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日立グループ創業の地として110年の歴史を誇る日立事業所。巨大ダンプトラック用モータの製造現場が、データで価値を生む「コト売り」への転換に挑んでいる。重厚長大な現場が直面した課題と、変革の幕開けに迫る。

日本の社会インフラを支えてきた重厚長大なモノづくりの現場で、製品を売る「モノ売り」から、稼働データに基づき新たな価値を提供する「コト売り」への転換が急務になっている。日立製作所(以下、日立)の創業の地であり、110年以上にわたり巨大ダンプトラック用モータなどの製造を手掛けてきた日立インダストリアルプロダクツ(以下、日立イプ)の主力拠点、日立事業所も例外ではない。

同社は、長年蓄積してきた製造現場の知見をデジタル価値に昇華させるため、パートナーにGlobalLogicを選んだ。しかし、歴史ある製造現場と最先端のデジタルの流儀はすぐにはかみ合わず、プロジェクトは半年以上もの間、糸口を見いだせないまま模索する日々が続いたという。正反対の文化を持つ両社は、いかにして断絶の壁を崩し、真の「協創」へとたどり着いたのか。日立のLumada(ルマーダ)※戦略推進をリードする福島真一郎氏をナビゲーターに迎え、変革のキーパーソンたちにその軌跡を聞いた。

※)Lumada(ルマーダ):日立

歴史を背負う日立の原点「日立事業所」

茨城県日立市にある日立事業所は、1910年の開設以来、モータや発電機といった回転機の設計、製造を一貫して担ってきた。日立グループの大型産業機器事業を継承して2019年に発足した日立イプの主力工場として、ミッションクリティカルな社会インフラを支えている。

同社で常務取締役を務める吉成良孝氏が管轄する電機システム事業部は、この日立事業所を舞台に鉱山用ダンプトラック向けのモータや発電機をはじめ、鉄道、電力、鉄鋼など多岐にわたる用途の回転機を製造。部門全体で従業員約430人、年間200億円規模の事業を展開している。

中でも特徴的なのが、鉱山用ダンプトラック向けの駆動システムだ。ダンプトラックとは、タイヤの直径だけで2~3メートルある、350トンクラスの巨大な車両を指す。エンジンで発電機を回して電気を起こし、インバータを介してモータを動かす仕組みだ。日立イプでは日立事業所と大みか事業所でモータや発電機、インバータといった、ダンプトラックの中核となる駆動装置を作っている。

この製品の90%以上は、オーストラリアや南米、南アフリカといった海外の過酷な資源地帯で稼働している。電動化による燃費向上を強みに、2003年から開発を進めてきた主力製品だ。

「モノ売り」の限界 アフターサービスをどう進化させるか

そんな歴史と技術を誇る日立事業所にも大きな課題が迫っていた。モノ売りビジネスモデルの限界だ。従来は「いかに製品を販売するか」というプロダクト主体の発想だったが、それだけでは他社との差別化が難しく、中長期的な成長に限界が見え始めていたという。

そこで日立イプは、顧客の“ペインポイント(困りごと)”を見極めて解決するコト売りへの転換を掲げ、バリューチェーン全体で付加価値を高めることをめざした。こうした課題意識の背景には、顧客側の深刻な悩みがあったと吉成氏は語る。

画像: 吉成良孝氏(日立インダストリアルプロダクツ 常務取締役 電機システム事業部 事業部長

吉成良孝氏(日立インダストリアルプロダクツ 常務取締役 電機システム事業部 事業部長

「当社の熟練工の減少も課題ですが、お客さまも同じ悩みがありました。以前は製品(ダンプトラック)をお客さま自身が保守していましたが、そうした人財が少なくなっているというのです。この課題を日立イプならどのように解決できるか、対応策を2021年ごろから模索し始めました」

過酷な環境で稼働する鉱山用ダンプトラックのモータは、故障してからの部品交換や一定期間ごとの定期点検が一般的だった。しかし、走行路線や負荷が一定で劣化予測がしやすい鉄道などとは異なり、ダンプトラックは現場ごとに路面状況や負荷が激しく変化する。そのため、一律の定期保守では実態との乖離(かいり)が大きかった。想定外の故障が発生することもあれば、逆にまだ使える部品を交換してしまうといった無駄も生じていた。

そこで日立イプは、稼働データから異常予兆を診断して最適なタイミングでメンテナンスを提案する仕組みを構想。実証の第一歩として、鉱山用ダンプトラックを手掛ける日立建機向けのプロジェクトを始動した。

ハードとソフトの壁を越える GlobalLogicとの出会い

データ活用の青写真は描けたものの、実装には数年の時間を要した。2021年にはすでに製品をネットワークにつなぎ稼働データを収集・活用する「コネクテッド」の構想が立ち上がっていたが、自社リソースだけでは正解にたどり着けず、足踏みが続いていた――そう話すのは、日立イプの遠藤幹夫氏だ。

画像: 遠藤幹夫氏(日立インダストリアルプロダクツ 電機システム事業部 ドライブシステム本部 副本部長 ドライブ設計部 部長)

遠藤幹夫氏(日立インダストリアルプロダクツ 電機システム事業部 ドライブシステム本部 副本部長 ドライブ設計部 部長)

遠藤氏は当時について、「組織としてコネクテッド推進部門はありましたが、回転機という物理アセットのデジタル化は難易度が高く、将来的に価値を生み出せなくなるのではないかとの強い危機感がありました。当社はハードウェアの知見はあっても、ソフトウェアのノウハウを持つ人財がいなかったのです」と明かす。そうした状況下で、「デジタル化に向けたマインドチェンジも追い付いていなかった」(吉成氏)ことも課題だった。

この状況を打破する契機になったのが、日立グループ全体の変革だ。日立は「Lumada」を核にデータ活用を推進する中で、プロダクト単品の価値を超えた変革とグローバル展開の加速を目的に2021年にGlobalLogicを買収した。福島氏は「プロダクトをデジタル化する難しさを、身をもって知る日立にとってGlobalLogicをグループに迎えることは変革を実現させるための必然的な選択でした」と語る。

GlobalLogicもまた、日立の全事業をデジタル化する使命を担い、2023年には日立グループのシナジー創出を専門とする組織を設置した。GlobalLogicによる日立グループ各社や各部門とのDXプロジェクトがグローバルを中心に始動する中、日本に本社を置く日立イプとGlobalLogicとの協創の転機は何だったのか。そう問うと、遠藤氏は「2024年3月、米インディアナ州でGlobalLogicの沖田康子氏と対面したことだった」と話す。

実はこの対面、日立イプの力になりたいと熱望していた沖田氏が遠藤氏の出張を聞きつけて「タイミングを図って」(沖田氏)会いに行き実現したものであり、その場で日立事業所の視察が決まったという。沖田氏はこのときの思いを「日立イプの熱意を支援して、真のシナジーを生むことこそが私たちの使命だと感じました」と語る。

そして2カ月後の2024年5月、予定通り海外のエンジニア陣による同事業所の視察が実現。ここから協創への歩みが始まった(詳細は後編を参照)。

協創がもたらした意識改革

モータをデジタル化する試みは容易ではない。福島氏は、このプロジェクトを知ったときの驚きをこう話す。

画像: 福島真一郎氏(日立製作所 デジタルシステム&サービス統括本部 経営戦略統括本部 Lumada & AI戦略本部 Lumada CollaborationLIHT Director 日立認定デザインシンキング・イニシアティブ(プラチナ))

福島真一郎氏(日立製作所 デジタルシステム&サービス統括本部 経営戦略統括本部 Lumada & AI戦略本部 Lumada CollaborationLIHT Director 日立認定デザインシンキング・イニシアティブ(プラチナ))

「極めて難易度の高い、特殊な取り組みだと感じました。ダンプトラックが稼働する鉱山などでは通信回線を確保できず、衛星通信に頼らざるを得ない環境も珍しくありません。そのような過酷な状況下でモータにデジタル装置を組み込むというのは、一筋縄でいく話ではありません」

一方で福島氏は、このタイミングでの取り組みの重要性についても強調する。「かつては極めてハードルが高かったプロダクトのデジタル化も、この5、6年でテクノロジーが飛躍的に進化して実現の土壌が整いました。何より人財不足によって熟練工の減少が加速する中、彼らが長年培った暗黙知をデータとして可視化して、資産として次世代につなぐには今がまさにラストチャンスとも言える絶好のタイミングです」

沖田氏はプロジェクトの依頼を受けたときの思いをこう語る。「日立が長年培ったプロダクトの力と、今まさに推し進めている『デジタルを使った変革』というグループの進むべき方向性が全て凝縮された取り組みになるだろうと直感しました。日本の製造業が共通して直面するこの高い壁を乗り越えるためにも、GlobalLogicの知見を注ぎ込みたいと決意を新たにしました」

画像: 沖田康子氏(GlobalLogic Sales部門Associate Vice President)

沖田康子氏(GlobalLogic Sales部門Associate Vice President)

GlobalLogicは、エッジ端末(チップ)や上位のクラウドシステムなど多様な技術レイヤーに対応できる深い知見を持つ。ハードウェアの製品設計、組み込みソフトウェアの開発、試作テストといったPLM(Product Lifecycle Management)全般を支援できるのが強みだ。特に自動車業界など厳しい品質が求められる製造業での実績も豊富に持っている。沖田氏は「ハードウェアとソフトウェアのプロがタッグを組むという、日本ではこれまでにない挑戦を前に、当社のエンジニアも大いにワクワクしていました」と振り返る。

GlobalLogicとタッグを組んだことで、日立イプ側にも確かな変化が表れ始めている。遠藤氏は「協創を機に、困難が予想されてもまずは技術的なPoC(概念実証)に踏み切るマインドが生まれました。今後は技術検証の先にある『いかにビジネスとして成立させるか』の具体化が不可欠です。2026年度は、収集した稼働データを顧客価値に転換できるかが成否を分ける鍵になります」と先を見据える。吉成氏は、本プロジェクトが組織にもたらした「意識改革」の意義を次のように強調する。

「従来は『いかに製品を販売するか』という、いわば内向きの視点に陥りがちでした。しかしGlobalLogicとの協創を通じて、顧客の真のペインポイントを深掘りして提供価値を最大化する『顧客起点』のマインドに転換できたことは、組織にとって極めて大きな進歩だと捉えています。データ蓄積という初期フェーズを越え、それらをいかに具体的なビジネスモデルとして結実させるかという、次なるステージに進むべき時が来たと感じています」

日立事業所を舞台に、日立イプとGlobalLogicの「デジタルの力で新たな価値を生み出す」挑戦が始まった。しかし、そこからの道のりは決して平たんではなかったという。後編では、どのようにして互いの壁を乗り越えたのか――真の協創に至るまでの軌跡と、今後どのような価値創出をめざすのかについて深掘りする。

(後編) 「安定は衰退の始まり」――歴史ある企業を変えた現場と経営の“覚悟”とは 協創DXの舞台裏

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