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AIが世界規模で急速に発展する中、日立は自らの「歴史」と「現場」を武器に独自の道を進む。巨大企業はいかにしてAI戦略を描くのか。LumadaをAIと融合させてHMAX事業が始動した今、加治慶光と澤円が日立ならではの強みと未来像を語る特別対談【後編】。

(前編) 巨大“モノづくり企業”が「データと協創」に舵を切った10年史 加治慶光×澤円が語る、日立変革の内側とLumadaが拓く未来

AIが世界規模で急速に発展する中、日立は自らの「歴史」と「現場」を武器に独自の道を進む。巨大企業はいかにしてAI戦略を描くのか。LumadaをAIと融合させてHMAX事業が始動した今、加治慶光と澤円が日立ならではの強みと未来像を語る特別対談【後編】。

2016年にスタートした日立製作所(以下、日立)の「Lumada」(ルマーダ)※1は、IoTプラットフォーム(1.0)からデジタルエンジニアリング(2.0)を経て、AIと融合させた「Lumada 3.0」へと進化した。現在は、AIで社会インフラを革新する次世代ソリューション群「HMAX™ by Hitachi」(以下、HMAX)※2の社会実装も進行している。

※1)Lumada(ルマーダ):日立
※2)HMAX|Lumada:日立

前編では、日立が汎用AIモデルの開発などに注力する道を選ばず、パートナーとの「協創」で社会イノベーションをめざす姿勢が語られた。では、メガテックとは異なる立ち位置をとる日立にとって、真の武器であるAI戦略とはどのようなものか。本稿では前編に引き続き加治慶光と澤円の対談を通じて、IT・OT・プロダクトを併せ持つ日立の強みとLumadaが拓く次の10年、20年を探る。

歴史とコンテキストが生む、日立のAIの独自性

:日立のAIの強みを一言で表すと、もともとエッジ側の製品を数多く持っていることと、そこに豊かな歴史的蓄積があることです。歴史があるということは、すなわちビジネスでのコンテキストを長く保持しているということ。「過去にこういう事例があった」「あのときはこう対応した」といったデータを、一次情報として組織が記憶しているわけですよね。

画像: 澤円(Lumada Innovation Evangelist)

澤円(Lumada Innovation Evangelist)

加治:そうですね。多様な製品で、設計思想から現場のノウハウまでが連続的に残っているということです。

:まさにそうです。しかも日立は勤続年数の長いメンバーも多いので、過去の経緯を語れる“生き証人”が組織内に何人もいる。書類やデータだけでなく、人の記憶としてもコンテキストが残っているんです。これが他社にはなかなかまねできない強みになります。最新のテクノロジーが出てきたときに、その蓄積を踏まえて活用できれば、コンテキストを持たない企業とは全く違うアウトプットが出せますから。

加治:しかも日立は、堅ろうなだけでなく結構しなやかなんですよね。社内に「GenerativeAIセンター」という組織がありましたが、最近これを「HMAX&AI推進センター」に改称しました。あえて「生成」の二文字を外したんです。

:あれは先見の明がある判断だなと、僕も感心しました。

加治:AIの世界は変化が速いので、特定の技術名を組織名に残すとそれが陳腐化したときに組織の存在意義まで揺らぐんですよね。組織で一番の「筋力」の源泉になっている部分は絶対に外さないけど、表面的な部分は柔軟に変える。これは一般的な日立のイメージからは意外な一面だと思います。

「カスタマーゼロ」が支えるフィジカルAIの優位性

加治:もともと日立で働くメンバーは、それぞれが多様な分野のテクノロジーに詳しいという特徴があります。手法自体は最先端ではないかもしれませんが、現場のデータを手書きやExcelなどで蓄積してきたんです。そのデータにあらためて光を当てる活動を進めているわけですよね。日立社内では、この「データに光を当てる」という言葉をよく使うのですが、まさにLumadaの本質を象徴するものだと思います。

画像: 加治慶光(Lumada Innovation Hub Senior Principal)

加治慶光(Lumada Innovation Hub Senior Principal)

:その膨大な現場を持っていることが、これからのフィジカルAI、つまり物理空間で動作するAIの時代において何よりの武器になりますよね。AIが現場で本当に役に立つには、現場の細かい情報――機器の振動、温度、操作の癖といったデータが学習素材として必要ですから。これは机上では絶対に作れないものです。

加治:日立はB2BもB2Cも両方展開していますし、社会インフラから生活家電まで「現場」の幅も非常に広いですからね。

:同感です。日立はカスタマーゼロ※3になれる機会が非常に多い企業です。鉄道車両も発電所も産業機械も、自社グループ内に「最初の使い手」である現場がある。だからこそ、他社が「学習させる現場のデータがない」と困っているところを、日立は自前で実証・改善できるわけです。ただ、そのアドバンテージを生かすには、現場の一人一人が当事者意識を持つことが前提になります。

※3)開発した技術や製品、サービスをまずは自社で試験的に使用してから、外部顧客に提供するアプローチ。

:真面目に目の前のことだけをやっていると、どうしても世の中の動きが見えなくなる。それではせっかくの現場のポテンシャルも生かし切れません。だからこそ、組織のアンテナを鈍らせないように、外部の視点から情報発信や啓発をする役割として、2021年に僕たちのような“外様”の人間が呼ばれたのだと解釈しているんです。

加治:Lumadaのような新しい概念を社内外に浸透させる。まさにそれがわれわれの存在意義ですよね。実際、そうした当事者意識の観点でも、社外取締役や中途入社の人財の存在が大きいですから。こうして多様な視点が組み合わさることで、ようやくカスタマーゼロの強みが最大化されるのだと思います。

Lumada 3.0、そしてHMAXへ

:日立の中でLumadaという概念が浸透してきたのもここ数年ですよね。最初は日立のメンバーも(認識が)ぼんやりしていましたよね?

加治:そうですね。当初は定義も定まっていなかったLumadaですが、時代とともに進化しました。IoTプラットフォームとしての「Lumada 1.0」から始まり、デジタルエンジニアリングを取り入れた「Lumada 2.0」、そして今現在は「Powered by AI」を掲げる「Lumada 3.0」へと、社会に合わせてうまく変遷してきたと思います。

:僕は、名前を変えずに3.0まで来たことが大きな意味を持っていると考えているんです。Web 1.0、2.0、3.0と同じで時代背景に応じて在り様を変えてきたという説明がきれいにつきますから。だから、このままひたすらLumadaという名前で突き進めればいいんじゃないかな。

加治:そうですね。そして、Lumada 3.0の考え方を社会インフラの現場で具現化したのがHMAXです。AIを活用して社会インフラの自律運用を実現させるもので、日立が今、最も注力している領域ですね。

:ここで強調したいのは、Lumadaは「思想」であり、HMAXは「具体的なソリューション群」だということです。ちょっと分かりにくいかもしれないけど、両者はレイヤーが異なるんですよね。Lumadaという旗印の下で、複数の部門が持つアセットを組み合わせて、HMAXとしてお客さまに届けられている。この事実は、前編で話した抽象的思考が大事だという話につながります。(詳細は前編を参照)

加治:具体的に考える作業は、AIの方が得意ですからね。まさにAIに取って代わられる領域です。

:だからこそわれわれ人間は、抽象的な概念を基に「要はこういうことだよね」と、顧客や社内で合意を形成することに頭を使わなければいけません。それこそがこれからの時代、一番重要になってくるはずです。

日立がLumadaで拓く次の10年、20年

加治:日立がめざすのは、社会イノベーションという壮大なチャレンジです。プラネタリーバウンダリー(地球の限界)の中でウェルビーイングを実現させるという、非常に長い時間軸の目標を掲げています。2026年5月、日立市での自動運転システムがプレスリリースされました。慶応義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)との連携も進んでいて、いずれHMAXのモビリティー領域とつながることも期待できるのではと私は見ています。

画像: 日立がLumadaで拓く次の10年、20年

:実は僕は5年後、10年後の予想にはあまり意味がないと思っていて。というのも、2022年8月末に画像生成AIの「Midjourney」が生成した絵が美術コンテストでトップを獲り、その約3カ月後にChatGPTが登場しましたよね。つまり、あんな世界を数年前に予想できた人はほとんどいなかったということです。

加治:確かに、あのときを境にコンテキストが一変しましたね。

:だからこそ大事なのは、予想ではなくWill(意思)です。こういう社会にしたい、こういう未来をつくりたいというWillを持って、そこから今日のアクションを決める。僕自身、HMAXの情報発信や新しいプロジェクトは片っ端から“一丁がみ”したいと思っていますし、日立のメンバーも「社内外の豊富なアセットを自分が使っていいんだ」というマインドを持ち、それらをどんどん面白いことに生かしてほしいですね。日立は優秀な人財が豊富ですから、非常に大きな力を発揮するはずです。

加治:そう考えると、Lumadaが10年続けてこられた理由は、実は日立の仕事の時間軸の長さに支えられていたからかもしれませんね。鉄道や発電所のプロジェクトは何年も、時には十数年もかかります。Lumadaとして始めた取り組みも、途中で簡単にやめられません。「気付けば7年がたっていた」というようなことが自然に積み重なってきた事業が多く存在するでしょう。

早く壊して新しくする、という価値観だけでは世界はもう立ち行きません。長い時間をかけて熟成させる価値が、10年前よりずっと大事になっています。しかも、HMAXの登場でLumadaの輪郭が具体的に見えたことで、ここ2年ほどで社会的な評価も格段に高まったと実感しています。このまま推進すれば、遠い目的地である社会イノベーションの実現も十分に視野に入るでしょう。

:Lumadaがあり、HMAXがあり、その先にも次々と新しいものが出てくる。日立にはそんな進化を期待したいですね。

Lumada10周年を記念し、加治慶光氏×澤円氏をゲストに迎えたPodcast番組「スナック育子のInnovation Night」の特別回も配信中!記事と併せてぜひご視聴ください。

画像: [スナック育子] 澤円と加治慶光が語る!AI時代を生き抜くための最強のスキルとは?[Lumada10周年企画] youtu.be

[スナック育子] 澤円と加治慶光が語る!AI時代を生き抜くための最強のスキルとは?[Lumada10周年企画]

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