Hitachi
お問い合わせお問い合わせ
講演やWeb講義による基礎教育を経て、花王株式会社(以下、花王)では2024年6月からコンサルティングによる伴走型のテーマ推進(以下、伴走型テーマ推進)が始動しました。社内公募で集まったテーマに対して、日立の支援チームが現場に深く入り込みながら伴走型コンサルティングを提供するこの取り組みは、単なる知識や技術の提供にとどまらず、組織や個人の意識と思考に前向きな変化をもたらしていきます。

「第1回 人が育つから、技術が生きる データ活用の第一歩」から読む>

“使える解析”に不可欠な2つのステップ

今回の伴走型テーマ推進では、社内公募で集まった約20件のテーマを実際にプロジェクトとして採択しました。これらのテーマは、花王においては、生産工程などを対象範囲とするインフォマティクス(プロセス・インフォマティクス、PI)および運転操作などを対象範囲とするインフォマティクス(オペレーション・インフォマティクス、OI)として位置づけられているものが中心でした。

並行で進められたそのすべてのテーマ推進において、最初に重視されたのが「要件整理」と「タスク設計」という2つのプロセスです。現場の課題を可視化し、それをどのような枠組みで解決に導くか。こうした設計思考にもとづいた支援アプローチは、単なる事前準備ではなく、実務への着地を強く意識したものとして位置づけられていました。

画像1: 花王株式会社「MIコンサルティング導入事例:データサイエンス人財育成プロジェクト」
【第3回】伴走型テーマ推進で支援から実践へ──

株式会社 日立製作所
公共システム事業部 公共基盤ソリューション本部
デジタルソリューション推進部
技師 日立認定データサイエンティスト(プラチナ)
高原 渉

高原
要件整理とは“そもそも何が課題で、どんな情報を使って何を解決したいのか”を最初に言語化するステップです。これを曖昧なまま進めると、後で“使えない解析”になるケースが多いと感じます。だからこそ時間をかけて一緒に整理し、漏れなく設計することが大切です。

またタスク設計では、例えば“どんな情報をもとに、どんな結果を導き出したいのか”といった枠組みを明確にしながら、それが実際に現場で使えるかどうかを見据えて、「目の前の課題をデータサイエンス・AI・統計手法などで扱うことのできる枠組みに落とし込む」ように設計していきます。具体的な分析の話に入るのはその後で、こうした基盤をしっかり築くことで、どんなテーマにも応用できる考え方が身につくと思います。

私自身の専門である材料開発などを対象範囲とするインフォマティクス(マテリアルズ・インフォマティクス、MI)で培ってきた要件整理・タスク設計の考え方を、共通の課題解決の手段として今回の花王のPIやOIのテーマにも適用していきました。また、昨今のAI・データサイエンスブームもあり、〇〇・インフォマティクスという表現が増えてきていますが、その多くはその対象範囲の違いによるものが多いため、この伴走型テーマ推進では、MIを“材料をはじめとした製造業全般に適用されるインフォマティクスを広く表す言葉”として共通言語のように使用していきました。

画像2: 花王株式会社「MIコンサルティング導入事例:データサイエンス人財育成プロジェクト」
【第3回】伴走型テーマ推進で支援から実践へ──

花王株式会社
デジタル戦略部門 DXソリューションズセンター
SCM DX共創部 データインテグレーショングループ
マネジャー
田村 仁 氏

田村氏
実際にコンサルティングを見て改めて感じたのは、“何を解決したいのか”を最初にしっかり考えたうえで最適な手法を選ぶことの重要性です。解析の基礎知識が不十分だと結果の解釈も難しく、次のステップに進めない場面も多くありました。そうした状況を整理し、軌道修正してくれた高原さんのコンサルティングはとても頼りになり、大きな気づきにつながったと感じています。

業務スタイルを変える可視化ツールの力

採択された推進テーマのひとつとして取り組まれたのが「化粧品の製法・処方のクラスタリング※1による実験業務の効率化」と、それを支えるデータ駆動型製造設計支援ツールのプロトタイプ開発です。協力メンバーとして同社デジタル推進担当の愛須 光氏(以下、愛須氏)も加わり、処方の類似度を定量化することで、過去データの探索スピード向上と検討数の削減を実現しました。このツールは単なる実験的な試みにとどまらず、今後のシステム導入を視野に入れた実践的な成果として社内から評価されています。

※1 似たデータ同士を自動でグループ分けする手法

画像3: 花王株式会社「MIコンサルティング導入事例:データサイエンス人財育成プロジェクト」
【第3回】伴走型テーマ推進で支援から実践へ──

花王株式会社
SCM部門 技術開発センター
生産要素技術グループ(製造制御技術)
グループリーダー
高橋 滋樹 氏

高橋氏
処方の数が膨大で似た製法を見つけるのに時間がかかっていましたが、それを可視化・グルーピングすることで類似処方の抽出が高速化しました。当初めざしていた方向性が明確になり、チーム内でも“このやり方なら他分野にも展開できる”という声が上がっています。今も社内での共有や展開を進めているところです。

画像4: 花王株式会社「MIコンサルティング導入事例:データサイエンス人財育成プロジェクト」
【第3回】伴走型テーマ推進で支援から実践へ──

花王株式会社
デジタル戦略部門 DXソリューションズセンター
SCM DX共創部 データインテグレーショングループ
愛須 光 氏

愛須氏
今あるデータでどう課題にアプローチするかを考えるなかで、いただいた助言が大きなヒントになりました。統計的な手法や可視化といった従来のアプローチも有効だと気づけたことに加え、自分では思いつかなかった手法の提案をいただけたことや、テーマ特有のデータの扱い方について具体的にすり合わせができたことは大きな学びになりました。

画像5: 花王株式会社「MIコンサルティング導入事例:データサイエンス人財育成プロジェクト」
【第3回】伴走型テーマ推進で支援から実践へ──

花王株式会社
SCM部門 技術開発センター
生産要素技術グループ(製造制御技術)
田中 伸明 氏

田中氏
最初の要件整理に苦労しましたが、そこに時間をかけたおかげで後半の進行はスムーズでした。最終的にアプリケーションとして形になり、それが“業務の進め方そのもの”を変えるきっかけにもなったことは、自分のキャリアにとっても貴重な成功体験です。

全力のスクラムが育んだ変化の芽

こうしたテーマ推進を通じて、プロジェクトメンバーは高原の“思考の型”を自らのものとして体得していきました。それは単なる知識の獲得にとどまらず、メンバー自身の考え方や姿勢も少しずつ変化させていきます。

高原
何度か訪問するなかで、田村さまや愛須さまは私が言いそうなことをあらかじめ想像され、先んじてテーマの前さばきをしてくださるようになりました。それはコンサルティングをさせていただいている立場として本当にうれしいですし、こうして思考を共有できているのは、現場でのリアルな対話を大切にしてきたからこそだと思います。

田中氏
使う場面や効果、それが業務にどう結びつくのかといった問いかけを受けながら進めるなかで、取り組み方や考え方そのものが変わりました。どこをそぎ落とすかまで含めて考えるプロセスに、私自身これまでとは違う新たな視点を得ています。

高橋氏
伴走型テーマ推進を通じて、情報を整理し見せ方を工夫することで実務での活用や業務効率の向上につながる手応えを感じています。また、仮説を立て、検証を重ねるプロセスを通じて、デジタル技術を使いこなすには柔軟な発想と試行錯誤の姿勢が欠かせないことを改めて実感しました。

こうした一連の取り組みが花王にもたらしたのは、意思決定や開発プロセスといった仕事の進め方そのものに対する変化です。次回はプロジェクト全体を振り返る総括として、プロジェクトメンバーが見いだした意義と今後の展望に迫ります。

「第4回 人が咲かせるデータサイエンスの花」はこちら>

花王株式会社「MIコンサルティング導入事例:データサイエンス人財育成プロジェクト」の記事一覧はこちら>

花王株式会社

[所在地] 東京都中央区日本橋茅場町一丁目14番10号
[創 業] 1887年6月
[従業員数] 7,861名
[事業内容] コンシューマープロダクツ事業製品、ケミカル事業製品の製造、販売を主な事業としているほか、これらに附帯するサービス業務等

花王株式会社のWebサイトへ

画像6: 花王株式会社「MIコンサルティング導入事例:データサイエンス人財育成プロジェクト」
【第3回】伴走型テーマ推進で支援から実践へ──

高原 渉
株式会社 日立製作所
公共システム事業部 公共基盤ソリューション本部
デジタルソリューション推進部
技師 日立認定データサイエンティスト(プラチナ)

大学院では材料工学を専攻。メーカーでのMIを活用した材料開発業務を経て、日立製作所入社。 現在は、データサイエンティストとして日立の材料開発ソリューションに従事。趣味はデータ分析で、プライベートでデータ分析コンペティションに参加している。Kaggleコンペティション「Vesuvius Challenge - Ink Detection」準優勝。Nishikaコンペティション「材料の物性予測」3位入賞。Kaggle Master*。社外講演等の活動も多く、MIの普及促進を行っている。

*世界的なAIのデータ分析コンペティションプラットフォーム「Kaggle(カグル)」における称号。「日立のデータサイエンティストが、世界的なAIデータ分析コンペ「Kaggle」で準優勝し、Kaggle Masterに昇格」(2023年7月18日)

日立アカデミー主催「マテリアルズ・インフォマティクスで学ぶ製造業の現場におけるAI実践活用講座」のご案内
材料開発におけるデータ活用が本格化し、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)の導入が広がっています。本コースでは、データ分析の考え方・AIフレンドリーなデータのあり方・AIプロジェクトの進め方(要件整理・タスク設計)などの基礎から、各種データ(表形式・画像・テキスト・スペクトル・時系列・材料構造、など)における機械学習モデルの構築・活用及び生成AI(LLM)+ RAGやプロジェクトにおいてしばしば直面する状況とそれに応じた対処法までを講義します。本講座では、本記事にてMIをご説明している高原が講義を行います。

開催日時:2025年9月1日(月)10時~17時
詳細・お申し込みはこちら(日立アカデミーのWebサイトへ)

他社登録商標
Excelは米国Microsoft社の日本およびその他の国における登録商標または商標です。
本誌記載の会社名、商品名、製品名は、それぞれの会社の商標または登録商標です。

This article is a sponsored article by
''.