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再生可能エネルギー需要の高まりと電力価格支援制度の見直し

AI&ソフトウェアサービス
ビジネスユニット
GX事業本部
カーボンニュートラルサービス
推進センタ
清水 雅則
太陽光や風力といった再生可能エネルギーの活用は、カーボンニュートラル達成に向けたCO2排出量削減のための重要施策です。2025年2月に閣議決定された「第7次エネルギー基本計画」※1では、2040年度に再生可能エネルギーを発電量全体の4~5割と最大の電源とする方針が示されました。
こうしたなか、電力を大量に消費する企業では自社事業所などの敷地内に太陽光発電設備を設置して自らの電力需要を補ってきました。しかしそれだけでは、実需とCO2削減の双方の観点から不十分なため、自社外のオフサイトPPAという再生可能エネルギー発電設備からの電力購入ニーズが企業の間で近年高まっています。
一方、国の施策を見ると、2012年にスタートしたFIT(固定価格買取)制度に代わり、2022年からはFIP(変動価格買取)制度が始まりました。再生可能エネルギーの導入・普及促進を目的とするFIT制度は、発電事業者が発電した電力を需要の多寡を問わず電力会社が一定期間、固定価格で買い取る仕組みです。これに代わるFIP制度では、電力需給で変動する市場価格に一定の補助額(プレミアム)を上乗せして、電力市場に価格を連動させながら電力を販売します。
※1 経済産業省 資源エネルギー庁「エネルギー基本計画の概要(令和7年)」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/20250218_02.pdf
計画値同値同量業務を支援する「GEaaS託送支援システム」実証
FIP制度を活用する発電事業者には、正確な発電計画を立て、計画どおりに電力供給する「計画値同値同量業務」が求められます。というのも、計画した供給電力に対する余剰や不足が生じた場合、発電事業者は計画と実績の不均衡を是正するためのインバランス(予実差)料金を送配電事業者などに支払う義務を負うためです。

GEaaS託送支援システムの実証概要
この再生可能エネルギーの導入支援制度の移行を受けて、大みかグリーンネットワークでは2024年4月から約8か月間、新たに開発した「GEaaS※2託送支援システム」による実証を大みか事業所内で実施しました。なお、本システムが本来対象とする「自己託送制度」は、企業が発電した電力を自社の別拠点・施設へ送る仕組みで、やはりこの制度でも計画値同値同量業務が大前提となります。そのため日立は、本システムによってFIP制度の適用を受ける発電事業者も支援できると考えたのです。
本システムは、気象予報データや発電・需要実績データなどに基づく高精度な発電・需要予測から託送計画の作成、OCCTO※3への計画提出に至る一連の工程を自動化。その実証のポイントについて、担当者の清水 雅則は「本来、大みか事業所内の太陽光発電施設で生み出した電力は事業所内で使い切っているので、別拠点に託送する余剰分を作るためにリアルデータを補正しています」と説明します。なお、本実証では計画データを実際にOCCTOに提出するのではなく、仮設サーバーとの間で模擬的にデータ連携を図りました。
※2 Green Energy as a Service
※3 Organization for Cross-regional Coordination of Transmission Operators, JAPAN(電力広域的運営推進機関)
実証をベースに関連サービスの事業化を順次推進
自己託送では毎日0時までに翌日の24時間分の発電・需要計画をOCCTOへ提出しますが、本システムはその後、30分単位の各コマ1時間前まで、最新の気象予報データなどを基に計画値を修正する機能を提供。これについて清水は、「計画提出直前のぎりぎりまで予測精度を向上させられる仕組みを託送支援システム上で確立できたのは本実証の1つの収穫です」と言います。
成功裏に完了した本実証の成果を踏まえて、大みかグリーンネットワークでは本システムをベースに発電事業者に向けた「計画値同値同量業務」支援サービスの早期の事業化に向けて検討を進めています。また、本来目的としていた企業内の別拠点に電力を供給する自己託送業務支援についても、これと同様の仕組みを活用しながらサービス化を進めていきます。
さらに、より広範な再生可能エネルギー関連サービスの事業化も今後の重要な検討テーマです。例えば、発電事業者と需要家とのマッチングや、需要家のカーボンニュートラル計画策定、再生可能エネルギーのマクロな導入計画エンジニアリングなどを通じて、再生可能エネルギーのさらなる普及と利用促進を図っていきたいと考えています。
“IT×OT×プロダクト”というアドバンテージを次々と
今後日立はお客さま企業のカーボンニュートラルやエネルギーコストなどに関する課題解決に向けて、環境価値と経済価値の両立という観点からエネルギーの最適運用を支援していく方針です。「その使命を担うのが、ITやOTに加え、PCS※4や太陽光パネルといった機器類の知見=プロダクトを掛け合わせる環境ソリューションです。さらに、標準機能をベースにユースケースごとに個別機能を組み合わせるフレキシブルな手法も検討しています」と清水。ほかにも、電力に加え熱も同時に生成・利用できるコージェネレーション(熱電併給)システムなど供給側のユーティリティ機器に加え、空調設備や電気自動車といった需要側のエネルギー負荷機器の運用を最適化するユースケースの適用・事業化なども構想中です。

GEaaS託送支援システムの今後の展望
数々のチャレンジングな実証を通じて、成長可能な脱炭素社会の実現をめざす大みかグリーンネットワーク。深い課題意識と柔軟な発想に導かれる日立の意欲的な挑戦は、これからも続いていきます。
※4 Power Conditioning System(直流交流交換装置)
お問い合わせ先
株式会社 日立製作所 インフラ制御システム事業部
https://www.hitachi.co.jp/products/it/control_sys/ogn/