第9回 「EV車載バッテリの再利用でめざす循環モデル構築」はこちら>>
第10回 「EV導入/脱炭素を促進する職場充電・エネルギーマネジメントシステムに関する実証実験」はこちら>>
第11回 「「計画値同時同量業務」運用支援で再生可能エネルギーのさらなる普及・利用促進へ(GEaaS託送支援システムの実証)」はこちら>>
サステナブルファイナンスとESG不動産を可視化する「LEED認証」

株式会社ヴォンエルフ
取締役
田中 徹 氏
ESG※1の観点から投資や財務活動を通じて持続可能性を追求するサステナブルファイナンスは、企業や金融機関が環境負荷を最小限に抑えながら、社会課題を解決していくための金融の仕組みです。環境課題改善プロジェクトに資金を供給するための債券「グリーンボンド」や、CO2削減目標などの達成度に応じて金利が変動する「サステナビリティ・リンク・ローン」などがその代表例として挙げられます。
不動産分野における環境配慮型融資の標準的な条件のひとつが「LEED※2認証」です。グリーンビルディングといわれる環境性能の高い建築物を評価し、その環境価値を可視化するこの国際的な認証制度は、米国の非営利団体USGBC※3によって開発され、世界180か国以上で採用されています。
大みかグリーンネットワークでは、エネルギー効率や資源活用の最適化が重視されるこのLEED認証の取得を、ITとOTを融合させるIoTを駆使して効率化するための実証が2023年にスタート。持続可能なESG不動産の普及・拡大を目的に、茨城県の大みか事業所と勝田事業所で現在も進行中です。
※1 Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)
※2 Leadership in Energy and Environmental Design
※3 U.S. Green Building Council
大みか事業所などからIoTで取得した実測データを自動入力
株式会社 日立製作所
デジタルシステム&サービス
金融第二システム事業部
金融システム第一本部
中川 陽一朗
保有する不動産物件のLEED認証取得に際して大きな課題となるのが環境パフォーマンス指標の実測と申請で、電力消費量や水使用量など多岐にわたるデータを一定期間、正確に記録・保存する必要があります。また、審査プロセスは複雑で申請書類の作成などには専門知識を有するコンサルタントのサポートが不可欠です。「LEED認証を取得する場合、不動産オーナーから依頼を受けたコンサルティング会社がデータを手作業で収集し、必要書類を準備してLEEDの認証機関であるGBCI※4に申請しますが、こうした手間やコストが不動産オーナーの負担となっていました」と、実証を担当する日立の中川 陽一朗は従来の課題を説明します。
そこで本実証では、大みか事業所と勝田事業所にある計7棟のオフィスビルからIoTで取得した稼働実測値データを回収し、加工・編集する「サステナブルファイナンスプラットフォーム(グリーントラッキングハブ/以下、GTH))」を構築。各棟の環境パフォーマンス指標のデータを、GBCIが開発したLEED認証取得を支援するデジタルプラットフォーム「Arc」に自動入力し、これまで多大な負担をともなっていた認証申請・更新業務を効率化します。
また、認証の申請にはこうしたArcへのデータ提出以外にも必要書類の作成や、GBCIとの折衝や調整業務も必要です。本実証では、高い専門性が求められるこうした業務を取りまとめるパートナーとして、環境関連コンサルティングファームである株式会社ヴォンエルフ(以下、ヴォンエルフ)が参画しました。なお、同社は日本におけるArcの普及を促進する株式会社Arc Japanの設立メンバーでもあります。
※4 Green Business Certification Inc.(グリーンビジネス認証機構)
テナント市場や投資家に向けた環境認証情報の開示機能も
一般に、環境意識の高い企業がオフィスを賃借する場合やメガクラウドと呼ばれる主要クラウドベンダーなどが他社運営のデータセンターを利用する場合、環境に配慮した建築物が選択される傾向にあります。そのため借り手から選ばれるには、保有する不動産物件がLEEDのような環境認証を取得することだけでなく、その認証取得の事実を賃借人などの第三者でも容易に確認できる状態にしておくことが重要です。
そこで今回の実証ではLEED認証取得の効率化を図るとともに、当該不動産のLEED認証取得情報をインターネット上に開示する仕組みの構築にも取り組んでいます。「一般にグリーンボンドの発行元企業やサステナビリティ・リンク・ローンの融資先を投資家や金融機関が評価する際は、その保有不動産がどの程度の割合でLEEDのようなグリーンビルディング認証を取得しているかが重要な指標となります」とその背景について補足するのは、本実証のパートナー企業であるヴォンエルフの田中 徹氏です。また、近年の環境意識の高まりとともに、環境性能の高いESG不動産で組成した不動産投資信託(REIT※5)は市場で注目されており、より好意的に評価される傾向が強まっています。
※5 Real Estate Investment Trust

サステナブルファイナンスプラットフォーム(GTH)実証の概要
プラットフォームの新たな用途開発とさらなる機能強化に向けて
サステナブルファイナンスプラットフォーム(GTH)は今後、不動産関連以外の各種データの取り込みも視野に、総合的なデータプラットフォームとしてデータ一元化による利便性向上を追求していきます。さらに、従来にない角度からのデータ分析を通じて、新たな知見の獲得を支援する基盤として進化させていく考えです。
これについてヴォンエルフの田中氏は、「例えば、電力会社の請求書データからは消費電力量だけでなく、電気料金も分かりますから、さまざまなデータを集約できる本プラットフォームは、今回のような環境領域だけでなく会計領域などでも有用だと思います」と今後の適用範囲の拡大に期待を寄せます。一方、「実証を通じて不動産業界におけるデジタル化はまだ道半ばであることを実感しました。だからこそ、今回のサステナブルファイナンスプラットフォーム(GTH)を基盤にした新たな不動産デジタルトランスフォーメーション(DX)の開拓余地は大きいと感じています」と今後を展望する日立の中川。さらに、ブロックチェーンを活用することで取り扱うデータの透明性・公平性を確保していきたい、と本プラットフォームの一層の機能強化も見据えます。
ESG不動産の普及と発展に向けて現在も進行中のサステナブルファイナンスプラットフォーム(GTH)実証。大みかグリーンネットワークではこれからも、経済価値と環境価値の両立を図るこうした先駆的な実証を積極的に展開していきます。
お問い合わせ先
株式会社 日立製作所 金融ビジネスユニット
https://www.hitachi.co.jp/products/it/finance/
株式会社 日立製作所 インフラ制御システム事業部
https://www.hitachi.co.jp/products/it/control_sys/ogn/
関連リンク
株式会社Arc Japan
https://arcjapan.jp/about-arc-japan
株式会社ヴォンエルフ
https://woonerf.jp/
サステナブルファイナンスプラットフォーム
https://www.hitachi.co.jp/products/it/finance/innovation/ESG/