営業予算管理
大山
営業予算の管理においても、生成AIは業務の効率化に欠かせない存在になっているようですね。
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篠田
はい。各事業の営業チームから月ごとに、その四半期と年度についての受注見通しを上げてもらい、営業企画ではそれらの数値を集計し、さらに過去の受注データや市場分析データなどを加えて全体予測を行い、現予算の配分調整や次期予算の策定などを行います。
この業務において、生成AIが威力を発揮しているのが集計作業です。予算策定のためには、製品・サービス別、業界別など数値をさまざまな角度から分析する必要がありますが、生成AIを使えば、収集データによるピボットテーブルの作成から、さまざまな条件での集計までとても簡単にできてしまいます。もちろんグラフ化も一瞬で完了します。
また省力化のほかにも、生成AIには属人的業務の削減に期待しています。例えば、これまで将来予測は熟練の人間が行っていましたが、現在はその業務を生成AIがサポートしています。まず生成AIが予測を行い、それを熟練者が長年培ったノウハウで最終形にブラッシュアップしますが、将来的にはそうした熟練者の補正のノウハウを生成AIに学習させることで、熟練者でなくとも高度な将来予測が可能になると考えています。
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生成AIを使えば、収集したデータのテーブル化から集計まで大幅に効率化できる。
中長期計画の立案
篠田
中長期計画では、予算管理よりも長いスパンで将来を予測し、目標や戦略を定めていきますが、ここでも予算管理と同様、集計や予測の一端を生成AIに担ってもらっています。スパンが長いぶん予測は難しくなると思いますが、その精度がわかるのは数年先になりますので検証を続けていきたいと考えています。今から結果が楽しみですね。ただ予測における生成AIの優位点として明確に言えるのが、人間は会社の既存の戦略など周囲の情報に捕らわれがちなのに比べて、生成AIはバイアスなくあくまでデータに基づき客観的に予測を立ててくれることです。
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大山
人間と生成AIがお互いの長所を生かして補完し合うというのが、これからの標準的な働き方です。そして、その動きはAIエージェントの進展でさらに加速されます。
前編でもお話ししましたがAIエージェントとは、目的達成のために必要なタスクを自律的に実行する生成AIを用いたプログラムのことで、篠田さんの言う通り熟練者の手順やノウハウを学ばせることで、近い将来、予測などの高度な業務も任せられるようになるでしょう。そして人間は、その予測に基づき方向性の判断や企画の創出など、より価値の高い業務に集中できるようになります。
関係部門への営業実績の報告
大山
営業企画部門は、多くの関連部門とも密に連携をとっていく必要がありますよね。
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安堂
はい。私たちは営業活動の実績をレポートにまとめて、フロントの営業企画部門や財務部門など関連する部門と共有しています。そして、このレポートの下地づくりを生成AIで行っています。具体的には、各営業チームの売上高・受注高の推移や生産性・効率性を示す指標の算出といった各種集計作業、そして、それら数値に基づくトレンドや異常なパターンの検出などが、この業務での生成AIの仕事になります。
予想以上だったのが、生成AIの数表を理解する能力です。例えば、この3年間の数値の推移をテキストで要約してください、とか、平均値を上回っている部門を抽出して生産性が高い要因を分析してください、などの指示にも十分こたえてくれます。
分析力はまだ人間の方が上ですが、これまで私たちが数表をくまなく見ながら業務を行っていたことを考えると、生成AIが要所にフラッグを立ててくれるので大きな効率化を図ることができています。
大山
安堂さんがここで活用している、生成AIの数表を解析してパターンを抽出する能力、あるいは数表のデータからインサイトを自動生成する能力などは現在も急速に進化しています。数値を多く扱う営業企画部門にとって、これからますます強い味方になるのではないでしょうか。
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生成AIは、数表の要約や異常なパターンの抽出なども瞬時に行い、レポート作成の効率化を実現。
AIエージェントがもたらす新しい営業企画のカタチ
大山
最後に、これから生成AI活用をどのように進展させたいか、聞かせてください。
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篠田
生成AIの伸びしろは、生成AI自体の能力の向上やAIエージェントの実現などまだまだ大きく、今後は生成AIの進化とともにさらなる業務の効率化に取り組みたいと思います。
また業務効率向上には部署内での生成AIの浸透も重要であり、私たちも生成AIエバンジェリストとして活動をさらに活性化したいと考えています。現在、私たちエバンジェリストが蓄積した生成AI活用の知見を部内で共有する場を定期的に開いており、最近は高度な質問が活発に出て生成AIの定着を実感しています。
安堂
私は生成AIによる効率化で生まれた時間を活用して、戦略を熟考したり、関係者と議論を重ねたり、営業企画のさらなる高度化に取り組んでいきたいと考えています。またその時も、生成AIはさまざまに活用できるのではないでしょうか。課題に対してどのような施策を打つべきか、生成AIに壁打ちの相手をしてもらう。さまざまなアイデアが出たら成功要因や失敗要因などを提示してもらい、判断の手助けをしてもらう。生成AIの客観的な洞察力を活用しながら、これまで打ったことのないような施策に挑みたいですね。
大山
今回はお二人から、主に生成AIによる営業企画部門の生産性向上についてお話を聞きましたが、ビジネスにおける生産性の高さは品質の向上に結びつく、と私は考えています。
ピカソが生涯で残した作品の数は約15万枚と言われ、最も多作な作家としてギネスブックで認定されているそうですが、ピカソの絵の評価が高い理由として、とにかく描いて、描いて、描き続けて、どんな絵が正解なのか、市場に問い続けたから、という側面もあったのではないでしょうか。つまり生産性の高さが品質の向上につながったのです。
営業企画部門の業務に当てはめると次のようになるでしょうか。AIエージェントを活用し、市場の変化を捉えたらリアルタイムに戦略を立案して実行する。その成果をつねにモニタリングし、不調の兆しが見えると同時に戦略に見直しをかける。再び変化が訪れても、AIエージェントがもたらす高い生産性で市場に適応した戦略をタイムリーに打ち続ける――そんな世界がすでにはじまっています。
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【第2回】営業企画部門編(後編)"
篠田 雅文(しのだ まさふみ)
株式会社 日立製作所 デジタルシステム&サービス営業統括本部
Executive Strategy Unit ビジネスインテリジェンスセンタ
主任
日立製作所に入社し、半導体の製造部門において出荷の調整、予算および実算の管理などに携わった後、営業部門に異動し、間接営業チームの営業企画を担当。予算、実算の管理に加え、市場調査や競合分析に基づく営業戦略の策定などを行う。2024年よりビジネスインテリジェンスセンタにてデジタルシステム&サービスセクター全体の営業企画に携わり、予実管理や中長期の営業戦略の策定などに従事している。
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【第2回】営業企画部門編(後編)"
安堂 和希(あんどう かずき)
株式会社 日立製作所 デジタルシステム&サービス営業統括本部
Executive Strategy Unit ビジネスインテリジェンスセンタ
主任
日立製作所に入社し、ヘルスケア部門においてデジタル手術支援ソリューションの海外展開を担当。その後、公共部門の営業企画に携わり、市場動向や政策トピックスのまとめなどを行うとともにJEITAの委員として政府情報システム調達改革に対する提言や議論などを積極的に推進。2023年よりビジネスインテリジェンスセンタにおいてデジタルシステム&サービスセクター全体の営業企画に従事。経営環境モニタリングや各種分析レポートの作成を通して、本セクターの成長に向けた営業制度改革、全体施策を推進している。
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【第2回】営業企画部門編(後編)"
大山 友和(おおやま ともかず)
株式会社 日立製作所 デジタルシステム&サービス営業統括本部
Executive Strategy Unit
部長代理 GenAIアンバサダー
コンサルティング部門にて、営業業務改革、新規事業の立上げなどに従事した後、日立コンサルティングにて、基幹業務システム構築などを担当。プロジェクトリーダーとして、システム企画・構築・運用全般を統括その後、営業バックオフィスを支える業務システム全般を統括。現在、営業部門の生成AI徹底活用プロジェクトの取りまとめとして、講演活動、ナレッジ蓄積、社内コミュニティ運営、人材育成などの取組みを推進中。