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「DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~」 第20回は、実際にアジャイル開発をはじめる時に絶対にはずしてはいけないポイントについて、お話を伺いました。方向を間違えないよう、目的を明確にする。まずは、やってみる。そして、経験を共有する。教科書には載っていない、実践的なアジャイルのはじめ方をぜひ参考にしてください。

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「第18回:アジャイル開発の実践例:ANAシステムズ株式会社 その1」はこちら>
「第19回:アジャイル開発の実践例:ANAシステムズ株式会社 その2」はこちら>

目的の明確化

これからアジャイルをはじめるという人たち、あるいははじめようとしている組織やチームの方から、何かアドバイスをという質問をされることがあります。本来は相手の立場や状況、業態などによって答える内容は変わってくるわけですが、僕が考える基本的な押さえるべきポイントは3つです。

まず1番目のポイントは、アジャイル開発をはじめるときの「目的の明確化」です。アジャイル開発というのは、あくまでも一つの手段です。目的というのは、「これまでにないサービスを世に送り出す」であったり、「タイムリーにサービスをリリースする」であったり、「社員のエンゲージメントを高める」であったり、「働き方改革」であったり、「若手人財の発掘」であったり、それぞれにあるはずです。

今はアジャイルという言葉がビジネスの場でもよく聞かれるようになってきて、「自社もアジャイルをやらなくては!」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、アジャイルを採用する目的は何でしょうか。ここが曖昧なままでスタートすると、その後の展開にブレが生じてきます。目的が明確になっていないと、どういうふうに活動を開始するか、誰を巻き込むべきか、顧客との関係をどうするのか、そういう実際の展開の中で何のためか、誰のためかがわからなくなります。よくあるのは、アジャイルというものが上から降ってきて、なんだかわからないけれどアジャイルをやることになったというパターンで、これだと必ずどこに向かっているのかを見失い、プロジェクトは簡単に崩壊します。アジャイルの推進では、迷ったり困ったりといった課題と頻繁に出合うので、そのときに立ち返る場所が「目的」です。

DXによる新規ビジネスの立ち上げ、新しい社内のシステム開発、既存のプロダクトやサービスの見直し、組織の働き方改革など、目的が違えば当然手段であるアジャイルの進め方も変わってきます。まずは経営や企業ビジョンにおけるアジャイルの位置付けとめざすべきゴールを決め、経営者からそのミッションに対する権限移譲というお墨付きをもらう。それくらい目的を明確化しておく必要があります。経営者から、「今回はこういう目的でアジャイルを採用し、こういう目標をめざします」と言ってもらえれば、社内のへ浸透度も高いですし、中間管理職も動きやすい環境を作ることができます。

まずはやってみる

2番目のポイントは、「まずはやってみる」ということです。これは会社によっては大きな話として予算計画を立てて、このぐらいの効果を出して数年計画でアジャイルに精通した人間を増やしてといった青写真を描く場合もあります。もちろん全体の構想は大切ですが、事前に大きなことを考えるよりもまずはスモールスタートでアジャイルのチームをひとつ立ち上げること。そのプロジェクト選定と予算化が必要です。そして、アジャイル開発や「スクラム」の経験者を増やすことが何より重要です。

現在アジャイルが広く認知されるようになって、アジャイルとは何なのかという輪郭がぼやけてきていて、人によってそれが手法を指すこともあれば、ビジネスのスピードや俊敏性を指す場合もあります。例えば「スクラム」は、ソフトウェア開発だけではなくマーケティングや営業活動などチームビルディングに幅広く活用することができますから、実際にさまざまな教科書があり、セミナーや研修も多様な切り口のものが存在しています。あまりにいろいろありすぎて、自分たちが求めるアジャイルが何かということについて、勉強だけでは正解にたどり着けないことが多いです。

アジャイル開発というのは組織としての取り組みですから、組織の背景にある歴史や文化、目的に合わせたその組織ならではのやり方があるはずです。それを見つけるためには、まず自分たちでやってみる。最初は外部から経験者に入ってもらうのも良いでしょう。それと併用して、教科書やセミナーなどを活用する、ということだと思います。

外国語を話せるようになるというのと似ていて、理論(文法)や言葉(単語)は必要ですが、決定的に必要なのは実践です。その場その場で判断ができるようになるには、一人ひとりのマインドの中に経験に基づく暗黙知が必要なのです。それを身につけた人を増やしましょう。

そして経験を共有する

ある目的で小さくはじめたアジャイル開発でひとつの成果が出たら、その活動や経験はできるだけオープンにする。3番目のポイントは、「経験を共有する」ということです。その経験に刺激を受けた他の部署の人が、アジャイル開発にトライする。そんな流れが生まれることが理想的です。野中理論で言えば、最初は経験としての暗黙知、それを共同化して行きます。そして社内のさまざまな部署でアジャイル開発の知見が蓄積してきたら、次はそんなチーム同士が情報共有などで連携できるようにしたいです。それが「組織としての知」になっていきます。

大きな組織だと、アジャイル開発に取り組んでいるチームが複数あっても、部署が違うと会話していない場合が多いのです。ですからそこはマネジメントが、例えば四半期に1回、あるいは月に1回、アジャイルチームの成果発表会を社内で実施するような、組織の壁を超えてチームが連携できるような横串を用意することが重要です。そういった発表の機会が社内に賛同者を増やすムーブメントになっていくこともあります。さらに踏み込んで、一時期人材をそこに集めてセンター・オブ・エクセレンス(※)として活動している企業もあります。各部署から人を集め、活動し、元の部署に帰っていくような構造を作るのです。トヨタ自動車のような大きな会社でも、この取り組みははじまっています。

※センターオブエクセレンス:目的・目標を達成するために組織(社内)に散らばる優秀な人材・ノウハウ・設備などの経営リソースを横断的組織として1カ所に集約すること。

画像: 「出典:KDDI Summit 2023」トヨタ自動車株式会社 デジタル変革推進室 泉 賢人室長

「出典:KDDI Summit 2023」トヨタ自動車株式会社 デジタル変革推進室 泉 賢人室長

目的を明確にして、まずは小さくはじめて経験者を増やし、それが共有できる環境を作ってアジャイルの推進力にしていく。これがアジャイル開発をはじめる時に頭に入れておいていただきたい3つのポイントです。

「第21回:アジャイル開発の実践例:アジャイルのはじめ方 その2」はこちら>

画像1: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第20回】 アジャイルのはじめ方 その1

平鍋 健児(ひらなべ けんじ)

株式会社 永和システムマネジメント 代表取締役社長、株式会社チェンジビジョン 代表取締役CTO、Scrum Inc.Japan 取締役。1989年東京大学工学部卒業後、UMLエディタastah*の開発などを経て、現在は、アジャイル開発の場、Agile Studio にて顧客と共創の環境づくりを実践する経営者。 初代アジャイルジャパン実行委員長、著書『アジャイル開発とスクラム 第2版』(野中郁次郎、及部敬雄と共著) 他に翻訳書多数。

画像2: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第20回】 アジャイルのはじめ方 その1

『アジャイル開発とスクラム 第2版』

著:平鍋健児 野中郁次郎 及部敬雄
発行:翔泳社(2021年)

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