連載第5回、第6回では、ソリューション群の内の一つ「ポリファーマシー対策支援」の、静岡県における事例を取り上げる。
ポリファーマシー対策の有識者として本取り組みに協力いただいている静岡県病院薬剤師会会長 渡邉 学氏、日立製作所 ひたちなか総合病院 TQM統括室経営支援センター長 関 利一氏、本件を推進する日立製作所 田浦 善弘、大崎 高伸の4名に、具体的な取り組み内容や、データ利活用が医療分野にもたらす変革の可能性について話を聞いた。
ポリファーマシー対策支援:被保険者の健康と医療費適正化を推進する支援事業
日立が提案する国保ヘルスアップソリューション一覧
日立は2024年度より、医療費適正化および患者のQOL(生活の質)向上を目的として、静岡県とともにポリファーマシーの状況分析と適切な保健指導を支援する活動を推進してきた。
「ポリファーマシー」とは、単に服用する薬剤数が多いことだけではなく、それによる薬物有害事象のリスク増加、服薬の過誤や、アドヒアランス(患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること)の低下といった問題を招く状態をさす。特に高齢になるほど受診する医療機関が増えるため、処方内容が重複・複雑化しやすく、リスクも高まる。
ポリファーマシー対策には、医師・薬剤師が連携して、客観的なデータに基づいて処方内容の最適化や減薬を進めることが極めて重要だ。
国としても、厚生労働省が定める診療報酬制度を通じて、薬剤の適正使用を促進している。具体的には、「服薬情報等提供料」や「かかりつけ薬剤師指導料」、減薬に資する評価などが設けられ、医師・薬剤師が連携して処方内容を見直す取り組みが評価対象となっている。単に薬を減らすことだけを目的とするのではなく、重複投与や相互作用を回避し、患者の安全性と治療効果を高める行為が、報酬上も後押しされている。
専門家が見る静岡県のポリファーマシー対策と地域的な特徴による課題
日立は、静岡県におけるポリファーマシー対策分析事業の支援を、この分野の有識者である静岡県病院薬剤師会会長の渡邉 学氏の協力のもと推進している。
渡邉氏
「静岡県におけるポリファーマシー対策は、組織として横断的な施策ではなく、個別に研修を行うなど限定的な取り組みになっていました。
静岡県の地域的な特徴として、県が東西に長く、静岡市や浜松市といった都市部と中山間部で人口構成が大きく異なり、また、高齢化・過疎化の進行度にも差があります。そのため、課題が地域ごとにさまざまで、県全体で一律の打ち手を設計しにくいといった事情がありました」

個別に見れば、約20年前から先進的な取り組みを続けている地域もある。
掛川市や菊川市などは、「かかりつけ連携手帳」という、おくすり手帳をさらに進化させた仕組みを活用し、病院と薬局間の情報連携により薬剤の飲み合わせや副作用のチェックを行っている。
他にも、慢性腎臓病(CKD)患者の腎機能の情報をおくすり手帳に明記することで適正な処方につなげる取り組みも行われている。具体的には、腎機能の状態を色分けで示すシールをおくすり手帳に貼ることで、医師・薬剤師などに腎機能への配慮を促すとともに、患者本人の病状理解や自覚を高めることをめざしている。

腎機能の状態を色分けで示すシール(画像はイメージです)
ただし、これらの取り組みも一部の自治体による個別の施策にとどまっており、静岡県全体での横断的な取り組みには至っておらず、蓄積されたノウハウの共有や、データの利活用が十分になされていないといった課題があった。
地域の有識者の知見を生かし、地域ごとの実情に寄り添った成果へ
こうした静岡県での実情を踏まえ、本事例では、日立独自の分析ノウハウをベースにしつつ、地域の医療現場を熟知する有識者の視点を取り入れて自治体ごとの実情を読み解き、現場に寄り添ったソリューションを個別にカスタマイズし提供している。
日立製作所の企業立病院であるひたちなか総合病院で、2014年からひたちなか地域のポリファーマシー対策を推進してきた関 利一氏は、「今回の事例では、静岡県病院薬剤師会会長であり長く投薬に関わってきた渡邉先生に参画いただきました。地域の実態がわかる方がメンバーに入ることで、分析結果の解釈が現場に即したものになります」と説明する。

渡邉氏の参画により、静岡県内の地域や疾患ごとの薬剤使用状況、診療報酬・調剤報酬の算定状況といった、収集したデータが示す“ばらつき”を、現場の肌感覚と照らし合わせながら解釈し、どこに課題が潜むのかを言語化できるようになったという。
日立の大崎は、「データ分析は非常に重要ですが、統計的に集計された結果だけでなくその内訳となる具体的な事例を精査することが、実情を深く把握することにつながります。データに、渡邉先生の経験による見識が加わることで、多角的かつ実態に即した深い分析ができました」と述べる。

日立の田浦も、「渡邉先生に参画いただくことにより、県内のどの地域に、どのような課題があるかも明らかになりました。より具体的で実情に沿った対策を提案できるようになることで課題改善の可能性が高まったことに、非常に価値があると考えています」と説明する。

後編では、分析の質を向上させるために実施した取り組み、分析結果を踏まえた提案、データ活用の今後の展開などを聞いていく。
「第6回 データと現場の知見を掛け合わせより深い支援を実施」はこちら >

渡邉 学(わたなべ まなぶ)
静岡県病院薬剤師会 会長 兼 社会医療法人駿甲会法人本部 医療技術部部長、薬剤師、第一種衛生管理者、博士(薬学)
2001年コミュニティーホスピタル甲賀病院 薬剤科長に就任。2023年 静岡県病院薬剤師会 会長に就任。静岡県薬事審議会 委員、一般社団法人日本病院薬剤師会 理事、医療法人好生会 理事、社会医療法人駿甲会 社員なども兼任。

関 利一(せき としいち)
株式会社日立製作所
病院統括本部 経営企画部 担当部長 兼 ひたちなか総合病院 TQM統括室 経営支援センター長兼 公益社団法人茨城県薬剤師会 副会長
日立製作所入社後、病院薬剤師として勤務。薬局長を約18年勤める中で、病院データを集約するデータ管理センター長に就任。電子カルテからの病院データを利活用する中で、ひたちなか総合病院の経営分野に関与、現在、病院統括本部経営企画部で活動している。

田浦 善弘(たうら よしひろ)
株式会社日立製作所
公共システム事業部 公共ソリューション推進第二本部 公共ソリューション推進第七部 主任技師
日立製作所入社後、システムエンジニアとして勤務。国や自治体の基幹系システム開発や導入、データとデジタル技術を活用したデータヘルス分野のソリューション開発等に従事。現在は主任技師として、プロジェクトを取り纏めつつ、デジタルの力で医療・健康分野の価値創出に貢献することをめざしている。

大崎 高伸(おおさき たかのぶ)
株式会社日立製作所
研究開発グループ SUSTAINABILITY INNOVATION R&D ヘルスケアイノベーションセンタ デジタルヘルスケア研究部 主任研究員
博士(工学)
日立製作所に入社後、研究部門にてヘルスケア情報システム、ヘルスケア情報の分析・利活用に関する研究開発に従事。健診・レセプトデータを活用し、主に生活習慣病を対象としたリスク分析、予防プログラム、介入施策の効果分析のための技術開発とともに、保険者・自治体における疾病予防、健康づくりの支援を行っている。





