*¹ 2025年7月15日時点 日立調べ
【再現ストーリー:台風最接近。その時、オペレーションマネジメントの最前線では】
――その日の午後、3日後に関西地方を台風が直撃する気象シナリオが浮上する。国内線と国際線で1日計1,000便あまりのフライトを管理するANAのオペレーションマネジメントセンター(以下、OMC)では、気象の専門家が影響を受ける時間帯と空港を見積もり、オペレーション担当がダイヤ修正の要否の検討に入った。
平時の体制に台風対策の専属要員が加わり、機材や乗務員、空港など関係部署との事前調整が本格化。事前予測がある程度可能な台風が発生すると数日前から準備を始め、最新の予測更新に沿ってダイヤ修正案を段階的に整えていくのが常だ。
OMCにはオペレーション担当が24時間常駐しており、機体整備、パイロット、客室からも担当者が詰め、必要に応じて応援が加わる。
その後、台風最接近日の前日16:00に台風の進路予想が更新されると、社内の台風対策会議で従来予想との差分を即時に整理して3日前からのダイヤ修正案を微調整。17:39には関係部門からの合意を取り付けた。これを受けて、運用判断の全権限を委譲されたオペレーションディレクターは最終確認を急ぎ、ダイヤ修正案にゴーサインを出したのが17:57。こうして翌朝の運航に向けて、判断は分刻みで前へ進んでいく。
このようなオペレーションは、決して特別なことではない。オペレーションマネジメントの最前線ではごく日常的なルーティンなのだ――。*²
*² 本章は取材内容をもとにしたフィクションであり、記載の時刻や手順等は一例です。
専門人材に依存するダイヤ修正の限界
全日本空輸株式会社
オペレーションマネジメントセンター オペレーション業務部 企画推進チーム リーダー
筒井 謙一 氏
これまでANAでは、悪天候や機材不具合などで運航ダイヤの乱れが見込まれると、他のエアライン同様、運航ダイヤを人手で修正してきた。予約状況や乗り継ぎ有無、機材の使用状況、空港運用といった相互に影響し合う膨大な与件を同時に勘案し、限られた時間で最適案を導くには高度な専門性が不可欠だが、判断を誤れば旅客や関係業務にも大きな混乱をもたらしかねない。
こうした状況について、ANAのOMCでオペレーション業務全体の企画推進に携わる筒井 謙一氏は「担当者は広範な知識をフル活用して短時間で答えを出さねばならず、極度の集中と時間的切迫による過度な心理的負担がありました」と業務現場の課題を指摘する。さらに、近年は運航の大敵である雷雲の空港直撃と滞留が目立つようになり、現場の負担を一層押し上げていた。
全日本空輸株式会社
整備センター 機体事業室 機体計画部 整備生産ソリューションチーム アシスタントマネージャー
美土路 拓步 氏
一方、運航ダイヤを成立させるための重要な要素のひとつである機体整備の現場はOMCから提示されるダイヤ修正案に即応し、全体を見渡して機体整備計画を引き直す必要がある。その負担について「整備計画の調整においては、航空法上の制約に加えて、整備士の資格や格納庫の要否など、様々な要件を勘案する必要があります。ダイヤが大きく組み替わる局面においては、時間が差し迫る中で、一つひとつのタスクに間違いのない判断を下さねばならない心的負担は相当なものでした」と語るのは、ANAで機体整備計画の立案・調整を担う美土路 拓步氏だ。
とはいえ、運航ダイヤ修正業務は多部署の条件を一元的に束ねる必要があり、単純増員によるタスクの並列化には限界がある。さらに、個々人の熟練度に依存する体制も退職や人材育成のリードタイムの面で持続しにくい。結果として、高精度な修正案作成に加え、全体最適化や期限順守を同時に満たす重責が集中し、人手依存から抜け出しづらい状況が続いていた。
ダイヤ修正のデジタル化を切りひらく数理最適化技術
こうしたジレンマを打開しようと、2019年、ANAは運航ダイヤ修正業務のデジタル化に向けた検討を開始。社外に具体案を広く募ったところ、複数社から多様な企画提案が寄せられたが、中でもANAが注目したのは「数理最適化技術」を中核に据えた日立のプランだった。
株式会社 日立コンサルティング
社会イノベーションドメイン AI&スマートインダストリーディビジョン テクノロジー戦略室 ディレクター
上田 和俊
「これはつまり、今回の例なら空港の運用時間や機体整備の期限といった複数の制約を数式化して全体最適となる答えを探索し、それを数理式で実現させる技術です」と、ANAへの企画提案を取りまとめた日立コンサルティングの上田 和俊は説明する。すでに日立にはこの数理最適化技術を鉄道運行管理システムに活用した実績があり、長年の研究を発展させ、複数の技術を組み合わせて、自社の工場生産計画や物流計画、その他多岐にわたるお客さまにおいて成果をあげてきた。今回の提案ではその知見を土台にしながら航空業務の要件に合わせてモデリングを再設計。現場の判断を言語化・要素分解し、あいまいさを排したモデルとして提示した。
修正案作成の高速化など数値的な改善の前に、まず本当にシステム化できるのかが最大の懸案だったと当時を回想する筒井氏は、日立からの提案に対して「同じ交通インフラの鉄道での先行事例があった日立さんの提案には説得力があり、その内容も的を射たものでした」と評価。一方で、航空事業に対する日立の業務理解の深さを認める美土路氏は「当初は“職人技”の世界で言語化しづらいと思っていた。日立の提案から本番稼働までのコンサルティングを通じ、各局面での判断の根拠を複数の要素に分解することで客観的にとらえ直すことができたことも大きな気づきでした」と振り返る。
その後、実現可能性などの総合的な見地からANAは日立と日立コンサルティングによる企画案を採択。2019年6月から「運航ダイヤ修正システム」開発プロジェクトが始動した。
会社プロフィール
全日本空輸株式会社
[所在地]東京都港区東新橋1-5-2 汐留シティセンター
[発 足]2012年4月2日
[従業員数]13,636名(2025年3月31日現在)
[事業内容]定期航空運送事業、不定期航空運送事業、航空機使用事業、その他附帯事業
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