化への対応が遅れて業績不振に陥った日立。その復活の歴史は、創設者の思いと自社の強みに立ち返り、デジタルで連携することでその強みを倍加する形で実現しつつある。多くの企業が直面する課題を先取りして克服し、新たな成長フェーズに入った日立に注目が集まるのは、そのような背景があるからだ。

日立復活のシンボルであり、成長の舞台であるLumadaは社内外に認知され、同時にプロジェクトのテーマも企業の課題解決から事業成長の価値創成へと進化している。インタビュー後編では、日立のさらなる発展に欠かせない企業であるGlobalLogicの強みなどを中心に、Lumadaの次なるステップと、そのグローバル展開の最前線に迫る。

「Lumadaを世界へ導く“ミッシングピース” GlobalLogicと共に描く日立の成長戦略」はこちら>

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