ユースケース1:AIで変える、未来のスライド制作術
大山
今回は、公共営の「生成AI活用ワーキンググループ」から生まれた44件のユースケースから代表的な3件を、開発した各エバンジェリストより、紹介してもらいたいと思います。
まず、野﨑 祐助さんの「AIで変える、未来のスライド制作術」。このユースケースはどういう課題意識から生まれたのでしょうか。
野﨑
PowerPointを使った視覚的に分かりやすい資料は、構成検討から内容作成、デザイン調整に至るまで多くの工程を要し、1つの資料を仕上げるのに平均して4〜8時間ほどかかります。ところが近年、これらの工程それぞれを支援するAIが登場しています。このため、それらを組み合わせてエージェント化することで、スライド制作の効率化と品質向上を一気に実現できるはず、と考えたのがきっかけです。

大山
どのような機能で構成されているのですか。
野﨑
このエージェントは、スライド制作に必要な3つの工程を支援します。
まずは「アイデア整理」です。資料作成の目的や期待する成果物を具体的に伝えることで、AIが多角的な視点からアイデアを提示したり、内容の矛盾を指摘したり、散在する情報を整理・分類してくれます。
次に「スライド生成」です。確定した構成案をもとに、AIが自動的に指定したテンプレートに合わせてスライドを作成します。その際、テキストはもちろん、プロンプトに応じて画像も自動生成してレイアウトしてくれます。また、そのスライド生成に用いるプロンプト自体も、AIによって自動生成します。
そして3つ目の機能が「ビジュアル化」です。生成されたスライドの中で図解が必要な個所に対し、テキストで指示を与えるだけで、AIが内容に適した図やグラフを自動生成してくれます。
このエージェントにはスライド制作時間を大幅に削減できるポテンシャルがあると見込んでいます。

スライド制作の3つの工程をAIが支援。大幅な効率化のポテンシャルがあると見込んでいる。
石渡
PowerPointの前で、長い時間「何を書こうか」と悩んでいるメンバーをよく見かけます。もし、このエージェントの活用で削減した時間を、お客さまとの対話に充てることができれば、その人の営業としての価値はさらに高まるはずです。
大山
効率化だけでなく、資料の説得力も高めることができそうですね。
野﨑
はい。例えば先日、お客さまの特性を入力し、あるソリューションを最も効果的に伝えることができるプレゼンテーション形式をAIに検討させたところ、ロードマップ形式での表現を提案してくれました。さらにそのアイデアをAIでビジュアル化したところ、階段状のデザインが生成され、非常に魅力的な仕上がりとなりました。
大山
これは、誰もが使いたくなるツールだと思います。現在、画像生成系AIも驚くほどのスピードで進化を遂げており、それに連動してこのエージェントも今後さらに進化していくはずです。
ユースケース2:事業創生・プレ活動アシスタントアプリケーション
大山
次に、土井 和就さんに、「事業創生・プレ活動アシスタントアプリケーション」を紹介してもらいます。このユースケースは、どのような課題意識から開発が始まったのでしょうか。
土井
私たちは日々、お客さまの課題やニーズに基づいて営業活動を行っていますが、そのさらに上流の取り組みとして、政府や社会全体の動向を的確に捉え、日立としてどのような価値を提案できるかをプロアクティブに発信していく必要があると感じていました。しかしその実現には、政府が公開する各種文書を詳細に読み解き、分析する作業が欠かせず、そのための時間確保が難しいという課題がありました。
そうした状況を受け、生成AIの業務活用が本格化した2023年から、分析作業にAIをどの範囲まで適用できるか検証を進めてきました。その成果が、今回正式に試験運用を開始することとなった、「事業創生・プレ活動アシスタントアプリケーション」です。

大山
事業創生・プレ活動アシスタントアプリケーションの概要と使い方を教えてください。
土井
RAGを用いて特定の文書を分析できる構成となっており、知識データベースには公表されている政府関連文書を中心にあらかじめ約300件登録しています。これにより、ユーザーが自ら資料を検索・ダウンロードする手間を削減し、すぐに分析に取り掛かれるようにしています。現在、分析機能としてはロジックツリー分析やステークホルダー分析など8種類を搭載しています。これらはいずれも、日立の公共分野の営業メンバーが検証に参画し、実務でのフィードバックを重ねてブラッシュアップしてきたもので、経験の浅い若手社員でも主任クラスの成果を発揮できるよう設計されています。
使い方は非常にシンプルで、使いたい分析機能を選択し、例えば「教育DX」といった分析テーマを入力して、参照したい資料にチェックを入れて実行するだけで結果が提示されます。複数の公開文書を組み合わせて分析することで、特定のお客さまのニーズに沿った提案のヒントを導き出すことなども可能です。

公表されている政府関連文章を中心に約300件のデータを登録済み。現在8種類の分析に対応。
大山
世の中には多くの壁打ちツールがありますが、RAGによって公共市場の文脈を理解し、さらに日立の公共分野における営業ノウハウを学んだこのツールは、組織のパフォーマンス向上に直結する、極めて価値の高いものだと感じています。
石渡
このツールは、膨大な政府文書の中から短時間で課題を抽出し、提案につながるさまざまな可能性を提示してくれます。それにより業務効率が大幅に向上するのはもちろんですが、同時に「お客さまへ提案してみよう」という営業担当者の意欲を高め、前向きな行動を促す効果も大きいと思います。組織を活性化してくれるツールだと感じています。
ユースケース3: Google NotebookLMを利用した社内資料検索
大山
最後に、河野 瑛吾さんに、「NotebookLM*1を利用した社内資料検索」を紹介してもらいます。このユースケースはどのような課題意識から考案したのでしょうか。
*1 NotebookLM:Googleが提供するAIノートツールで、ユーザーがアップロードした資料をもとに質問応答や要約を行う、RAG(検索拡張生成)技術を活用した情報整理支援サービス。
河野
SharePoint上の社内文書をCopilotで検索すると、結果には、目的のファイル以外に類似文書も含まれます。これは、情報の網羅的な収集や、新たな発想の獲得には有効である一方で、特定の文書をすぐに活用したい場合には、非効率に感じられる場合もありました。この状況を改善できないかと考え、考案したのがこのユースケースです。

大山
Copilotの検索は、ファイル名やメタデータだけでなく、文書の内容まで解析して回答します。だからこそ漏れのない情報収集が可能なのですが、目的の文書が明確な場合には、少し煩雑に感じる場合もあるかもしれません。このユースケースは、その課題をどのような仕組みで解決したのでしょうか。
河野
NotebookLMという、アップロードした資料に対して情報整理や質問応答が行えるツールを用います。まず、SharePoint内のフォルダー構成を、ファイル名・保存場所・作成日時・リンク情報などを含めて一覧化し、CSVファイルとして出力します。この作業はPower Automate*2を使うことで効率的に実施可能です。そして、このExcelファイルをNotebookLMにアップロードすれば準備は完了です。あとは、「○○の資料はどこですか。保存場所のリンクを教えてください」などと指示すれば、該当ファイルのパスとリンクを提示してくれますので、クリックひとつで目的の文書にアクセスできます。
*2 Power Automate:Microsoftが提供する業務自動化ツールで、アプリケーションやサービス間の処理をノーコードで連携・自動化できるクラウドベースのワークフロープラットフォーム。

類似文書は含まず、目的のファイルについてパスとリンクを提示。複数ファイルも表形式で見やすく表示。
大山
さまざまなAIサービスを適材適所に活用することが求められる今の時代において、NotebookLMの特性をうまく生かした優れたユースケースだと感じました。さらにこの事例の魅力は、あらゆる業務で応用できる汎用性と、誰でも簡単に再現・展開できる手軽さにあります。ぜひ多くの方に参考にしてもらいたいですね。
石渡
1日のうちで資料を探す時間を積み重ねると、おそらく相当なボリュームになります。また、作業中に参考資料が見つからず手が止まってしまうと、せっかくの集中も途切れてしまいがちです。こうした時間のロスを減らしてくれるこのユースケースは、大山さんの言う通り、すべてのビジネスパーソンが求めていたものだと思います。

政策提言ができる営業へ
大山
「生成AI活用ワーキンググループ」の大きな成果の要因は、ユースケース創出に代表される、エバンジェリストを中心とした活発なボトムアップ活動によるところが大きいでしょう。そして、その挑戦を根底で支えているのは、ワーキンググループのリーダー 石渡さん、そして公共営のトップによる明確な方向づけと推進力です。トップが示した明確なビジョンと「失敗を恐れず挑戦する文化」が、メンバー一人ひとりの継続的な行動を後押ししていました。

石渡
公共分野のビジネスは、国の施策を起点に動くため、どうしても他社との差別化が難しい領域です。だからこそ私たちは、生成AIで業務を効率化し、お客さまとの対話時間を増やすことに挑んでいます。そして、その対話で得た知見を生成AIで磨き上げ、より価値ある提案につなげていきます。最終的なビジョンは、政策提言まで踏み込んだ営業活動を行うことです。その実現を支える基礎をつくることが、この「生成AI活用ワーキンググループ」の仕事だと考えています。

野﨑 祐助(のざき ゆうすけ)
株式会社 日立製作所
公共システム営業統括本部 第四営業本部 第六営業部
主任
公共分野の営業部門において、省庁および自治体を主要顧客とするシステム提案に従事。
入社以来、社会基盤を支える行政領域における業務効率化や高度化をテーマに、システムの提案から導入・運用までを担当。 お客さまの構想や方針を踏まえ、業務課題の整理や最適なシステム提案を通じて、導入・運用を支援。現在は、デジタルトランスフォーメーション(DX)を意識した提案活動にも取り組み、生成AIなどの先進技術の活用を通じて、行政サービスの高度化に向けた取り組みを推進している。

土井 和就(どい かずなり)
公共システム営業統括本部 第一営業本部 第四営業部
企画員
入社以来、公共システム営業統括本部において、主に省庁の業務基幹システムの構築および運用保守を担当。社会インフラを支える行政サービスを途切れさせないという使命感を持ち、システム提案から導入後の安定稼働までを一貫して支援。ミッションクリティカルなシステムの信頼性確保を最重要テーマと位置づけ、技術部門と連携しながら、お客さまの業務継続を支える堅牢なシステム基盤の提供に尽力している。現在は、行政分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)を見据えた、次世代の公共サービスを支えるシステム提案活動に取り組んでいる。

河野 瑛吾(こうの えいご)
株式会社 日立製作所
公共システム営業統括本部 第二営業本部 第五営業部
企画員
入社以来、公共分野の営業部門にて、省庁向けシステム営業を担当。事務系システム全般の提案活動に従事。お客さまの業務課題解決に向け、技術部門と連携したシステム提案や、プロジェクトの円滑な推進支援を行う。加えて、公共営業部門の生成AIエバンジェリストとして、社内向けセミナーの企画・運営を行うとともに、自ら講師として登壇している。

石渡 充(いしわたり みつる)
株式会社 日立製作所
公共システム営業統括本部 第二営業本部 第五営業部
部長
入社以来、公共システム営業統括本部にて公共分野のソリューション提案に従事。主に顧客内の事務処理系システムやテキスト検索系システムの提案を行う。2021年に水営業統括本部へ異動し、全国上下水道の顧客向けにIT技術やセンシングを用いて顧客業務DXを支援するための提案に従事。2023年に公共システム営業統括本部に戻り、同本部内に生成AI活用WGを立ち上げ、営業業務効率化に向けた生成AIの適用を検討する活動を推進中。

大山 友和(おおやま ともかず)
株式会社 日立製作所 デジタルシステム&サービス営業統括本部
Executive Strategy Unit フロントサポートセンター チーフプランニングエキスパート
AIアンバサダー
コンサルティング部門にて、営業業務改革、新規事業の立上げなどに従事した後、日立コンサルティングにて、基幹業務システム構築などを担当。プロジェクトリーダーとして、システム企画・構築・運用全般を統括その後、営業バックオフィスを支える業務システム全般を統括。現在、営業部門の生成AI徹底活用プロジェクトの取りまとめとして、講演活動、ナレッジ蓄積、社内コミュニティ運営、人材育成などの取組みを推進中。
商標注記
- Microsoft SharePointは、米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標または商標です。
- Microsoft Copilotは、米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標または商標です。
- Microsoft Power Automateは、米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標または商標です。
- Microsoft Excelは、米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標または商標です。
- NotebookLMは、米国Google LLCの登録商標です。
- その他、本サイトに記載されている会社名、製品名は、各社の登録商標または商標です。
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