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2025年9月29日、日立製作所の研究開発グループが主催する研究討論会「人と地域と産業をつなぐ次世代モビリティ」において、「地域と公共交通が織りなす未来」をテーマにパネルディスカッションが行われました。
登壇したのは、ひたちなか海浜鉄道者株式会社 代表取締役社長 吉田 千秋氏、株式会社SD 代表取締役 古見 修一氏、株式会社みちのりホールディングス グループディレクター 浅井 康太氏。ファシリテーターは、日立製作所 研究開発グループ デザインセンタ 主任デザイナー 福丸 諒です。その採録を、前後編2回に渡ってお届けします。後編は、古見氏による、博覧会から見た未来のモビリティ、浅井氏による、自動運転の現在地とこれからについてのプレゼンテーションとディスカッションの模様をご紹介します。

地域と公共交通が織りなす未来(前編)から読む >

万博の描く未来

福丸
それでは次に、大阪・関西万博の「未来の都市」パビリオンの設計など、これまでさまざまな博覧会や展示会で未来を描かれてきた古見さんにお話を伺いたいと思います。

古見氏
大阪・関西万博でお手伝いさせていただいた「未来の都市」パビリオンは、予想を上回る190万人の来場者と未来がイメージできたという評価だったということでとても嬉しく思います。

画像1: 万博の描く未来

私は、万博の役割というのは「未来を具体化する」ということにあると考えています。

過去の例でいうと、1970年の大阪万博ではモノレールがデビューしました。日本型の跨座式という車両で、車輪を小さくしたり間口を広げたりして、非常に乗りやすい形にしたもので現在も多く利用されています。
1985年のつくば科学万博(国際科学技術博覧会)では、鉄道ではなくバスが多く使われましたが、そこでバスナビというものがお披露目されました。バスの現在位置をモニタリングして、どこ行きのバスがあと何分後に来るかを教えてくれる、今では普通にあるサービスはこのつくば万博が原点でした。
そして2005年の愛知万博では、「リニモ(Linimo)」という名の夢だったリニアモーターカーが、会場へのアクセスとしてお客さまを運びました。現在もジブリパークの中につながっています。
万博以外でも、1989年に開催された横浜博覧会ではゴンドラが交通手段として使われました。他にも、動くベンチと呼ばれる「横浜SK」やHSST方式によるリニアモーターカーが新しい交通手段として利用された、交通ファンにとってはとてもすてきな博覧会でした。

このように万博は、未来を具体化し試す場なのです。

画像2: 万博の描く未来

今回の大阪・関西万博で日立さんが協賛された「未来の都市」は、Society 5.0がテーマでした。博覧会協会と協賛12社による共同パビリオンで、約150m×30mという巨大なものでした。このパビリオンの中で日立さんがKDDIさんと協力して行った展示は、テッドくんという未来からやって来た主人公の案内で、3面の巨大映像の中でインタラクティブに未来を表現した展示を体験していただくものです。スマホによる投票で参加することで、「未来は自分たちで創ることができる」というテーマを体感していただける内容でした。
これも「未来を具体化する」ことで、参加者の夢を育むことにつながります。

画像3: 万博の描く未来

そして、今回のテーマから公共交通の未来イメージから、先日ドイツ・ミュンヘンで行われた「IAA MOBILITY 2025」 というモーターショーをご紹介します。

このモーターショーは展示施設の中で行われるのではなく、歴史あるミュンヘンの街角に、出展するメーカーがそれぞれ施設を建てるというものでした。いわば小さなパビリオンが街中に建てられている状態で、お客さまは地図を見ながら街中を歩いて見て回ります。面白いと思ったのは、子どもを対象にした展示やイベントを多くのメーカーが出展していたことでした。例えばフォードは、出展するクルマのラジコンカーを子どもが操縦できるコーナーを用意していましたし、BMWは縄跳びのプロチームがパフォーマンスを行って子どもに参加してもらっていました。

各メーカーが子ども向けの施策を行っているのは、単に子どもを楽しませるというだけではなく、子どもにモビリティの楽しさと興味をつくり理解してもらおう、未来の種まきをしようという意図だと感じました。

画像4: 万博の描く未来

そしてこのモーターショーには「公共」というゾーンがあり、テーマは「モビリティは一緒に利用してこそ機能がある」、それはモビリティは公共交通機関、シェアモビリティなど多様なモビリティサービスを統合、連携することで本来の機能になること。ドイツ最大の国有鉄道であるDB(デーベー:Deutsche Bahn) グループが新型の車両で座席に座っていながら時間的なコネクションをベースに鉄道や飛行機、公共交通機関やカー、バイクシェアリングの手配ができるといったデモンストレーションが行われていました。これもモビリティの新しい移動の自由を体験し理解してもらうための有効な展示でした。

私は、このイベントで伝えたかったメッセージのひとつは、「モビリティは、クルマや鉄道だけではなく、それを支えるエネルギーや環境もモビリティの中にあるのだ」ということではないかと考えています。モビリティは、格差をなくし、平等も、平和も作り出す可能性を持つ知恵と力です。人は移動によって生きます。私はもっと身近で、もっとやさしくモビリティが進化することで、新しい文化が生まれ、新しい社会システムが生まれるのではないかと考えています。

福丸
モビリティは力だ、という指摘は、もっと深掘りしたくなります。
モビリティーショーでそこまで各メーカーが子どもを強く意識するのはなぜなのでしょうか。

古見氏
子どもはクルマが大好きですし、未来のカスタマーであることは間違いありませんが、「未来を生きるのは子どもなのに、これからの交通システムを大人だけで決めていいのか?」という問題提起ではないでしょうか。

子どもの発想を未来のまちづくり、車づくりに生かしていくためには、車や社会に興味を持ってもらわなければ何も始まりません。それに気づいたメーカーや企業が、子どもを特に意識した展示を行ったと理解しています。

自動運転の現在地とこれから

福丸
最後は国内初の中型バスによるレベル4の自動運行を実現した「ひたちBRT 」をはじめ、日本各地の公共交通の最適化に取り組まれているみちのりホールディングス の浅井さんに、自動運転の現在地、そしてさらなる普及や高度化のために必要なことなどをお話しいただければと思います。

浅井氏
最初に、私たちの会社がどんなストラクチャーになっているのかをご説明します。この絵にあるように、各地方の交通会社にみちのりホールディングスの人間が経営者として入って、それぞれの経営責任を負います。これが縦串です。そして私のような専門性を持った横串のメンバーが、各会社に共通するテーマを解決していく。こういったストラクチャーでグループ経営を行っているのがみちのりホールディングスです。私は、その中で各社のデジタル化を推進する役割を担っています。

画像1: 自動運転の現在地とこれから

今日は自動運転の話を中心にさせていただきます。自動運転の実装にはあとどれくらい時間がかかるか、皆さんはどんなイメージをお持ちでしょうか?

私は先月、中国の広州にある自動運転関連の企業に行ってきました。私が泊まったホテルから40kmほど離れた場所にその企業はあるのですが、当日はホテルのエントランスまで自動運転車が迎えに来てくれました。レベル4の無人運転なので、運転手は乗っていません。道は自動運転の専用道路などではなく普通の一般道や高速道路で、割り込んだりウィンカーを点けずに車線変更するなど、ルールを守らない人がとても多い中でしたが、自動運転車はカメラで道路の状態を確認しながら、問題なく私を目的地まで乗せてくれました。技術的には、もうそんなことが実現できているレベルなのです。自動運転はもはや絵空事ではなく、どう社会実装していくのかという段階に来ています。

次に、日本の事例をご紹介します。茨城交通の「ひたちBRT」は、日本で最初の中型バスによるレベル4の自動運行を行っている路線です。鉄道の廃線跡地をバス専用道路にしており、1日8便が営業運転しています。2025年2月から運行を始めて、総走行距離は8月に6,000kmを超え、レベル4で走る実力もついてきました。現在は特定自動運行主任者という自動運転システムを監視する人間が運転席に座っていますが、2026年3月からは遠隔監視によって、完全に無人で運行することが決まりました。

画像2: 自動運転の現在地とこれから

自動運転サービスは、UberやGoogleなど米国や中国が先行していますが、誰もが利用できるパブリックなバスのサービスというのは、世界でも「ひたちBRT」以外にまだありません。国内でもレベル4で完全に人が介在しない自動運転をめざしているのは8事例で、遠隔監視型で労働生産性を高めるような取り組みはわずか2例です。「ひたちBRT」の遠隔監視型による自動運転は、サービスモデルをつくるという意味で、すごくチャレンジングな取り組みです。

画像3: 自動運転の現在地とこれから

自動運転を社会実装するのに、何が必要だと思いますか?
この問いに対する回答として、技術的な内容を思い浮かべられた方が多いかもしれませんが、私は技術的なことは後で考えればいいと思っています。それよりも、先ほど古見さんに見せていただいたような、未来のモビリティの姿を描くことの方が重要です。そのために新しいサービスモデルを想定し、さらに具体的なビジネスモデルも考えなければなりません。サービス運行に必要な運用モデルも作る必要があるし、そのサービスを継続していけるのかという事業性も検討しなければなりません。

ビジョンを描いて、それを多角的な視点から検討して課題を解決することが一人でできるようなスーパーマンは現実にはいません。ですからこうした課題を、それぞれの分野に精通した人に橋渡しする役割を担う人間が、実はとても重要になってきます。事業の課題、制度の課題、技術の課題、そういった課題を、多くの専門家にきちんと橋渡しできるような総合格闘技系の人が必要です。

自動運転を社会実装する時、未来のあるべき社会像から、現実のビジネスモデルにいかにブレークダウンするか、その能力が問われます。
この車の本体価格は何円で、何年で減価償却するのか。メンテナンスコストは年間いくらか。盗難されることはないのか。理想と現実の間に山のようにある細かい課題を解決していくことで、ビジネスとして何をケアするべきなのか、ということが見えてくる。そういった仮説や検証を繰り返して真に解決するべき技術課題が見つかれば、それはユニークで競争力のあるアプローチになると私は思っています。

画像4: 自動運転の現在地とこれから

福丸
未来を空想で終わらせないためには、運用課題へとブレークダウンする能力が必要だという指摘は、とても参考になりました。
私たちにも時々「これからの社会の将来像を描いてほしい」という仕事が来ることがありますが、とても難しい課題だと日々感じています。

本日のパネルディスカッションが、聴講の皆さまが未来を描く際の示唆の一つになっていれば幸いです。ありがとうございました。

画像5: 自動運転の現在地とこれから

「日立市×日立 次世代未来都市共創プロジェクト」の記事一覧はこちら >

画像1: 地域と公共交通が織りなす未来(後編)
- 研究開発グループ研究討論会 「人と地域と産業をつなぐ次世代モビリティ」採録

古見 修一(ふるみ しゅういち)

株式会社SD
代表取締役
1975年、コミュニケーション/集客施設を総合企画するデザイン・建築事務所を設立。国際・地方博、企業博物館や展示館、イベントの建築・展示・映像・グラフィックを一体プロデュース。ミラノデザインウィーク2016–2018ではパナソニック出展を企画・デザインし、3年連続でミラノデザインアワード受賞。

株式会社SDのWebサイト

画像2: 地域と公共交通が織りなす未来(後編)
- 研究開発グループ研究討論会 「人と地域と産業をつなぐ次世代モビリティ」採録

浅井 康太(あさい こうた)

株式会社みちのりホールディングス 
グループディレクター
2009年京都大学院工学研究科修了。民間シンクタンクで環境・エネルギー・モビリティ領域のリサーチ、新規事業支援、自動運転コンソーシアム立ち上げに従事。のち高速バス会社で新規事業企画と安全推進室長を兼務。2017年より株式会社みちのりホールディングス。現職はグループディレクターとしてCASE領域を全社横断で推進。

株式会社みちのりホールディングスのWebサイト

画像3: 地域と公共交通が織りなす未来(後編)
- 研究開発グループ研究討論会 「人と地域と産業をつなぐ次世代モビリティ」採録

吉田 千秋(よしだ ちあき)

ひたちなか海浜鉄道株式会社
代表取締役社長
ひたちなか海浜鉄道代表取締役社長。1988年、富山地方鉄道に入社。加越能鉄道、万葉線を経て2008年に現職就任。地域鉄道の共創による再生と人材育成を牽引。国土交通省「地域公共交通マイスター」、ローカル鉄道・地域づくり大学 学長。

ひたちなか海浜鉄道株式会社のWebサイト

画像4: 地域と公共交通が織りなす未来(後編)
- 研究開発グループ研究討論会 「人と地域と産業をつなぐ次世代モビリティ」採録

福丸 諒(ふくまる りょう)

株式会社日立製作所
研究開発グループ Digital Innovation R&D デザインセンタ UXデザイン部兼未来社会プロジェクト
主任デザイナー
2009年日立製作所入社。社会イノベーション事業を専門とするデザインコンサルタント。交通やエネルギーなど社会インフラ領域における新事業開発、ビジョンデザインやトランジションデザインなどデザイン研究に従事。

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