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本格的なEV普及に向けて開発が進む超高出力充電規格
株式会社 日立インダストリアルプロダクツ
電機システム事業部
主管技師長
宮田 博昭
脱炭素社会の実現に向けて軽自動車や普通乗用車などの電動化が進むなか、トラックやバスといった商用車の電動化は自家用車に比べて遅れているのが実情です。一般に、商用車は乗用車より大型で重く、長時間、昼夜を問わず長い距離を走行するため、現在その大多数が化石燃料で走る商用車の電動化は、CO2削減に向けた大きなインパクトとなります。
一方で、大型で長時間走行を担う商用車の電動化にあたっては、より大容量のバッテリーが必要ですが、「走ることが仕事」である商用車において、充電のための停車時間を長くさせないことは大きな課題です。そのため、商用車も含めたEVの本格普及には、大容量バッテリーも短時間で充電できる技術の開発やインフラの整備が欠かせません。
こうしたなか、日本と中国で統一された次世代EV充電器規格「CHAdeMO3(ChaoJi2)」が、2021年に発行されました。CHAdeMO3は最大充電電流600A、350~900kWの超高出力充電にも対応するなど、今後普及が期待される商用EVなどのバッテリー大容量化や、急速充電インフラの整備に不可欠な特長を備えています。
国内唯一(※1)の次世代EV充電器規格実証拠点を構築
大みかグリーンネットワークでは、一般社団法人CHAdeMO協議会との連携のもと、このCHAdeMO3に準拠した高速充電器を使用して実地でEVへの高速充電を検証できる、高出力充電の実証設備の構築を開始しました。2023年7月に完成予定のこの実証設備は、トラックなど大型商用EVにも対応。国内外のEVメーカーに開放され、各社が開発中のCHAdeMO3に準拠したEVを実際に問題なく急速充電できるかといった検証に取り組んでいく計画です。また、この実証設備の構築にあたっては、大みか事業所内の既存電源設備を活用するなど、環境に配慮した合理的な方法を採用しています。
「EV充電というのは、充電器とEVとの間でデータをやりとりしながら手順を踏んで進めていくものです。今回の実証サイトは、新規格のプロトコルに沿って正しく充電できるかをテストできる国内唯一の実証拠点となります」と説明するのは、実証を推進する株式会社 日立インダストリアルプロダクツ(以下、日立インダストリアルプロダクツ)の宮田 博昭です。なお、日立インダストリアルプロダクツは、大容量、マルチポートなどを特長とした「マルチポートEVチャージャー」の開発・製品化を進めており、本実証はその取り組みの一環として実施しています。
※1 2023年4月21日現在。日立インダストリアルプロダクツ調べ
プロダクトを起点にOTやITも取り込みながら広がる構想
本実証で使用される日立インダストリアルプロダクツの高出力マルチポートEVチャージャーは、1台の充電器本体に複数のポート(充電スタンド)が接続された製品で、同時に多数のEVを充電することができます。従来のように単一ポートの充電器を複数台用意するのに比べ、本体を1つに集約することで製造コストを低減できるだけでなく、1台の充電器の内部で複数ポートの出力制御を実現できる点もマルチポート型の長所です。これにより例えば、1台の大型EVトラックを超急速充電したり、複数台の中小型EVを同時に普通・急速充電したりといった切り替えも可能になります。
「EVチャージャーの開発には、出力制御や充電インフラの最適運用といったOTの知見も投入され、その上流にある、利用者や関係設備、電力系統の情報などとの連携による価値創出といった観点からは、当然ITの領域とも連携していくことになります」と宮田。さらに、より俯瞰的な視点に立つと、競争力の高いプロダクトに、発電や変電、送配電といった電力分野のOTと、データ分析やAIなどを駆使するITをつなげることで、例えばエネルギーマネジメントシステムや電力・排出量取引など幅広い領域にソリューションを提供していく展開も、今回の実証の延長線上に見据えています。
「V2X」で広がるさまざまなエネルギー活用の可能性
実証で使われるマルチポートEVチャージャーは、EVへの充電に加え、V2X(※2)にも対応した充電器です。V2Xは自動車(Vehicle)のバッテリーから他への電力供給を意味し、「X」には「G(Grid:電力網)」「B(Building:建物)」などさまざまな対象の頭文字が入ります。「CHAdeMOは、EVの蓄電エネルギーを電力系統の安定化にも活用するといった考えのもとに、V2Xの機能仕様をいち早く制定した充電器規格です」と宮田はその背景を説明します。
今回の充電実証に続き、自動車から電力網に給電するV2Gを活用したエネルギーマネジメントの実証や、勤務先の駐車場で従業員のEVを充電する「ワークプレイスチャージング実証」の計画も現在進行中です。こうしたEVによるエネルギー活用の新たな仕組みづくり、そして事業所での従業員や配送事業者のEV導入を後押しする環境整備など、日立はEVの本格普及に向けた取り組みをさらに加速し、脱炭素社会の実現をめざしていきます。
※2 Vehicle to X
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