*¹ ATOS:Autonomous Decentralized Transport Operation Control System
JR東日本×日立:【第3回】めざすのは、人と一緒に事象を解析するAIエージェント>
障害復旧を越えて活用範囲を拡大
——今回の共同検証において、JR東日本と日立がめざすビジョンを聞かせてください。
小澤 護(おざわ まもる)氏
東日本旅客鉄道株式会社
鉄道事業本部 モビリティサービス部門 次世代輸送システムサービスセンター(ATOS) マネージャー
小澤氏
JR東日本と日立は、今回の取り組みがめざすビジョンとして短期的なもの、中長期的なもの、さらに超長期的なものを共有しています。
まず短期的なビジョンは言うまでもなく、ATOSの運用管理において懸案事項だった保守コストの削減、熟練者のノウハウの継承、そして障害復旧の迅速化といった課題を着実に克服し、首都圏のお客さまにより安定的な輸送サービスを、より効率的に提供することです。
そして中長期的なビジョンとして、当初検証はATOSの障害復旧支援という領域でAIエージェントの活用を開始しますが、そこで獲得した知見をもとに、ATOSのシステム開発から運用までライフサイクル全体に活用領域を拡張する構想を持っています。
鈴木 久志(すずき ひさし)氏
東日本旅客鉄道株式会社
首都圏本部 鉄道事業部 電気ユニット(システム/システム管理)
鈴木氏
将来的な構想のひとつが、ATOSにおける自律的な監視エージェントです。ATOSに関するアラート情報やシステムログをAIエージェントが常時分析します。そして障害の発生を捉えたら、障害の内容や推奨対策を指令員にプッシュ型で知らせることで、トラブルの早期復旧に役立てたいと考えています。
また、ATOSの要件定義や設計への適用も検討しています。保守に関する情報を子細に学習したAIエージェントは、設計段階での保守効率の追求を支援し、障害復旧のさらなる迅速化に寄与するでしょう。そして今後生成AIの学習が進展するのに伴い、最終的にはATOSのあらゆる業務を支援するパートナーAIに成長させたいと考えています。
OT向け生成AIの実現へ
森 太郎(もり たろう)
株式会社 日立製作所
鉄道ビジネスユニット 国内営業統括本部 JR部 部長代理
森
超長期的なビジョンとしてJR東日本と日立で協議しているのが、今回開発する生成AIを、鉄道という領域を超えて、ミッションクリティカルな設備制御を必要とするさまざまな分野で汎用的に活用できる、OT(運用制御技術)に特化した生成AIへと発展させることです。
この生成AIは今後ATOS関連の情報だけではなく、JR東日本が持つ複雑な鉄道設備を安定的に運用するための知見、日立が持つ社会インフラ設備を高信頼に制御するための知見を学習していく予定です。こうした両社の知的資産を学んだ「OT向け生成AI」を、電力やガスなどの社会インフラ分野、工場やプラントといった産業分野など、広く社会に提供し、暮らしを支えるさまざまな設備の安定稼働をサポートしていきたいと考えています。
田村 尚隆(たむら ひさたか)
株式会社 日立製作所
AI & ソフトウェアサービスビジネスユニット AI CoE Generative AIセンタ ワンストップサポートサービス 主任技師
田村
JR東日本がATOSの運用管理において抱えていた問題——例えば「深夜や休暇中に呼び出される」、あるいは「熟練者のノウハウの継承が困難」といったものは、OT分野のフロントラインワーカー(工場の作業員や保守担当者、社会インフラ設備の運用管理者など)に共通の悩みです。
しかも今後20年間で、建設後50年以上が経過する社会インフラ施設の割合は加速度的に高くなる見込みであり、そうすると保守担当者の作業負荷は今以上に高まることが予想されます。今回、JR東日本と日立は、いち早くOT分野への生成AIの適用に取り組みますが、ここで得た知見を、「OT向け生成AI」に結実させます。そして幅広くフロントラインワーカーの生産性向上を支援し、労働人口の減少による人手不足という社会課題の解決に貢献したいと考えています。
——JR東日本と日立の知的資産を取り込んだ生成AIを社会に提供するというのは、画期的な取り組みですね。
森
おそらく前例がない挑戦だけに、さまざまな課題が浮上することが予想されます。例えばそのひとつが生成AIに学習させる情報の権利の問題ですが、実はもうすでに議論を開始しています。現在、JR東日本に権利がある情報、日立に権利がある情報、共通の権利の情報、など大枠の整理は完了し、これによって「OT向け生成AI」の実現性がさらにひとつ高まりました。まだまだ懸案事項はありますが、両社がWin-Winとなれるよう実現まで一緒に走り切りたいと考えています。
次世代ATOSに向けて
——今回の生成AIの適用は、今後のATOSの進化にどのようにつながるのでしょうか。
渡辺 和昭(わたなべ かずあき)氏
東日本旅客鉄道株式会社
電気システムインテグレーションオフィス プロジェクト推進部 輸送システムユニット 輸送システム変革グループリーダー マネージャー
渡辺氏
現在、社会の変化は加速度的に進んでおり、10年後には、ATOSの運用管理において今はまだ想定しきれない新たな課題が現れている可能性が高いと考えています。そうした中で、これまで困難だったATOSと生成AIとの連携が、今回初めて実現されようとしています。これは、将来出現するであろう予期せぬ課題にも柔軟に対応できる次世代ATOSへの進化に向けた、重要な第一歩になると強く期待しています。
小澤氏
日立の支援のもとで開発された現在のATOSは、きわめて信頼性が高く、安定稼働を続けています。その一方で、システムとしての柔軟性には限界がありました。現在のような変化の時代においては、制御システムにも柔軟性が求められ、それによってこそ持続可能な信頼性を実現できると考えています。
例えば、他システムとのスムーズな連携や、構成変更への即応性を備えたATOSの未来像を、JR東日本では構想しています。そのビジョンを形にするうえで、異なるシステム間の情報の橋渡しを担う重要な存在となるのが、今回の生成AIです。
田村
おっしゃる通りだと思います。生成AIの進化もまた、加速度的です。生成AIが装置の制御まで行う「フィジカルAI」の実用化も進んでいます。今回の検証では、AIエージェントの役割は障害を認識し、推奨対策を提示するまでですが、将来的にはATOSのAIエージェントが障害のある装置に自動で再起動をかける——そんな未来も、すでに視野に入ってきていると言えるでしょう。
森
その際には、安心・安全の確保を最優先とした慎重な配慮が欠かせません。ATOSのように、一切のミスが許されないミッションクリティカルなシステムでは、生成AIをはじめとする先進技術の導入にあたって、その影響範囲を十分に見定めた上で段階的に進めていく必要があります。日立としても、こうした構想の実現に向けて、安全性と信頼性を担保しながら、丁寧かつ慎重に取り組んでまいります。
小澤氏
JR東日本と日立には、四半世紀以上にわたってともにATOSに関わってきた両社のパートナーシップがあります。これを土台として、これからの共同検証を、従来の制御システムの殻を打ち破るような次世代ATOSの実現につなげていきたいと考えています。
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