レガシー言語の書き換えに生成AIを活用
本宮(モデレーター)
先程、滝川さんから、OT(制御・運用技術)分野での熟練者の知識の継承という課題についてお話をいただきましたが、五十嵐さんが携わるシステム開発分野でも、同様の課題があるのではないですか。

五十嵐
ありますね。システム開発分野では、いまレガシーシステムの新言語への移行がDXを推進するうえでの喫緊の課題となっています。しかし、レガシー言語を扱える熟練開発者の数は年々減りつつあり、円滑な移行が行えるのか、というのがお客さまの心配事になっています。私たちはお客さまの悩みにお応えするために、若手開発者のレガシー言語の知識を生成AIにサポートさせる。あるいは、レガシー言語に精通し、業務もよく知っている熟練開発者による新言語への書き換え作業を生成AIにサポートさせる、といった取り組みも展開しています。システム開発の分野でも生成AIは、知識の継承におおいに活用できると考えています。
本宮(モデレーター)
知識の継承というのは、強みの維持・向上を越えて、いま企業の存続に関わる課題となってきていると思います。一方で経営者の方からは、知識の継承は熟練者の仕事を生成AIに置き換えることにもつながり、積極的に進めるのは心理的にハードルがある、という声も聞かれたりします。滝川さんはOT分野の熟練者の方へのインタビューを数多く経験されていますが、熟練者の皆さんは知識の継承についてどのように考えていらっしゃるのでしょうか。

滝川
現場の熟練者の皆さんは、業務の改善について非常に熱いパッションをお持ちの方が多く、私は本当にリスペクトしています。AI活用においても、現場をより良くできる仕組みができるのであれば、とインタビューに応じてくださることはもちろん、知っていることは伝えたい、と積極的に取り組みに参画してくださいます。お話を伺うに際し、こちらも現場のことを勉強していき、的を射た質問ができるようになると信頼関係も深まり、取り組みはますます加速しているという実感があります。
アイデア創出支援サービス
本宮(モデレーター)
照屋さんからは先程、企業はいま業務特化型の生成AIで競争力を上げたいが、生成AIをどのように使えばいいのか、あるいはそもそもどんな業務から始めればいいのか分からない、という課題を抱えているというお話をいただいていました。そういうお客さまに向けて、参考になるお話はありますか。

照屋
そうですね。それでは、日立では業務特化型生成AIにこのようにアプローチしているという例をいくつかご紹介したいと思います。最初に「アイデア創出支援サービス」をご紹介します。
ビジネスでは日々、新しいアイデアが求められるシーンがあります。例えば研究開発において、次に開発すべき技術は何か、あるいはその製品をどう横展開するか、というようなアイデアを得る方法として、これまでは文献を調査したり、何人かでブレストを行ったりしていたと思います。ただ、ブレスト相手がいない時もある、限られたメンバーだと固定観念から抜け出しにくい、などの問題もあったのではないでしょうか。
「アイデア創出支援サービス」は、アイデア創出のプロセスを日立が独自にフレームワーク化し、かつそのプロセスごとに必要とされるタスクに合わせて生成AIをファインチューニングしたものです。ブレスト相手がいなくても、「あなたのアイデアにこんな要素は関係していますか?」など生成AIの発想拡大の支援を受けながら、それに人間がフィードバックを繰り返していくことでアイデアが洗練されていくという仕組みになっています。また生成AIが発想の拡大を支援する際に、敢えて少し離れた領域の要素を提示するというファインチューニングを行っていて、アイデアが固定観念にはまってしまうことも防いでいます。こちらは現在、複数のお客さまに試験導入されています。

製造プロセス改善ソリューション
次にご紹介したいのが、「製造プロセス改善ソリューション」です。材料開発における製造プロセスは工程が複雑で、その設計は非常に難しいものですが、私たちは特許情報をはじめとする膨大な製造プロセス情報と生成AIを掛け合わせ、最適プロセスの探索支援を可能にしました。日立グループの、長年にわたるOTの知見と生成AIの使いこなしの知識が融合したソリューションです。

本宮(モデレーター)
先程、照屋さんから、生成AIをアイデア創出業務に特化させるためにファインチューニングを行っているというお話がありましたけれども、生成AIの企業特化、業務特化にともなってRAG(検索拡張生成)への注目も非常に高まっています。いまご紹介いただいたソリューションはRAGへの対応も可能なのでしょうか。
照屋
はい。RAGに対するお客さまからのご要望は多く、積極的に取り組んでいます。生成AIを業務に特化させるためには、企業内情報をLLMに読ませることが不可欠になりますが、コアな情報は絶対に外に出せず、LLMの学習データには混ぜられません。そうしたケースでは、RAGによる回答精度の向上を図っています。日立では、RAGの高度化についてもさまざまな研究開発を行っています。

本宮(モデレーター)
照屋さんに紹介いただいた2つのソリューションは、新しいアイデアや新しい製造プロセスなど、人間と生成AIで新しい価値を生み出そうというもので、業務の効率化、自動化の先にある使い方だという印象を受けました。
照屋
そうですね。生成AIは人間を強化してくれるツールです。人には思い付かない新たな視点を生成AIが大量データをもとに示唆してくれることで、人間は創造力を高めることができます。人と生成AIが協働する業務特化型生成AIを成功させるには、人と生成AI、それぞれの強みをしっかり考えて仕組みを構築することが大切だと思っています。
本宮(モデレーター)
ここまで、さまざまな課題とその乗り越え方を聞いてきました。ただ、忘れてはいけないのは、「そもそも生成AIの活用が広がらない」というマインド面の課題です。次は、この課題の乗り越え方を、生成AIの活用促進活動に携わっておられる大山さんに伺いたいと思います。
次回、第5回は5月22日公開予定です。

本宮 学(もとみや まなぶ)
アイティメディア株式会社
DX編集統括部 統括部長 兼ITmedia ビジネスオンライン編集長
※所属と肩書はウェビナー開催時点のもの
アイティメディアの BtoB IT・ビジネス領域メディアの責任者。先端テクノロジーやエンタープライズIT分野の取材を続け、2016年からITmedia NEWS編集長、2018年からITmedia ビジネスオンライン編集長にそれぞれ就任。両メディアの統括責任者を経て、2024年10月より現職。日本企業のデジタル変革やAI活用の可能性について取材している。

滝川 絵里(たきがわ えり)
株式会社 日立製作所 AI&ソフトウェアサービスビジネスユニット
AI CoE GenAIセンタ ワンストップサポートサービス
部長
日立製作所入社後、官公庁向けプラットフォームのシステム運用や、クラウドサービスの立ち上げに参画したのち、大学の頃から興味があり取り組んでいたデータ分析の世界に参画。自然言語を中心とした障害対応支援や営業力強化のAIソリューションの開発に従事。2023年より全社生成AI活用プロジェクトに参画し、日立グループ全社への共通基盤展開や、その実績を活用した外販ソリューションの拡販、支援を担当。現場で働くなんでも知っていてみんなが頼りにするベテランの方々を尊敬しており、いつかAIがそんな存在になることをめざしている。
さらに詳しいプロフィールはこちら

五十嵐 聡(いがらし さとし)
株式会社 日立製作所 アプリケーションサービス事業部
テクノロジートランスフォーメーション本部 生成AIシステムエンジニアリング部
部長
日立製作所入社後、ミッションクリティカルな大規模システム開発を実施(産業流通業界)。スクラッチ開発、マイグレーション開発、インフラリプレースなど多岐にわたるプロジェクトをプロジェクトマネージャーとして推進。現在はシステム開発における生成AI活用として「生成AI活用開発フレームワーク」を中心としたアセット開発の取りまとめ、及びプロジェクトへの適用支援、展開を実施中。
さらに詳しいプロフィールはこちら

照屋 絵理(てるや えり)
Director, Strategy Office, Strategic Social Innovation Business BU, Hitachi Digital LLC
日立製作所研究開発グループ入社。自然言語処理に関わる研究開発に従事。2022年に公共システム事業部に異動。データサイエンティストとして、材料開発メーカー向けにデータとAIなどのデジタル技術を活用し材料開発を加速するMaterials Informatics関連の技術開発・拡販を担当。近年は、公共分野の生成AI活用支援にも従事。日立認定データサイエンティストゴールド。理学博士。
さらに詳しいプロフィールはこちら

大山 友和(おおやま ともかず)
株式会社 日立製作所 デジタルシステム&サービス営業統括本部
Executive Strategy Unit
チーフプランニングエキスパート
日立製作所入社後、コンサルティング部門にて営業業務改革や新規事業の立上げなどに従事。日立コンサルティングに出向後は、基幹業務システム構築などに従事し、プロジェクトリーダーとして、システム企画・構築・運用全般を統括。その後、日立製作所に戻り、営業バックオフィスを支える業務システム全般を統括してきた。現在、営業部門の生成AI徹底活用PJの取纏めとして、講演活動やナレッジ蓄積、社内コミュニティ運営、人財育成などの取り組みを推進中。
さらに詳しいプロフィールはこちら