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重電から家電、ITまで多様な一次情報を持つ日立が、なぜ今「フィジカルAI」に注力するのか。AI、IT、プロダクトの“200年の歴史”を統合するAI戦略の核心を、キーパーソン対談から探ります。

「ドメインナレッジ×AI」による現場変革のソリューションを数多く提示した、CEATEC 2025の日立ブース(詳細はこちらを参照)。本稿では、そんな日立ブースの中でひと際注目を集めていたメインステージの対談セッションから、日立のAI戦略をリードする黒川亮が登壇した「日立のAI戦略-Agentic AIからPhysicalAIへ-」の様子をレポートします。Lumada Innovation Evangelistを務める澤円と黒川が語る、「フィジカルAI」の最前線とは?

日立のカルチャー変革 「AIは自分の言葉で語るのが面白い」


まずは自己紹介をお願いします。

黒川
私は2025年から日立の一員になりました。以前は、直近ですとAWS(アマゾン ウェブ サービス)でSaaSのプラットフォームの立ち上げなどをやっていました。その前はIBMにいまして、Watson(IBMが開発したAIシステム)の日本における“2代目”事業担当もしていました。

黒川亮(日立製作所 AI&ソフトウェアサービスビジネスユニット 事業主管/Vice President AI Strategy)


へえ!それは知らなかった。

黒川
実はそうなんです。キャリアとしては、お客さま担当が20年くらい。ここ8~9年は製品サービスの立ち上げに関わってきました。現在は日立グループ内外のAIトランスフォーメーション推進、技術計画、ステークホルダー対応を担当しており、AI&ソフトウェアサービスビジネスユニットにおけるChief LumadaBusiness Officerとして、Lumada × AIを推進しています。新刊の書籍「AIエージェントの教科書」の執筆にも参加しました。


日立って、最近はキャリア採用も増えていますよね。特にAI領域は、プロパーとして育った人が頑張っているところに、外から来た人が新しい風を入れていて非常に面白いことになっているなぁと。

黒川
そうですね。2025年10月10日にAI戦略の説明会を実施したんですけど、経営層も含めて濃密なディスカッションをさせていただきました。特に直前の二週間は本当に詰めまくった上で、最終的には2月に入社したばかりの私に説明会のメインパートを任せていただくことになりました。


AI戦略のようなものは、自分の言葉で話すのが面白かったりしますよね。特に日立は「自分事として話せること(多様な事業の一次情報)」をいっぱい持っていますから。最近は「自分の言葉で語ろうよ」がカルチャーになりつつあるんじゃないかな。

日立“200年の歴史”が生み出す「フィジカルAI」


(会場に向かって)まず日立と言えばどんなイメージでしょうか。家電? ITソリューション? コンサル? 重電……(観客を見渡して)ああ、重電で手を挙げる方が多いですね。今言ったのは日立が全て一次情報を持っている事業です。では日立とAIについてはどうか。黒川さん、10月10日に発表したAI戦略についてあらためて教えてください。

黒川
この発表を出すに当たって「日立の根本的な強みとは」という点を徹底的に詰めました。日立はAIを1960年代から研究してきたんですね。IT(事業)も1970年代から手掛けています。プロダクト(重電や家電といった物理的な製品)という点では、創業した1910年から提供している。AI、IT、プロダクトといった経験を足し合わせると200年を超える歴史があるんです。その歴史を余さず拾うことができるのが日立のAI戦略の柱となるフィジカルAIです。フィジカルAIは、認識AI、生成AI、エージェンティックAIを活用できます。それによって新しいことできるようになってきました。


例えばどんなことでしょう。

澤円(日立製作所Lumada Innovation Evangelist、圓窓 代表取締役)

黒川
これまでOT領域では認識AIが使われてきました。センサーでデータを集めてAIで「考える」ところまではできていたんですけど、現物にフィードバックする部分は十分じゃなかった。そこへ、生成AIやエージェンティックAIが登場し、そのモデルのトレーニング手法が進化しました。いわゆる「世界モデル」や、クルマの自動運転に適用できるような高度なモデルがかなり出てきたんです。これらを使うことで、課題だった「現実に対してより良い判断を返す」ことが可能になってきました。

一度「返す」ことができると、現場では「良い活動」が生まれます。良い活動が行われるとさらにデータが増え、そのデータでモデルがさらに賢くなる。このような「ドメインナレッジとAIのサイクル」が、IT(デジタル)側とOT(現場)側の両方でぐるぐると回るようになってきたんですね。このITとOTのサイクルを回すためのソリューションとして、日立が用意したのが「HMAX」です。

画像: 日立“200年の歴史”が生み出す「フィジカルAI」

ITとOTのサイクルを回す「HMAX」とは


HMAXって略称ですか?

黒川
HMAXというブランド名です。鉄道事業における「Hyper Mobility Asset Expert」から名付けられました。鉄道事業者が保有する膨大な資産や運行データを統合的に管理し、AIを活用して最適化することで、運行の安全性や効率性を高めるソリューションです。設備の状態監視やメンテナンス計画、運行スケジュールの改善など、現場の判断を支援する仕組みを提供しており、資産の価値を最大限に引き出します。鉄道事業者のAsset(資産)をExpert(専門家)のように活用して、現場に適した判断として返してあげる仕組みがHMAXの基本的な考え方です。これを今、さまざまな領域に展開しています。


どんな領域が挙げられます?

黒川
物流だったりエネルギーだったり。これまでの日立は「自分のドメインの中で頑張る」人が多かったんです。ただ、グローバル企業として「日立の中でどうやっているの、教えて」と言われるケースが増えました。だから、ナレッジを共有していこうとしています。

Lumada 3.0で、具体的な製品と抽象度の高い取り組みが融合


企業は部門ごとにセクショナリズムもあるし、サイロ化も進むものです。日立は、大赤字をきっかけにして自ら新しいカタチを作り出そうとしている。私は2021年にLumadaのエバンジェリストになりましたが、そのときからすでに「皆のやっていることをどうやって横につなげるか、それを生かして社会に貢献するかに舵を切るんだ」と決心していた。そこで掲げられたのが「Lumada」(ルマーダ)で、その結果として出てきたのがHMAXだと理解しています。

黒川
そう思います。HMAXは、Lumada 3.0としてLumadaの取り組みの進化形に位置付けられています。Lumadaで経営層が散々データのことを考えた結果が、今につながっているのかなと思います。

日立ビルシステムやダイキン工業がHMAXソリューションを活用


新しい展開の1つとなる、HMAXのインダストリー事業について教えてください。

黒川
インダストリー領域でも現場に根ざしたAI活用を進めています。エスカレーターとエレベーターを扱っている日立ビルシステムの取り組みなどです。エレベーターの点検には高所作業もあり、安全確保は非常に重要です。そこで、技術者がウェアラブルカメラを身につけ、AIがその映像から”危険につながる”と判断したらアラートを出すといった仕組みを整えました。

ダイキン工業さまとも協業しています。機器稼働データや保全データといったドメインナレッジを設備故障診断などに活用している事例です。


現場は電波が届かない場合も多いから、エッジ側で処理できることもポイントですよね。クラウドのLLMだけでなく、エッジAIを活用することでインターネットに接続しない環境でも安全確認や故障診断などができるようになるんですね。

黒川
はい。エッジAIでどこまでできるか、今磨きをかけているところです。学習についてはクラウドを使い、推論にはエッジや近距離の国内データセンターを使うといったデータのロケーション戦略も重要でしょう。

画像: 日立ビルシステムやダイキン工業がHMAXソリューションを活用

フィジカルAIが実現する「より良い役割分担」


高所作業のように、人間がやること自体がリスクになる作業って多いですよね。そうした「やらなきゃいけない」けれども危険が伴う部分をフィジカルAIやロボットが担えるようになれば、人間はより良い役割分担ができるんじゃないかな。

黒川
めざすのは、もう少しゆとりのある暮らしであり、澤さんが言う「より良い役割分担」の実現です。AIに任せること、ロボットに任せること、そして人間が集中すべきこと――という切り分けを考えたいですね。


最後に、HMAXの今後の展開について教えてください。

黒川
金融や公共分野も視野に入れています。フィジカルAIが進むと「物理空間がデジタル空間を浸食する」ようになり、ITの経験をOT領域に適用できるようになると思うんです。そうなれば、例えば年金や相続のような複雑な手続きであっても、役所や銀行、司法書士などをAIエージェントがつなぎ、自動化、高速化することなどもできるようになるのではと考えています。

画像: フィジカルAIが実現する「より良い役割分担」


(フィジカルAIの推進は)「時間」という、私たち人間が操作できない唯一のパラメーターに対して何ができるかという挑戦ですよね。

黒川
そう。1日は24時間で、人生は1人1回ですから。


多様な要素を組み合わせることで、幅広い分野に適用できる取り組みですよね。それも、一次情報をたくさん持っている日立だからこそできることなのかなと。皆さんの日立に対するイメージは、重電の会社、家電の会社、あるいはITの会社とそれぞれ違ったかもしれませんが、日立は本当にいろんなところにいます。ぜひ注意深く見ていただいて、「あ、こんなところにも日立」と感じてもらえるとうれしいですね。

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