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7月15日、はいたっく主催のオンラインイベント「西山圭太×日立製作所『DXの起こし方』」をリアルタイム配信し、多くの方にご聴講いただきました。そのなかで西山圭太氏の講演に続き配信された、日立のDXのスペシャリストと西山氏による座談会「DXの実際~日立の『顧客起点のDX』を例に~」の様子を4回にわたってお送りします。

「前回:続・DXの思考法(後篇)」はこちら>

「顧客起点のDX」に取り組む日立の3人

志度(モデレーター)
モデレーターを務める志度昌宏(しどまさひろ)と申します。株式会社インプレスが運営するWebメディア「DIGITAL X(デジタルクロス※)」の編集長をしています。よろしくお願いします。

※ デジタル技術を用いたビジネスの課題解決や新しいビジネスの創造、社会サービスの創造をテーマに、さまざまな取り組みやテクノロジーを紹介している。

ここからは西山圭太さんに加え、顧客との協創によるDX推進の最前線に立つ日立製作所の枝松利幸(えだまつとしゆき)さん、相田真季子(あいだまきこ)さん、赤司卓也(あかしたくや)さんを迎え、3つのトピックスについてディスカッションしていただきます。

画像: 左からモデレーターの志度昌宏氏、西山圭太氏、日立製作所の枝松利幸、相田真季子、赤司卓也

左からモデレーターの志度昌宏氏、西山圭太氏、日立製作所の枝松利幸、相田真季子、赤司卓也

枝松(デジタルビジネスプロデューサー)
枝松と申します。デジタルビジネスプロデューサーとして、社会インフラや公共、製造、流通などのお客さまを対象に、業務プロセス改革やDXプロジェクトを取りまとめています。ロジカルシンキングや抽象化をコアスキルに、異なる部署を横断して実施するワークショップのファシリテーションや、業務プロセスを読み解くためのフィールドリサーチなどを行っています。

相田(営業)
相田です。アカウント営業として金融機関、製造業のお客さまを担当したほか、営業企画として情報通信分野のパートナービジネスの営業戦略立案に携わってきました。また、総合商社に出向した際に、ビジネスインキュベーションのしくみの立ち上げも行いました。日立の営業としてもDX推進の当事者としても、お客さまが直面するDXの課題を目の当たりにしてきました。

赤司(デザインストラテジスト)
赤司と申します。プロダクトからまちづくりなどのコンセプトまで有形・無形のものをデザインするデザインストラテジストとして、お客さまの切実な課題や将来ビジョンを起点としたDXを推進しています。コンサルタントやエンジニアやデータサイエンティスト、DXコーディネーターといった多様なスペシャリストと「デザインシンカーチーム」を組み、協創プロジェクトを推進しています。

「問い」を立て直す

志度(モデレーター)
ではディスカッションを始めましょう。DXへの取り組みでよく耳にするのが、どうしても目先の課題にばかりフォーカスしてしまい、大きなビジネス変革に至らないケースです。こうした「『DX=個別最適化』という誤解」に陥りやすい背景や、その解決策について、みなさまのご意見をお聞かせください。枝松さん、いかがでしょうか。

枝松(デジタルビジネスプロデューサー)
あるお客さまのIT部門に、業務部門からこんな要請がありました。「顧客からの問い合わせが多く、対応しきれない。専門のオペレーターをIT部門に増やしてくれないか」。

わたしたちはまずフィールドリサーチを実施し、業務部門の現場で何が起きているのかを調査しました。そこで見えてきたのは、細かいニュアンスを伝えようと電話してこられる顧客が非常に多いという実態です。写真を共有しさえすれば瞬時にわかる情報でさえ、電話でやりとりしようとするシーンが少なからず見られました。

わたしたちが提案したのは、問い合わせ対応のオペレーターを増やさず、顧客が動画や写真を撮って業務部門と共有できるしくみを作るというものです。

ここで重要なのは、「問い」を立てるという作業です。目先の課題を解決したいというオーダーにいきなり応えるのではなく、お客さまの業務をプロセスに分解し、何が起きているのかを把握したうえで解決策を提示する。このようにお客さまの業務を丁寧に整理することが、「DX=個別最適化」という誤解から脱するために必要な作業なのです。

画像: 「問い」を立て直す

「IT化」なのか、「デジタル化」なのか

志度(モデレーター)
相田さんは豊富な営業経験をお持ちですが、DXに対するビジネスの現場の方々の認識はどのようなものでしょうか。

相田(営業)
以前、あるお客さまから「自分たちの業務をデジタル化して、見える化したい」というご相談を受けました。よくよくお話を伺ってみると、このお客さまの目的は、担当している業務の一部のしくみを自動化することでした。つまり、IT化だったのです。

本来、例えば製造業であれば、新しい生産方法の創出や在庫問題の解消といった工場全体の課題に取り組むことこそがデジタル化だと思います。このお客さまはもともと「DXを起こしたい」という強い思いをお持ちでしたが、会社から短期的な成果を求められていたために、自分たちの担当業務だけを改善するという発想に陥っていました。予算も担当業務にしか使えず、他部署と連携しにくいという事情もありました。

また、こんな経験もしました。DXに取り組むなかで作り上げたノウハウを他部門とも共有することを提案したところ、一部で「あの部門とは担当しているビジネスが違うから」という理由から、せっかくのアイデアを部門内で完結してしまう――そんなこともありました。「自分たちの部署だけでなく、会社全体が良くなってほしい」という発想に至っていないと、こういった個別最適化に陥りやすいように感じます。

課題意識の「レイヤー」を引き上げる

志度(モデレーター)
個別最適化に陥りやすいお客さまに対して、赤司さんのデザインシンカーチームはどんな解決策を提案できるのでしょうか。

赤司(デザインストラテジスト)
以前、製造業のお客さまから「商談の訴求力を高めるため、タブレットを導入したい」というご相談をいただきました。実際に営業の現場を拝見すると、タブレットを導入しただけで状況を根本的に改善できるわけではなく、商談に対する営業の方々のマインドセットがボトルネックなのだとわかりました。

逆に「脱炭素社会を実現したい」のような大きいテーマですと、課題自体が複雑です。自然エネルギーを増やすのはいいけれども、その地域の鉄道や工場を止めないためにどうすべきか。相互に関係しあっている課題を整理して共有することから、お客さまとの協創を進めていきます。

枝松(デジタルビジネスプロデューサー)
言い換えると、個別の問題を抽象化して、一段上のレイヤーに引き上げる努力です。先ほど相田が挙げた例で言うと、顧客の課題意識が一部の生産ラインにとどまっているのなら、「では、サプライチェーン全体を見たときにどう考えますか?」と、目線を上げて考えてみることを促します。

「サボる」のすすめ

志度(モデレーター)
目の前の課題を解決していく改善がこれまでの日系企業の強みの1つだったわけですが、西山さんが提言されている「抽象化」「レイヤーで捉え直す」という視点からご覧になって、DXに必要な視点の持ち方についてどうお考えでしょうか。

西山
「サボる」という発想が大事だと思います。役所の方も企業の方も、課題の解決に向け一生懸命頑張ってらっしゃるのですが、そのスタンスは「昨日起きたトラブルがもう一度起きたとしても、しっかり対処できます!」。しかし、同じトラブルは二度と起きません。

画像: 「サボる」のすすめ

DXに必要なのは、「昨日のトラブルとは違うタイプのトラブルも、一気に解決する」という発想です。目の前で起きている具体的な問題の解決に取り組むのではなく、何かしくみを1つ作ることで、ほかの問題も解決できる。それが実現したら、後任の担当者はしばらくラクできるだろう――この発想が大切です。

あるいは、解決手段を自前でゼロから考えようとしなくても、他部署が作ったしくみを使えば解ける場合もあります。そういう意味でも「サボる」「ラクをする」という発想が大切です。日系企業の場合、部署の壁を越えない範囲でDXを起こそうとするきらいがありますが、それは「太ったまま痩せようとする」ようなものです。

志度(モデレーター)
皆さん「サボる」というキーワードに大きくうなずかれていました。まさにコロナ禍以降、特に日本ではIT化も含めてDXと呼ばれてきた風潮があり、混乱も起きていると思います。取り組もうとしていることがIT化なのか、DXなのかの見極めも大事なのだということですね。

「次回:「タテ割り組織」の弊害」はこちら>

画像1: 西山圭太『DXの思考法』~楽しく働くヒントの見つけ方~
【西山圭太×日立製作所「DXの起こし方」】③ 「DX=個別最適化」という誤解

西山圭太(にしやま けいた)

東京大学未来ビジョン研究センター 客員教授
株式会社経営共創基盤 シニア・エグゼクティブ・フェロー
三井住友海上火災保険株式会社 顧問

1985年東京大学法学部卒業後、通商産業省入省。1992年オックスフォード大学哲学・政治学・経済学コース修了。株式会社産業革新機構専務執行役員、東京電力経営財務調査タスクフォース事務局長、経済産業省大臣官房審議官(経済産業政策局担当)、東京電力ホールディングス株式会社取締役、経済産業省商務情報政策局長などを歴任。日本の経済・産業システムの第一線で活躍したのち、2020年夏に退官。著書に『DXの思考法』(文藝春秋)。

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【西山圭太×日立製作所「DXの起こし方」】③ 「DX=個別最適化」という誤解

志度昌宏(しど まさひろ)

株式会社インプレス DIGITAL X(デジタルクロス) 編集長

1985年、慶応義塾大学理工学部を卒業後、日経マグロウヒル社(現・日経BP社)に入社し記者活動をスタート。以来、一貫してビジネス/社会とテクノロジーの関係を取材している。2013年4月、インプレスビジネスメディア(現・インプレス)に入社。2017年10月、AIやセンサーなど先端的ITを駆使して問題解決につなげる事例を伝えるメディア『DIGITAL X』を創刊。新ビジネスや社会サービスの創造に向けたデジタル技術の活用をテーマに情報発信に取り組んでいる。著書に『DXの教養 デジタル時代に求められる実践的知識』(共著、インプレス)。

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【西山圭太×日立製作所「DXの起こし方」】③ 「DX=個別最適化」という誤解

枝松利幸(えだまつ としゆき)

株式会社日立製作所 社会イノベーション事業統括本部
Lumada CoE DX協創推進部 主任技師(ビジネスコンサルタント)

2006年、日立製作所入社。社内SNSの活用やナレッジマネジメントを中心に経営コンサルタントとして活動した後、2012年にExアプローチ推進センター(現・NEXPERIENCE推進部)に加入。ロジカルシンキングとデザインシンキングを組み合わせた手法で顧客協創活動を実践。現在はインダストリーや公共、金融、社会インフラなどの分野において業務プロセス改革や協創プロジェクトを取りまとめている。

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【西山圭太×日立製作所「DXの起こし方」】③ 「DX=個別最適化」という誤解

相田真季子(あいだ まきこ)

株式会社日立製作所 営業統括本部 営業企画統括本部
企画部 部長代理

2002年、日立製作所入社。情報通信部門にて金融機関のアカウント営業を担当したのち、営業企画としてパートナー販売の戦略立案やマーケティングなどに従事。2018年から2年間総合商社に出向し、社内イノベーションのしくみづくりや新規ビジネスインキュベーションを担当。その後、製造業のアカウント営業を経て、現在はコーポレート営業企画部門にて各種施策を推進している。

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【西山圭太×日立製作所「DXの起こし方」】③ 「DX=個別最適化」という誤解

赤司卓也(あかし たくや)

株式会社日立製作所 社会イノベーション事業統括本部
Lumada CoE NEXPERIENCE推進部 主任デザイナー (デザインストラテジスト)

2003年、日立製作所入社。メディカルバイオ計測機器やエレベーターなどの公共機器、家電の先行デザイン開発などプロダクトデザインを担当。2007年以降、金融サービスやWebサービスをはじめとする情報デザイン、サービスデザインなどに従事。2010年、未来洞察から新事業の可能性を探索するビジョンデザイン領域を立ち上げ、ビジョン起点の顧客協創をリード。現在は日立のDX推進拠点Lumada Innovation Hub Tokyoにてデザインストラテジストとして活動し、顧客協創プロジェクトを推進している。

DXの思考法

『DXの思考法 日本経済復活への最強戦略』

著:西山圭太
解説:冨山和彦
発行:文藝春秋(2021年)

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