第1回 「バリューチェーン全体で推進するカーボンニュートラル」はこちら>>
第2回 「EcoAssist-Enterpriseを活用したカーボンニュートラル見せる化実証」はこちら>>
第3回 「CO2排出量データ収集基盤構築」はこちら>>
サステナブルファイナンスの成長と顕在化した課題
株式会社 日立製作所
研究開発グループ
デジタルサービス研究統括本部
サービスシステムイノベーションセンタ
リーダ主任研究員
親松 昌幸
資金用途を環境課題の解決に限定した「グリーンボンド(環境債)」が登場した2000年代後半以降、「サステナビリティボンド」や「グリーンローン」といった金融商品をそのメニューに加えながら、サステナブルファイナンス市場は先行する欧米を中心に急速に拡大してきました。
一方で近年、その実践面での課題も顕在化しています。例えば、資金を調達する側が債券発行やローン借入にあたって環境改善効果(環境インパクト)に関するレポートを提出しなければならない場合の作業負担が大きいこと。また、貸し手にとって借り手が主張する環境改善効果の妥当性・客観性を判断するのは難しく、それが単に見せかけだけの、いわゆる“グリーンウォッシュ”か否かを判定することも困難です。
こうしたなか、日立はCO2排出量などの環境データを自動収集してブロックチェーン上に記録することで、金融市場の関係者に透明性の高いインパクトレポートを開示・情報共有するためのサステナブルファイナンスプラットフォームの研究開発を推進。その一環として、大みかグリーンネットワークでも「サステナブルリンクローン」(以下、SLL)という金融商品の取引にともなう環境インパクトの第三者検証に主眼を置いた実証を進めています。
第三者評価による環境インパクト検証を効率化
株式株式会社 日立製作所
研究開発グループ
サステナビリティ研究統括本部
プラネタリーバウンダリープロジェクト
主任デザイナー
池ヶ谷 和宏
本実証の対象となったSLLとは、融資する側と借り手側の間であらかじめ設定した野心的な環境目標(以下、SPTs※1)の達成度合いに応じて金利が変動する金融商品です。「ごく端的に言えば、CO2をより減らせれば金利も下がるわけですが、その前提となるCO2排出量などの現状把握やそれに基づくSPTsの設定をはじめ、第三者検証時の対応は、多くの企業にとって決して容易ではありません」と本実証に携わる親松 昌幸は、SLLの実務面の課題を説明します。
今回の実証では、本連載で以前紹介したEcoAssist-Enterpriseで取得する環境データを改ざんに強いブロックチェーン上に記録。環境インパクトの透明性を担保するこれらのデータをもとに借り手側のSPTs設定を支援し、貸し手である金融機関や外部レビュー機関とスムーズに合意するためのシステムを構築します。例えば、取得データをそのエビデンスと照会でき、データの記録方法などに応じてデータの信頼度を自動的に算出・付与。外部レビュー機関は信頼度に応じて効率的に監査を行い、金融機関は透明性の高い環境インパクトとSPTsをもとに金利を設定できるようになるのです。
実証を担当する池ヶ谷 和宏は、「借り手がExcel上のデータをWord形式でまとめ直したりしている作業を自動化して省力化・効率化を図り、監査側もどのデータをチェックすべきかという問題や、そのデータの透明性に関する課題を解消できます」とその効果に言及。SLLの融資業務に要する各当事者の労力やコストを軽減できると言います。
※1 Sustainability Performance Targets
オールステークホルダーが集うワークショップを開催
今回の実証では大みか事業所の枠を越えて、地域の金融機関や外部レビュー機関、さらに日立市の中小企業を交えた日立主催のワークショップも開催しています。SLLに関する金融機関側の課題やその解決策などについて話し合いを進めながら、借り手である企業側にもSLLの仕組みやメリットなどについて分かりやすく紹介しました。
2022年12月に開催された1回目のワークショップに参加した池ヶ谷は、「一連の流れを可視化して当事者間の共通理解を深めていくなかで、サステナブルファイナンスに関してほとんど知識のなかった地元企業さまもこれだったら自分たちにもできるかもしれないと感じていただけたようでした」と対面交流の確かな手応えを振り返ります。
また、2023年3月には2回目のワークショップを開催し、第三者検証機能のブラッシュアップのほか、ロールプレイング形式のデモ体験など地元企業や金融機関とのより濃密な対話の機会を設けました。さらにワークショップの終盤では、業務の効率化や環境データの信頼性・透明性向上といった観点からシステムの定量的・定性的な価値検証も進めていきます。
ITとOTの蓄積で経済価値と環境価値の両立へ
かつては疎遠だった「金融」と「環境」の橋渡しをするサステナブルファイナンスのさらなる普及と発展を促す本実証は、大みかグリーンネットワークが追求する「経済価値と環境価値の両立」を象徴する1つの試みです。
「企業にとってお金はもちろん大切ですから、ブロックチェーンなど先進的なデジタル技術で事業成長と企業の脱炭素を両立できる仕組みづくりをサポートするのは、金融分野でも環境・エネルギー分野でも、ITとOTに関する膨大な知見を蓄積してきた日立だからできる仕事ではないでしょうか」と親松。地域に根ざしたステークホルダーと手を携えながら、一歩踏み込んだより実践的なアプローチで進める今回の実証を支えるのは、日立が長年培ってきた強みや持ち味と言えそうです。大みかグリーンネットワークによるこの実証で得られた手法やノウハウのサービス化なども視野に、これからも日立は事業成長と脱炭素が並走する「経済価値と環境価値の両立」を追求していきます。
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