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AIの進化は業務効率化の域を超え、ビジネスの根幹を揺るがしている。企業と個人は、この変革の時代にどう適応すべきか。2025年7月に開催されたイベント「AI BUSINESS CONFERENCE 2025 in 東京」(スマートキャンプ株式会社主催)内での、日立製作所(以下、日立)の吉田順氏、経営学者の入山章栄氏、圓窓の澤円氏によるパネルディスカッションから、AIがもたらすビジネス変革の本質と未来への指針を探る。

AIは「使うのが当たり前」 経営の在り方を変革させる存在に


振り返ると2018年ごろから生成AIの進化が加速し、2020年に一気にスパイクして「明らかに時代が変わるな」という空気を感じました。AIは従来のITツールと違い、経営そのものを変えるパワーを持っていますね。

画像: 入山章栄氏(早稲田大学大学院 経営管理研究科 早稲田大学ビジネススクール 教授)

入山章栄氏(早稲田大学大学院 経営管理研究科 早稲田大学ビジネススクール 教授)

入山
おっしゃる通りです。あるスタートアップ企業は、独自AIを軸にわずか27人で売り上げ約140億円を達成しています。1人当たり数億円以上稼いでいる計算です。中途半端な変革をしている企業は、こうしたAIベースのスタートアップに淘汰(とうた)されてしまうかもしれません。


商用インターネットが一般消費者に広まり始めた1995年当時、「こんなものは趣味の世界でしか使えない」と言うビジネスパーソンも多かった。しかし今や、インターネット抜きでビジネスをするなんて不可能です。しかもAIは労働力に直接影響する分、インパクトはインターネット以上です。

入山
米国の著名な経営学者であるジェイ・バーニー教授は、「生成AIだけでは持続的な競争優位の源泉にはならない」という論文を発表し、世界に強烈なインパクトをもたらしました。AIが当たり前になった後、いかに付加価値を生むかが問われます。私は先日、バーニー教授と対談したのですが、現場が強みを持つ日本企業はAIの良さを生かせる可能性が高いと期待を語っていました。


日本の現場というと、クオリティーの高さや、それを維持しようという責任感の強さが特徴です。これは明らかにAIと相性が良いですよね。

吉田
そうですね。ただ、ハルシネーションの印象から「AIは使えない」と考える層と、活用を前提とする層で二極化が進んでいると感じます。

入山
そうですね。あるIT企業のトップは「今の生成AIが使うデータは人類が持つデータの1%に過ぎない」と言っていました。残りの99%は企業の中にあるのですが、そのほとんどが使われていない。散在しているデータを、LLMではなく小規模な言語モデルを用いていかに学習させ、プライベートAIを作るか。そしてそれをいかにうまくパブリックAIと組み合わせるかが勝負になると。

吉田
日立、そして当社のお客さまも企業の中にあるデータをどうやってAIに入れ、量と質を高めるかに取り組んでいます。2025年になってユースケースも花開きつつあり、システム開発の生産性を高めたり、電力、鉄道、製造業の保守を効率化したりといった部分にAIを活用しています。

今後はドメインナレッジが重要 AI時代だからこそ「現場に足を運べ」生成AIの精度と生産性の両立

入山
これほど激震をもたらすAI時代に生き残れるのは、「ドメインナレッジ」を持ち、ジャッジを下せる人財だと思います。僕自身、原稿執筆活動に生成AIを使っており、昔は3週間かけて書いていた記事が1日足らずで仕上げられるようになりました。でもそれができるのは、自分に経営学に関するドメインナレッジがあり、AIが提案してきた内容を正しく判断できるからです。

画像: 吉田順氏(日立製作所 Generative AIセンター センター長 兼 Chief AI Transformation Officer)

吉田順氏(日立製作所 Generative AIセンター センター長 兼 Chief AI Transformation Officer)

吉田
よく分かります。AIの間違いを判断できるようになるためにも、逆説的ですが、AI時代だからこそ現場に足を運ぶことが大切になるのではないでしょうか。

入山
冨山和彦氏の書籍『ホワイトカラー消滅』は、この先、仕事における価値に「スマイルカーブ現象」が起きると説いています。現場から上がってきた情報を整理して上層部に提出するという、これまで中間管理職やバックオフィスが担ってきた中流の仕事はAIが得意な分野です。つまりこの先、この仕事の価値はほぼゼロになるでしょう。一方、大きな意思決定を下して遂行し、責任を取る上流の仕事と現場の仕事はAIでは代替できず、価値が高まる。これまで中流の仕事を担ってきた人財をいかに上流と現場にシフトさせるかが、今後数年間の日本企業の最大の課題になるでしょう。そしてこれは、現場が強い日本企業にとって大きく飛躍するチャンスです。

AIで変わる、企業と個人の「真価」

吉田
どのようにAIを使うべきか、悩まれている企業もまだ多いようです。議事録や資料作成の支援だけでなく、より効果を生み出すにはどのように使うべきか。ユースケースをどう作り、人財をどう育成するか。実際にこういった相談を受けるケースが多いですね。生成AIで何ができるかについての理解を深めることと、生成AIは間違えることもあるという前提を踏まえ、どの業務ならば適用できるかという“目利き”を磨くことが大事です。


入山さんもそうした相談を山のように受けていると思いますが、どのように答えているんですか?

入山
正解がない時代ですからね。意思決定の場数を踏み、吉田さんが話していた通り現場に行くしかないと思います。もはやオフィスにいても何の価値も生み出せませんから、「オフィスにいないでください」とお願いしていますね。


同感です。イケてる経営層やIT責任者ほど、工場などの現場に足を運んでいますよね。

入山
もう一つ付け加えると、AIが当たり前になると情報がコモディティ化し、誰でも同じことを言える時代になってきます。結果「何を言ったか」よりも「誰が言ったか」が問われる時代になるはずです。ですからAI時代こそ、ブランディング――その人、その企業が持つ信頼性や人格が重要です。


僕が思うにもう一つ、世の中をこうしていきたいという「Will」、意思もAIにはないものですよね。

入山
そうですね。日本は大手企業を中心に、「自分は何をしたいのか」の意思の言語化が十分ではない人が意外と多い。「あなたは何をしたいのか」を一人一人が考えることも必要でしょう。

モノを組み合わせたエッジAI、フィジカルAIがもたらす変革

吉田
まだ「AIってどうなの?」と疑念を抱いている人もいるため、AIを理解して使いこなす文化の醸成も大事です。日立はCenter of Excellence(CoE)組織「Generative AIセンター」を作り、日立グループ28万人全体でAI活用を推進しています。ただ、28万人で実践するのはやはり大変で、トップダウンとボトムアップの両面から進めることが重要だと思っています。当社の場合は「AIで日立を変えるんだ」というトップメッセージを出し、組織整備や投資とともに、さまざまな活動を通してボトムアップで実行していこうという機運も醸成しています。


日立は、エンジニアリングやテクノロジーへの理解が深い人が経営を動かしていることが魅力ですね。

吉田
そうですね。われわれから「こういうふうにAIを活用したい」と提案したときの判断基準に、テクノロジーとビジネス両方の視点が入っていることは当社の推進力につながっています。


新たな時代に乗り遅れないためには、テクノロジーにリスペクトを持つ人が経営を担っているか。あるいは自身がそれほど明るくなくてもそのことを認め、現場に任せることができるか。ここが重要ですよね。

AI活用を全社で推進する組織体制と経営陣の役割

吉田
日立のAI関連の投資の一つにデータセンターの構築があります。大量のGPUサーバーを導入し、日立のさまざまなデータを学習させ、ナレッジを残そうという取り組みです。日立グループは、空調機や変圧器などのメーカーでもあります。データセンターは今、カーボンニュートラル規制でCO2排出量の削減やグリーン化などが求められており、当社は水冷、液冷など最新テクノロジーを取り入れながらこの課題にも向き合っています。

画像: 澤円氏(圓窓 代表取締役)

澤円氏(圓窓 代表取締役)


ビッグテックの企業といえども、自社で空調まで作れるところはそうありませんよね。

吉田
もう一つ特徴的な取り組みが、エッジAI、フィジカルAIです。日立が生産している鉄道車両にはすでにさまざまなセンサーが搭載されています。さらに現在は、車両にGPUサーバーそのものを搭載し、エッジAIでリアルタイムに状況を判断できるようにしています。


今のお話はさまざまな分野に応用の利く発想ですね。クラウドにつないでLLMを使うことだけがAI活用ではなく、小さなエッジの部分で特定業務に特化したAIを導入すれば、現場に人を張り付けなくて済む。ビジネスのボトルネックの一つは「移動」です。人の移動時間を最小化できれば、何かを生み出す時間を増やせます。
この発想は、製造業だけでなくサービス業や学校、医療など幅広い分野で応用できます。

吉田
そう思います。最近は生成AIから「エージェントAI」へ、その先は「フィジカルAI」へといわれています。フィジカルと聞くとロボットを想像する人も多いと思いますが、当社は物理的な鉄道車両を用いたHMAX※のように、フィジカルAIの時代に向けた新しいDXの形を引き続き模索し、ソリューションとして提供したいと考えています。
※日立レールが展開する鉄道事業者向けのデジタルアセットマネジメントプラットフォーム。日立のドメインナレッジとAIを組み合わせ、鉄道の効率的な運用や保守をめざす。


かつて、自動車の大量生産が始まった第二次産業革命の前後、1900年と1910年とでニューヨークの様相はガラッと変わりました。1900年には道路上に馬車しかいなかったのに、10年後には全ての馬車が自動車に置き換わっていました。その歴史を考えると、AIで世界が変化するのに10年もかからないでしょう。そしてそれは2次元の世界で起きる物語ではなく、フィジカルAIのように現実の世界に入り込んできているんですね。

吉田
だからこそ、人とAIがどのように共存するか考えていくこともも大切です。AIで職が減ると危惧する声もありますが、そうではなく、人財不足などの課題を解決して「人を助けるAI」をめざすことが重要です。同時に、精度や信頼性だけでなく、現場にとって使いやすい、より良いUXを提供するという視点も欠かせません。日立の強みを生かしながら、今後はアナログや物理的なものとAIを組み合わせたソリューション開発に注力したいですね。

「AI BUSINESS CONFERENCE 2025 in 東京」開催概要
開催: 2025年7月2日(水)
会場: 東京ミッドタウン ホール&カンファレンス
主催: スマートキャンプ株式会社
特設サイトURL:https://event-page.jp/abc

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