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「DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~」 第14回は、これまで紹介してきたアジャイル開発の実践例として、平鍋氏が代表を務める株式会社永和システムマネジメント(以下ESM)が携わった北國銀行との事例を通して、リアルなアジャイル開発の現場を平鍋氏とESM橋本雄一氏が紹介します。

「第11回:オンラインで行う 「スクラム」」はこちら>
「第12回:「スクラム」をスケールする方法」はこちら>
「第13回:ゾンビスクラムにならないために」はこちら>

北陸のDX基盤を作ろう

━━━ 北國銀行とのプロジェクトの概要について教えてください。

平鍋
北國銀行の杖村(つえむら)頭取は、北陸地方のDX(デジタルトランスフォーメーション)基盤になるインターネットプラットフォームを作りたいというビジョンをお持ちでした。例えば商店街が導入する地域通貨など、地域のさまざまな取り組みを支援できる柔軟なプラットフォーム、それを作るのは地方の銀行の役割だという考えをお持ちで、それが行内でしっかりと共有されていました。そして、これまでのシステム開発のやり方を変えていきたいという思いをアジャイルの考え方で表現され、新会社である株式会社デジタルバリュー(※)を設立されたのです。

※ 株式会社デジタルバリュー:「北國銀行」のDXを進めているシステム子会社。

画像1: 北陸のDX基盤を作ろう
画像2: 北陸のDX基盤を作ろう
画像: 「AgileStudio セミナー:金融DXへの北國銀行の取り組みレポート」より https://www.agile-studio.jp/post/thankyou-hokkokubank-cross-agile

「AgileStudio セミナー:金融DXへの北國銀行の取り組みレポート」より

https://www.agile-studio.jp/post/thankyou-hokkokubank-cross-agile

皮切りとしてインターネットバンキングのシステムを開発するわけですが、すでにあるパッケージを利用する方法ではベンダーの言いなりになってしまうし、地域の意見や要望にきめ細かく対応することは難しい。それなら自分たちで開発し、ニーズを取り入れながら発展させようということで、北國銀行はデジタル人材を積極的に採用し、行内でチームを作って動き出していました。このDX基盤づくりをアジャイルのマインドでやりたいということで、お声がけいただいたことが最初のきっかけでした。

橋本
2021年に私が参加した時には、すでに北國銀行には法人インターネットバンキングを内製するチームが動き出していました。1チーム10人ほどの体制で、「設計」や「開発(画面・バックヤード)」といった「役割別」のチーム構成が組まれていました。これが現在では、ひとつのチームにそれぞれの役割の人が揃って1つのサブシステムを開発する「機能別」のチーム構成に変化しています。この他にも「インフラ」や「PMO(※)」といった、プロジェクト全体に対して動いてくれるチームもあります。

※ PMO:Project Management Officeの略。組織内における個々のプロジェクトマネジメントの支援を横断的に行う部門。

平鍋
今の北國銀行の開発チームは、要件定義・設計・実装・テストまでワンチーム完結で動くものを作ることができるのです。チームのメンバーは、北國銀行のエンジニアや異なるソフトウェア会社のエンジニアなど、所属会社も年齢もバラバラの混成チームを作っていて、ESMから参加している6名も全員が違うチームに所属しています。文字通りのマルチベンダーチームで「スクラム」を回している、これが北國銀行の最大の特徴です。顧客に見える機能をチームみんなで作るんです。

橋本
それは行内の組織や役職、内部や外部といった垣根にとらわれないフラットなチームを作る、ということを当初からめざしていたからできたことだと思います。今の私がいるチームは、福井、金沢、東京、カナダ、オーストラリアと勤務地までバラバラです。

画像3: 北陸のDX基盤を作ろう

━━━ プロジェクトに参加した時、最初にぶつかった壁は何でしたか。

橋本
私たちにお声がけいただけたのは、アジャイルの知見や経験をプロジェクトに広げてほしいという期待があってのことでしたが、最初は北國銀行のめざすアジャイルがイメージできず、しばらくもやもやした感じでした。ESMメンバーからの「北國銀行のアジャイルを知るために、みんなで集まって話をしたい」というアイデアが、このモヤモヤを払拭してくれるきっかけになりました。

このアイデアに北國銀行のみなさまからも賛同いただき、オープンな集まりを実現することができました。こういった機会を通じてお互いの考えをよく知り、めざしたい姿や意識を共有することにもつながったと思います。この取り組みは現在進行形で、継続的でよりオープンな形での実施、参加者を増やしながらプロジェクト全体へアジャイルマインドの浸透、プロジェクトをよりよくするためのアイデア発掘の場として進めています。また、会社や役割に依らず、フラットな関係で多くの人が参加することにより、アイデアも出やすい場ができています。

画像: ディスカッションの様子

ディスカッションの様子

チーム全員がスクラムマスター

━━━ 実際に「スクラム」で開発されるときの流れやイベントについて、具体的に教えてください。

橋本
私たちは2週間を1スプリントとしています。各チームで朝会は毎日30分、昨日やったこと、今日やること、今気になることをメンバー全員が発表するという内容で、時間を厳守するようにしていて、深く話したい議題がある時には別に時間をとって二次会として話し合います。また、チームでの朝会後、全チームが集まっての朝会を実施し、状況の共有、他チームへの依頼や課題解決のための時間を作っています。これにより、大規模なプロジェクトの中でも、情報の共有や全体での課題解決ができる仕組みづくりができていると感じています。

また、スプリントの最後にふりかえりを実施し、スプリントの成果を全員で確認しますが、1週間を中間ポイントとしてゴールが達成できそうかどうかという会議も行っています。こうした流れやイベントは「スクラム」のフレームワークに沿って行っていますが、北國銀行のチームづくりで特徴的なのは、各チームにスクラムマスターがいないというところです。

本来は開発の障害を取り除くスクラムマスターがいないと、チームはうまく回らないと言われています。しかしこのプロジェクトでは、特定の役割を持った人に頼るのではなく、問題に対して全員が自発的に意見や提案を行います。つまり全員がスクラムマスター兼エンジニアとして、自律的にチームで問題を解決していきます。どのチームもこのやり方で「スクラム」を回しているのです。

平鍋
スクラムマスターのいない北國銀行のチームづくりは、「スクラム」のレアケースです。プロダクトオーナーは行員さんで、スクラムマスターはスクラム専門家。そんな役割分担でチームを組むのが教科書通りだと思います。しかし責任者を決めて効率的にチームを動かすことよりも、全員がスクラムマスターとしてのマインドと能力を身に付けることができれば、本当にフラットで一体化したチームを作ることができます。

北國銀行は、自分たちが使いやすいプラットフォームを作るためには行員もベンダーも区別なくフラットに開発と取り組むべきだというトップの強い意志が、ディスカッションや日々のコミュニケーションの中でしっかりと共有されていました。だからこういったチームづくりが可能になったのだと思います。これは、デジタルバリューの代表である岩間さんはじめ、北國銀行の文化づくりの方針あってのことだと思います。

橋本
もちろん最初からすべてうまくいったわけではありません。朝会やふりかえりで発言する人が決まってきたりする時にはルーレットで進行役を決めたり、当番制にしてみたり、自分から話すことが苦手な人には話を振るようにするといったことなどチームで考え、試してきました。

また、チーム内だけでなく、PMOチームなど他チームからアドバイスや気づきをいただいきながら少しずつ成長し、みんなが自由に意見を出し合えるチームになってきたと思います。今後もよりチームが成長できるようにメンバーと意見を出し合いながら、実践とアップデートを繰り返していきたいです。

「第15回:アジャイル開発の実践例株式会社 北國銀行 その2」はこちら>

画像1: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第14回】アジャイル開発の実践例:株式会社 北國銀行 その1

平鍋 健児(ひらなべ けんじ)

株式会社 永和システムマネジメント 代表取締役社長、株式会社チェンジビジョン 代表取締役CTO、Scrum Inc.Japan 取締役。1989年東京大学工学部卒業後、UMLエディタastah*の開発などを経て、現在は、アジャイル開発の場、Agile Studio にて顧客と共創の環境づくりを実践する経営者。 初代アジャイルジャパン実行委員長、著書『アジャイル開発とスクラム 第2版』(野中郁次郎、及部敬雄と共著) 他に翻訳書多数。

画像2: DXを加速するアジャイル ~変化を味方にしたチームづくり~
【第14回】アジャイル開発の実践例:株式会社 北國銀行 その1

『アジャイル開発とスクラム 第2版』

著:平鍋健児 野中郁次郎 及部敬雄
発行:翔泳社(2021年)

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