大阪市の行政DXの要となる象徴的プロジェクト
2025年4月13日に開幕した「EXPO 2025 大阪・関西万博(正式名称:2025年日本国際博覧会)」の開催都市として躍動著しい大阪市。同市では、DX推進の基本構想である「Re-Design おおさか 大阪市DX戦略」のもと、「サービスDX」、「都市・まちDX」、「行政DX」という3つの視点から取り組みを推進しています。
このうち、効率的で質の高い組織・業務運営をめざす行政DXの取り組みのなかでも、特に中心となる「バックオフィス(内部管理業務)DX 」の先行的な取り組みとして、予算編成システム導入プロジェクトが始動。これまで大阪市の各部署間で紙やメールなどのやり取りによるアナログな運用となっていた予算編成業務について、クラウドサービス上に新たなシステムを構築するという試みは、今後の行政DXの行方を占う象徴的なプロジェクトです。
プロジェクトの推進にあたって、大阪市はシステム構築業務の委託先を公募する総合評価入札を実施。選ばれたのは、長年にわたって自治体のIT関連業務に携わり、今回と同様の予算関連システムを他の政令指定都市から受託開発した実績のある日立でした。

大阪市 デジタル統括室
西村 満 氏
「ServiceNow」×プロトタイプ開発のスピード感
今回システム化の対象となった予算編成業務は、市の全部局が従事するもので、会計年度単位で取り組む予算編成業務の特性上、開発に時間をかけすぎると業務へのシステム適用も年度単位で先送りされてしまうリスクがあります。しかし本プロジェクトは、業務プロセスや意思決定のスピードを高める行政DXの最初のケースです。そのためプロジェクトの進行には、これまでにないスピード感と効果の実感が求められました。
そこで日立が提案し、大阪市がソリューションとして採用したのが、ソースコードを記述せずに従来のシステム開発に比べ、より迅速なアプリケーション開発が可能なローコードプラットフォーム「ServiceNow」でした。さらに、よりスピード感のある開発を推進するため、試作品を開発して検証と改善を繰り返しながら進めるプロトタイプ開発にも取り組みました。
このアプローチについて、「従来のシステム開発では、委託先のベンダー側で開発過程にある環境を私たち発注者側が途中で確認できる機会はありませんでしたが、今回採用したServiceNowでは、私たちも開発段階の試作品をウェブ上で常にチェックしながら、要望を伝えられたのは評価すべき点です」と振り返るのは、IT分野の専門的立場からプロジェクトを担当した大阪市 デジタル統括室の西村 満氏。同氏はまた、さまざまなユーザーに向けて標準化されたSaaSと異なり、利用者側のニーズを一定程度反映できるServiceNowのカスタマイズ性も高く評価します。

大阪市 財政局
梅屋 剛 氏
さらに、予算編成という業務視点からプロジェクトに携わった同市 財政局の梅屋 剛氏は「従来のスクラッチ開発では、ユーザーからの細かな要望を逐一反映した自由度の高いシステムを作れる一方で、ServiceNowには『できること』と『できないこと』が明確に存在します。そのため、できないことはできないといい意味で割り切ることで、結果的に複雑な作り込みなどを回避することができ、開発を効率的に進められました」と説明。システムが複雑になればなるほど運用管理に専門性・独自性が必要となり、その後の改修などによってさらに複雑化するリスクも高くなりますが、そういった意味でも、ServiceNowという一定の制約があるプラットフォームを採用したメリットは大きいと評価します。
システムリリース後もユーザーの声を集約
その後システム開発は順調に進み、大阪市の新たな「予算編成システム」は当初の計画どおり2024年7月に本稼働を迎えます。「スクラッチ開発なら予定どおりのリリースはまず不可能だったでしょう。これだけの規模のシステムを14か月という極めて短い期間で開発できたのは、ローコードプラットフォームの大きな強みだと思います」と語る西村氏。今後、バックオフィスDXプロジェクトとして多くのシステムが開発されていくなかで、今回のようなモダンな開発手法が今後の新たなスタンダードになる可能性を感じたと言います。
そしてリリース後は、50部門以上の職員約4,000名が、実際の予算編成業務に本システムを利用。またあわせて、システム上に設けた「問い合わせ機能」を活用し、各部局の意見や要望を随時集約しました。さらにこうしたユーザーの声をリアルタイムで日立側と共有する仕組みを用意したことで、問題解決に向けた速やかな対応も可能にしました。
しかし、実際に寄せられた問い合わせは当初100件にも満たなかったとか。この評価について、「一般的に、これだけの規模のシステムを新たに導入する際に発生するユーザーの反応としては、極めて少ないものだったのではないでしょうか。事前にテスト環境を開放して意見の吸い上げを行っていたことや、丁寧な操作研修を実施したことはもちろんですが、ステータス管理など予算編成の流れが理解しやすい操作感、これまでに慣れ親しんでいる言葉の使い方、入力項目やボタンの配置など、全体として直感的でわかりやすいUIにこだわった結果が、ユーザーに一定程度受け入れられたのでしょう」と梅屋氏。こうして大阪市の予算編成は新たなシステムとともに、デジタル化の一歩を踏み出したのです。
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