生成AIのエキスパート、GenAIアンバサダー

本宮(モデレーター)
私はアイティメディア株式会社 編集統括部長の本宮学と申します。これまで記者として、エンタープライズIT、先端テクノロジー、ビジネスの3つの分野で取材を続けてきましたが、いま、その3つを高レベルで交錯させる生成AIの登場に非常にわくわくしています。
さて、日立製作所では2025年1月に、生成AIによる業務変革をリードし、複雑な課題解決やイノベーション創出に取り組むロールモデルとして「GenAIアンバサダー*¹」というポジションを新たに設け、IT/OT(制御・運用技術)の両分野で活躍する日立ならではの生成AI開発・活用のエキスパート16名を任命しました。本日はその中の4名にお集まりいただき、生成AI活用の課題とその乗り越え方についてお話を聞いていきたいと思います。それでは、まず自己紹介からお願いできますか。
*1 日立ならではの生成AI開発・活用のエキスパートを「GenAIアンバサダー」に任命、お客さまとの懸け橋となり、イノベーション創出・生成AIの社会実装を促進

滝川
滝川絵里と申します。私は、全社生成AI活用プロジェクトのメンバーとして活動しています。私のタスクは、日立グループ全社での生成AI活用をめざして構築した「生成AI共通基盤」を全社へ展開し、その活用を推進することです。また、このプロジェクトを通じて蓄積した知見をソリューションとしてお客さまへ提供する役割も担っています。生成AIを現場の頼れるベテランのような存在にすることをめざして、日々その実現に向けて取り組んでいます。

五十嵐
五十嵐聡と申します。私はもともと産業流通分野のフロントSEとして、基幹システムの開発を推進してきました。現在は、その経験を生かして、「生成AI活用開発フレームワーク」という共通ツールの開発など、生成AIによるシステム開発の効率化に取り組んでいます。業務にあたっては、生成AIの推進者と利用者、その両方の視点を大事に持ち続けたいと考えています。

照屋
照屋絵理と申します。私は主に、化学系メーカーに向けたデータやAIを用いて材料開発を加速するマテリアルズ・インフォマティクス*²の技術開発およびソリューション提供に取り組んでいます。産業分野における生成AIのニーズは高く、私もさまざまなお客さまの導入支援に携わっています。また、日立においても生成AIの業務適用に取り組んでおり、今日はそんな最新の事例を現場目線でご紹介したいと思います。
*2 マテリアルズ・インフォマティクス:情報科学やデータ解析技術を活用して、材料開発を効率化・高度化する手法

大山
大山友和と申します。私は、日立グループの営業部門向けに生成AIの活用促進活動を行っています。具体的には講演活動、ワークショップの開催、コミュニティの運営などを通じて最新情報の発信、知見の蓄積、人財の育成などに取り組んでいます。本日はそのような活動を通じて見聞きしたさまざまな現場のリアルな課題感および解決策をお伝えできればと思っています。
生成AI活用はどこまできたか
本宮(モデレーター)
それでは皮切りに、生成AI活用は現時点でどこまできているのか、ITmediaで取り上げた最新事例を私の方からいくつかご紹介します。
最初は、キリンホールディングス株式会社が、2026年の新卒の採用から「AI面接官」を試験導入するという事例です。具体的には、AIがエントリーシートの読み込みから1次面接までを担当し、面接ではAIアバターが面接官として実際に学生と対話を行うそうです。実証実験では、人間の約6倍、多角的な評価が可能という結果が得られています。

次は、生成AIをごく早期から積極的に活用している旭化成株式会社の事例です。現場の危険予知に生成AIを適用しリスク低減に役立てている他、現在では企業の競争力強化のための生成AI活用に力を入れており、材料の用途探索における生成AI適用を推進しているそうです。

続いては、博報堂DYグループの生成AIを用いた統合マーケティングプラットフォーム開発の事例です。これまで個別に扱われていたマーケティング、クリエイティブ、メディア、流通など各領域のデータを統合し、生成AIで横断的に活用することに取り組んでいます。これにより業務の効率化、高度化はもちろん、アイデア創発など新しい価値の創出もめざしています。

最後は、東京都が開発中の生成AIプラットフォーム構想が、東京大学の松尾豊教授など有識者からなる「東京都AI戦略会議」から高い評価を得たというニュースです。取り組みとしては、全庁が使える生成AI共通基盤を構築し、他局が作った生成AIアプリを簡単に自局や市区町村に展開できるという先進的なものになります。

ここまで生成AI活用の先進事例をいくつか紹介しました。皆さん、気になる事例はございましたか。
照屋
旭化成株式会社の材料の用途探索の事例がありましたが、生成AIに対する期待の高さを感じます。化学系メーカーの情報を収集していても、生成AI基盤の導入や、材料開発への生成AIの活用開始といったリリースを数多く目にします。マテリアルズ・インフォマティクスは2011年ぐらいから話題になり、2016年前後から企業における導入が活発化してきました。つまり材料開発の分野ではAI活用の土壌がすでに出来上がっているところに生成AIの登場を迎えたという形です。そういう背景もあり導入が進んでいるのだと思います。同時に、生成AIを活用しないと遅れを取るという危機感も広がっているのではないでしょうか。
大山
私が気になったのは、キリンホールディングス株式会社の「AI面接官」の導入という事例です。実は先日、Copilot活用コンテストというものを開催し、生成AIに講評を頼んだのですが、生成AIは忖度なく、企画の本質だけを見て評価を行います。「AI面接官」は、生成AIの強みを生かした良いユースケースだと言えるのではないでしょうか。
本宮(モデレーター)
面接官など評価者として生成AIを活用するのはユニークなだけでなく、とても効果的なアプローチかもしれないですね。忖度なしは仰る通りで、私も実際、編集したものに対してAIに評価を頼むことがあるのですが、人間だったら少しは相手の気持ちを慮るところを、生成AIはありがたいことにズバズバと意見してくれます。
大山
ズバズバと言われるのが苦手な方は、「優しく言ってください」と生成AIのペルソナを設定することをおすすめします。
本宮(モデレーター)
さて、このように生成AIへの期待が高まる中、企業が実際に生成AI活用プロジェクトを推進していくと、さまざまな形の課題が顕在化してくるようです。次からは、生成AI活用を進める企業はどんな課題を抱えているのか整理してみたいと思います。
次回、第2回は5月19日公開予定です。

本宮 学(もとみや まなぶ)
アイティメディア株式会社
DX編集統括部 統括部長 兼ITmedia ビジネスオンライン編集長
※所属と肩書はウェビナー開催時点のもの
アイティメディアの BtoB IT・ビジネス領域メディアの責任者。先端テクノロジーやエンタープライズIT分野の取材を続け、2016年からITmedia NEWS編集長、2018年からITmedia ビジネスオンライン編集長にそれぞれ就任。両メディアの統括責任者を経て、2024年10月より現職。日本企業のデジタル変革やAI活用の可能性について取材している。

滝川 絵里(たきがわ えり)
株式会社 日立製作所 AI&ソフトウェアサービスビジネスユニット
AI CoE GenAIセンタ ワンストップサポートサービス
部長
日立製作所入社後、官公庁向けプラットフォームのシステム運用や、クラウドサービスの立ち上げに参画したのち、大学の頃から興味があり取り組んでいたデータ分析の世界に参画。自然言語を中心とした障害対応支援や営業力強化のAIソリューションの開発に従事。2023年より全社生成AI活用プロジェクトに参画し、日立グループ全社への共通基盤展開や、その実績を活用した外販ソリューションの拡販、支援を担当。現場で働くなんでも知っていてみんなが頼りにするベテランの方々を尊敬しており、いつかAIがそんな存在になることをめざしている。
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五十嵐 聡(いがらし さとし)
株式会社 日立製作所 アプリケーションサービス事業部
テクノロジートランスフォーメーション本部 生成AIシステムエンジニアリング部
部長
日立製作所入社後、ミッションクリティカルな大規模システム開発を実施(産業流通業界)。スクラッチ開発、マイグレーション開発、インフラリプレースなど多岐にわたるプロジェクトをプロジェクトマネージャーとして推進。現在はシステム開発における生成AI活用として「生成AI活用開発フレームワーク」を中心としたアセット開発の取りまとめ、及びプロジェクトへの適用支援、展開を実施中。
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照屋 絵理(てるや えり)
Director, Strategy Office, Strategic Social Innovation Business BU, Hitachi Digital LLC
日立製作所研究開発グループ入社。自然言語処理に関わる研究開発に従事。2022年に公共システム事業部に異動。データサイエンティストとして、材料開発メーカー向けにデータとAIなどのデジタル技術を活用し材料開発を加速するMaterials Informatics関連の技術開発・拡販を担当。近年は、公共分野の生成AI活用支援にも従事。日立認定データサイエンティストゴールド。理学博士。
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大山 友和(おおやま ともかず)
株式会社 日立製作所 デジタルシステム&サービス営業統括本部
Executive Strategy Unit
チーフプランニングエキスパート
日立製作所入社後、コンサルティング部門にて営業業務改革や新規事業の立上げなどに従事。日立コンサルティングに出向後は、基幹業務システム構築などに従事し、プロジェクトリーダーとして、システム企画・構築・運用全般を統括。その後、日立製作所に戻り、営業バックオフィスを支える業務システム全般を統括してきた。現在、営業部門の生成AI徹底活用PJの取纏めとして、講演活動やナレッジ蓄積、社内コミュニティ運営、人財育成などの取り組みを推進中。
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