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生成AIの徹底活用を推進する日立グループの各部門の使いこなし術を紹介するこのシリーズ。今回は、東京ビッグサイトで開催された小売業向け日本最大規模の展示会リテールテックJAPAN2025 日立グループブースのコンセプト映像制作とブースデザインに生成AIを活用した取り組みについて、日立製作所 産業・流通営業統括本部でプロモーションに携わる山田将人と、日立製作所 研究開発グループのデザイナー 黒澤雄一が紹介します。話を聞くのは、本プロジェクトに参画していた日立製作所 GenAIアンバサダーの大山友和です。

必要な映像を限られた予算でどうつくるか

大山
2025年3月に開催されたリテールテックJAPAN2025において日立グループブースは大変好評を博しましたが、実は、ブースで上映するコンセプト映像の制作とブースのデザインに生成AIを活用し、コスト削減や制作期間短縮などさまざまなメリットを手にしていました。今回はその取り組み内容を詳らかにしていきます。

最初に、コンセプト映像の制作について、山田さんと黒澤さんにお話を聞いていきます。それではまずイベントを統括していた山田さん、今回生成AIをどのように活用したのでしょうか。

画像1: 必要な映像を限られた予算でどうつくるか

山田
日立グループブースで上映した映像は、生活者やリテールの将来像を描いたもので、登場人物たちがドローンで食材を受け取ったり、地方の酒蔵を訪れたり、お店でいきいきと働いたりします。そうした未来のシーンを動画生成AIで作成しました。

画像: さまざまなシーンを動画生成AIで作成

さまざまなシーンを動画生成AIで作成

大山
そもそもコンセプト動画に生成AIを活用することになったのは、どういった経緯からですか。

山田
今回の動画制作の前段階として、2035年の流通小売業のあるべき将来像、「日立リテールビジョン」を策定するというプロジェクトがありました。研究開発グループにはその検討段階から参画してもらっていたのですが、私はリテールテック2025で、このビジョンをぜひそのまま映像化したいと、映像制作にも携わっている研究開発グループの黒澤さんに相談しました。

画像2: 必要な映像を限られた予算でどうつくるか

黒澤
相談はされたもののビジョンの映像化には、多くの俳優とさまざまな場所での撮影が必要で、その制作費を見積もると予算を大幅に超過してしまいました。

その時、デジタルコンテンツのプロダクションである株式会社グミから動画生成AIの活用を提案されました。グミは映像制作のパートナーで、動画生成AIの実用試験中だったのですが、生成AIの映像が使えるのであれば予算内での制作が可能とのこと。果たしてテストをしてみると、プロンプト通りに、さまざまな性別、年代の人が買い物をしたり、食事をしたり、さらには酒蔵で日本酒を飲んだり、鮮明な映像がクイックリーに生成されていきます。いくつかの課題はあるものの今回は実際の撮影を行わず、生成AIで動画を制作することに決めました。

制作を通して感じた現時点の課題

大山
いくつかの課題というのは、具体的にはどういったものでしょう。

黒澤
大きく3つあって、まず登場人物を思い通りに動かすような細かい演出は困難、という点。例えば、人物にタブレットの特定のボタンを押させる、といったことは現時点の技術では不可能ではないにしても、大変な作業になります。今回の企画では複雑な演出が必要なシーンはほぼなかったのですが、ただタブレットの操作シーンは不可欠で、そこは静止画を使うなどの工夫で乗り切りました。

2つめが、異なるシーンで同一人物を生成するのが困難、という点。例えば、高齢の日本人女性がスーパーで働くシーンを生成し、さらにその続きとして、同じ女性が誰かと立ち話をしているシーンを生成したい場合、人物に関するプロンプトの文章が同じでも、生成される人物はなかなか同じ顔にはならないのです。私たちは試行錯誤を繰り返し、同様の特徴を持つ人物が高確率で生成される適切なプロンプトのスタイルを確立しました。この人物に関するプロンプトの最適化が今回の動画制作で最大の難関だったかもしれません。これにより、イベント会場でさらっと見る分には気づかないレベルにまで人物のブレを抑えることができました。ただ、やはり完璧に同じ顔にはならず、映像のプロであるグミのスタッフは最後まで納得しなかったのですが(笑)。

3つめの課題が、生成された映像の著作権侵害をどのように防ぐかというものです。研究開発グループでは、インプット情報のセキュリティの担保やアウトプットの著作権などについて、生成AI活用のガイドラインをまとめており、そのルールに則って制作を行っています。今回の場合、インプット情報としてのリテールビジョンのシナリオについて、秘密情報や個人情報が含まれていないことを事前に確認しました。また、動画生成サービスのセキュリティの確保やインプット情報を再学習に使用されない機能があるなど、情報の扱いに配慮している点を踏まえ使用する動画生成サービスを選定しました。さらに、特定の人物や製品を指定しないことや、著作権をクリアした画像を使うなどして問題発生の抑止を図りました。もちろん最終的に生成された映像は、目視でしっかりチェックを行いました。

画像: プロンプトの最適化で人物のブレを抑制

プロンプトの最適化で人物のブレを抑制

制作コストを約4分に1に圧縮

画像: 生成AIと会話しながらアウトプットを充実させていく。

生成AIと会話しながらアウトプットを充実させていく。

大山
新しい挑戦ならではの苦労もあったようですが、生成AIの活用で得たメリットは大きかったのではないでしょうか。

山田
はい。まず従来に比べて、コストと制作時間を大幅に圧縮できたことは間違いありません。

今回の映像には、スーパー、酒蔵、農場などのさまざまな場所、そして国際結婚の夫婦とその子供、高齢の日本人女性とパート仲間の外国人女性などさまざまな人物が登場します。仮に今回、俳優とスタッフで現地へ出向き、撮影を行ったとすると、約4倍のコストがかかったでしょう。

また撮影に関わる煩雑な工程——例えば俳優のオーディションやロケーションハンティング、そしてもちろん実際の撮影まで全てが不要になったことで制作期間も大幅に短縮できました。今回の映像を見た方から「この酒蔵はどこにあるのですか?撮影、大変だったでしょう」と聞かれましたが、実際はスタッフ誰ひとりPCの前から動いていないのです(笑)。

そして、イメージ通りの映像を容易に得られたことも、今回生成AIを適用した大きなメリットです。人物はもちろん、背景になるスーパーも、農場も、酒蔵も、「イメージと違う」と思えばプロンプトを書き換えればよいのです。今回、スーパーの業務を支援するロボットが登場しますが、このロボットもテキストによるプロンプトだけで生成されています。通常ならデザイナーが意匠を考え、3Dモデル化して合成するなどの作業が必要でしょう。しかし生成AIを使えば、誰でもこのようなロボットのシーンを簡単につくることができるのです。

画像: お店で働く未来型ロボットやドローンの飛行シーンもプロンプトにより生成

お店で働く未来型ロボットやドローンの飛行シーンもプロンプトにより生成

黒澤
動画生成AIは決められた映像をピンポイントで出すことは不得手ですが、自由に作らせるとこちらの想像を越えるものを見せてくれることがあります。役者の一挙手一投足に指示が必要なドラマなどの分野ではまだ活用は難しいでしょうが、今回のような未来のビジョンを描くような映像の制作においては強力なツールになると思っています。

大山
ありがとうございました。それでは次回は、私も参画したリテールテックJapan2025 日立グループブースのデザイン制作における生成AI活用について紹介します。

業務別!生成AI使いこなし術 【第4回】プロモーション部門編(後編)はこちら>

(動画)日立リテールビジョン2035~ムリ・ムダ・ムラのない、モノと人財の好循環社会〜

画像: - YouTube 日立リテールビジョン2035~ムリ・ムダ・ムラのない、モノと人財の好循環社会〜 youtu.be

- YouTube 日立リテールビジョン2035~ムリ・ムダ・ムラのない、モノと人財の好循環社会〜

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画像1: 業務別!生成AI使いこなし術
【第4回】プロモーション部門編(前編)

山田 将人(やまだ まさと)

株式会社 日立製作所 産業・流通営業統括本部
第四営業本部 リテールシステム営業部
主任

日立製作所に入社後、小売業向けソリューション営業を担当後、モバイル関連部門にて事業戦略、経営企画、ブランド戦略、広報戦略等を経験。その後、流通業向けのマーケティング業務や社内教育・セミナー・イベント企画、展示会企画や運営に携わる。CEATEC2019では企画したビジネスアイデアを特許出願し、2023年度に特許取得。

画像2: 業務別!生成AI使いこなし術
【第4回】プロモーション部門編(前編)

黒澤 雄一(くろさわ ゆういち)

株式会社 日立製作所 研究開発グループ
Digital Innovation R&D
デザインセンタ ストラテジックデザイン部
デザイナー

日立製作所に入社後、宇宙技術の開発部門に配属され、人工衛星の搭載ユニット開発などを経験した後、衛星を活用した放送サービスの企画・開発に従事。その後、デザイン本部へ移り、鉄道の車内ディスプレイを活用したサービスの企画・開発などを担当。現在は、エネルギーからリテールまでさまざまな事業における未来戦略のコンセプトの策定に携わる。

画像3: 業務別!生成AI使いこなし術
【第4回】プロモーション部門編(前編)

大山 友和(おおやま ともかず)

株式会社 日立製作所 デジタルシステム&サービス営業統括本部
Executive Strategy Unit フロントサポートセンター チーフプランニングエキスパート
GenAIアンバサダー

コンサルティング部門にて、営業業務改革、新規事業の立上げなどに従事した後、日立コンサルティングにて、基幹業務システム構築などを担当。プロジェクトリーダーとして、システム企画・構築・運用全般を統括その後、営業バックオフィスを支える業務システム全般を統括。現在、営業部門の生成AI徹底活用プロジェクトの取りまとめとして、講演活動、ナレッジ蓄積、社内コミュニティ運営、人材育成などの取組みを推進中。

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