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生成AI共通基盤構築以前から始まっていた生成AI活用への取り組み
——日立はグループ全社が共通で活用できる「生成AI共通基盤」を構築しましたが、昇降機、家電、変圧器などのプロダクトとデジタルを組み合わせたソリューションを提供するコネクティブインダストリーズセクター(以下、CIセクター)では、さまざまな挑戦を行っていると聞きました。
下川
CIセクターの事業の柱の一つがプロダクトの製造ですが、製造業は労働人口減少による影響を大きく受けています。人手不足がもたらすさまざまな課題の解決に向けてCIセクターでは、生成AI推進センタを中心に、経営、情報システム部門、業務部門が一つになって生成AIの業務適用を推進しています。
日立はデータマネジメント技術において、ミッションクリティカル領域での適用などを通してお客さま業務への理解を深めてきました。私もデータベースからETL、BI、AIと携わってきましたが、生成AIでは企業の持つナレッジが非常に重要になると感じています。そうしたノウハウとスキルを生かして生成AIでモノづくりを変えることをめざして、いま生成AIの環境構築に取り組んでいます。
宮本
私は生成AIが注目され始めた数年前に、生成AIの業務活用を検討するプロジェクトを立ち上げました。そこでは実際に生成AIに触れながら、どんな業務課題が解決できるのか、市場へどんな新しいソリューションを提供できるのか、さまざまなアイデアが提起されました。
そのタイミングで日立グループの「生成AI共通基盤」がローンチされたのです。「生成AI共通基盤」ではさまざまなリソースが自由に使え、日立グループで生まれる生成AIの活用ノウハウを共有できる仕組みもあります。
製造業のグローバル化が課題を難しくしている
——生成AIでどのような業務課題を解決しようと考えていますか。
下川
製造業では労働人口の減少に加えグローバル化が進むことで、人財強化の重要性がいっそう高まっています。
グローバルで製品を生産し流通させる際、製造業者はそれぞれの国が持つルールや文化に対応する必要があります。例えば、設計担当者はその国の安全規格や有害物質の使用制限などを遵守しなければなりませんし、調達担当者は法規制の他にも部品を調達する国の商習慣などを理解する必要があります。
こうした業務の複雑化に対し、これまでは長年蓄積したナレッジで対応してきましたが、熟練者が減っていく今後は何か手を打たなければなりません。そこで私たちは生成AIに熟練者のナレッジを学習させ、業務のパートナーとして活用することを考えています。これにより経験の浅い担当者でも、熟練者と同等のレベルの業務が可能になります。
ハルシネーションの解消策
——熟練者のナレッジを持つ生成AIですか。実現が待たれますね。
宮本
はい。いま具体的な業務適用に向けてPoCを実施しています。しかし、その時にクリアしなければいけない課題が2つあります。それは生成AIが誤った情報を生成するハルシネーションの解消と、機密情報などを生成AIで適切に扱うためのセキュリティ管理です。この2つの課題は、生成AIの業務適用を考えるすべての企業が直面する壁であり、私たちはそこに最適解を出せるように取り組んでいます。
まずハルシネーションの解消策ですが、将来的にも回答精度100%の生成AIは登場しないと思われます。そうなると、生成AIが出した生成物に対してそのドメインナレッジを持つ人が、逐次指摘を行うことが確実な対策となります。しかし、先ほども話に出たように熟練者は減り続けています。そこで熟練者の指摘内容をナレッジとして蓄積し、生成物と合わせて提示する仕組みが必要になります。これにより経験が浅い担当者でもハルシネーションのチェックを効率的に進められます。
安心・安全に生成AIを活用するためのセキュリティ管理
——もう一つの課題、セキュリティ管理についてはいかがですか。
宮本
生成AIを業務で本格的に活用する場合、有効な回答を得るために機密性の高い情報も学習させる必要性が生じ、その時セキュリティ対策が不可欠になります。
私たちは生成AIを安心・安全に活用するために、学習させてよいデータの範囲やユーザーのアクセス権限といったセキュリティルールの策定と、「生成AI共通基盤」へのデータガバナンスツールなどの設置を進めています。
こうしたハルシネーションチェックやセキュリティ管理の仕組みは、生成AI共通基盤の管理部門などと連携を図りながら構築し、日立全体の仕組みとして活用できるようにしていきたいと考えています。
生成AIに最適なアーキテクチャーの追求
——お客さまへの提供まで考えるとしっかり磨き上げる必要がありますね。
下川
生成AIのソリューション提供を考えた時、アーキテクチャーの最適化支援も不可欠です。データをセキュアに管理するデータガバナンス、データの品質を監視するデータ品質管理、利活用を促進するためのデータカタログなどについても信頼できる解答を用意する必要があります。
日立は長年にわたりミッションクリティカルなニーズに応えるソリューションを提供し続けてきました。そして生成AIのソリューションでも同様の品質を追求したいと考えています。私たちは、生成AI共通基盤を管理している部門と密に連携しながら、アーキテクチャーまで含めて信頼できる生成AIのソリューションを提供したいと思います。
宮本
信頼できる生成AIを実現できた時、モノづくりは大きく変わるのでは、と期待しています。例えば、デジタルツインという概念があります。デジタル空間にバーチャルな現場を再現し、そこで分析などを行うことで問題が表面化する前に課題解決を図ろうというものですが、実はデジタル空間から現場へのフィードバックに多くの課題がありました。しかし今後、生成AIがそこを担う可能性があります。
デジタル空間で発見された課題とその解決法を生成AIがわかりやすく現場へ伝えることで、経験に関わらず品質の高い業務が行える——そのような変革を自分の目で見ることができるよう、いま全力で生成AIの業務適用に取り組んでいます。
私は、自分が手がけた成果物がビジネスを変える瞬間を自分の目で見たいという思いが強まり、研究所から今の事業部へ異動しました。現在は生成AIという新しいテクノロジーの業務適用に携わり、世の中のビジネスを変える最前線に立っていることに大きなやりがいを感じています。
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下川 隆義(しもかわ たかよし)
株式会社日立製作所 コネクティブインダストリーズ事業統括本部
生成AI推進センタ チーフDXマネージャ
日立のノンストップデータベースであるHiRDBの開発や拡販支援などを担う。カーナビ開発から営業とSEの技術支援など幅広い分野で活躍。近年はAIなどを中心とする日立内の新しいプロジェクトに多数参画。2023年より現部署において生成AI共通基盤の環境整備に従事。
宮本 啓生(みやもと ひろき)
株式会社日立製作所 コネクティブインダストリーズ事業統括本部
生成AI推進センタ 主任研究員
研究開発部門でデータマネジメント(メタデータを付与することでデータの管理を容易化など)を研究。IoTコンパスなどの製品開発に携わる。技術だけでなく事業にも興味を持ち、2023年より現部署において生成AI共通基盤の先行試行、要望や用件等事項の取りまとめやガイドラインの策定などを推進。