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7月15日にリアルタイム配信したオンラインイベント「西山圭太×日立製作所『DXの起こし方』」。DX推進に関わる日立のスペシャリストと西山圭太氏による座談会「DXの実際~日立の『顧客起点のDX』を例に~」では、DXに取り組む担当者の前に立ちはだかる「『組織の無理解』の壁」について、議論が交わされました。

「前回:「タテ割り組織」の弊害」はこちら>

心理的安全性をいかに確保するか

志度(モデレーター)
3つめのトピックです。企業のDX推進プロジェクトにはさまざまな役職の方々が参画されます。「新しいアイデアを提案しても、上司がなかなか受け入れてくれない」「部長を飛び越して役員に提案をしたいのだけれども、いいのだろうか」といった、いわば「組織の無理解」の壁が立ちはだかると思います。顧客が抱えるこれらの問題に対して、日立はどう取り組んでいますか。

枝松(デジタルビジネスプロデューサー)
「心理的安全性」をどう確保するかがカギになる、とわたしたちは考えています。わたしがお客さまとのワークショップをファシリテートするときに大事にしているのは、「部署の意見ではなく、あなた個人の意見を伺わせてください」というスタンスでコミュニケーションをとることです。

部署の代表として参画いただくとなると、もし役員の方と異なる意見をお持ちだとしても、なかなか発言できなくなってしまいます。「ワークショップとは、皆さん個人の意見をどんどん出し合っていただいて、それらをこの場全体の意見として扱う場なのです」と意図をしっかりとお伝えした上でコミュニケーションを図っています。あくまでも、着目すべき対象は組織ではなく個人なのです。

赤司(デザインストラテジスト)
例えば、ワークショップの参加者に「今日は1日、ここにいらっしゃる皆さんがスタートアップを立ち上げたと思ってください」とお伝えしてから議論を始めることもあります。特に将来ビジョンを探索する段階では、「変われない」「できない」理由に向かいがちな思考のバイアスを取り払うのです。あるいは、枝松の話にもあったように、ご意見を一人称で語っていただくことが非常に大切です。できる限り個人としての皆さんの思いを引き出せるようにファシリテーションを工夫しています。

短期志向に陥らないゴール設定

志度(モデレーター)
相田さんは営業として、どんな「組織の無理解」の壁に直面し、お客さまにどんなアドバイスを送ってこられましたか。

相田(営業)
よくお話しするのですが、新しい事業を起こすための取り組みは、KPIを設定して投資対効果を求めていく通常業務とは評価軸が違うのではないでしょうか。DXを進めるには、「作って・壊して」を繰り返してブラッシュアップしていくアジャイル型の開発が求められます。しかし、ご担当者がそれを受け入れられずプロジェクトが頓挫してしまったり、会社から「予算を付けたから1年で成果を出しなさい」と言われたことで「失敗はNG」という空気が現場に流れ、担当者のモチベーションが下がってしまったりというケースが多くあります。

画像: 短期志向に陥らないゴール設定

わたし自身、新規のビジネスインキュベーションを支援した経験があるのですが、乗り越えないといけない課題もスピード感も通常業務とは違うので、通常業務と似たようなKPIを設けて評価してもうまくいきません。よりムーンショット(※1)なゴールを設定し、そこに向かってメンバーがどのくらい達成感を持てたのかが大事です。例えばOKR(※2)のような手法も活用した評価のほうが、DX推進の取り組みには合っていると思います。

※1 非常に困難だが、達成できれば大きなインパクトをもたらしイノベーションを生む壮大な計画や挑戦。
※2 Objectives and Key Results:組織の目標とその達成度を測る指標をリンクさせ、組織と個人がめざすべき方向性を明確にする目標管理の手法。

同時に、お客さまが期待されている成果が果たして1~2年で出せるものなのかどうか、しっかり考えていただきます。トヨタさまが将来の“ありたい姿”を示された「トヨタ環境チャレンジ2050」のように、数十年先を見据えたうえで、お客さまの現在地がどこなのかを見定めましょうというアドバイスです。

あるいはパーパス経営(※)のように、自分たちがどんな目標に向かっていきたいのか、どんな会社でありたいのかという企業理念を事業に落とし込み、自社のポジションを見極めた上で、新しい事業の創生に取り組む。そうすれば、少なくとも短期的な成果を求めるスタンスからは脱却できるのではないでしょうか。

※ 企業の存在意義(Purpose)に基軸を置いた経営。

組織からの評価より、経験から得られる価値

志度(モデレーター)
西山さんの講演にもあった「日系企業のピラミッド構造」をヨコ割りに変えていくためには、現場の社員が上層部を説得するというアプローチもあるでしょうし、上層部の方も社員の声をしっかりと聞くことも必要だと思います。どうすればうまく変わっていけるでしょうか。

西山
わたしが部下として実践したのは、上司との一致点を探すことです。たとえお互いの意見が違っていても、「組織を良くしたい」という思いは一致しているはずです。ただ、具体的な解決策の選択肢がどこかで違っている。まずは一致している部分を探して、「なぜそこから先は違うんだろう?」という問いを立ててみる。「部長はAだとおっしゃいますが、わたしはBだと考えています。なぜなら……」と説明する。どこかに着地点はあるはずなのです。そうしないと、「賛成か、反対か」のゼロイチになってしまう。それでは生産性のある議論ができません。

画像: 組織からの評価より、経験から得られる価値

「失敗が許されない」という意識も、ある意味で組織の無理解を助長しているかもしれません。経済産業省や東京電力に勤めていた頃、企業間の競争を模したビジネスゲームを研修に取り入れたことがあります。すると、普段の会議では出てこないようなユニークなアイデア、業界の常識では考えられないようなことを職員や参加者が思いつくのです。ゲームですといろいろな打ち手が可能なので、発想が自由になるわけです。

「現実は複雑だからゲームのように単純化できない」と考えがちですが、それは誤りだとわたしは部下に言っていました。むしろ「現実をゲームのように単純化して打ち手を自由に考える」と意識を変えてビジネスに取り組むことで、前例にとらわれない打ち手を講じることが可能になり、結果としてむしろ失敗が減るはずです。

先ほど相田さんから「DX推進にはアジャイル開発が求められる」というお話がありました。なぜ今アジャイル開発が世界的に注目されているかと言うと、強い組織ほどつねに学習しているからです。AIのように、経験を蓄積し続け、それをもとに学習し続けるほど判断の精度が上がっていく。つまり、経験しないことには学習もできないわけです。一度もプレイしたことがないのに優れているアスリートなど存在しないように、です。

とにかく経験してみることが大事です。仮に失敗したとして、組織にどう評価されようが、取り組んだ本人には必ず何かしらの価値が残ります。リスクのある挑戦はせず、一度も失敗に至らなかった。会社からの評価も下がらなかった――そういう人は市場価値を失う一方です。ちょっと脱線しましたが、ビジネスパーソン一人ひとりがそういったことを念頭に生き方を考えなくてはいけないと思います。

枝松(デジタルビジネスプロデューサー)
すごく共感できます。

志度(モデレーター)
ありがとうございます。高度経済成長期から日本に根付く組織のあり方や個人の役割の再定義が、今求められています。DXの時代とは、まさにそのタイミングなのだと思いました。

「次回:Q&Aライブ」はこちら>

画像1: 西山圭太『DXの思考法』~楽しく働くヒントの見つけ方~
【西山圭太×日立製作所「DXの起こし方」】⑤ DX推進を阻む「組織の無理解」

西山圭太(にしやま けいた)

東京大学未来ビジョン研究センター 客員教授
株式会社経営共創基盤 シニア・エグゼクティブ・フェロー
三井住友海上火災保険株式会社 顧問

1985年東京大学法学部卒業後、通商産業省入省。1992年オックスフォード大学哲学・政治学・経済学コース修了。株式会社産業革新機構専務執行役員、東京電力経営財務調査タスクフォース事務局長、経済産業省大臣官房審議官(経済産業政策局担当)、東京電力ホールディングス株式会社取締役、経済産業省商務情報政策局長などを歴任。日本の経済・産業システムの第一線で活躍したのち、2020年夏に退官。著書に『DXの思考法』(文藝春秋)。

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【西山圭太×日立製作所「DXの起こし方」】⑤ DX推進を阻む「組織の無理解」

志度昌宏(しど まさひろ)

株式会社インプレス DIGITAL X(デジタルクロス) 編集長

1985年、慶応義塾大学理工学部を卒業後、日経マグロウヒル社(現・日経BP社)に入社し記者活動をスタート。以来、一貫してビジネス/社会とテクノロジーの関係を取材している。2013年4月、インプレスビジネスメディア(現・インプレス)に入社。2017年10月、AIやセンサーなど先端的ITを駆使して問題解決につなげる事例を伝えるメディア『DIGITAL X』を創刊。新ビジネスや社会サービスの創造に向けたデジタル技術の活用をテーマに情報発信に取り組んでいる。著書に『DXの教養 デジタル時代に求められる実践的知識』(共著、インプレス)。

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【西山圭太×日立製作所「DXの起こし方」】⑤ DX推進を阻む「組織の無理解」

枝松利幸(えだまつ としゆき)

株式会社日立製作所 社会イノベーション事業統括本部
Lumada CoE DX協創推進部 主任技師(ビジネスコンサルタント)

2006年、日立製作所入社。社内SNSの活用やナレッジマネジメントを中心に経営コンサルタントとして活動した後、2012年にExアプローチ推進センター(現・NEXPERIENCE推進部)に加入。ロジカルシンキングとデザインシンキングを組み合わせた手法で顧客協創活動を実践。現在はインダストリーや公共、金融、社会インフラなどの分野において業務プロセス改革や協創プロジェクトを取りまとめている。

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【西山圭太×日立製作所「DXの起こし方」】⑤ DX推進を阻む「組織の無理解」

相田真季子(あいだ まきこ)

株式会社日立製作所 営業統括本部 営業企画統括本部
企画部 部長代理

2002年、日立製作所入社。情報通信部門にて金融機関のアカウント営業を担当したのち、営業企画としてパートナー販売の戦略立案やマーケティングなどに従事。2018年から2年間総合商社に出向し、社内イノベーションのしくみづくりや新規ビジネスインキュベーションを担当。その後、製造業のアカウント営業を経て、現在はコーポレート営業企画部門にて各種施策を推進している。

画像5: 西山圭太『DXの思考法』~楽しく働くヒントの見つけ方~
【西山圭太×日立製作所「DXの起こし方」】⑤ DX推進を阻む「組織の無理解」

赤司卓也(あかし たくや)

株式会社日立製作所 社会イノベーション事業統括本部
Lumada CoE NEXPERIENCE推進部 主任デザイナー (デザインストラテジスト)

2003年、日立製作所入社。メディカルバイオ計測機器やエレベーターなどの公共機器、家電の先行デザイン開発などプロダクトデザインを担当。2007年以降、金融サービスやWebサービスをはじめとする情報デザイン、サービスデザインなどに従事。2010年、未来洞察から新事業の可能性を探索するビジョンデザイン領域を立ち上げ、ビジョン起点の顧客協創をリード。現在は日立のDX推進拠点Lumada Innovation Hub Tokyoにてデザインストラテジストとして活動し、顧客協創プロジェクトを推進している。

DXの思考法

『DXの思考法 日本経済復活への最強戦略』

著:西山圭太
解説:冨山和彦
発行:文藝春秋(2021年)

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