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「DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~」 第19回は、前回に続き、平鍋氏が代表を務める株式会社永和システムマネジメント(以下ESM)が開発に携わったANAシステムズ株式会社(以下ASY)との事例を通して、平鍋氏、そして約3年に渡ってさまざまなシステムを開発してきたESM 橋本憲洋氏に、チームの成長についてお話を伺いました。

「第16回:アジャイル開発の実践例:KDDIアジャイル開発センター株式会社 その1」はこちら>
「第17回:アジャイル開発の実践例:KDDIアジャイル開発センター株式会社 その2」はこちら>
「第18回:アジャイル開発の実践例:ANAシステムズ株式会社 その1」はこちら>

10を超える案件

━━━ ASYとはさまざまなシステム開発をされていますね。

橋本
私たちは「ANAグループの社内業務の効率化」をメインにやっています。これまで勤怠管理のシステムや交通費の精算システム、遺失物管理システムなど10以上の案件に関わらせていただきました。

そのうちの8割は、納品した段階で終了するシステム開発案件ですから、最初から最後までアジャイル開発でやっている案件は2割くらいです。ただわれわれの場合、通常のシステム開発でも、なるべく早い段階でメンバーやお客さまに見て触ってもらえるように作っています。開発期間中、つねに動くモノを提供し、ユーザーと開発者が一緒にシステムを作る感覚で進めています。社内の業務システムでも、開発中のユーザー視点でのレビューを実施しますので、開発期間の終わりにならないと動くものが見えないということはありません。その点でも私たちのシステム開発はウォーターフォールとは異なります。継続して案件がいただけているのは、そんなプロセスというか進め方も要因にあるかもしれません。

実際にこれだけの案件をやらせていただいていると、成功したパターンと失敗したパターンがあります。成功したパターンは、やはりユーザー側がアジャイルに積極的な場合です。積極的に開発中の出来栄えを見に来られるし、触って納得したいという思いの強い人たちとのプロジェクトは、うまくいくことが多いです。「思っていた以上のものができて、すばらしいです」と、すごくうれしい言葉をいただくこともあります。逆に「システムのことはよくわからないので、もうお任せします」といった場合には、こういう言葉はいただけないことが多いように感じます。

画像: 10を超える案件

━━━ 8割は納品で終了するということですが、2割は継続したソフトウェア開発になるということですか。

橋本
そういう案件もあります。例えば最初の頃に開発したiPadを使った遺失物追跡アプリは、今も24時間フル稼働で使われています。このアプリでは新しい機能を追加したいという要望が出て来ますので、アジャイル開発で機能を追加してきています。機能追加だけではなく、古くなったコードのリファクタリングやパフォーマンスの改善なども随時行っていて、こういうことができるのもアジャイル開発の魅力だなと思います。このアプリはまだまだやりたいことがあるようなので、開発はまだ続きそうです。

━━━ ESMは福井、ASYは東京ですが、離れていることで何か問題になることはありますか。

橋本
ASYのメンバーとの混成チームでの開発がはじまった当初からコロナ禍になり、メンバー全員が100%オンラインで開発してきていますので、不便は感じていません。コロナ禍になる前には、ASYは社内でメンバー同士が集まり、こちらはこちらでメンバー同士が集まって拠点間でリモート開発をやっていた時期があったのですが、そうすると拠点内だけで話しが進んでいたり、拠点間の情報格差ができてしまっていたことがありました。ですから、中途半端にリモートをするより今のように100%オンラインの方がコミュニケーションはスムーズですね。

平鍋
それでもやはり、時々は集まって顔を合わせることも必要ですから、半年に1回は全員が集まる機会を設けるようにしています。

画像: 半年に1度は顔を合わせる機会を作る

半年に1度は顔を合わせる機会を作る

「スクラム」という環境づくり

━━━ 橋本さんはエンジニアでありスクラムマスターという役割を担っておられますが、開発環境をファシリテートするという意味でもスクラムマスターの役割は重要だと思われますか。

橋本
もちろん重要だと思います。特にはじめてのタイミングでは、意見を出し合えるようなチームの空気を作る必要がありますから。ただ、今の私たちのチームは自律的に動けるメンバーが多いので、明確なスクラムマスターは設けていません。ファシリテーターは全員でローテーションしていますし、ふりかえりのイベントでは気兼ねなく意見を出し合えるようにみんなが気をつけています。スクラムマスターがいなくてもうまくいくチームは、それでいいと思います。

私たちのチームに、明確なスクラムマスターを置かなくても良いチームを続けていられる理由のひとつに、ASYのサリーさん(室木さん)の存在があります。(私たちはあだ名で呼び合う習慣です) サリーさんは、当初はプロダクトオーナー代行という役回りでしたが、今はバリバリの開発者をやられています。最近のリスキリングの文脈にピッタリの感じで、プロダクトオーナーの立場も理解しつつ、開発者として開発を理解した視点でチームを見てくれています。幅広い視野から出てくる意見は、本当にありがたいです。

今の私は、時々アジャイルコーチのような役割で、チームが同じやり方に慣れてしまっていると感じた時などに、あえて違うやり方を試しましょうといった提案をしてチームに新しい風を入れるようにしています。

平鍋
アジャイル開発というのは、怖れることなく意見が言えるフラットな環境づくりというのが何より重要なので、初対面の人たちのマインドをほぐすようなアイデアやアドバイスをするスクラムマスターを置くわけですが、ASYのように全員がスクラムマスターのようなマインドを持っているチームは、全員で回していけばいいと思います。

ASYの場合、どうすれば自分たちがユーザーである空港の現場の人たちを幸せにできるかという思いやビジョンが最初にありました。そのためには発注だけではなく、自分たちで課題を解決するためのシステム開発を行う必要がある。そんな組織には人材育成の視点、顧客の視点、現場ユーザーの視点など多様な視点が必要だし、ユーザーのニーズをキャッチアップするためにはアジャイル開発が効果的だったということでしょう。ユーザーのニーズをくみ取る力、困っている人を助けたいという気持ち、それがこのチームをドライブしたのだと思います。

「第20回:アジャイル開発の実践例:アジャイルのはじめ方 その1」はこちら>

画像1: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第19回】アジャイル開発の実践例:ANAシステムズ株式会社 その2

平鍋 健児(ひらなべ けんじ)

株式会社 永和システムマネジメント 代表取締役社長、株式会社チェンジビジョン 代表取締役CTO、Scrum Inc.Japan 取締役。1989年東京大学工学部卒業後、UMLエディタastah*の開発などを経て、現在は、アジャイル開発の場、Agile Studio にて顧客と共創の環境づくりを実践する経営者。 初代アジャイルジャパン実行委員長、著書『アジャイル開発とスクラム 第2版』(野中郁次郎、及部敬雄と共著) 他に翻訳書多数。

画像2: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第19回】アジャイル開発の実践例:ANAシステムズ株式会社 その2

『アジャイル開発とスクラム 第2版』

著:平鍋健児 野中郁次郎 及部敬雄
発行:翔泳社(2021年)

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