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データ処理の飛躍的な高速化を実現する技術「非順序型実行原理に基づく超高速データベースエンジン(以下、OoODE:ウード)」を用いて社会課題の解決に挑む、日立製作所(以下、日立)と東京大学生産技術研究所のプロジェクト「ビッグデータ価値協創プラットフォーム工学 社会連携研究部門」。今回は、2023年1月27日に開催された第1回シンポジウムにおけるセッション「データ基盤技術:研究開発の最前線」から、東京大学生産技術研究所 合田和生准教授と日立サイドで現場をリードする主管技師長 原憲宏が説明した、本プロジェクトの成果の活用が期待されるケースを紹介します。
※ 所属、役職は2023年1月時点のものです。

『第1回「Lumada東大生研ビッグデータラボ」は“失敗できる実験場”』はこちら>

ケース① 全製造工程における全品検査の飛躍的スピード向上を

はじめに合田准教授が紹介したのは、食品の製造工程で収集されるIoTデータの分析にOoODEを活用して品質管理を行う事例です。製菓工場が抱える課題として、出来上がった製品の製造履歴をすべてさかのぼり、問題がなかったかをチェックするのには膨大な時間を要するため、全品検査を実施できず、抜き取り検査しかできないという事情があります。

画像1: ケース① 全製造工程における全品検査の飛躍的スピード向上を

合田准教授らが製造工程の記述に適用したのは、4Mモデルというフレームワークです。huMan(人)、Machine(機械)、Method(方法)、Material(材料)の4つのMの関係を用いることで製造ラインを適切に動かし、出来上がった製品の品質を管理するというものです。

例えば、ある工程において、huMan#101という作業員が、Machine#201という機械を使い、Method#301という方法で作業している。そこにMaterial#401とMaterial#402という2つの原材料が届く――こういった形で工場全体の生産フローを記述します。

画像: 東京大学 合田和生准教授

東京大学 合田和生准教授

合田准教授によると、ある条件のもとで製品の全品検査を行うシミュレーションを行った結果、データベースの実行方式を工夫することにより10~100秒程度で完了できることが確認できています。また、工場の規模が大きくなるほどこの効果は大きくなり、グラフに示すように例えば従来のデータ処理方式で約10万秒かかっていた製品検査を14.6秒に短縮でき、短時間での全品検査が可能になるとのことです。

画像2: ケース① 全製造工程における全品検査の飛躍的スピード向上を

合田准教授は、「こういう業務レベルでの検証に我々はチャレンジしています。工場IoTで典型的な分析処理に適用できるベンチマークソフトウェアを開発し学会発表も行っているので、今回取り上げた製菓工場に限らず多様な製造工程におけるデータ分析性能をシミュレーションすることが可能です」と、本ケースの紹介を締めくくりました。

ケース② 蓄積したビッグデータから新たな価値を見いだす

次のケースは、すでに蓄積されているデータを新たな観点で活用することで新しい価値を見いだす事例として日立の主管技師長 原憲宏が紹介した、ヘルスケアデータ分析の事例です。

画像: 日立 原憲宏

日立 原憲宏

病院で保険診療を受けると、病院はレセプト(診療報酬明細)を作成し、保険組合などの保険者に提出します。レセプトに基づいて、保険者から病院に診療報酬が支払われます。このレセプトデータには歯科、調剤も含めたすべての医療行為の実績が蓄積されています。「これを分析することで、医療費の上昇を抑える、社会保障制度を維持するといった医療施策の策定に役立てることが期待できます」と原は語ります。

しかし、レセプトデータの目的はあくまでも診療報酬請求であるため、さまざまな分析を行うのに必ずしも適したフォーマットではありません。格納時の形式が自治体ごとに異なる可能性があるため、膨大なデータが蓄積されているにもかかわらず、医療施策策定の参考となる分析を自由自在に行うのは難しく、十分に活用できていないのが実状です。

「国や地方自治体が保有する膨大なレセプトデータに、日立と東大が培ってきたデータ分析手法とOoODEによる高速データ処理を活用することで、この課題を克服できます」と原は期待を語りました。

このケースのように、ビジネスを遂行する上で大量に蓄積されるデータを別の視点で分析し、新たな価値を創造することが、今後さまざまな分野で大いに期待されます。

画像: ケース② 蓄積したビッグデータから新たな価値を見いだす

ケース③ AIの試行錯誤を効率的に回し、スピーディーに精度を高める

次に、試行錯誤の効率化による社会課題解決のケースとして、金融機関における不正検知システムのAIモデル生成の事例を原が紹介しました。

画像1: ケース③ AIの試行錯誤を効率的に回し、スピーディーに精度を高める

近年、クレジットカードの不正利用が大きな問題となっており、不正決済だけでも国内で年間数百億円の被害が報告されています。この被害を最小化するために、金融機関ではさまざまなイベントやログデータなどを監視し不正な取引と疑われる取引を検知するAIモデルをベースにした不正検知システムを活用しています。AIモデルの生成には、過去の不正利用の特徴量――例えば「ある口座に対するアクセス数の変化」といった変数を、蓄積したビッグデータから抽出してモデル化し、不正の検知に有効かどうかを見極めていくという試行錯誤が欠かせません。この試行錯誤の回数こそが、AIモデルの質を左右します。

ある金融機関では、1年分のデータから特徴量を抽出するだけで約6時間もかかってしまうため、3カ月に一度しかAIモデルを更新できていません。「そこで、『新たな不正利用の手口にタイムリーに対応するためには、1カ月に一度はAIモデルを更新したい』というヒアリング結果を基に、OoODEを用いて特徴量の抽出時間を大幅に短縮できないかを検証しました」と原は語ります。

画像2: ケース③ AIの試行錯誤を効率的に回し、スピーディーに精度を高める

「その結果、約6時間かかっていた特徴量の抽出を15分でできることがわかり、AIモデルの生成工数を大幅に短縮できる見通しを得ました」と原は続けます。さらに、データマートなしでさまざまな条件のデータ抽出を高速に行える(※)というOoODEの利点を強調しました。

※ 通常、さまざまな角度から分析する場合、分析条件ごとにデータマートを準備する必要が生じる。

画像3: ケース③ AIの試行錯誤を効率的に回し、スピーディーに精度を高める

原は、さらに「不正決済のあった口座を特定し、OoODEの高速性が発揮できる再帰的検索(トレース)によってその口座から決済元や決済先の口座をたどる処理を高速化することで、影響を受ける可能性が高い口座を速やかに発見し、被害の最小化に貢献できます」と、AIモデルの更新にとどまらないOoODEの有効性を示唆しました。

さまざまな産業における技術課題の解決へ。広がる協創の可能性

画像: さまざまな産業における技術課題の解決へ。広がる協創の可能性

原は、この講演を次のように締めくくりました。

「すばやく試行錯誤を繰り返し短時間で次の業務アクションにつなげることは、あらゆる分野で重要です。ビッグデータ、業務知見、そして革新的なデータ基盤技術。これらを協創の場に集結させることで、社会課題の解決にともに取り組み、幸せな社会の実現に貢献していけたら幸いです」

今回紹介した事例をはじめとするさまざまなケースを、前回ご紹介したLumada東大生研ビッグデータラボを活用して検証することで、新たな価値創造の加速が大いに期待されます。

次回は、シンポジウム後半の講演とパネルディスカッションの内容を報告します。

『第3回 データの確保と人材の育成』はこちら>

画像1: 革新的技術とデータで社会課題を解く。日立と東大の挑戦
【その2】新たな価値創出に向けた、革新的技術活用のケース紹介

合田和生(ごうだ かずお)

東京大学生産技術研究所准教授。博士(情報理工学)。2005年、東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻博士課程単位取得満期退学。日本学術振興会特別研究員、東京大学生産技術研究所産学官連携研究員、同特任助教などを経て現職。大規模データを対象とするシステムソフトウェア(特にデータベースシステム、ストレージシステム)の研究に従事。電子情報通信学会、情報処理学会、日本データベース学会、ACM、IEEE、USENIX各会員。

画像2: 革新的技術とデータで社会課題を解く。日立と東大の挑戦
【その2】新たな価値創出に向けた、革新的技術活用のケース紹介

原憲宏(はら のりひろ)

株式会社日立製作所 サービスプラットフォーム事業本部 デジタルエンジニアリング事業部 主管技師長。1992年、日立製作所に入社。入社当初より自製DBMS(データベース管理システム)の初代バージョンから設計開発に携わり、以来データベースに魅せられ、DBMSの開発およびDBソリューションに従事。2022年より現職。情報処理学会、日本データベース学会会員。JDMC 一般社団法人 日本データマネジメント・コンソーシアム 理事。

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