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「DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~」 第4回は、海外でのアジャイル開発の事例、株式会社永和システムマネジメントでの事例やインタビューを通して、アジャイル開発の実際を解説していただきます。

「第1回:DXがアジャイルを必要とする理由」はこちら>
「第2回:アジャイルとの出合いから現在まで」はこちら>
「第3回:スクラムの原点は、日本発のひとつの論文」はこちら>

1週間でiPadアプリを作る

アジャイルで、実際にどうやって新しい製品やサービスを開発していくのか。今は書籍だけでなくYouTubeなどの動画でも見ることができます。例えばNordstrom Innovation Labという企業がシアトルにあるサングラスの販売店で行った実証実験は、とてもわかりやすいものです。実際にソフトウェア開発を担当するデザイナーやエンジニアがサングラス売り場に1週間入り、お客さまと直接対話し、フィードバックをもらいながらお店の新しいサービスを提供するiPadのアプリを作り上げるという実験です。

何をするアプリを作るのか、それさえまったく白紙で実証はスタートします。初日は、お客さまの購入前の行動や購買ステップ、購買プロセスの変化などを付箋に書き出して並べていきます。これはお客さまの行動やプロセスを全員が把握し、共有するためのユーザーストーリーマッピングとよばれるものです。そしてiPadでできそうなことを紙に手書きで描きながら、ペーパープロトタイプを作り、それをお客さまに見せてフィードバックをもらいます。

サングラスをかけた自分の写真を撮る人が多いという情報から、サングラスを装着した自分の顔写真を見て比較できれば便利かもしれないというヒントを得ると、それにフォーカスしたペーパープロトタイプを作り、エンジニアがその機能だけをアプリとして動かせるようにします。

作るべきアプリの方向が見えたら、フィードバックから得た要望を機能として追加していく。たとえば拡大して横並びで比較できる機能、ズーム機能、サムネール機能、全データをワンクリックで削除できる機能などです。1週間後、サングラスをかけた自分の写真を比較検討できる店頭サービス用のiPadアプリが完成します。

画面のデザインを考えるUI(User Interface)デザイナー、使いやすさを考えるUX(User eXperience)デザイナー、それをアプリに変換するエンジニア、お客さまのフィードバックをもらうお店の販売員、そしてお客さま。すべての人がそれぞれの役割を発揮することで、ひとつのサービスアプリを作り上げてしまうのです。

新しいWebサービス『タビトシゴト』の開発

次にご紹介したいのは、KDDIアジャイル開発センター株式会社(以下 KAG)に、僕が代表する株式会社永和システムマネジメントが協力して開発したWebサービスです。2023年2月6日に実証実験がスタートしたばかりの『タビトシゴト』は、簡単に言うとワーケーション検索サービスです。

画像: 新しいWebサービス『タビトシゴト』の開発

このコロナ禍で、エンジニアのリモートワークが普及し、オフィス以外でも仕事ができる環境が整ってきたので、これからはさらに自由度の高いワークスタイルとしてワーケーションを活用する人が増えるでしょう。しかし滞在先で普段と変わらない業務がこなせるか、仕事と休暇のバランスはうまく取れるのかといった不安から、ワーケーションに踏み切れない人も多い。それは施設や環境の情報が十分ではないことが要因かもしれません。

それならワーケーションの検索サイトを実際に作って、どのような情報を揃えておけばユーザーに価値あるものになるのかを実証実験で調査しよう。それが『タビトシゴト』の現段階です。

東京のKAGと福井の永和システムマネジメントがアジャイルで進めてきたこのプロジェクトは、サービス利用時のデータ分析やアンケート調査で生の声を集めます。また、この実証実験中も新しい機能をリリースする予定で、リリースのロードマップをGitHub(※)のPublic repositoryに公開してユーザーからの要望や改善案を集めます。

※ソフトウェア開発のプラットフォームであり、ソースコードをホスティングする。

こういったフィードバックを短期間で機能に反映しながら、サービスの質を上げてユーザーのニーズに合ったものにしていく。サングラス販売店のiPadアプリもこの『タビトシゴト』も、アジャイルならではのやり方です。

画像: 株式会社永和システムマネジメントITサービス事業部 エンジニア 小林洋平氏(左)、南部史緒里氏(右)

株式会社永和システムマネジメントITサービス事業部 エンジニア 小林洋平氏(左)、南部史緒里氏(右)

『タビトシゴト』開発者インタビュー 南部史緒里氏

私は2022年6月にこの会社にエンジニアとして入社しました。それまでは名古屋の会社でシステム開発を行ってきましたが、現在はKAGと協力してワーケーション検索サイトの『タビトシゴト』というWebサービスの開発を担当しています。

前職は、開発だけで約40人のスタッフがいる典型的なウォーターフォールの仕事でした。『タビトシゴト』ではスクラムチームが全部で5人、プロダクトオーナーを含めた3名がKAGで、エンジニア2名が永和システムマネジメント、というメンバーで開発を行っていますので、仕事のやり方はガラッと変わりました。この規模ですとプロダクトオーナーともフラットな関係で意見も伝えやすく、本当にチームで働いていると感じます。

ウォーターフォールからアジャイルに移ったとき、最初の頃は要件が固まっていないのにモノを作りはじめるということをやったことがなかったので、正直不安で戸惑いました。「手戻りしたら、どうしよう」とか、慣れるまではちょっと怖かったのですが、チームの皆さんに助けられながら、徐々にアジャイルというやり方に慣れてきた感じです。先日もKAG が静岡県三島市に拠点を開設したのに合わせて、チーム全員で三島にあるコワーキングスペースやゲストハウスを利用してチームビルディングを兼ねたワーケーションを行いました。エンジニアとしても、ユーザの視点を実際に体験することで、快適なリモートワークに必要な施設情報など、多くのアイデアが湧きました。今はチームで仕事をすることが、すごく楽しいです。

なお、現在KAGには、このようなアジャイル開発を実践しているスクラムチームが40チームほどあり、三島に限らず今後全国にアジャイル開発の拠点を展開するということでした。

「第5回:スクラムによる組織改革事例」はこちら>

画像1: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第4回】 アジャイル開発の実際

平鍋 健児(ひらなべ けんじ)

株式会社 永和システムマネジメント 代表取締役社長、株式会社チェンジビジョン 代表取締役CTO、Scrum Inc.Japan 取締役。1989年東京大学工学部卒業後、UMLエディタastah*の開発などを経て、現在は、アジャイル開発の場、Agile Studio にて顧客と共創の環境づくりを実践する経営者。 初代アジャイルジャパン実行委員長、著書『アジャイル開発とスクラム 第2版』(野中郁次郎、及部敬雄と共著) 他に翻訳書多数。

画像2: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第4回】 アジャイル開発の実際

『アジャイル開発とスクラム 第2版』

著:平鍋健児 野中郁次郎 及部敬雄
発行:翔泳社(2021年)

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