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「DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~」 第21回は、実際にアジャイル開発や「スクラム」をはじめるときに利用できる、資格制度やカンファレンスの紹介です。アジャイルにとってもっとも大切なことは、勉強で終わらせずに実際に自分たちでやってみることですが、その次に重要なことは社外の人の話を聞き、ディスカッションをしてみること。そのための機会としても、資格制度やカンファレンスは利用価値があるそうです。

「第18回:アジャイル開発の実践例:ANAシステムズ株式会社 その1」はこちら>
「第19回:アジャイル開発の実践例:ANAシステムズ株式会社 その2」はこちら>
「第20回:アジャイル開発の実践例:アジャイルのはじめ方 その1」はこちら>

資格制度を利用する

前回は、社内におけるアジャイルのはじめ方の3つのポイントについて話をしましたが、今回は社外で利用できる資格やカンファレンスをご紹介したいと思います。今世の中にはスクラムマスターやプロダクトオーナーの資格制度がたくさんあります。講義と研修を受けて試験に合格すれば、資格が取得できる制度です。

僕自身は、資格は持っていても持っていなくてもどっちでも構わないと思っています。資格がなければアジャイル開発や「スクラム」をやってはいけないわけではありませんから。ただ、資格取得にも意味があって、

1.組織内で取り組む人たちの「共通理解」を作る。
2.実際に手を動かすトレーニングを体験する。
3.自分たちの組織の外の人と議論する。

といったことを経験する機会となります。例えば1の「共通理解」がないと、用語一つをとってもデイリースクラムと呼ぶか朝会と呼ぶかといったズレが生じる場合がありますから、できれば数人で参加するのが良いでしょう。

また、スクラムマスターやプロダクトオーナーの資格制度は、多くの場合講義だけではなく、講義に来ている人たちと議論をしたり、小さいチームに分かれて課題に取り組むといったプログラムが組まれています。

さらに、考え方や取り組み姿勢といったさまざまな社外の情報、社内にはない知見を得る貴重な機会になります。資格を取得することにも意味はありますが、研修を通じてさまざまな立場の人と話をすることもアジャイルにとって大切な経験であり、価値があると僕は思っています。いくつか日本で、また日本語で受講可能な代表的なものを紹介しておきます。講義内容や難易度、費用などはご自身で調べてから受講してください。

スクラムマスターの代表的な認定資格

  • Scrum Inc. 認定スクラムマスター(Registered Scrum Master®:RSM):
    スクラムの共同考案者である Jeff Sutherland が開発した認定コースです。日本語ではScrum Inc.Japanが本家ですが、永和システムマネジメント(ESM)でも同コースに日本独自のコンテンツ(日本の事例や契約、受発注での注意など)を加えた内容で開催しています。
  • Scrum Alliance 認定スクラムマスター(Certified ScrumMaster®:CMS®):
    世界的なスクラムコミュニティScrum Allianceの認定コースです。日本語でもアトラクタなどで開催されていますし、アギレルゴコンサルティングでは海外講師を招いてのコースがよく開催されています。
  • Scrum.org 認定スクラムマスター(Professional Scrum MasterTM:PSM):
    スクラムの共同考案者である Ken Shwaber が開発した認定コースです。日本語では、ITプレナーズジャパンサーバントワークスなどがコースを提供しています。

プロダクトオーナーの代表的な認定資格(上記と開発元、提供元は同じ)

  • Scrum Inc. 認定プロダクトオーナー(Registered Product Owner®:RPO)
  • Scrum Alliance 認定スクラムプロダクトオーナー(Certified Scrum Product Owner®:CSPO®)
  • Scrum.org 認定プロダクトオーナー(Professional Scrum Product OwnerTM:PSPO)

カンファレンスに参加してみる

有識者のセミナーから経験者への相談会まで、さまざまなプログラムが用意されたカンファレンスも、これからアジャイルに取り組まれる方には大いに参考になると思います。僕もアジャイルを知った2000年代は、海外のカンファレンスに積極的に参加してさまざまな話を聞き、時には発表をし、多くの人たちと知り合うことができました。それは今でも僕の財産になっています。これからはじめられる方は、積極的に参加されるといいと思います。案外、悩んでいることの解決は外からのヒントにあるものです。また、カンファレンスの熱気を浴びることも大切です。自分たちの組織でどうやったらできるだろう、という思いを持ってこの熱気のシャワーを浴びる機会を得れば、組織改革のモチベーションも上がるはずです。これも代表的なものをいくつか紹介しておきます。どれも毎年行われていますので、検索してみてください。

アジャイル関連のカンファレンス

  • Regional Scrum Gathering Tokyo(RSGT):
    2011年から続いている、現在日本最大のスクラム実践者の会。
  • スクラムフェス 大阪/福岡/札幌/新潟/沖縄/三河/仙台:
    上記スクラムギャザリングから派生した全国各地のスクラム実践者の会。
  • Agile Japan:
    2009年から続いている、日本ではじめて開かれたアジャイル事例カンファレンス。
  • アジャイル経営カンファレンス:
    アジャイル経営、組織変革にフォーカスしたカンファレンス。
  • XP祭り:
    2002年から続いているエクストリームプログラミングのカンファレンス。
  • Agile Tech EXPO:
    アジャイルのマインド、技術の最新動向を共有する交流と学びのカンファレンス

学びたいという情熱を大切に

これからアジャイルを学びたいという人がいれば、経営者やマネジメントは積極的にサポートしていただきたいです。確かにお金も時間もかかりますが、詳細なレポート提出とか面倒なハードルを設けずに、学びたいという人を信じて、その熱意を大切にしてください。資格取得やカンファレンスでの経験は、その人だけでなくチームや組織にとっても何かを変えるきっかけになるかもしれません。人のパッションに投資をし、アジャイルを企業の文化として育て、将来はぜひ発表する側でカンファレンスに参加してください。また、企業として採用目的や自社技術マーケティングであっても、各カンファレンスへのスポンサーシップは歓迎されます。

変革には大変な苦労がつきものです。それを乗り越える推進力になるのが、社内や社外での交流や経験の共有、そして仲間づくりです。アジャイル開発がうまく定着するかどうかは、人材育成と文化の醸成が肝になります。社内に経験者がいなければパートタイムで外部アジャイルコーチを起用するなど、経験を蓄積し共有するための活動に投資しましょう。

画像: 学びたいという情熱を大切に

「第22回:なぜアジャイルがDXで注目されるのか」はこちら>

画像1: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第21回】 アジャイルのはじめ方 その2

平鍋 健児(ひらなべ けんじ)

株式会社 永和システムマネジメント 代表取締役社長、株式会社チェンジビジョン 代表取締役CTO、Scrum Inc.Japan 取締役。1989年東京大学工学部卒業後、UMLエディタastah*の開発などを経て、現在は、アジャイル開発の場、Agile Studio にて顧客と共創の環境づくりを実践する経営者。 初代アジャイルジャパン実行委員長、著書『アジャイル開発とスクラム 第2版』(野中郁次郎、及部敬雄と共著) 他に翻訳書多数。

画像2: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第21回】 アジャイルのはじめ方 その2

『アジャイル開発とスクラム 第2版』

著:平鍋健児 野中郁次郎 及部敬雄
発行:翔泳社(2021年)

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