Hitachi
お問い合わせお問い合わせ
事業活動と環境負荷軽減の両立をめざす大みかグリーンネットワークが追求するのは、カーボンニュートラルに向けた「脱炭素化」だけにとどまりません。森林や土壌、水、大気といった自然資本へのインパクトを最小化し、「自然共生社会」を実現することもまた、そのめざす目標のひとつです。今回は、この自然共生に向けて大みか事業所で実施した工場排水処理に関する取り組みを紹介します。

第5回 「電力系統解析サービス」はこちら>>
第6回 「分散電源協調運用サービス」はこちら>>
第7回 「次世代EV充電器規格『CHAdeMO3』実証サイト構築」はこちら>>

自然共生社会の実現に向けた自然資本へのインパクト最小化

画像: 大みかグリーンネットワーク
第8回:環境事故を未然に防ぎ、現場課題を解決するIT×OT×プロダクトのソリューション(排水処理設備における運用高度化)

株式会社 日立製作所
制御プラットフォーム統括本部
サービス・制御プラットフォームシステム本部
GX事業推進部
主任技師
加賀屋 俊一

これまで大みかグリーンネットワークでは、脱炭素社会の実現に向けてさまざまな実証に取り組んできました。一方で、日立がその環境ビジョンと環境長期目標「日立環境イノベーション2050」に、「脱炭素社会」と共にめざす姿として掲げた「高度循環社会」や「自然共生社会」の実現に向けたいくつかの実証も推進しています。

このうち、自然の恵みを将来にわたって享受できる自然共生社会の実現には、多様な生物を育む森林や土壌、水、大気といった自然資本に対するインパクトの最小化が必要です。日立では、自然資本へのインパクトを化学物質の排出や廃棄物の発生といった「負のインパクト」と、生態系の保全に貢献する製品・サービスの提供や生物多様性の保護活動といった「正のインパクト」に分類。それぞれを数値化したうえで、2050年までに負のインパクトの差を最小化するための取り組みを推進しています。

環境事故防止と業務効率化などを見据えた4件の実証

自然資本に負のインパクトを及ぼす事象はさまざまですが、工場排水の流出・漏えいなどによる水質・土壌汚染もその1つです。こうした環境事故は、自然環境に悪影響を与えるだけでなく、企業価値や社会的信用を毀損する経営上の大きなリスクとなります。そしてもちろん、大みか事業所もこのリスクと無縁ではありません。

大みか事業所内の製造現場には板金の加工・塗装工程のラインがあり、通常、塗装に使用した水は適切な排水処理を施して下水道に流されます。その排水処理品質の維持・向上による環境事故の防止、さらに、現場の業務効率化や排水処理設備の安定稼働などをテーマに、大みかグリーンネットワークでは今回、以下の4件の実証に取り組みました。

  1. 在宅勤務からの監視を可能とする排水処理の現場に設置したカメラの映像をクラウド経由で遠隔監視する「処理状況把握」
  2. 現場への巡回を低減するカメラ映像と設備データを1つのダッシュボード画面で可視化する「監視作業効率化」
  3. 撮像データとAI推論技術を活用して排水状態の異常を検知する「画像判定による異常検知」
  4. マイクやカメラで収集した音響データやメーター値を確認・分析する「設備故障予兆検知」

AIの推論技術を駆使して排水状態の異常を画像判定

今回の実証のなかで特に力を入れたのが、熟練技術者の経験則に基づく目視による従来の確認作業を、AIの推論技術で代替する「画像判定による異常検知」です。処理工程では排水に薬剤を投入して汚れを凝集させたフロックをつくり、沈殿させて除去しますが、フロックは一定以上の大きさにしないと沈殿しません。そこで今回の実証では、フロックの大きさが適切かどうか、沈めるべきフロックが浮遊していないか、排水の色に異常がないか、といった確認項目をAIによる機械学習で排水監視画像をもとに判定できるようにしました。

「大みか事業所と同様、一般にこの工程に使う凝集槽と沈殿池は屋外にあり、時間帯や天候の変化などで光量も一定でないため、撮影した画像の分析精度を高めるのに苦心しました」と語るのは実証の責任者を務めた加賀屋 俊一です。この実証では、排水処理という工程の特性上、環境条件が不安定な屋外でも正確に機能するように撮像環境を調整したり、AI推論における画像の前処理を工夫したりするなど試行を重ねた結果、排水状態判定・異常検知に成功。異常発生時には、フロックの除去や薬剤の追加投入といった対応を現場管理者に促す緊急通知をパトライトなどで発報できるようになりました。

画像: 大みか事業所における排水処理設備における運用高度化

大みか事業所における排水処理設備における運用高度化

プロダクトとOTとITを組み合わせた課題解決

今回の4件の実証では、メーターを読み取るカメラセンサーや異音を検知するマイクセンサー、AIに推論を実行させる処理現場の制御エッジコンピュータなどのプロダクト、そして、排水処理設備を制御するOT、さらに、データ分析などを担うITを組み合わせることで、現場のさまざまな課題解決を図りました。このようなケースでは時に、現場を担うOTの領域とデータを取り扱うITの領域との意思疎通や相互理解が課題になることも少なくありません。

この点について加賀屋は、「今回も例えば排水の画像をAIで判定する際に、IT側が機械学習モデルについて説明しても、OT側にはうまく伝わっていないような状況もありましたが、その両者の間に入って時間をかけて実証を進めていくなかで、お互いの理解を促し、双方の認識のギャップを埋めるためのノウハウを得られたと思います」と説明。リモート監視や画像判定などによる異常発生時の初動対応の迅速化、業務標準化といった定性的な観点、そして、故障の予兆検知などによる排水設備の稼働率向上や業務効率向上、監視者の負担軽減といった定量的な観点の両面における多くの成果とともに、OTとITを連携させるノウハウや知見の獲得もまた、実証の大きな収穫となったようです。

連携と協調による製造現場のトータルソリューションへ

現在、今回の実証の成果をもとに、例えば「排水処理設備の実態に応じてその前工程の生産計画自体を調整する」といった発展的なソリューションの検討も進んでいます。「Google社のAIソリューションをベースに、クラウドとエッジコンピュータによる画像判定を組み合わせて、他の拠点も含めた生産設備や排水処理設備の制御や自動化といったユースケースへの適用も検討中です」と加賀屋。生産という主業の省力化や業務効率化と、後工程における環境負荷低減の仕組みを連携・協調させるこの試みは、これまで企業業績に直結しない環境投資に消極的だった中小企業などからも注目を集めそうです。

今回紹介した排水処理など水質関連以外にも、大みか事業所では煤煙(ばいえん)による大気汚染や生産設備の騒音なども対象に、法定資格取得者による徹底した環境管理を実践。環境法令上の規制基準よりも厳しい自主基準を設定・順守しながら、環境負荷の低減や環境事故の防止に努めています。そして、こうした取り組みを通じてめざす自然共生社会と共に、脱炭素社会や高度循環社会の実現に向けて、大みかグリーンネットワークはこれからも多岐にわたる実証に果敢に取り組んでいきます。

第9回 「可動式蓄電池『バッテリキューブ』」はこちら>>

関連記事

他社登録商標
本記事に記載の会社名、商品名、製品名は、それぞれの会社の商標または登録商標です。

お問い合わせ先

株式会社 日立製作所 制御プラットフォーム統括本部

お問い合わせは、こちらから

This article is a sponsored article by
''.