日立市共創プロジェクト推進本部 部長 小山 修氏、独立研究者・著作家・パブリックスピーカー 山口 周氏、お笑い芸人 バービー氏 に登壇いただき、社会イノベーション事業統括本部 統括本部長 佐野 豊およびモデレーターとしてLumada Innovation Hub Senior Principal 加治 慶光を交えて開催されたトークセッションのイベント採録を、前編後編でお届けします。テーマは、「市民参加型による未来都市の実現に向けて」です。
(写真左から)【モデレーター】加治 慶光(株式会社日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal)、山口 周氏(独立研究者・著作家・パブリックスピーカー)、バービー氏(お笑い芸人)、小山 修氏(日立市 共創プロジェクト推進本部 部長)、佐野 豊(株式会社日立製作所 社会イノベーション事業統括本部 統括本部長)
共創プロジェクトの背景
加治
本日モデレーターを務めます、日立製作所の加治です。このセッションでは、人々が生き生きと暮らせる次世代の都市を、どのように実現できるのか、そのためには何が大切なのかといったテーマで議論していきます。議論の中心となるのは、日立市と日立製作所による次世代未来都市共創プロジェクトの取り組みです。まず、このプロジェクトが生まれた背景について、日立製作所の佐野さんからお話しいただきます。

佐野
私たちが取り組もうとしている地域の課題は、年々複雑になっています。ひとつの課題を単一のソリューションで解決しようとすると、また別の課題が現れて地域全体の課題解決にはなかなか至らない、といった状況が起きています。今必要なことは、日立の知見やソリューションをひとつの地域に集中して投入し、地域全体の課題を同時に解決するというアプローチだと私たちは考えました。その時パートナーとなっていただける都市はどこなのか。すぐに創業の地であり、日立グループの事業所が多く、従業員のご家族やOB、OGの方が多く暮らしている日立市が候補に挙がりました。市民参加型の地方創生をめざす最適なパートナーは、日立市の他にはないと考え、お声がけさせていただきました。

加治
日立製作所からのオファーを受けた時、日立市役所の小山さんはどんな感想を持たれましたか。
小山氏
日立製作所からこの共創プロジェクトのご提案をいただいた時、私は本当に嬉しく思いました。長く産業振興を担当してきた中で、日立製作所の製品やシステムの社会実験をぜひ日立市でお願いしたいと何度かお伝えしたこともありましたから、これは良い機会をいただけたと思いました。このお話をいただく以前から、日立市は人口減少という大きな課題を抱えています。1983年の20万6千人をピークに、現在ではおよそ16万人に人口が減少しています。小川市長が就任されて約10年に渡り、人口減少の対策と取り組んできましたが、まだこの傾向に歯止めがかかっていません。また、海と山が近接している日立市では、地理的な要因もあって交通渋滞も長年の課題となっています。これらを解決するためにも、ぜひ日立製作所の力を借りたいと思いました。

加治
山口さんは、この日立市との共創プロジェクトの背景の話を伺って、どんな印象をもたれましたか。
山口氏
スマートシティのプロジェクトというのは世界中で進められていて、うまくいっているケースもありますが、失敗例も多いのが現実です。失敗したケースを見てみますと、類似したひとつの特徴が見えてきます。それは、解決したい課題が何なのかはっきりしないまま、テクノロジーやデジタルに飛びついてプロジェクトを進めてしまう、ということ。ですが、日立市の場合、人口減少と交通渋滞という2つの課題が明確にあって、まずこれをどう解決するのかを検討されており、成功パターンをしっかり押さえていると思います。

共創プロジェクトの概要
加治
共創プロジェクトは、現在どんなテーマに取り組まれているのでしょうか。
小山氏
現在は大きく3つのテーマに取り組んでいます。まず地域での脱炭素化をめざす「グリーン産業都市の構築」、市民の健康な暮らしを支える「デジタル健康・医療・介護の推進」、そして「公共交通のスマート化」です。それぞれの分野でデジタルを効果的に活用し、暮らしやすいまちづくりを行っていこうと考えています。

佐野
この共創プロジェクトは、日立市の総合計画をベースにしています。総合計画の最終年度は2031年なので、まずそこをターゲットにしていく。それから先は、2050年といった長期の時間軸でプロジェクトを進めていくことも想定しています。日立市の3つのテーマは、日本全国に展開できるビジネスモデルとなる可能性が高い課題ですから、私たち日立製作所も強い思いを持って取り組んでいます。
加治
共創プロジェクトは、現在はどのような体制で進められているのですか。
小山氏
日立市役所では2025年4月に共創プロジェクト推進本部が設置されました。専従者14名のほか、関係部活動など兼務者を合わせますと約50名がこのプロジェクトに携わっています。

佐野
日立製作所からは、7名の人間が日立市に移住をしまして、市役所の共同プロジェクトルームに常駐して活動しています。また、茨城地区の従業員を含めて約100名がこのプロジェクトに携わっています。
地方創生の現実
加治
ここまで日立市の共創プロジェクトを中心にお話をしてきましたが、北海道の栗山町でまちおこしに取り組まれているバービーさんにも、その活動や思いについてお話しいただきたいと思います。
バービー氏
私がまちおこしのようなことを始めた時、すぐに感じたことがあります。それは、都市の人が考える地方の問題意識と、地元の人の問題意識の違いです。私の地元の北海道夕張郡栗山町でも、自治体が移住促進を掲げてはいるのですが、それは建前として移住を促進しているだけで、地元の人からすると「まちおこしなんて余計なことはしないで」というのが本音で、私も正面から言われたことがあります。ほとんどの人は、今の生活を変えたくはないんです。地元の人にそう言われた時、私は自分が都市側の人間として上から目線でまちおこしを考えていたことに気づかされました。その時、「私は個人の力でできることに絞って、地元にできることをしよう」とシフトチェンジしました。

バービー氏
私が最初にやったことは、古民家を買い民泊施設にすることです。地元の人たちがそれぞれ民泊を始めて連携したら、まちの経済の底上げができるのではないかと思ったからです。ボロボロでもう役に立たないと思われていた古民家が、お金を稼げる宿になった。これは意外に町民に刺さりまして、「これなら私たちでもできるかもしれない」、そんな期待感が生まれました。
他にもいくつか取り組んでいることがあります。この地域の主婦の方たちは、夏場は農家をしているのですが、冬場は農作業ができないので手芸などに取り組む人が多く、作品をEC(電子商取引)サイトでネット販売することにしました。野菜のECサイトもやってみたりしていますが、なかなかうまくいっていません……正直、全然うまくいっていません。農家からすると、ECって本当に手間のかかる出荷の仕方でしかないし、ECサイトを管理するようなテクノロジーに関しても地元の人にはハードルが高い。そんないろいろな壁があることも、実際に取り組んで気づかされました。

山口氏
エヴェリット・ロジャースという学者のイノベーションの普及理論では、ものすごい新しいもの好きで何でもパッと飛びつく人が2.5%ぐらいいて、その人たち見て「あ、自分もやってみよう、なんか儲かりそうだし」といって動く人たちが13.5%ぐらいいる。合わせて16%ぐらいの人たちが動き始めると、「なんか、あれいいんじゃない」と世の中が変わっていくと言われています。
バービー氏
16%という数字は知りませんでした。
山口氏
しかしまちづくりで16%の人が一気に動き出してしまうと、分断が起こることが多いです。僕は20年ぐらいコンサルティングの業界にいて、企業変革や地方自治体のアドバイスなどをしてきましたが、重要なのはテンポなんです。指揮者が速いテンポでタクトを振ると、それについていける人以外は、途中で演奏をやめてしまう。それは、世界中で失敗しているスマートシティのプロジェクトの最も大きな失敗要因だと思います。
バービーさんも「面白そう」「儲かりそう」という気配を少しずつ見せながら、テンポをあげていくことが重要だと思います。まちおこしというのは、大体100個に1個ぐらいしかうまくいきません。しかし打率1%のバッターが100回打席に立ってヒットを打つ確率は、6割強です。今が10であれば、あと90の施策をやってみれば驚くようなことがきっと起きますから、とにかく数多く打席に立つことです。
バービー氏
でも私の場合、全部ポケットマネーでやっているので、100個はちょっときついです…。
山口氏
それであれば、事務所や地方自治体などを巻き込んでいくという方法がいいかもしれませんね。
バービー氏
すごく勉強になりました。
「市民参加型による未来都市の実現に向けて」(後編)はこちら >
「日立市×日立 次世代未来都市共創プロジェクト」の記事一覧はこちら >

小山 修(こやま おさむ)
日立市
共創プロジェクト推進本部部長
1988年、日立市役所入所。1991年より産業経済部企業立地課で企業の誘致を担当。以来、商工振興課、日立地区産業支援センターなど、34年間、中小企業振興、産業振興に携わる。2021年より産業経済部長、2025年より現職。

山口 周(やまぐち しゅう)
1970年東京生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。株式会社ライプニッツ代表。
慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ、コーン・フェリー等で企業戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後に独立。
株式会社モバイルファクトリー社外取締役。
著書に『人生の経営戦略』『クリティカル・ビジネス・パラダイム』『ビジネスの未来』『ニュータイプの時代』『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『武器になる哲学』など。

バービー
お笑い芸人。北海道出身。2007年、相方のハジメとお笑いコンビ「フォーリンラブ」を結成。TBS「ひるおび!」のコメンテーターや、TBSラジオ「バービーとおしんり研究所」のパーソナリティを務めるほか、生まれ故郷の町おこしにも尽力。YouTube「バービーちゃんねる」では、最新美容や女性の悩みについてのトピックが話題となり、現在の登録者数は30万人を超える。著書には、講談社より「本音の置き場所」に続き、PHPスペシャルで人気連載をまとめた「わたしはわたしで生きていく」を一昨年出版。多岐にわたり活動の幅を広げている。

佐野 豊(さの ゆたか)
株式会社日立製作所
デジタルシステム&サービス統括本部社会イノベーション事業統括本部長
兼 デジタルシステム&サービス統括本部ひたち協創プロジェクト推進本部長
1994年に日立製作所大みか事業所に入社以来、交通・電力システムやスマートシティ、制御プラットフォームなど幅広い事業に従事。多様化する社会課題の解決に向け、多くのプロジェクトをリード。柏の葉スマートシティプロジェクトでの経験も活かし、現在、創業の地である日立市とともに「次世代未来都市(スマートシティ)の実現に向けた共創プロジェクト」を推進、プロジェクトリーダーとして指揮を執る。

【モデレーター】加治 慶光(かじ よしみつ)
株式会社日立製作所
Lumada Innovation Hub Senior Principal
シナモンAI 会長兼チーフ・サステナビリティ・デベロプメント・オフィサー(CSDO)、鎌倉市スマートシティ推進参与。青山学院大学経済学部を卒業後、富士銀行、広告会社を経てケロッグ経営大学院MBAを修了。日本コカ・コーラ、タイム・ワーナー、ソニー・ピクチャーズ、日産自動車、オリンピック・パラリンピック招致委員会などを経て首相官邸国際広報室へ。その後アクセンチュアにてブランディング、イノベーション、働き方改革、SDGs、地方拡張などを担当後、現職。2016年Slush Asia Co-CMOも務め日本のスタートアップムーブメントを盛り上げた。
「Hitachi Social Innovation Forum 2025 JAPAN, OSAKA」開催概要
開催: 2025年7月17日(木)
会場: ヒルトン大阪
URL:https://www.service.event.hitachi/regist/