「【第1回】人財統括本部のキャリア採用業務編(前編)」から読む >
AIの出力の質を決める、開発者の業務の理解度
大山
このキャリア採用に向けた募集文言の作成支援AIエージェントはPoCを経て、インプリメントの段階に入りました。その具体的な使い方について開発者の鶴さん、教えてください。
鶴
採用業務で最初に押さえるべき重要なポイントが、ペルソナ設定です。ここが曖昧なままでは、採用品質の向上は望めません。「ペルソナ設定エージェント」では、求めるスキルに加え、任せたい業務や期待する役割といったキーワードをもとに人物像の言語化を進め、ペルソナをより鮮明にしていきます。
また採用業務に携わる多くの担当者が悩むのが、自社の魅力の伝え方です。「職場の魅力言語化エージェント」は、職場の良い面はもちろん、課題や一見ネガティブに映る点についても、入力されたワードを前向きな言葉に転換するなど、募集文言として適切な形に整理します。
そして、ペルソナと職場の魅力を取り込んだ「募集文言作成エージェント」が、各部署のWebサイトなどの情報を参照として、ペルソナに響く募集文言を生成します。また、過去の募集要項を読み込ませて既存の文章をブラッシュアップすることも可能です。生成の際、AIエージェントは、インパクトの強い文章から無難なものまで、松・竹・梅のように程度を変えて3パターンを出力する設定にしていて、担当者は状況に応じて適切なものを選ぶことができます。

鶴
このエージェントがめざしているのは、採用業務の効率化にとどまらず、ペルソナの設定と魅力の言語化を通じた高品質なマッチングです。そして、その先にある、候補者一人ひとりと向き合う関係づくりを支援していきます。

大山
鶴さんはエンジニアであり、採用業務の経験はないとのことですが、このAIエージェントは、まるで採用業務を熟知した人が設計したかのように感じられます。
鶴
私は、開発者の業務理解を超えたアウトプットを、AIが出すことはできないと考えています。今回、採用業務の経験がない私は、採用に関する書籍を読み込んだ情報をもとに生成AIと壁打ちを重ね、そしてもちろん人事の皆さんと密に会話しながら、得た知見をプロンプトに落とし込みました。
大山
AIエージェントの開発は、従来のアプリ開発と比べ、より深い業務理解が求められます。単に機能を実装するのではなく、業務における判断軸や思考プロセスまでを設計対象とするからです。
それは開発者にとって大きな挑戦ですが、鶴さんが実践したように、その際にも生成AIが理解を深めるための強力なツールになります。そして、何より欠かせないのがユーザー部門の暗黙知です。AIエージェントは、開発部門とユーザー部門がともに育てていくものだという意識が、今後ますます重要になるでしょう。

人事部門の多様な業務への応用に期待
大山
実証実験に参画した人財統括本部の皆さんは、どのような効果を実感されましたか。
小宮
これまで募集要項の作成には数時間を要していましたが、AIエージェントを活用することで、まず瞬時に文章が生成され、その後の確認や精査を含めても、約1時間で完成するようになりました。そして生成された文言を確認すると、設定したペルソナにしっかりと響く内容で、職場の魅力が前向きな表現で描かれており、その完成度にチーム一同驚かされました。
このエージェントの実装によって、これまでキャリア採用業務において募集文言の表現に悩んでいた私たちの時間が大幅に削減されるでしょう。キャリア採用が年間約700ポジションに及ぶことを考えると、業務効率の大きな向上が期待でき、私たち一人ひとりがより注力すべきタスクに集中できるようになるでしょう。

村上
今回、AIエージェントが出力した募集文言に触れてみて、「本当に求めていたのはこういう人だった」、「この職場にはこんな捉え方もあったのか」など、多くの気づきを得ています。
このAIエージェントは現在、社外向けの採用業務での活用にとどまっていますが、社内での用途——例えば社内異動者向けのレクチャー資料や、インターンシップの募集・申請など、さまざまな場面への応用が考えられます。こうした前向きな言葉が社内に広がっていくことは、エンゲージメントの向上にもつながるのではないでしょうか。


これらAIエージェントが、業務の効率化を越えたさまざまな価値を人事業務にもたらしている。
キャリア採用におけるハイテク・ハイタッチの推進
大山
このAIエージェントは募集要項の作成にとどまらず、今後は候補者との日程調整などの支援も検討しているそうですね。AI活用を拡大することで、採用業務におけるどのような変革を期待していますか。
大和田
今後は、「ハイテク・ハイタッチ*」の考え方を推し進めていきたいと考えています。募集要項の作成や日程調整といった定型業務をAIによって高度化・効率化する一方で、候補者一人ひとりとの対話や関係構築といった領域では、担当者が候補者と向き合う時間を増やすことで日立への理解を深めていただくなど、応募意欲の向上を図っていきます。
この考え方は、社内に向けた人事業務にも当てはまると考えています。従業員一人ひとりに「公正に評価され、期待されている」と感じてもらうためには、コミュニケーションや評価ガバナンスの設計・改善といった領域に、より多くのリソースを注ぐことが必要です。その時間を生み出すための業務効率化と質の高い対話の実現の両面において、AIは欠かせないツールになると考えています。
* ハイテク・ハイタッチ:AIやデジタル技術で定型業務を効率化・高度化する一方で、人は対話や判断、関係構築といった付加価値の高い領域に注力する考え方。

大山
AIの分野には、「ヒューマン・イン・ザ・ループ」という似た考え方があります。これは、AIの判断に人が継続的に関与し、最終的な責任を人が担うという設計思想です。人事の領域においては、業務をどれだけAIで効率化したとしても、会社の成長を支える人財戦略を描くことは、人にしか担えません。そうした本質的な仕事に集中するために、AIは活用されるべき存在です。
そして、この考え方は人事部門に限らず、営業、総務、調達などすべての部門に共通するものです。そうした意味で、OEA推が担う役割はますます重要になると思います。
中嶋
おっしゃる通りだと思います。今後は、人財統括本部での取り組みをさらに深化させるとともに、今回の開発を通じて蓄積した実践知を活用し、各直轄部門に配置されているOEA推兼務者と連携しながら、AI活用によるオペレーショナルエクセレンスをDSSに浸透させていきます。


大和田 順子(おおわだ じゅんこ)
株式会社日立製作所
人財統括本部 デジタルシステム&サービス人事総務本部
ヒューマンキャピタルマネジメント事業推進センタ エバンジェリスト
エバンジェリストとして、社内外で新しい価値創造と情報発信を担っている。生産性意識・配置配属フィット感の可視化や、日立オリジナルのアセスメントも活用した社員の自己理解を深める取り組み、また、社内外のイベントなどで最新のトレンドや事例を紹介し、組織変革や人材育成に関する議論をリードしている。デジタル技術や働き方改革に関する情報をわかりやすく伝えることで、持続的な成長を支える役割を果たしている。

村上 健太郎(むらかみ けんたろう)
株式会社日立製作所
人財統括本部 デジタルシステム&サービス人事総務本部
ヒューマンキャピタルマネジメント事業推進センタ 部長代理
入社以来、人事勤労部門において主に勤労業務に従事。23年10月~現職となり、人と組織の可視化サーベイ(HPAサーベイ)の分析を通じ、データ分析と現場知の融合で組織課題の解決を進めている。また、各種人事データの可視化やプラットフォーム化を推進し、経営と現場をつなぐ実務家としてHR部門のData Drivenによる意思決定の定着化を推進中。

小宮 未帆(こみや みほ)
株式会社日立製作所
人財統括本部 デジタルシステム&サービス人事総務本部
Diversity, Equity and Inclusion 部長代理
日立製作所および日立グループ日本地域のDEIやPeople Analyticsを中心に、人と組織の課題を見つめ、その構造を解きほぐし、データにもとづくインサイト分析を行う。日立グループ向けDEIダッシュボードの設計・実装・展開。現場に基づくDEI KPIを整理し、寄り添う対話を行う。生成AIを生かした小さな改善を積み重ね、多様な視点を生かした意思決定を支援。だれもが力を発揮しやすい環境づくりに貢献。

中嶋 憲一(なかじま けんいち)
株式会社日立製作所
デジタルシステム&サービス統括本部 オペレーショナルエクセレンスAI推進室 社内AI企画部 主任技師
入社後は社内基幹業務システムの開発・保守・運用を担当し、日々の業務を通じてITの基礎技術やシステム運用に関する知識を習得。その後、グループ会社の社内IT部門と連携しガバナンス強化に向けた各種施策の企画および推進に従事。現在の部署に異動後は、生成AIに関する社内情報の整理や、生成AI活用促進の施策・イベントの企画・運営に携わり、DSSの業務効率化を推進中。

鶴 美奈子(つる みなこ)
株式会社日立製作所
デジタルシステム&サービス統括本部 オペレーショナルエクセレンスAI推進室 社内AI企画部 技師
入社後は日立グループ向けの仮想デスクトップ開発に携わり、ITインフラの基礎技術を習得。その後は約5年間にわたり、Microsoft 365の外販導入支援に従事。要件定義から構築、定着化まで一貫してお客さまに寄り添いながら業務改革を推進。現在は、Microsoft 365の上級資格に基づく知見を強みに、Copilotをはじめとする社内の生成AI活用の伴走支援を担当。また、個別相談会や職場訪問などにより、全社的な活用レベルの向上に尽力中。

大山 友和(おおやま ともかず)
株式会社日立製作所
デジタルシステム&サービス営業統括本部
Executive Strategy Unit フロントサポートセンター チーフプランニングエキスパート
AIアンバサダー
コンサルティング部門にて、営業業務改革、新規事業の立ち上げなどに従事した後、日立コンサルティングにて、基幹業務システム構築などを担当。プロジェクトリーダーとして、システム企画・構築・運用全般を統括。その後、営業バックオフィスを支える業務システム全般を統括。現在、営業部門の生成AI徹底活用プロジェクトの取りまとめとして、講演活動、ナレッジ蓄積、社内コミュニティ運営、人材育成などの取り組みを推進中。




