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実証を重ね、都市の移動を再構築するスマートモビリティの現在地

つくば市長 五十嵐 立青氏
2026年1月13日、つくば市民センターで催された「つくばスマートモビリティ実証事業合同取材会」には、交通やモビリティに関わる複数の実証事業を担う事業者や報道関係者が参加。つくば市が進めてきた取り組みの全体像と現在地が共有された。
その冒頭で五十嵐 立青 つくば市長は、同市がスーパーシティ型国家戦略特区として位置づけられた「つくばスーパーサイエンスシティ構想」のもとで、これまで多様な実証事業を積み重ねてきた経緯に触れた。構想開始から約3年が経過し、住民の課題を起点にした実証を幅広く展開する段階を経て、現在はそれらを次のステップへとつなぐ「ミドルステージ」への移行段階だと説明。今後は重点分野をより明確にし、限られたリソースを集中的に投下しながら、社会実装を見据えた取り組みへと移行していく考えを示した。
中でもスマートモビリティは、ミドルステージにおいて特に重視するテーマの一つだ。つくば市内の移動手段に占める自家用車の割合は依然として高く、周辺部には8割を超える地域まで見られた。加えて高齢化の進行や公共交通を支える人材不足といった構造的な課題が顕在化するなかで、市民が「自由に移動できる環境」をどう確保していくかは、都市の持続性を左右する重要な論点となっている。
五十嵐市長は、実証を重ねるだけで終わらせず、次のイノベーションやエコシステムの創出につなげていく必要性にも言及。スマートモビリティは、単なる交通施策にとどまらず、2030年を節目とする「つくばスーパーサイエンスシティ構想」の将来像を具体化し、都市のあり方そのものを問い直す取り組みと位置づける。そのうえで、まず技術ありきではなく、市民が直面する移動の課題を起点に、限られたリソースの適正な配分を見極めながら“ともに創る”姿勢こそが重要だと強調した。
近距離・生活圏・地域内の移動を支える多層的な実証群
取材会では、「つくチケ」と並行して進められてきた複数のスマートモビリティ関連実証についても紹介された。対象や用途は異なるが、いずれも都市の移動を一つの手段に委ねるのではなく、状況に応じた選択肢をどう広げられるかを探る試みである。

その一つが、駅周辺や市街地での近距離移動を支えるパーソナルモビリティシェアリングサービス「つくモビ」だ。車道ではなく歩道を走らせる電動キックスケーターのような立ち乗り3輪モビリティを市内中心部の3カ所のポートに複数台配置。24時間利用可能で、公共交通だけでは補いきれない“ラストワンマイル”の移動を担う存在として位置づけられている。
一方、利用者の属性に着目したのが「こどもMaaS」だ。保育施設や学校、習い事など、特に共働き家庭において子どもの移動をめぐる課題が顕在化している。そこで本実証では、保護者の送迎負担や外出時の不安の軽減といった観点から、日常的な生活動線に寄り添ったモビリティのあり方が検証された。
さらに将来を見据えた取り組みとして位置づけられたのが、自動運転バスだ。運転手不足が深刻化するなか、公共交通をどう維持していくかは全国共通の課題である。本実証は自動運転専用レーンではなく、より汎用性の高い既存の一般レーンで実施され、2027年度までに原則として人の操作を必要としないレベル4での運行をめざしている。
これら3つの実証は、近距離・生活圏・地域内といった異なるレイヤーから都市の移動を捉え直す取り組みだ。さらに、これに並行して「つくチケ」のような移動と消費を結びつける実証も進められている。なお、合同取材会当日は会場周辺で実運用や実機などの様子を確認できる時間も設けられ、実証の具体像が共有された。
実証の知見を社会実装へとつなぐ次のステップへ
複数の実証を同時に進めているつくば市がめざすのは、さまざまな移動手段をシームレスにつなぎ、暮らしに合わせて組み合わせられるストレスのない移動環境だ。その一環として「つくチケ」に参画した日立では、実証で得られた知見を次のステップへつなげるための検討を進めている。
次なるステップを見据えて、「交通事業者、商業事業者、観光事業者などさまざまな事業者がお互いに利益を享受しながら、地域・沿線経済圏が活性化する仕掛けづくりを、これからどのように具現化していくかが重要です」と言うのは、日立の「つくチケ」プロジェクトマネージャーである坂本 真樹。今後の実装局面では運用面の組み立てがポイントだと強調した。

また、同じく「つくチケ」に携わった日立の塩谷 朋久は「制度や仕組みを地域のなかでどう伝え、どう使われるものにしていくかも大切です。そうしたプロモーションの観点からも、定常的な地域のサービスとして根づかせていくために、利用の広がりを意識した検討を進めていきます」と説明。今後に向けた視点として認知拡大と定着化を挙げる。
暮らしに寄り添う、持続可能な移動環境の実現をめざす「つくばスマートモビリティ」。これからも日立はつくば市や地域の事業者と連携を深めながら、実証で得られた知見を社会実装へとつなげ、“自由に移動できる社会”の実現をめざしていく。

坂本 真樹(さかもと まさき)
株式会社日立製作所
社会システム事業部 モビリティソリューション&イノベーション本部 モビリティソリューション第三部 主任技師
2011年入社。鉄道事業者向け座席予約システム開発に従事。ICカード導入対応、インターネット予約切符の受取対応、ICクレジット決済対応など複数のプロジェクトを経験。2022年から公民鉄事業者向け定期券発行機システム開発に従事。システムリプレースや事業者統合案件などのプロジェクトを経験。その他MaaS案件、デジタルチケッティング案件の提案、展開活動を実施。
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