【第2回】「住めば健康になるまち」へ、「デジタル健康・医療・介護の推進」分野の取り組み(前編)から読む >
日立市の未来設計図
―― 3つのテーマについて、それぞれがめざす世界を詳しく教えてください。

加納
まず「地域医療のデジタル化」は、オンライン医療相談・診療は【前編】でお話しした通り、中学生以下を対象にサービスがスタートしています。2031年を考えますと、上図の右側の絵にあるようにオンライン診療を受けたあと、家にいながらドローンが薬を配達してくれるという未来が実現できるかもしれません。オンライン予約とオンライン受診順番の確認は、市内の医療機関にはそれほど普及していないので、デジタルの便利さを感じてほしいと考えています。

加納
「健康データの集約・活用」では、健康に関するデータをAIを活用して分析し、一人ひとりに合ったアドバイスを提供するなどの健康維持サポートに加えて、健康に関する教育も重要と考えています。小さい頃から健康に関する教育を受けることによって、健康意識の高い人を増やしていくと同時に、子どもを起点に親の健康を気遣うような流れを作れないか……。そんなことも考えています。アプリを使った健康サポートも、健康ポイントをゲーム感覚で集めることで地域の仲間と交流したり、社会との新たな接点の構築につながればと考えています。

加納
「地域包括ケアシステムの構築」では、市民にとって身近な場に健康・医療・介護に関する相談の場を作るという将来図を描いています。今は、私たちは医療や健康に関する困りごとがあれば病院に行かないといけませんし、介護に関して気になることがあれば市役所や介護士に相談しないといけません。このハードルを下げるために、例えば地域の交流拠点にテレワークブースのような設備を作って、もっと気軽に専門家やAIのアドバイスが受けられるようにしたいと思っています。それは、今後医療・介護従事者が減っていく中で、少し気がかりな症状がある方のセーフティネットになると考えています。

加納
病院や薬局、介護士やケアマネジャー、さらには利用者の家族など多職種間での情報連携は、高齢化が進む中で解決すべき課題です。私たちも実証を行いながら、解決策を見つけていきたいと思います。

プロジェクトによる意識の変化
―― わかりやすくグランドデザインに落とし込むまでには、日立市と日立製作所の多くのディスカッションや共同作業があったと思います。プロジェクトに関わるなかで、気づかれたことはありますか。
蛭田氏
市だけでは解決できないことも、日立製作所の技術力や知見をお借りすることで乗り越えることができる。そんな手応えを日々感じています。
桧山氏
私も同じことを感じています。市と日立製作所の両者が率直に意見交換することによって、新たな気づきを得られたり、取り組むべき方向性を見出したりできると思っています。
―― 日立製作所として、得られた気づきはありますか。
松永
私たちは民間企業なので、市の困り事や課題を解決する中にビジネスチャンスを見つけていかなければなりません。市民の皆さまの期待に応えながら、全国にスケールできるような解決策を作る必要がある。これを両立させることの難しさを感じています。

加納
日立製作所の社員である私は、日立市との共創プロジェクトとして取り組めているということに助けられる場面があります。例えば、施設に伺って何かヒアリングさせていただきたい際に、日立製作所の人間だけで伺うと、この人たちは何か商売をしに来たのではないか、何か買わされるのではないかと不要な不安感を与えてしまうことがありました。しかし共創プロジェクトに取り組む立場として市の方々と一緒に訪問しますと、そういった不安感を与えてしまうことなく、本音でご意見を話していただけます。行政と民間のコラボレーションには、そういったプラスの作用があることを、実際に動いてみて感じました。
お互いの存在
―― 日立市から見て、日立製作所はどういった存在ですか。
桧山氏
日立製作所は、日立市に雇用を生み出してくださっている存在でもありますし、そういう意味で地域経済の基盤です。それだけでなく、地域の小学校では、理科クラブなど、日立グループを退職された技術者の方が理科の実験を見せてくださったり、地域のコミュニティに行けば、そこのまとめ役をされていたりなど、いろいろなところで日立製作所の現役の方や退職された方が、行政に関わっていただいていて、非常に大きな存在であり身近な存在だと思います。

蛭田氏
私はこの共創プロジェクトの前に高齢福祉課にいまして、介護予防のところでデジタルの操作に困っている方々に操作を教える相談コーナーを企画していました。そこに関わってくださっている70代、80代の相談員の方も、日立製作所を退職された方々が中心でした。県内初のICT(パソコン教室など)による社会貢献を目的としたNPO法人を立ち上げて20年くらい活動を続けられていて、いつも本当に頼りになる存在だと感じていました。ちなみに、昨年、その長年の活動が認められ、内閣府から表彰を受けていらっしゃいました。

―― 日立製作所から見て、日立市はどんな存在ですか。
加納
個人的な話になりますが、私は私生活でも住民票を移してこのプロジェクトに参加しています。日立市は、私にとっては第2のふるさとです。今の仕事は、そのふるさとの未来を考え、作っていくことだという強い思いを持って取り組んでいます。
松永
日立市は創業の地なので、日立製作所のふるさとであることは変わらないし、お互いの存在が深く密接に関わって今があるわけですから、それはこれからも変わらないと思います。今取り組んでいるテーマは「デジタル健康・医療・介護の推進」ですが、実はこれに先行する事例が以前にもありました。
具体的には、日立市の協力を得て日立総合病院呼吸器内科医師と日立健康管理センタの医師が住民3万人以上を対象とした「日立市における低線量CT検診の有効性を評価するコホート研究」(2019年)を実施しました。その結果、低線量CT検診を受けた人と同時期にエックス線検診のみを受けた人を比較したところ、低線量CT検診が肺がんの早期発見に寄与することが明らかになりました。
現在、日立市内では、健康診断における肺がん検査に、一般的なレントゲンに加えて低線量CT検査も導入しており、日立総合病院や日立健康管理センタのほか、日立市健保センターや日立市十王総合健康福祉センターなどで検査を受けられます。CT検査は高額ですが、市が補助を出すことで市民はわずかな負担で検査を受けることができ、その成果として、肺がんの早期発見、早期治療によって、日立市民の肺がん死亡率は、この取り組み当初で全国平均より約20%、現在では他地域でもCT検査が広まり差が縮まったものの、今でも全国平均より約10%低く抑えられています。これは全国でも珍しい事例です。市民の健康維持・増進を企業と市が連携して実現する、素晴らしい事例がすでに日立市にはあるのです。ですからこのプロジェクトも、地方創生のお手本になって持続可能な社会を作ることに必ず貢献できる、そう思って日々取り組んでいます。
「日立市×日立 次世代未来都市共創プロジェクト」の記事一覧はこちら>

7/17(木)9:50-10:50
ビジネスセッション「市民参加型による未来都市の実現に向けて」
山積する社会課題の解決、そして環境・幸福・経済成長が調和する「ハーモナイズドソサエティ」の実現をめざす日立製作所は、創業の地である日立市とともに「次世代未来都市」に向けチャレンジしています。(取り組み領域は、エネルギー、交通、ヘルスケアなど。)
日立が得意なデジタルを活用した次世代社会システムの整備は有力な解決手段です。 そしてさらに、両者の「共創プロジェクト」がめざすのは、市民が自ら参加し創る未来社会。住みやすい地域や都市づくりには何が必要なのか。本セッションでは、日立市のプロジェクトリーダーである小山修氏、自治体でのアドバイザー経歴もある山口周氏、生まれ故郷の町おこしに尽力するバービー氏を迎え議論していきます。
無料参加申し込みはこちら

蛭田 直美(ひるた なおみ)
日立市
共創プロジェクト推進本部 課長(健康・医療・介護担当)
1990年に日立市役所に入所。窓口業務、高齢者福祉に携わった後、2025年より現職。

桧山 泰範(ひやま やすのり)
日立市
共創プロジェクト推進本部 課長補佐
2003年に日立市役所に入所。税務や福祉、地域医療などの業務に携わった後、2024年より現職。

松永 権介(まつなが けんすけ)
株式会社 日立製作所
社会イノベーション事業統括本部
ウェルビーイングソサエティ事業創生本部 ウェルビーイングソサエティ第一部 部長
兼 ひたち協創プロジェクト推進本部 デジタル医療・介護推進センタ 副センタ長
2000年日立製作所入社。産業系IT営業を担当後、2007年にグループ公募で省エネエンジニアに社内転職。社会イノベーション事業推進や新規事業開発を経て、2020年から2年間大阪万博協会に出向。2022年復職後から現職。

加納 秀弥(かのう しゅうや)
株式会社 日立製作所
社会イノベーション事業統括本部
サステナブルソサエティ事業創生本部 サステナブルソサエティ第一部
兼 ひたち協創プロジェクト推進本部 デジタル医療・介護推進センタ 市役所常駐者
2023年日立製作所入社。産業系のアカウント営業を担当。2024年より現職。