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「DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~」 第6回は、スクラムによって心理的安全性や幸福度はどう変化するのかを解説していただきます。

「第1回:DXがアジャイルを必要とする理由」はこちら>
「第2回:アジャイルとの出合いから現在まで」はこちら>
「第3回:スクラムの原点は、日本発のひとつの論文」はこちら>
「第4回:アジャイル開発の実際」はこちら>
「第5回:スクラムによる組織改革事例」はこちら>

チームの目的と個人の自律

今回は、組織変革によって心理的安全性や幸福度が変化した事例を紹介します。これもアジャイルや「スクラム」の大変重要なポイントです。ウォーターフォールの従来の仕事のやり方ですと、長い時間と労力をかけて作った「仕様書」が「契約」になりますから、仕様書のとおりにソフトウェアを開発することが正解であり、それが仕事ということになります。紙に向かって仕事をするというか、契約を遂行することが仕事の目的にならざるを得ません。

しかし世の中にインパクトを与えるイノベーションやDX、本当に役に立つ製品やサービスを実現するためには、仕様書や契約を相手に仕事をするのではなく、最終ユーザーと話をしたり、チームで相談し合いながら、正解を探すべきなのです。仕様書を分担して個別にゴールをめざすのは、孤独な緊張の連続になりますし、思わぬミスを見逃すリスクも高まることにつながり、危険でもあります。

「スクラム」では、仕事はマネージャーがアサイン(割り当て)するのではなく、メンバーがサインアップ(自己申請)します。バックログと言われる優先順位のあるタスクを、「これは僕がやります」「ここは私が担当します」と手を上げて、自律的にその仕事と取り組む。得意な仕事にサインアップすることもあれば、自分の成長を考えてやったことのない仕事に、経験者とペアでサインアップする場合もあります。プログラミングも、一人ではなく複数人でやります。そして出来上がったものをチーム全員でデモし、外部からのフィードバックで改善しながら目的達成をめざしていきますから、仕様書や契約に向かってする仕事とは明らかにモチベーションが違います。「やらされる仕事」ではなく「やるべき仕事」「やりたい仕事」として取り組むのです。

そんな思いと、エンジニアがビジネスに直接関われる場所、お客さまと直接会話・提案しながら共に開発ができる場所として、永和システムマネジメント内にAgile Studio(アジャイルスタジオ)を作っています。

画像: チームの目的と個人の自律

お客さまと一緒に、プロジェクトの立ち上げ合宿、計画作りもここで行います。よろしければ見学を受け付けていますので、アジャイルチームの立ち上げ方に悩まれている方は、ぜひオンライン見学にきてください。(※)

※200社が既に訪問に来られています。お申し込みはこちらです。https://preview.studio.site/live/9YWy1jZXWM/tour

画像: Agile Studioでの開発風景

Agile Studioでの開発風景

「スクラム」が作り出す心理的安全性

「スクラム」には、毎日チーム内の情報を共有する「朝会(デイリースクラム)」や、2人以上でコードを書く「モブプログラミング」、チーム全員で一日を振り返る「ふりかえり(レトロスペクティブ)」など、プラクティスとよばれるさまざまなチーム活動の技法が用意されています。それは、すべてチームで目的を達成するためのルールであり、孤立させないための工夫なのです。

自分の意見を気軽に言えることはもちろん、自分の間違いもためらわずに話せるようなチームづくり。定量化できることではありませんが、「スクラム」は人間が能力を発揮するためになくてなはならない「心理的安全性」を高めます。そのために、永和システムマネジメントではモブプログラミング用の大きなモニターとスペースを用意するなど、スクラムを行う環境づくりを行っています。

幸福度という仕事のものさし

少し古い例になりますが、2018年に大手自動車会社が自動運転に特化した新会社を作りました。そこでは、最初から「スクラム」を導入し、社員約360名のほぼ全員が「スクラム」の研修を受け、9割の社員が「スクラム」によるソフトウェア開発を行っていました。

自動車業界は大きな変革の中にあり、ソフトウェアの役割がさらに重要になってきていて、「スクラム」による効果として情報共有が効率的に確実に行えるようになり、ボトルネックになっている課題もチームで解消できるようになった。そしてこの企業の注目すべき成果は、働く人の幸福度が向上したという点です。チームに一体感が生まれ、仕事の透明性が上がる。それによって生産性だけでなく一人ひとりの幸福度が上がるということがわかったそうです。こういう幸福度という新しいものさしで仕事を見る視点は、すごく大きな変化だと思います。なぜなら、イノベーションやDXに必要な人間の創造性は、仕事が楽しくなければ発揮されにくいものだからです。

第2回でも触れましたが、一人のエンジニアとして苦しんでいた時に『エクストリーム・プログラミング(XP)』でアジャイルと出合い、これを日本に広めるために活動をしてきた人間としては、「スクラム」を通じて人間の幸福度を意識する組織が出てきたことは、本当にうれしいしことです。ライフワークとして取り組んできたアジャイルが、単なる開発手法ではなく、人をビジネスのコアとして大切にすることとして日本の人々に受け入れられたことを感じた瞬間です。

「スクラム」とは、会社を機能単位に分割した階層や組織ではなく、どこをとっても会社のビジョンに向かった判断・行動パターンを共有する自己相似形の知識創造活動であり、それを実践する人々である。

これは僕と野中先生が議論して作った、スクラムチームの定義です。ビジョンの実現というゴールを、チームで、あるいはチームの集合体で一体となってめざします。それは、仕事という名の知識創造活動なのです。そして、言葉の最後に「人々である」と結んで二人でガッツポーズをしたことを覚えています。

画像: Agile Studio を訪問した NTT PC コミュニケーションズ様とメンバー

Agile Studio を訪問した NTT PC コミュニケーションズ様とメンバー

「第7回:1週間のスプリントを繰り返す「スクラム」」はこちら>

画像1: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第6回】 心理的安全性と幸福度

平鍋 健児(ひらなべ けんじ)

株式会社 永和システムマネジメント 代表取締役社長、株式会社チェンジビジョン 代表取締役CTO、Scrum Inc.Japan 取締役。1989年東京大学工学部卒業後、UMLエディタastah*の開発などを経て、現在は、アジャイル開発の場、Agile Studio にて顧客と共創の環境づくりを実践する経営者。 初代アジャイルジャパン実行委員長、著書『アジャイル開発とスクラム 第2版』(野中郁次郎、及部敬雄と共著) 他に翻訳書多数。

画像2: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第6回】 心理的安全性と幸福度

『アジャイル開発とスクラム 第2版』

著:平鍋健児 野中郁次郎 及部敬雄
発行:翔泳社(2021年)

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