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ITシステムの運用現場は、「複雑化」「老朽化」「属人化」という三重苦に悩まされている。限界を迎えつつある守りの運用から脱却して、“AIを業務の中心に据える”にはどうすればいいのか。日立とNTTドコモの共同実証から解決策を探る。

ITシステムの運用現場は、「複雑化」と「老朽化」、そして熟練者に依存する「属人化」という三重苦に悩まされている。長年の増改築でブラックボックス化したシステムを少数の担当者が支える、ギリギリの「守りの運用」からどう脱却するかは多くの企業にとって喫緊の課題だ。

そこで今、運用の在り方を根本から変える切り札として「AIエージェント」への期待が高まっている。しかし、複雑な現場にAIをどのように組み込めばいいのか、頭を抱える担当者は多いだろう。システム運用の壁を突破するための実践論を、アイティメディアのオンラインセミナー「NTTドコモ×日立が導き出すAIエージェント導入の『プレイブック』」(2026年2月26日配信)から探った。

高まるAIへの期待 しかし障壁も

システム運用の現場では今、AIへの期待が高まっている。モデレーターを務めたアイティメディアの本宮学氏がセミナー冒頭で紹介したITmedia エンタープライズの読者調査によると、「ITインフラや全体アーキテクチャの最適化を推進する上で重視するもの」は「生成AIの利用・導入」が33.7%でトップだった。2024年の同調査では15.8%にとどまっており、わずか1年で17.9ポイントの大幅な上昇を記録した。

「AIによるIT運用とサポート自動化の取り組み状況」について深掘りすると、すでにAIを「適用中」の業務は「IT部門のヘルプデスク対応」が20.5%で最多。「今後適用予定」の業務は「オンラインの問い合わせ対応」「情報セキュリティ運用」(どちらも41.1%)、「ITシステム運用」(40.0%)がほぼ横並びだった。AIに求められる役割が、単純なQ&Aからミッションクリティカルな運用支援に広がっていることが分かる。

画像: ITmedia エンタープライズの読者調査を紹介する、モデレーターの本宮 学 氏 アイティメディア DX編集統括部 統括部長 兼 ITmedia ビジネスオンライン編集長

ITmedia エンタープライズの読者調査を紹介する、モデレーターの本宮 学 氏
アイティメディア DX編集統括部 統括部長 兼 ITmedia ビジネスオンライン編集長

現場が直面するハードルも浮き彫りになった。「データ活用を推進するに当たり障壁となっているもの」は、「データが整理できておらず活用できる状態にない」が37.9%でトップになった。

どれほど優秀なAIツールを導入しても、その“頭脳”に読み込ませるデータが整理されていなければ十分に機能しない。長年のシステム運用で蓄積されたマニュアルや担当者でフォーマットの違う設計書、熟練者の頭の中にしかない暗黙知――。こうしたデータが整理・統合されずに放置されている現状こそが、AI活用を阻む最大の壁として立ちはだかっている。

通信インフラの最前線 NTTドコモの「三重苦」

このシステム運用の課題とAI活用におけるデータの壁に立ち向かい、現状を打破するため立ち上がったのが、通信インフラを支えるNTTドコモの情報システム部だ。

同部で部長を務める齋木守通氏は、顧客管理システム「ALADIN」や共通基盤「CAMPUS」など、BSS(BusinessSupport System)領域の技術戦略と基盤開発を統括している。長年の運用を通じて、大規模かつ多層的な構造を築き上げてきたドコモのシステム基盤。確実な運用が求められる現場において、齋木氏は、システム運用にAIを組み込むことの難しさについてこう語った。

画像: 齋木 守通 氏 NTTドコモ 情報システム部 プラットフォーム戦略担当部長 経営基盤担当部長

齋木 守通 氏
NTTドコモ 情報システム部 プラットフォーム戦略担当部長 経営基盤担当部長

「AIを活用する中で大切なのは、業務の『中心にAIを置く』ことです。しかし、単なる便利ツールとして使うだけでなく、業務プロセスそのものをAI中心の発想に転換するというのは容易ではありません。これをどう進めるかが非常に重要だと感じていました」

齋木氏の言葉の背景には、同社が抱えるシステム運用現場のシビアな現状がある。巨大なシステムを維持する現場では、AIを業務の中心に据えたくても、それを阻む壁が幾つも存在していた。

同部の山本幸祐氏と大木佑介氏は、実務の前線で日々その壁の高さに直面していると語った。代表的なのが「情報の散在」「属人化」だ。

「私たちが見るシステムはドコモの歴史と共に拡張しており、資料やログといった膨大な情報資産が蓄積されています。しかし、それらが活用できる形で整理されていません。いざというときには一部の熟練者の『職人技』に頼って解決せざるを得ないケースが多くあり、この構造に強い危機感を覚えていました」(山本氏)

画像1: 山本 幸祐 氏 NTTドコモ 情報システム部 プラットフォーム戦略担当 担当課長

山本 幸祐 氏
NTTドコモ 情報システム部 プラットフォーム戦略担当 担当課長

システムに変更を加える際の設計書同士の突合や、関係各所への影響範囲の周知文作成など、手戻りが発生しやすいアナログな作業は山積み状態だった。大木氏は「関連する情報が複数見つかると、それらを照らし合わせてどう対処するかを全て人力で考えていました」と語り、IT人財不足が叫ばれる中で「熟練者のノウハウをいかに継承するかが大きな課題でした」と当時を振り返った。

画像2: 山本 幸祐 氏 NTTドコモ 情報システム部 プラットフォーム戦略担当 担当課長

山本 幸祐 氏
NTTドコモ 情報システム部 プラットフォーム戦略担当 担当課長

突破口は「シフト」ではなく「リフト」

NTTドコモの「AI中心の業務プロセス転換」という難題に対し、解決への青写真を描いたのが日立製作所(以下、日立)だ。同社でAIアンバサダーとして活躍する宮田辰彦は、基幹システムへのAI適用アプローチには「シフト」と「リフト」の2つの方向性が存在すると解説した。

「私たちが最終的な理想型として見据え、研究しているのが基幹システムの『AIへのシフト』です。従来システムで動いているメインルーティンや個別の機能そのものをAIエージェントに置き換え、AIがシステムの処理の内部に入り込んで実行する形を指します。これが実現すれば、システム設計や開発プロセスに大きな変化が起きるはずです。しかし、稼働している巨大なシステムをいきなりこの形へ移行するには膨大な影響調査や再設計、テスト期間が必要になり、スピード感を持った導入は困難を極めます」

ミッションクリティカルなシステムは、少しの改修ミスでも甚大なサービス停止リスクを伴う。そのため、AIをシステム内部に組み込もうとする「シフト」のアプローチに簡単に踏み切るわけにはいかない。そこで、日立が現実的かつアジャイルなアプローチとして提唱するのが「AIへのリフト」だ。

宮田は詳細について「AIへのリフトとは、『AIラッピング』の考え方とも言えます。稼働している基幹システム本体には一切の改修を加えず、外側にAIエージェントを“相棒”として配置する。システム全体をAIで『ラッピング(包み込む)』するアプローチを指します」と説明した。

最大の利点は、既存システムへの影響を極小化しながらAIの恩恵をフルに受けられる点だ。例として、システム解析AIエージェントにシステム運用に必要な「知識データベース」を連携させる仕組みが挙げられる。ここには、設計書やマスター情報、過去のインシデント履歴や業務情報、ログデータなど現場に散在する多様な資料が含まれる。

インシデントの発生やシステム改修の要件が生じた際、人間が膨大な資料をひっくり返して調べるのではなく、まずはAIがこれらのデータを縦横無尽に探索する。影響範囲の調査、過去の類似障害の特定、入力内容のチェック、さらには対策案の立案などを自律的に推論して、人間に提示する。

「保守チームや要件定義チームは、AIが提示した推論結果や根拠を基に判断を下して、対応するだけで済みます。システム自体には手を入れないため、非常に安全かつスピーディーにAIを現場に導入できて、業務DXを一気に加速させられます」(宮田)

画像: 宮田 辰彦 日立製作所 社会システム事業部 テレコム・ユーティリティソリューション本部 AIトランスフォーメーション推進部 担当部長 AIアンバサダー

宮田 辰彦
日立製作所 社会システム事業部 テレコム・ユーティリティソリューション本部 AIトランスフォーメーション推進部 担当部長 AIアンバサダー

この提案を受けた際、NTTドコモはどう感じたのか。本宮氏がそう問うと山本氏は、既存のシステムに手を入れずスピーディーにAIの恩恵を受けられるという日立のアプローチに対して「安心感を抱いたのと同時に、(新しいアプローチを試せることに)非常にワクワクしたというのが最初の印象でした」と笑顔で明かした。

無理にシステムを“刷新する”のではなく、優秀な「AIという相棒」を隣に座らせる。この「リフト」という発想の転換こそが、これまでリスクを恐れてAI導入をためらっていた運用現場の重い扉を開く鍵になった。

情報参照のアナログ作業をAIに任せる「3つの実証」

AIへのリフトという概念を実際のシステム運用現場にどのように適用したのか。日立とNTTドコモは、システム運用の中で属人化が激しく、多大な労力を要している領域で以下の3つのケースで共同実証した。

(1)インシデント事例の検索・対応
過去の膨大なインシデント情報の中から、いかに素早く効率的に類似事例を見つけ出せるかを検証。

(2)インシデント情報の周知判断・周知文作成
設計書やマニュアルなどの複数ドキュメントを解き明かし、影響範囲を特定して関係者への周知文を作成するプロセスを効率化。

(3)パッチの適用判断の自動化
日々公開される脆弱(ぜいじゃく)性情報に基づき、システムへ「パッチを適用すべきか」を判断する予防保守のプロセスを自動化。

これら3つの運用業務のボトルネックは、いずれも「情報参照と解釈」のプロセスにあった。何らかの影響がサービスに発生した際、あるいは日々更新されるシステムの脆弱性情報を確認する際、専門技術者は膨大な過去事例やマニュアル、ベンダーのWebサイトなどの中から解決の糸口を手作業で探し出す。複数情報が見つかったらそれらを照らし合わせ、社内で対応方針を協議して対処する。情報検索と事実確認のアナログな作業に、現場の多くの時間が奪われていた。

これらをAIエージェントに肩代わりさせる。膨大なデータの探索や推論といったAIが得意な領域を任せて、人間は最終的な判断と実行に特化する。システムに手を加えず、AIを相棒として横に置くAIへのリフトは、まさにこの役割分担を実現させて、運用現場に確かな光明をもたらすものだ。

しかし、道のりは平たんではなかった。実際にAIを動かそうとすると、データ化されていない現場の「暗黙知」の厚い壁が立ちはだかったという。続く後編では、職人技をいかにAIに学習させたのか、そして「AIが間違えるリスク」とどう向き合ったのか。共同実証の泥臭い裏側に迫る。

【後編】はこちら>

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