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暗号資産のブームを経て、ブロックチェーンとWeb3はビジネスの“信頼”を担保するインフラに進化した。環境規制やSBOMなど、グローバル市場で迫り来る「証明の壁」をいかに企業価値へ転換すべきか。本稿では、日立が提唱する「うそのつけないDX」やトークンエコノミーの構想から、製造・ソフトウェア領域における最前線の実証事例、そしてスモールスタートを支える伴走支援まで、次代のビジネス基盤の実像に迫る。

「ブロックチェーン」や「Web3」と聞くと、暗号資産やNFTといった「投機」を思い浮かべるかもしれない。過去にはそうした用途で注目を集めたが、実は社会やビジネスの課題を解決する「不可欠なインフラ」に進化しつつある。

背景には、地政学リスクの高まりやグローバルサプライチェーンの複雑化がある。近年、欧米を中心に環境保護やソフトウェア構成管理など「情報開示要件」が厳格化している。企業がこれらに対処して、製品が安全で合法であると証明ができなければ、グローバル市場から締め出されかねない時代が迫っている。解決の鍵となるのが、ブロックチェーンとWeb3だ。ビジネスインフラに進化する両技術の現在地を、日立グループの有識者に聞いた。

一般的なDXと一線を画す、ブロックチェーンによる「うそのつけないDX」

ブロックチェーンはもともと、ビットコインなどに代表される暗号資産の基盤として考案された。その技術を応用した自律分散型のインターネット概念がWeb3だ。特定の管理主体なしにデータの改ざんを防ぎ真正性を担保できる特性から、企業間で安全にデータを共有して公正な取引を実現させる技術として期待されてきた。
ビジネスにおける両技術の価値は何か。日立製作所(以下、日立)で本領域のプラットフォーム戦略と技術全体を取りまとめる梅田多一は、これらを「新たなDX」と位置付けて一般的なDXとの違いを強調する。集めたデータを分析して業務の最適化や将来を予測するアプローチが一般的なDXだとすれば、ブロックチェーンはデータの改ざんや不正な手続きを一切許さない“うそのつけないDX”だ。

画像: 梅田 多一 日立製作所 マネージド&プラットフォームサービス事業部 サプライチェーンマネージメントサービス本部 ブロックチェーン・Web3推進部 担当部長

梅田 多一
日立製作所 マネージド&プラットフォームサービス事業部
サプライチェーンマネージメントサービス本部
ブロックチェーン・Web3推進部
担当部長

「ブロックチェーンの特性を生かせば、現実のビジネスにおける手続きなどを、プロセスを変えずに安全にデジタル化できます。AIエージェントが人に代わって調達や決済をする時代には、不正や改ざんを許さない『うそのつけない基盤』が必ず求められます。それこそが、安全で自律的なビジネスエコシステムを実現する絶対条件であり、Web3の真の姿になるはずです」(梅田)

「PoC疲れ」から実需フェーズへ グローバルで迫る“情報開示”の波

実際、この理想に向けて多くの企業がPoC(概念実証)に取り組んできた。しかし、その多くが「PoC疲れ」に陥っていたという。梅田と共に企業のブロックチェーン導入の企画や提案を担う渡辺朝子はこう指摘する。

「限定的なユースケースでは、コストの高いブロックチェーンを適用しなくても既存システムで十分に要件を満たせることが分かってきました。特性を真に生かすには、多数の企業が参画して相互けん制を働かせる必要がありますが調整が難しく、PoC疲れに陥ってしまっていたのが実情でした」

しかし現在、その課題を理由に導入をためらう余裕は失われつつある。グローバル市場で生き残る実需として、欧米を中心に「製品情報の開示」要請が高まっており、ブロックチェーンやWeb3の「改ざんが困難」な特性が不可欠になりつつあるからだ。

欧州では、製造・販売する製品の環境配慮に関する情報開示を求める制度(DPP:デジタル製品パスポートなど)が始まり、近年は人権配慮を証明する要請も強まっている。「生産現場で非人道的な労働がないか」「流通過程で不正取引がないか」といった情報開示が要請されており、これに応えることが企業の信頼やブランドイメージを左右する時代になった。

画像: 渡辺 朝子 日立製作所 マネージド&プラットフォームサービス事業部 サプライチェーンマネージメントサービス本部 ブロックチェーン・Web3推進部 主任技師

渡辺 朝子
日立製作所 マネージド&プラットフォームサービス事業部
サプライチェーンマネージメントサービス本部
ブロックチェーン・Web3推進部
主任技師

証跡を新たな企業価値に変える「トークンエコノミー」と先進事例

情報開示の波はソフトウェア領域にも波及している。モノであれソフトウェアであれ、サプライチェーンをさかのぼって情報を連携させるプロセスには常にデータ改ざんや不正のリスクが伴う。これを防ぐには「これまでは企業間の信頼関係に頼るしかなかった」(渡辺 朝子)

そこで日立は、ブロックチェーンで証跡を付与して、安全に流通させて信頼できる取引を実現する仕組み「トークンエコノミー」を提唱している。梅田は詳細をこう語る。

「モノであれば、例えば複製困難なRFID※を付与してブロックチェーンのNFT(非代替性トークン)とひも付けるといった手法があります。さらにNFTの拡張仕様で、原産地や製造元といった製品の『出自』や流通経路、環境配慮などの情報を付加して流通させます。現代の製品はソフトウェアの組み込みが当たり前ですが、この仕組みならモノもソフトウェアも等しく信頼できる形で流通・開示できます。情報開示のリスク対応にとどまらず、証跡自体を新たな企業価値に変えて安全に流通させる。これが日立のめざすWeb3の世界観です」(梅田)
※)ICタグの情報を非接触で読み取って個体を識別、管理するシステム。

日立はこうした構想をすでに提供し始めている。証跡を価値に直接変換する代表例が「グリーントラッキングハブ」だ。

企業の環境配慮の成果をIoT機器で収集して、ブロックチェーンで改ざんできないデータとして管理。さらに改ざん困難な計算処理で環境指標データへ変換し、可視化する仕組みだ。

「環境配慮の実績をレポート化して、国が発行する『J-クレジット』への変換に必要な一連のプロセスを支援する仕組みを実現させました。これは日立の『サステナブルファイナンスプラットフォーム※』の一環で、企業や投資家によるESG投資の活性化を促すものです」(梅田)
※)ESG投資を促進し、企業の持続可能な発展を支援するためのデジタルプラットフォーム

もう1つは、グローバルサプライチェーンのコンプライアンス対応を次なるビジネス展開につなげる製造業の事例だ。実証実験では、長期間にわたって使用・保守される産業機械向けのサービスパーツを対象とし、部品1点ごとに固有のNFTを発行。原産国やHSコード(輸出入統計品目番号)といった出自情報のほか、流通拠点の入出荷情報などを付与している。

「これまで、輸出した部品が一度海外に出ると、その後の移動や利用実態まで含めた輸出管理情報の継続的な追跡が難しいという課題がありました。特に、複数の国・地域をまたいで再配備や保守対応が行われる製品は、管理負荷が大きくなりがちでした。ブロックチェーンを活用することで、こうした機微な情報を安全に保管・共有できるようになり、まずは『監査の省力化』といったコンプライアンス業務の改善が期待できます。さらに、蓄積された流通情報をマーケティング施策に活用するなど『ビジネスの新たな付加価値の創出』にもつなげていけると考えています」(渡辺 朝子)

ソフトウェアの改ざんリスクを防ぐ「SBOM」連携の実証実験とは

ブラックボックスになりがちなソフトウェアの領域に、トークンエコノミーを適用した例もある。日立ソリューションズのSBOM(ソフトウェア部品表)管理サービスと連携させる実証実験だ。同社プロジェクト責任者の渡邊歩氏によると、特に製造業と医療分野では構成管理の厳格化が先行しているという。

画像: 渡邊 歩 日立ソリューションズ ITプラットフォーム事業部 DXソリューション本部 シニアOSSスペシャリスト

渡邊 歩
日立ソリューションズ
ITプラットフォーム事業部 DXソリューション本部
シニアOSSスペシャリスト

「近年は、自社製品に組み込まれたサードパーティー製ソフトウェアやOSSに脆弱(ぜいじゃく)性が見つかった際、迅速に対応できる体制づくりとして多くの企業がSBOM対応を推進しています。欧州では、サイバーレジリエンス法の施行により製造業の組み込みソフトウェアに関する各種情報をSBOMで管理することが義務化される予定で、日本企業も対応を急いでいます」(渡邊 歩)

これを実現するには、SBOMの情報を個社で管理するだけでなく、サプライチェーンで広く連携させる必要がある。しかし従来の仕組みでは足りない場面も多いと、渡邊氏は語る。

SBOMは脆弱性対応の根拠となる情報であり、その製品がSecure-by-Designであることの公式な証明となり得ます。例えばあるソフトウェア開発企業が、ソフトウェアの情報をSBOMに記述して販売先に渡したとします。販売先は本来、その脆弱性に配慮した対応をする必要がありますが、SBOMを故意に改ざんして『脆弱性をなかったことにする』ことも不可能ではありません。こうしたリスクは現状では防ぎ切れないのです」(渡邊 歩)

従来のSBOM管理システムは、企業間の情報流通が「この相手に渡した」という出荷情報の管理にとどまっていた。サプライチェーン全体を安全に連携させるには高いハードルがあったわけだが、ブロックチェーンやWeb3を使えば状況は一変する。従来のSBOM管理システムを連携させて改ざんリスクを抑えつつ、複数の企業間で情報を安全に流通させられるためだ。

スモールスタートで次代のビジネス基盤をつくる「Web3プラットフォーム」

こうしたSBOM情報の安全な流通を実現させるため、日立は前述の実証実験で、基盤となるシステムに新たな仕組みを導入している。
ブロックチェーン基盤には、OSSの「Hyperledger Fabric」に日立独自のRASフレームワークやフルマネージドサービスを組み合わせた「Hitachi Blockchain Service for Hyperledger Fabric」を採用している。今回はさらに、ブロックチェーンやWeb3のメリットをより手軽に享受できる「Web3プラットフォーム」というライブラリ群を実装した。
ライブラリ群には、現実世界の資産にひも付くNFTを発行・移転する「RWAトークン」、複製困難なRFIDとNFTをひも付ける「RFID連携」、証跡内容をデジタル証明する「VC出力」などが含まれる。
RWAトークンは、トークン同士に親子関係(階層構造)を持たせられる。これによって「自動車」の中に「カーナビ」があり、そこに「地図アプリ(ソフトウェア)」が組み込まれているといった複雑なサプライチェーンの構成情報も、ブロックチェーンで正確にひも付けて一括管理できる。将来的には、トークンの流通をトークン化預金やステーブルコインなどの分散型デジタル決済の決済と同期させる「決済連携」機能も提供予定だという。

画像: 「Web3プラットフォーム」ライブラリ群のイメージ

「Web3プラットフォーム」ライブラリ群のイメージ

こういった事例を聞くと、ブロックチェーンやWeb3は大規模な製造業にしか関係ないと思われがちだ。しかし渡辺は、「ブロックチェーンに一度データを格納すれば、たとえシステム管理者であっても、後からこっそり書き換えてミスや不正を隠すことはできません。この強固な耐改ざん性にフォーカスすれば、業種や規模を問わず活用の道は開かれています」と補足してこう続ける。
「いきなり全システムを変えるのではなく、まずは自社の重要なコンプライアンスや意思決定情報を管理するといった身近な課題から適用し、段階的に枠組みを広げるスモールスタートも有効です。日立はフルマネージドの環境提供やHyperledger Fabricのメンテナー(開発者)による手厚い技術サポートにとどまらず、製造や流通、金融などで培ってきたドメインナレッジ(業務知見)も兼ね備えています。システム面と業務面の双方から企業の課題に深く寄り添い、真の解決に向けて最後まで伴走します」(渡辺 朝子)

これらの支援を提供する意義について、梅田は次のように語る。

「こうした仕組みを通じて、多くの企業がモノやソフトウェアに価値を付与して安全に流通させられれば、業界全体の価値向上につながります。人々の生活やコミュニケーションの基盤にも有効です。インターネットにある『匿名性に起因する課題』など、ブロックチェーンやWeb3で解決できることは多く、より良い社会を実現する鍵になるはずです」(梅田)

 ブロックチェーンやWeb3は、もはや一時的なトレンドではない。企業が直面する「証明の壁」を乗り越え、新たなビジネス価値に転換するための不可欠なインフラになろうとしている。日立のWeb3プラットフォームは、安全で自律的な未来のビジネスエコシステムを共に築き上げる強力な武器になりそうだ。

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