社会全体でデジタル化が加速し、データがわれわれの日常やビジネスを支えるようになって久しい。企業においてはIoT(モノのインターネット)やビッグデータ活用が当たり前となり、業務システムの規模や容量も拡大の一途をたどっている。さらにクラウドサービス利用の活発化や、AIの急速な浸透がデジタルインフラの重要性を浮き彫りにし、多くの組織が改めてデータセンターに注目している。
特にAI利用においては、モデルの学習や推論処理に膨大な演算リソースを必要とするため、多数のGPUサーバーを設置できるデータセンターへのニーズが世界中で急増している。国内も例外ではなく、各地で建設計画が進んでいる。政府も2030年代にデータセンターの集積拠点を国内に複数設ける方針を掲げるなど、官民一体で新設ラッシュに向けた機運が高まっている状況だ*¹。
*¹:総務省「デジタルインフラ整備計画2030」より。
だが、その投資集中の陰には根深い課題が横たわる。膨れ上がった需要がインフラの許容量を脅かし、結果として特定地域への立地の過度な集中や電力不足といった問題が深刻化している。また、今やデータセンターは単なる情報処理基盤ではなく、雇用創出などの地域貢献、環境との調和など社会インフラとしての役割も求められている。これらの課題をどう解決するのか――データセンター事業者をはじめ、SIerや通信事業者、ユーザー企業などデータセンターに関わる企業にとって、建設、運用のハードルは高まり続けている。
データセンター建設ラッシュ 新規参入を阻む課題
データセンター事業に深い知見を持つ日立製作所(以下、日立)の河内山春奈氏は、次のように指摘する。

河内山春奈氏(日立製作所 戦略SIBビジネスユニット Manager, Japan DC Business 兼 AI&ソフトウェアサービス ビジネスユニット データセンター事業本部 DC戦略部 主任技師)
「まず、データセンターの建設にかかるコストが高騰しています。人件費や資材だけでなく、データセンターの適地とされる大都市近郊の用地価格も上がり続けている他、建設ラッシュによって送配電網の不足も深刻さを増しています。さらには、近年はAI利用のために多数のGPUサーバーを稼働させるデータセンターが増えてきました。GPUの発熱量は非常に大きいため、故障を防ぐためにも冷却技術や設備の調達が課題になっています」
同社の松榮直人氏によると、世界的な環境意識の高まりもデータセンターの建設や運用のハードルが上がる要因になっているという。
「データセンターの最大の利用者は欧米のメガクラウドベンダーです。欧米企業は二酸化炭素(CO2)排出量の削減や電力使用量の抑制に極めて敏感で、サステナビリティに配慮したプロジェクトに資金が集まる『グリーン投資』も盛んです。こうした潮流を受けて、これからのデータセンターはグリーンやサステナビリティに配慮しなければ、ユーザーに選ばれないばかりか資金調達も難しくなると考えています」
これらの課題に対し、日立が提示する“解”が「グリーンデータセンター構想」だ。その名の通り、環境に配慮したデータセンターを実現するもので、データセンター事業に関わる多様なステークホルダーを巻き込んだ新たな事業の枠組みを構築することを企図しているという。
日立は、このグリーンデータセンター構想の実現に向けて2つのアプローチを核に据えている。一つは、“One Hitachi”による「トータルインテグレーション」。もう一つは、企業や業界の垣根を越えた「パートナーエコシステム」の構築だ。
One Hitachiで提供するデータセンターのトータルインテグレーション
まず「トータルインテグレーション」とは、日立グループが持つOT(Operational Technology)とIT(Information Technology)の総合力を結集し、生成AIを利用した立地選定から建設、運用に至るまでをワンストップで支援するソリューションを指す。

日立のデータセンター戦略の全体像
特徴は、データセンターを支える高圧変圧器や無停電電源装置(UPS)などの設備と機器の知見はもちろん、既に実績を挙げている日立の各種専門サービスを結集して多様な顧客ニーズに対応できることにある。AIを活用したデジタルアセットマネジメントサービスを提供する「HMAX」(Hyper Mobility Asset Expert)、クラウド運用の継続改善を伴走型で支援する「Hitachi Application Reliability Centers」(HARC)、サーバー/ストレージの高度な技術力を基に、環境負荷を低減するAIインフラソリューションを提供する「Hitachi iQ」といったサービス群を用意。これらをトータルソリューションとして提供して、顧客の要望に高度かつ柔軟に応えられる体制を整えている。

“One Hitachi”で提供するトータルインテグレーション
日立もかつてはさまざまな部門やグループ会社が個別に製品/サービスを提供してきた。しかし顧客の課題を解決するためには、グループが一体となった“One Hitachi”として提供すべきだとの考えから、各部門を横断してソリューションを取りまとめる部門を設けてトータルインテグレーションを用意しているのだという。
「電力効率を向上させるための高圧変圧器や、建設期間とコストを抑制できる『次世代型原発』という小型モジュール炉(SMR)、空調および冷却装置といったOT領域の製品/サービスと、インフラ運用やアプリケーションなどIT領域の製品/サービスを提供しています。OTとITの両面でデータセンターをトータルインテグレーションできるのが日立の最大の強みです」(河内山氏)
これにより、冒頭で挙げたようなデータセンターの建設や運用に関わるさまざまな課題を効率的に解決できる。
「建設コストの高騰という課題には、運用コストを圧縮して対処できます。当社の運用改善支援サービスであるHARCは、システム運用の自動化を推進するSite Reliability Engineering(SRE)の手法に基づき、システムの俊敏性と信頼性の両立、運用コスト削減などを実現します」(河内山氏)
GPUの発熱問題については、グループ内外の冷却技術を総動員して対処している。環境問題にも、同社は環境長期目標「日立環境イノベーション2050」で「2030年までに事業所のカーボンニュートラル達成」という目標を掲げて取り組んでいる。この過程で培ったグリーン技術をデータセンター事業にも投入している。
「このようにOTとIT、環境関連の技術を一体で提供できることが当社の強みです。データセンターの新設時に設備や機器、ソフトウェア製品を用意するだけではなく、より最適な運用に向けて稼働後も支援します。もちろん、既にいくつかの課題を自力で解決している場合、自社に足りないソリューションのみを導入していただくことも可能です」(河内山氏)
多様なプレイヤーとの「共創」を実現するパートナーエコシステム
グリーンデータセンター構想を支えるもう一つの核、パートナーエコシステムの構築では、日立一社の力で全てを賄うのではなく、業界の垣根を越えた多様なプレイヤーの知見や技術を結集することをめざす。これにより、データセンター事業者の多様なニーズに応える体制も強化しつつあるという。
河内山氏は、自社のポートフォリオを強化・補完する上で、パートナーとの連携は不可欠だと語る。
「日立グループはデータセンターに関する広範なポートフォリオをそろえていますが、それでも全て網羅できるとは限りません。新しい技術が登場すれば、素早くキャッチアップしてお客さまに価値を届ける必要もあります。そのために当社が持っていない技術やソリューションを持つ企業とのパートナーシップを強化したり、M&Aによってポートフォリオを拡充したりする戦略を推し進めたいと考えています」(河内山氏)
パートナーと共に描く、次世代デジタルインフラの未来像

松榮直人氏(日立製作所 AI&ソフトウェアサービス ビジネスユニット GX事業本部 ビジネスアレンジメントセンター)
前述の通り、グリーンデータセンター構想の背景には、AIとクラウドの進化によって社会インフラが急速に変化している現状がある。昨今、教育や医療、行政などあらゆる分野がデジタル化された。しかし、その基盤となるデータセンターの進化を支えるには膨大な電力が必要であり、2030年には世界のデータセンターの電力需要が現在の約2倍に達するという予測もある*²。
*²:IEA(2025),Energy and AI,IEA,Paris
急増するデータセンターおよび電力の需要に応える一方で、環境負荷の抑制も避けては通れない。この矛盾をどう乗り越えるか――今問われているのは、経済成長と環境保護を両立するデジタルインフラの在り方だと松榮氏は語る。
「日立は、電力とITの双方に強みを持ち、データセンターへの電力供給や冷却、運用までを支える技術と経験を有しています。また、『Lumada』を核としたデータ利活用の知見を含めた日立グループの総合力を結集、活用することも可能です。ここに、多様なパートナー企業の皆さまと連携することで生まれるシナジーを加えることで、企業横断でグリーンなデジタルインフラの実現に取り組みたいと考えています」(松榮氏)
具体的には、地域ごとの条件に応じて最適なグリーン電力を選定し、安定的に供給する仕組みづくりなどが挙げられる。また、エネルギー効率を高める設備設計を通して、環境配慮型のインフラを構築するといった計画もあるという。

日立が取り組むグリーンデータセンター構想による、グリーンな電力提供のイメージ
環境の観点以外でも、日立が描くデータセンターの役割は広がっている。単に電力を“使う”だけでなく、地域の電力系統と接続し、平時には安定供給、災害時にはバックアップとして活用できるようなレジリエンス機能にまで構想の範囲を広げている。
単なる設備ではなく、社会全体の成長と持続可能性を支える存在へ。日立がめざすのは、経済成長、環境保護、地域貢献を同時に実現する次世代のデジタルインフラだ。
松榮氏は「多様なパートナーの皆さまと共に、グリーンデータセンターを創りあげていきたいと考えています」と語り、笑顔を見せる。
現在はクリーンエネルギー中心の社会経済システムへの転換期にある。目前の課題を解決できるか否かだけではなく、運用を改善し続けられるか否か、これからの課題にも取り組んでいるか否かは、“投資”の重要な判断基準と言えるだろう。自社の課題、目的、展望を基に、同社のワンストップソリューションを検討してみてはいかがだろうか。

*Google Cloudおよび関連するサービスは、Google LLCの商標です。
*Microsoftは、マイクロソフトグループの企業の商標です。
ITmedia 2025年07月15日掲載記事より転載
本記事はアイティメディア株式会社より許諾を得て掲載しています
Digital for all. ―日立製作所×ITmedia Specialコンテンツサイト