「第1回 人が育つから、技術が生きる データ活用の第一歩」から読む>
ドメイン側とデジタル側、双方の立場から見えた成果
MI(マテリアルズ・インフォマティクス)を“材料をはじめとした製造業全般に適用されるインフォマティクスを広く表す言葉”として共通言語として使用し、継続的かつ実践的に展開されてきた本プロジェクトは、定量・定性の両面でさまざまな効果をもたらしました。ドメイン知識※1を用いて開発を担う部門では、過去の製品データの収集や検討にかかる作業負荷が軽減され、処方の分類や類似性の整理によって、検討スピードや精度の向上を達成。一方、デジタル推進の立場では、現場との対話を重ねるなかで「どの情報をどう活用するか」といった視点が定着し、活用意識や判断軸が変化・明確化したといいます。
※1 特定の分野や業界に関する専門的な知識

花王株式会社
SCM部門 技術開発センター
生産要素技術グループ(製造制御技術)
グループリーダー
高橋 滋樹 氏
高橋氏
これまで開発現場では、経験や感覚を頼りに検討を進める場面が少なくありませんでしたが、処方をグループ化して視覚的に整理することで、“どこから手をつけるか”が見えやすくなりました。検討のスピードだけでなく、内容の質にも変化が表れており、分析結果を解釈する場面でも現場側で自ら考える習慣が根づく可能性を感じています。

花王株式会社
デジタル戦略部門 DXソリューションズセンター
SCM DX共創部 データインテグレーショングループ
マネジャー
田村 仁 氏
田村氏
デジタル推進の立場から見て、本プロジェクトは伴走型でテーマを推進していくモデルケースになりました。結果的に5件もの成功事例を生み、かつてなら2年ほどかかったような取り組みも、今回は約半年と1/4の期間で目標を達成しています。タスク設計など、開発部門が自部門内で進められるようになった工程も増えてきており、開発部門内でテーマを推進したメンバーはもちろん、私たち支援側にとっても意欲や意識の底上げという点で確かな成長につながりました。
※1 特定の分野や業界に関する専門的な知識
データや手法の導入効果にとどまらず、現場の思考や判断のスタイルそのものが変化しつつある点こそが、このプロジェクトが花王にもたらした本質的な成果のひとつといえるでしょう。
成果を展開する次なるステージへ向けて
本プロジェクトを通じて得られた知見や成果は、新たなステップへとつながりつつあります。花王のデジタル戦略部門ではより多くの現場への展開や仕組みの定着化に向けて、AI解析ツールを研究所メンバーにも紹介するなど使用者の拡大を推進。今後は海外工場への情報共有も含め、グローバルでの活用を加速させていきます。

花王株式会社
デジタル戦略部門 DXソリューションズセンター
SCM DX共創部 データインテグレーショングループ
愛須 光 氏
愛須氏
データ活用推進の前には、そもそもデータの取得自体が難しい、取得に手間やコストがかかるといった課題もあります。そのため、分析環境やUIの整備に加え、プログラミングの知識がなくても使える仕組みが必要です。今後はExcelのように気軽に使えるデータ解析ツールの整備などを通じて、現場での活用が広がる環境づくりをめざしていきたいと考えています。

株式会社 日立製作所
公共システム事業部 公共基盤ソリューション本部
デジタルソリューション推進部
技師 日立認定データサイエンティスト(プラチナ)
高原 渉
高原
今回のプロジェクトはとてもやりがいのある仕事でした。このコンサルティングを通じて、実務に落とし込まれるツール開発にまでつながったことはうれしい限りです。実は今回、“広く製造業全般に活用できるMIの教科書はないの?” という声を花王の皆さまから多くいただき、それが私自身の書籍※2執筆の大きな後押しになりました。今回のように、執筆した内容を実践で生かしてくださる現場があるのは、本当にありがたいことです。
田村氏
今後はプログラムをさらにブラッシュアップし、成功事例やプロジェクトをけん引するキーパーソンの数も倍増させていきたいと考えています。新たなテーマ創出のためにも、講演会やWeb講義を再度実施し、本格的な教育カリキュラムについても着実に進めていく計画です。高原さんが執筆されたMIの教科書※2の内容も踏まえて、よりよいカリキュラムを一緒に作っていければと思っています。
※2 高原渉, 福岡誠之「マテリアルズ・インフォマティクス 実践ハンドブック」. 森北出版. 2025年
デジタルもデータも、人の力あってこそ――
今回のプロジェクトを通じて改めて浮かび上がってきたのは、データサイエンスにおける人の知識や判断が果たす役割の大きさでした。例えば、得られた結果を評価・活用するには、ドメイン知識やそれに関わる経験をもとにその結果の意味を正しくとらえる視点が必要だということも再認識されたといいます。最新のデジタル技術からより大きな価値を生み出すには、人間によるこうした積み重ねが不可欠なのです。

花王株式会社
SCM部門 技術開発センター
生産要素技術グループ(製造制御技術)
田中 伸明 氏
田中氏
実験の場こそ実験台からデジタル上に移行しましたが、データサイエンス領域の検討そのものは地道な作業の繰り返しで、当初のイメージよりも粘り強さや根気が求められる分野だと改めて感じました。
高原
AIは“何でもできる”と思われがちですが、実際には、基礎知識や正しい考え方がなければ誤解を与える結果を招きかねません。技術を安全に、正しく使いこなすには、人間が果たすべき役割が明確に問われる時代だと思います。
田村氏
デジタル技術が急速に進化するなかで、人が果たすべき役割がいっそう問われていると感じています。得られた結果をどう解釈し、判断し、生かすか。そうした力こそ、今後のデータサイエンス推進を支える柱になるはずです。教育の継続によって、そんな人財を増やしていく取り組みを、これからも日立と一緒に進めていけたらと思っています。
花王株式会社「MIコンサルティング導入事例:データサイエンス人財育成プロジェクト」の記事一覧はこちら>
花王株式会社
[所在地] 東京都中央区日本橋茅場町一丁目14番10号
[創 業] 1887年6月
[従業員数] 7,861名
[事業内容] コンシューマープロダクツ事業製品、ケミカル事業製品の製造、販売を主な事業としているほか、これらに附帯するサービス業務等

高原 渉
株式会社 日立製作所
公共システム事業部 公共基盤ソリューション本部
デジタルソリューション推進部
技師 日立認定データサイエンティスト(プラチナ)
大学院では材料工学を専攻。メーカーでのMIを活用した材料開発業務を経て、日立製作所入社。 現在は、データサイエンティストとして日立の材料開発ソリューションに従事。趣味はデータ分析で、プライベートでデータ分析コンペティションに参加している。Kaggleコンペティション「Vesuvius Challenge - Ink Detection」準優勝。Nishikaコンペティション「材料の物性予測」3位入賞。Kaggle Master*。社外講演等の活動も多く、MIの普及促進を行っている。
*世界的なAIのデータ分析コンペティションプラットフォーム「Kaggle(カグル)」における称号。「日立のデータサイエンティストが、世界的なAIデータ分析コンペ「Kaggle」で準優勝し、Kaggle Masterに昇格」(2023年7月18日)
日立アカデミー主催「マテリアルズ・インフォマティクスで学ぶ製造業の現場におけるAI実践活用講座」のご案内
材料開発におけるデータ活用が本格化し、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の導入が広がっています。本コースでは、データ分析の考え方・AIフレンドリーなデータのあり方・AIプロジェクトの進め方(要件整理・タスク設計)などの基礎から、各種データ(表形式・画像・テキスト・スペクトル・時系列・材料構造、など)における機械学習モデルの構築・活用及び生成AI(LLM)+ RAGやプロジェクトにおいてしばしば直面する状況とそれに応じた対処法までを講義します。本講座では、本記事にてMIをご説明している高原が講義を行います。
開催日時:2025年9月1日(月)10時~17時
詳細・お申し込みはこちら(日立アカデミーのWebサイトへ)
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